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* [[レンズ核]]は線条体の一部である被殻と淡蒼球とを合わせた呼び方。
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* [[黒質]]
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:緻密部と網様部からなる。[[中脳]]に存在しているが、発生学的・生理学的に大脳基底核の一部として捉えられている。黒質網様部は上記のように出力部である。黒質緻密部は線状体に投射する修飾である。
:緻密部と網様部からなる。[[中脳]]に存在しているが、発生学的・生理学的に大脳基底核の一部として捉えられている。黒質網様部は上記のように出力部である。黒質緻密部は[[ドーパミン]]作動性ニューロンを多く含んでおり、線状体に投射する修飾的な回路要素である。
* [[前障]]も大脳基底核に加えることがある。
* [[前障]]も大脳基底核に加えることがある。



== 主要な神経回路 ==
== 主要な神経回路 ==

2008年7月14日 (月) 21:27時点における版

脳: 大脳基底核
図1 大脳基底核は右上にラベルされている
名称
日本語 大脳基底核
ラテン語 nuclei basales
構成要素 線条体淡蒼球視床下核黒質
関連情報
NeuroNames hier-206
MeSH Basal+Ganglia
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大脳基底核(だいのうきていかく、 英 basal ganglia)は、大脳皮質視床脳幹を結びつけている神経核の集まりである。哺乳類の大脳基底核は運動調節、認知機能、感情動機づけ学習など様々な機能を担っている。マイネルトの基底核(Basal Nucleus of Meynert)とは別物である。

解剖学的区分

図2 ヒトの脳の冠状断面。大脳基底核が示されている。
吻側: 線条体, 淡蒼球 (GPe and GPi)
尾側: 視床下核 (STN), 黒質 (SN)
被殻尾状核からなる。両者はもともと一つの構造物だったものが、進化の過程で内包によって二つに分けられたと考えられている。大脳皮質からの入力部である。
線状体と同様に大脳皮質からの入力部である。
内節と外節からなる。淡蒼球内節は黒質網様部と一つの構造物と考えられており、視床への出力部である。一方淡蒼球外節は間接路が通る介在部である。
  • レンズ核は線条体の一部である被殻と淡蒼球とを合わせた呼び方。
  • 黒質
緻密部と網様部からなる。中脳に存在しているが、発生学的・生理学的に大脳基底核の一部として捉えられている。黒質網様部は上記のように出力部である。黒質緻密部はドーパミン作動性ニューロンを多く含んでおり、線状体に投射する修飾的な回路要素である。
  • 前障も大脳基底核に加えることがある。

主要な神経回路

図3 大脳基底核を取り巻く神経回路の相関模式図。グルタミン酸作動経路は赤、ドーパミン作動性経路は青、GABA作動性経路は緑で示す。Kotex : 大脳皮質。Striatum : 線条体。SNC : 黒質緻密部。GPI : 淡蒼球内節。SNR : 黒質網様部。GPE : 淡蒼球外節。STN : 視床下核。Thalamus : 視床。
  • 下記のように大脳皮質→大脳基底核→視床→大脳皮質というループが形成されている。運動野一次運動野補足運動野運動前野ブロードマンの脳地図のそれぞれ4と6)から始まって運動野に戻るループを運動系ループ(motor loop)と呼び、四肢の運動をコントロールしているといわれる。同様なループが、大脳皮質のうち前頭前野前頭眼野・辺縁皮質などを起点にして始まっており、それぞれ前頭前野系ループ(prefrontal loop)・眼球運動系ループ(oculomotor loop)・辺縁系ループ(limbic loop)と呼ばれる[1]
  • 線状体からのニューロンには直接路にかかわるものと間接路のそれがあるが、直接路のニューロンはドーパミンD1受容体を、間接路のニューロンはドーパミンD2受容体を持っている。そのため黒質緻密部からのドーパミン作動性ニューロンによる投射は、直接路には興奮性に、間接路には抑制性に働く。

直接路 direct pathway

大脳新皮質(グルタミン酸)→線条体GABA)→淡蒼球内節/黒質網様部(GABA)→運動性視床核(グルタミン酸)→運動性大脳新皮質領野
大脳基底核の出口に位置する、淡蒼球内節および黒質網様部のGABA作動性ニューロンは、常時高頻度発火して投射先の視床のニューロンの活動を強く抑制している。線条体の直接路投射ニューロンからのGABA作動性出力は、この淡蒼球内節および黒質網様部のGABA作動性ニューロンを抑制する。すなわち途中に抑制性の結合が2回含まれるために、大脳基底核の出力先に当たる運動性視床核のニューロンは脱抑制され、発火頻度が上昇する。大脳新皮質からの運動指令が線条体の直接路ニューロンを興奮させると、このようにして運動性視床核における興奮性が上昇し、運動性皮質領野への興奮性出力が増える。この仕組みが運動の開始において重要だと考えられている。

間接路 indirect pathway

大脳新皮質(グルタミン酸)→線条体(GABA)→淡蒼球外節(GABA)→視床下核(グルタミン酸)→淡蒼球内節/黒質網様部(GABA)→運動性視床核(グルタミン酸)→運動性大脳新皮質領野
および
大脳新皮質(グルタミン酸)→線条体(GABA)→淡蒼球外節(GABA)→淡蒼球内節/黒質網様部(GABA)→運動性視床核(グルタミン酸)→運動性大脳新皮質領野
間接路は直接路と拮抗的に作用し、淡蒼球内節および黒質網様部のGABA作動性ニューロンの興奮性を高め、運動性視床核を抑制するものと考えられている。

ハイパーダイレクト路 hyperdirect pathway

大脳新皮質から視床下核へ直接の興奮性投射が存在することが知られている[2]

機能

大脳基底核は多様な機能を担うとされているが、大脳基底核の神経変性疾患における運動障害から得られる示唆が最も明瞭である。中でもパーキンソン病は大脳基底核変性疾患の代表的なものとされており、無動、寡動、安静時振戦、筋固縮などの運動症状がよく知られる。大脳基底核の異常が多くの場合に不随意運動を示すことは、逆に大脳基底核が随意運動の実行に重要な役割を果たすことを示している。

歴史的に大脳基底核は、錐体外路性運動の中枢と考えられてきたが、近年では解剖学的に錐体外路という神経路が実在しないことから、誤解を避けるために錐体外路という用語は次第に使われないようになってきている。

参考画像

脚注

  1. ^ “Functional architecture of basal ganglia circuits: neural substrates of parallel processing”. Trends in Neuroscience 13 (7): 266-71. (1990). PMID 1695401. 
  2. ^ “Functional significance of the cortico-subthalamo-pallidal 'hyperdirect' pathway”. Neuroscience Research 43 (2): 111-7. (2002). PMID 12067746. 

参考文献

  • 南部篤「大脳基底核の神経回路から大脳基底核疾患の病態を理解する」高橋良輔編『神経変性疾患のサイエンス』、南山堂、2007年、ISBN 9784525130916

外部リンク