桑名江

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桑名江
指定情報
種別 重要文化財
名称 刀〈金象嵌銘義弘本阿(花押)/本多美濃守所持〉
基本情報
種類 打刀
時代 南北朝時代
刀工 郷義弘
全長 86.7 cm[1]
刃長 69.3 cm[1]
反り 2.0 cm[1]
先幅 2.01 cm[1]
元幅 2.93 cm[1]
重量 646.0 g[1]
所蔵 京都国立博物館京都府京都市東山区
所有 独立行政法人国立文化財機構
番号 E甲181[2]

桑名江(くわなごう)は、南北朝時代に作られたとされる日本刀打刀)である。日本重要文化財に指定されており、京都国立博物館が所蔵している。桑名郷とも呼ばれる[3]

概要[編集]

南北朝時代の刀工・郷義弘により作られた刀である。郷義弘は越中国新川郡松倉郷(富山県魚津市)に住んでいたことから、、もしくは読み替えて同音のと称されている[4][注釈 1]相州正宗の流れを汲む正宗十哲の一人とされ、『享保名物帳』では相州正宗、粟田口吉光と並んで名物三作と呼ばれるほど評価が高い刀工であるが、一方で義弘による在銘の刀は皆無であり、本阿弥家が義弘の刀と極めたものか伝承により義弘の刀と言われているもの以外、滅多に義弘の刀を見ないことをもじって「郷とお化けは見たことがない」ともいわれる[4]

桑名江の名前の由来は、指表に伊勢国桑名藩の藩主である 本多美濃守の所持品である旨を金象嵌で記していることに由来し、併せて指裏(さしうら)には本阿弥光徳がこの太刀を短く磨り上げたことを記されている[5]

本多美濃守こと本多忠政鷹狩に出かけた先の民家で休憩したときに、その家の家宝として神棚に祀られていたのを気に入り、懇請して譲り受けた[6]。この刀を本阿弥光徳が鑑定して義弘作と認めたため金象嵌銘を入れ、埋忠明寿によって磨り上げが行われた[3][6]。史実なら家督を継いだ1607年から姫路藩に転封となった1617年までに入手したことになる。

本作と同様に、義弘の刀に本阿弥光徳が金象嵌銘を入れたものとしては名物稲葉江があるが、稲葉江の金象嵌銘には「本阿弥磨上之」(ほんあみこれをすりあぐ)とあり、光徳が磨上げを行ったことが明示されている。他に、焼失した刀(埋忠押形集所収)で、「義弘 磨上之 本阿(花押) 本多上野介所持」という金象嵌銘のあるものが存在したことも知られている。一方、桑名江の金象嵌銘には「磨上之」の文言がない。以上のことから、佐野美術館渡邉妙子は、桑名江の場合は、すでに磨上げられていた刀に光徳が鑑定銘を入れたものとみられる、としている[7]

刀身[編集]

刃長は69.3センチメートル、反りは2.0センチメートル[1][5][注釈 2]。造り込みは鎬造、庵棟。地鉄は小板目に柾が交じり、底に杢目肌が見え、上半には淡く湯走りがかかる。刃文は広直刃(ひろすぐは)調で、太目の丁子足が入り、小沸(こにえ)厚くつき、金筋(きんすじ)、稲妻入る。帽子は焼き深く「一枚」風となり、丸く返る。茎(なかご)は大磨上げ(おおすりあげ)、茎先は剣形、鑢目は切(水平)、目釘孔は1つ。指裏[注釈 3] に「義弘 本阿(花押)」、指表に「本多美濃守所持」の金象嵌銘(本阿弥光徳による鑑定銘)がある[7][9][注釈 4]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ また、一説では郷義弘の本姓が大江氏であるため、1字取って江の字を用いて、転じて郷の字を使用したと言う説もある[4]
  2. ^ ただし、別の資料では刃長は69.4センチメートル、反りは2.4センチメートルとなっている[8]
  3. ^ 刃長2尺以上の日本刀のうち、刃を下、棟を上に向けて佩く(腰から吊るす)形式のものを「太刀」、刃を上に向けて腰帯に指す形式のものを「刀」(打刀)といい、それぞれの場合に体の外側になる面を「佩表」「指表」という。桑名江を含め、制作当初は長寸の太刀であったものを、後に大磨上げ(元の銘が残らないほどに短く仕立て直す)にしたものを、文化財指定名称では「刀」として扱っているため、ここでは「指表」「指裏」の語を用いる。
  4. ^ 説明文中の刀剣用語について以下に補足する。
    • 「湯走り」とは、刀身の平地(ひらじ)の部分に地沸(後述)が凝縮して白っぽく見えるもの。
    • 「沸」(にえ)とは、刃文を構成する鋼の粒子が肉眼で識別できる程度に荒いもの。これに対し、粒子が肉眼では識別できない程度に細かいものを「匂」(におい)という。地の部分に沸が見られるものを「地沸つく」という。「沸」をさらに粒子の大きさで分けて、「荒沸」「小沸」などと表現する。
    • 「足」とは、刃中に見える「働き」の一種で、刃縁から刃先に向けて線状に入るものをいい、これが植物の丁子の実のように見えるものを「丁子足」という。
    • 「金筋」とは、刃中に見える「働き」の一種で、上述の沸が刃中で線状に連なり、光って見えるもの。
    • 「稲妻」とは、上述の「金筋」が屈曲したもの。
    • 「帽子」は「鋩子」とも書き、切先部分の刃文のこと。帽子にはその形状によってさまざまな名称があり、「一枚」とは、切先部分の焼幅が広く、切先全体に焼きが入っているものを指す。
    • 「磨上げる」とは、元来長大な太刀であったものの茎を切り縮めて仕立て直すことをいい、銘が残らないほどに大きく切り詰めたものを「大磨上げ」という。

出典[編集]

  1. ^ a b c d e f g 京都国立博物館 2018, p. 163.
  2. ^ 館蔵品データベース”. 2020年8月23日閲覧。
  3. ^ a b 歴史探訪vol.8坂本龍馬 遺された五振の刀 名刀探訪 名物 桑名江
  4. ^ a b c 天下三作 - 刀剣ワールド 2019年11月12日 閲覧
  5. ^ a b 刀 金象嵌銘 義弘本阿(花押) – e国宝 2019年11月12日閲覧
  6. ^ a b 橋本麻里(構成)「物語る刀剣たち。」『BRUTUS』第17巻第39号、マガジンハウス、2018年9月15日、29頁、ASIN B07G1SC551 
  7. ^ a b 渡邉 2002, p. 163.
  8. ^ 刀〈金象嵌銘義弘本阿(花押)/本多美濃守所持〉 – 文化遺産オンライン 2019年11月12日閲覧
  9. ^ 渡邉 2011, p. 106.

参考文献[編集]

  • 根津美術館・富山県水墨美術館・佐野美術館・徳川美術館編・発行『正宗 日本刀の天才とその系譜』(展覧会図録)、2002
    • 渡邉妙子『刀(名物桑名江)』2002年、163頁。 
  • 根津美術館富山県水墨美術館佐野美術館徳川美術館編・発行『名物刀剣』(展覧会図録)、2011 ISBN 978-4-915857-79-9 NCID BB06911850
    • 渡邉妙子『刀(名物桑名江)』2011年、106頁。 
  • 京都国立博物館 著、読売新聞社 編『特別展京のかたな : 匠のわざと雅のこころ』(再)、2018年9月29日。 NCID BB26916529 

関連項目[編集]

外部リンク[編集]