放射年代測定

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放射年代測定(ほうしゃねんだいそくてい、: radiometric dating)とは、原子核崩壊による核種変化、または放射線による損傷を利用して、岩石化石の年代(形成以降の経過年数)を測定することである。

昔は測定された年代を絶対年代と言っていたこともあったが、現在は放射年代と言う。これは、年代測定の方法や試料の性質によって測定された年代の意味が異なるためである。その解釈は慎重に行う必要がある。

概要[編集]

放射年代測定は2種類の方法に大分される。特定の放射性核種の崩壊を利用する方法と、自然放射線による固体物質内の損傷を利用する方法である。

特定の放射性核種の崩壊を利用する方法[編集]

上記の方法では、対象とする核種が移動しなくなった時点が年代の出発点となる。たとえば、炭素14法では、生物が死んで外界と物質交換を行わなくなった時点である。それ以外の多くの方法では、鉱物結晶化した時点である。ただし、火成岩変成岩がゆっくり冷えた場合などは、結晶化後も拡散等による元素移動があるので、ある程度冷却が進んだ時点に相当する。ある温度で元素移動がなくなったとみなすことができる場合、その温度を閉鎖温度という。

一般に、N0 : 出発時点での放射性元素の個数、N : 出発時点から時間 t 後の核の残数、T : 半減期 としたとき、

自然放射線による固体物質内の損傷を利用する方法[編集]

放射線による損傷は、によって回復することが知られている。したがって、これらの方法における年代の出発点は、特定の温度(リセット温度という)よりも冷えた時点、または固体化・結晶化した時点となる。

比較[編集]

年代測定法
年代測定法 測定する核種 半減期 適用可能な年代 測定試料 備考
熱ルミネセンス法|
電子スピン共鳴吸収(ESR)法 - 107〜106 骨などのリン酸塩試料、鍾乳石貝殻などの炭酸塩試料、火山岩、火山灰などの火山噴出物、断層粘土鉱物など 格子欠陥をもつ結晶のESR(電子スピン共鳴)信号を利用[3]
フィッショントラック法 238U 0.82〜1.01×1016 108〜104 火山ガラス黒曜石などのガラス質物質、ジルコン雲母燐灰石スフェーンなどの鉱物 238Uの自発破砕反応の際に生じる飛跡を利用
ルビジウム - ストロンチウム法 87Rb-87Sr 4.88×1010 1012〜108 火成岩変成岩隕石月の岩石など[3]
カリウム - アルゴン法 40K-40Ar 1.25×109 109〜105 火山岩黒曜石テクタイト隕石など[3]
アルゴン - アルゴン法 40Ar-39Ar K-Ar法の補完的役割。試料に中性子照射して生成する39Arを40Kの代わりに測定[3]
ランタン-セリウム法 138La-138Ce 3.1×1011 109〜108 火成岩、変成岩[3]
ランタン-バリウム法 138La-138Ba 1.6×1011 109〜108 褐簾石モナザイト緑簾石など[3]
ルテチウム-ハフニウム法 176Lu-176Hf 3.57×1010 109 火成岩、変成岩、隕石、月の岩石など[3]
ウラン-トリウム-鉛法 238U-206Pb
235U-207Pb
232Th-208Pb
4.47×109
7.04×108
1.40×1010
1011〜107
1011〜107
1011〜107
火成岩、石灰岩などの堆積岩方鉛鉱瀝青ウラン鉱、隕石、月の岩石など[3]
鉛-鉛法 207Pb-206Pb 109〜5×108 207Pbと206Pbの存在比で決定[3]
サマリウム-ネオジム法 147Sm-143Nd 1.06×1011 109〜108 火成岩(超塩基性岩、塩基性岩)、変成岩、鉱床生成物、隕石、月の岩石など[3]
ヨウ素-キセノン法 129Ⅰ-129Xe 1.6×107 1010〜109 隕石 隕石の生成年代の決定に利用[3]
炭素14法 14C 5.73×103 数万年以下 生物の遺骸、文化財、地下水・海水などに溶存する有機物など
ベリリウム10法 10Be 1.6×106 106〜103 堆積物の堆積年代、アルミニウムやベリリウムの含有量の少ない岩石や鉱物など
トリチウム法 3H 12.33年 数十年以下 地下水など
プロトアクチニウム-トリウム法 231Paと230Th 3.25×104 106〜104 海底堆積物[3]
ウラン-ウラン法 234U 2.47×105 106〜104 海底堆積物、サンゴ、雪、地下水など[3]
鉛210法 210Pb 22.3年 数百年以下 雪氷
ヨウ素129法 129Iと127I 1.57×107 ヨウ素129とヨウ素127の存在度比を利用

脚注[編集]

  1. ^ 松本哲一 (2004年3月16日). “高精度岩石放射年代測定”. 災害と緊急調査. 産業技術総合研究所地質調査総合センター. 2012年4月13日閲覧。
  2. ^ (株)蒜山地質年代学研究所. “業務-年代測定 Ar-Ar”. 業務案内. 2012年4月13日閲覧。[リンク切れ]
  3. ^ a b c d e f g h i j k l m n 年代測定法のいろいろ

参考文献[編集]

  • 兼岡一郎年代測定概論東京大学出版会、1998年。ISBN 4-13-060722-7http://home.hiroshima-u.ac.jp/er/ES_N_N1.html [リンク切れ]

関連項目[編集]