レーニア山

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レーニア
空撮
標高 4,392 m
所在地 アメリカ合衆国ワシントン州
位置 北緯46度51分10秒 西経121度45分37秒 / 北緯46.85278度 西経121.76028度 / 46.85278; -121.76028座標: 北緯46度51分10秒 西経121度45分37秒 / 北緯46.85278度 西経121.76028度 / 46.85278; -121.76028
山系 カスケード山脈
種類 成層火山
初登頂 ハザード・スティーブンスと
P.R.ヴァン・トランプ(1870年
レーニア山の位置(ワシントン州内)
レーニア山
レーニア山 (ワシントン州)
レーニア山の位置(アメリカ合衆国内)
レーニア山
レーニア山 (アメリカ合衆国)
プロジェクト 山
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レーニア山(レーニアさん、英語:Mount Rainier)は、アメリカ西海岸の北部ワシントン州にあり、カスケード山脈の最高峰である成層火山である。高さは4,392m。

名称[編集]

レーニア山は現地のセイリッシュ語族の言語の話者によって、Talol, Tacoma, Tahomaなどと呼ばれてきた。ひとつの仮説では、この語はピュヤラップ族英語版の話すルシュツィード語英語版で「水の母」を意味する[təˡqʷuʔbəʔ]に由来する[1]。言語学者のウィリアム・ブライト英語版は、「雪に覆われた山」を意味する[təqʷúbə]に由来するとする[2]。さらに別の仮説では、Tacomaとはルシュツィード語のTa(大きい)とKoma (Kulshan)(ベーカー山)からなり、「ベーカー山より大きい」という意味である[3]

ほかの現地名としては、Tahoma, Tacobeh, Pooskausなどがある[4]

現在の名称はイギリス海軍の艦船ディスカヴァリーの艦長で航海士ジョージ・バンクーバーが、1792年から1794年まで北太平洋沿岸を探検航行しコロンビア川の河口から見えるカスケード山脈の高い山々に英語の名前をつけた際、彼の友人である海軍少将ピーター・レーニアの名前をつけたものである[5]ルイス・クラーク探検隊による1804-1806年の地図では、Mt. Regniereと記されている。

山の公式名称はレーニアと考えられているものの、セオドア・ウィンスロップ英語版の没後1862年に出版された旅行記『カヌーと鞍』(The Canoe and the Saddle)には山の名をTacomaと記しており、一時は両方の名前が区別されずに用いられていた。ただし近くのタコマの町ではタコマ山(Mt. Tacoma)の名の方が好まれていた[6][7]

この山を日系人たちは「タコマ富士」と呼んだ。

この地に移民した日系人たちは、タコマ富士と呼んでいた。

1890年、アメリカ地名委員会は山の名前がレーニアとして知られると表明した[8]。ついで1897年に太平洋森林保護区がレーニア山森林保護区と改称され、3年後に国立公園になった。それにもかかわらず、山の名をタコマに変えようとする運動が存在し、議会は1924年まで名称変更を考えていた[9][10]

2010年、ピュヤラップ族のRobert Satiacumらは一帯の本来の名称を復活させる運動の一環としてレーニア山の名前をTi'Swaq'(彼らによると「ティースワーク」のように発音し、「天をこするもの」を意味する)に変えるように要求した[11][12]

第48回スーパーボウルに先立ち、ワシントン州上院は2014年1月31日からスーパーボウルの後の2014年2月3日の夜半まで、一時的に名称をシアトル・シーホークス山に改称した[13]。これはコロラド州知事ジョン・ヒッケンルーパーがコロラド州の53の山の名前をデンバー・ブロンコスのメンバー53人の名前に変えたのに対抗したものである[14]

2015年にアラスカ州のマッキンリー山がデナリに改称されると、レーニア山の名前に関する議論も激しさを増した[15]

地形と地史[編集]

地形図

安山岩が主体で[16]、山体には26の氷河がある[16]。裾野からはホワイト川、カーボン川、ピュアラップ川、ニスカリ川、カウリッツ川などの河川が流れ出し、ピュージェット湾の湾奥から太平洋に注ぐ。

最も古い溶岩は約50万年前のものである。一番新しい記録に残る噴火1820年から1854年までの間のものであるが、多くの人々が19世紀後半にも火山活動を目撃している。

噴火の履歴については、1800年代、2200年前、4000年前、5000年前、5500年前、6000年前、6500年前、9000年前に、軽石噴火が生じており[16]、この中では2200年前が最も厚い堆積物を残している[16]

ISSから

大規模崩壊は過去6,000年間に少なくとも3回発生している[16]。約2,600年前と推定される大規模崩壊により、2億m3以上の山体が崩壊したとされている[16]。大規模な泥流も、紀元前8000年頃からの1万年間に約60回起きている。タコマを始めとする多くの都市がそうした過去の泥流による堆積物の上に位置している。

カスケード山脈の火山の中ではセント・ヘレンズ火山に次いで地震回数が多い[16]。21世紀初頭の時点では噴火の危機は切迫してはいないが、地質学者らはいつか再び噴火すると考えている。噴火の際にはラハール(火山灰による泥流・土石流)や火砕流の発生が危険視されている。

1998年からはアメリカ地質調査所がラハールの予測研究を始め、ピュアラップ川やタコマ市を襲う恐れのある土石流に対するハザードマップや避難計画が作られている。

登山[編集]

登頂は難易度が高い。標高1,800m以上は氷河に覆われ、山頂に着くまでに2 - 3日かかり、天候悪化などの要因により登頂に失敗する場合も少なくないとされる。多くの登山者の命を奪ってきた山であるが、山周辺のトレッキングハイキングは快適であり人気がある。周囲の森林地帯は1899年に全米で5番目となる「レーニア山国立公園」に指定され保護されており、園内には、当山を一周する全長150kmの「ワンダーランド・トレイル」がある。道は高低差があり険しいが、年に5,000人が一周を成し遂げる。当然、一部だけを歩く者は大勢いる。またクロスカントリースキースノーシューなどウィンタースポーツにもよい場所である。

脚注[編集]

  1. ^ Clark, Ella E. (2003). Indian Legends of the Pacific Northwest. University of California Press. ISBN 0-520-23926-1. https://books.google.com/books?id=Z8-3KVL03UYC 
  2. ^ Bright, William (2004). Native American Placenames of the United States. University of Oklahoma Press. p. 469. ISBN 0-8061-3576-X. https://books.google.com/books?id=5XfxzCm1qa4C&q=tacoma 
  3. ^ Beckey, Fred (2009). Cascade Alpine Guide. 3 (3rd ed.). Mountaineers Books. ISBN 978-1-59485-136-0. https://books.google.com/books?id=3ek5uvZaNGIC&printsec=frontcover#PPP1,M1 
  4. ^ Is it time to rename Mount Rainier to its former native name?”. 2014年10月21日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年10月21日閲覧。
  5. ^ “Historical Notes: Vancouver's Voyage”. Mount Rainier Nature Notes VII (14). (1929). http://npshistory.com/nature_notes/mora/vol7/vol7-14e.htm 2015年2月3日閲覧。. 
  6. ^ Catton, Theodore (2006). National Park, City Playground: Mount Rainier in the Twentieth Century. A Samuel and Althea Stroum Book. Seattle and London: University of Washington Press. pp. 8–9. ISBN 0-295-98643-3 
  7. ^ Winthrop, Theodore (1866). “VII. Tacoma”. The canoe and the saddle : adventures among the northwestern rivers and forests, and Isthmiana (8th ed.). Boston: Ticknor and Fields. ISBN 0-665-37762-2. http://memory.loc.gov/cgi-bin/ampage?collId=mymhiwe&fileName=f891w56/mymhiwef891w56.db&recNum=121&itemLink=r?ammem/mymhiwe:@field(DOCID+@lit(mymhiwef891w56div7))%23f891w56122&linkText=1 2009年3月4日閲覧。 
  8. ^ Orth, Donald J. (1992). “The Creation”. Meridian (Map and Geospatial Information Round Table) (2): 18. OCLC 18508074. http://geonames.usgs.gov/docs/Proceedings%20of%20a%20Centennial%20Symposium.pdf 2015年8月31日閲覧。. 
  9. ^ Blethen, C. B. (1924年2月3日). “Academic Dispute Flares Forth; Mount Rainier's Name at Issue”. The Seattle Times 
  10. ^ “The Outdoor World: Mt. Rainier's Name Stands”. Recreation (Outdoor World Publishing Company) LVII (3): 142. (September 1917). OCLC 12010285. https://books.google.com/books?id=gX87AQAAMAAJ 2015年8月31日閲覧。. 
  11. ^ Petition Restore Native Names to Sacred Places, Alliance to Restore Native Names to Sacred Places, (2011-10-20), https://restorenamenativesupdates.wordpress.com/ 
  12. ^ Tom Banse (2012-02-06), Tribal Alliance Seeks To Restore Native Name For Mount Rainier, Northwest News Network, https://www.npr.org/templates/story/story.php?storyId=146501063 
  13. ^ Eaton, Nick (2014年2月1日). “Mount Rainier renamed Mount Seattle Seahawks for Super Bowl XLVIII”. The Seahawks Blog. Seattle Post-Intelligencer. 2015年3月12日閲覧。
  14. ^ Pappas, Stephanie (2014年1月29日). “Colorado's Highest Peaks Re-Named After Super Bowl Team”. Live Science. 2015年3月12日閲覧。
  15. ^ Seattle Times editorial board (2015年9月1日). “After McKinley, it's time to consider renaming Rainier”. Seattle Times. http://www.seattletimes.com/opinion/editorials/after-mckinley-its-time-to-consider-renaming-rainier-2/ 2015年9月1日閲覧。 
  16. ^ a b c d e f g 山田孝、「米国アラスカ, カスケード山脈の火山」『砂防学会誌』 1995年 48巻 4号 p.49-57, doi:10.11475/sabo1973.48.4_49, 砂防学会

参考文献[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]