コンテンツにスキップ

バーンサイドの定理

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ウィリアム・バーンサイド

数学におけるバーンサイドの定理(バーンサイドのていり、: Burnside theorem)は、位数素数 p , q と非負整数 a , b により

と書ける有限群 G は必ず可解群になることを主張する群論の定理である。この定理は位数が pa と書ける有限群(p)は必ず(冪零群であるから)可解群になる、というよく知られた主張の拡張と見做せる。これより、任意の非可換な有限単純群の位数は少なくとも3個以上の素因数を持たねばならない。

バーンサイドの定理は次のフィリップ・ホールによる名高い可解群の特徴づけの特別な場合である。

有限群が可解群であることと、任意の素数 p に関してホール p′-部分群が存在することは同値である[1]

歴史

[編集]

この定理はウィリアム・バーンサイドにより有限群の表現論を使って証明された(Burnside 1904)。いくつかの特別な場合は既にバーンサイド、ジョルダン、フロベニウスといった数学者によって証明が与えられていた。ジョン・G・トンプソンは自身のN群の理論によって表現論を使わない証明が得られると指摘し、実際に位数が奇数の場合の証明(Goldschmidt 1970)、位数が偶数の場合の証明(Bender 1972)が与えられた。Matsuyama (1973) は証明を簡単にした。

証明

[編集]

背理法による。

p ,q を固定する。位数がこの形で書けるような非可解群がもし存在するなら、その中で位数が最小となるものがあるから、はじめから G がそのような位数最小の群であるとしてよい。

G中心 Z(G) は単位元のみからなる。また ab も0でない。

G が自明でない正規部分群 H を持てば、位数の最小性より H商群 G/H はともに可解群になるから、G も可解群となって矛盾する。よって G単純群である。

G の中心 Z(G) は G の正規部分群だが、G は可換群ではあり得ないので G 自身とは一致せず、よって単位元のみになるしかない。

a または b が0だとすると、G は有限 q-群(または有限 p-群)であり、よって冪零群となり、従って可解群になって矛盾する。

共役類の元の個数が qdd > 0 )であるような G の元 g が存在する。

シローの定理より、G には位数 pa の部分群 S が存在する。S は非自明な p-群だから、その中心 Z(S) は非自明である。そこで単位元でない がとれる。

g と共役な元の個数は共役作用についての固定部分群 Gg指数 [G : Gg] に等しく、それは S の指数 qb を割り切る。なぜなら SGg の部分群だからである。

よって共役な元の個数は qd の形に書ける。さらに g は単位元でなかったから G において中心的でなく、整数 d は正である。

以下、群 G複素数体 C 上の一般線型群における表現を考察する。

G の非自明な既約表現 ρ:G → GLn(C) とその既約指標 χ で、次元 nq で割り切れず、複素数 χ(g) が0にならないようなものが存在する。

i)1≤i≤hGC 上の既約指標全体( χ1 は自明指標)とする。g は単位元 1G と共役でないから、群の指標表における直交関係より

ここで χi(g) は正則行列 ρ(g) の固有値の和に等しいが、ρ(g) の最小多項式 を割り切るので、固有値はみな1の冪根である。よって χi(g) は代数的整数である。

もし、χ(g) が0にならないような全ての非自明な既約指標について χ(1G) が q で割り切れるならば

となる。ところが左辺は有理整数でない有理数だから代数的整数ではなく、右辺は代数的整数の有理整数倍の和だから代数的整数であり、矛盾する。よって望んでいた条件を満たす既約指標の存在が言えた。

複素数 qdχ(g)/n は代数的整数である。

G 上の任意の有理整数値類関数 u に対し、群環の一般論より

は有理整数環 Zであり、特に g の共役類上で1、それ以外で0をとるような類関数 u を選んだときの

は代数的整数である。

複素数 χ(g)/n は代数的整数である。

qn互いに素だから、ベズーの補題より有理整数 x , y

を満たすものが存在する。この左辺は代数的整数の有理整数倍の和だから、代数的整数になる。

g の ρ による像は単位行列の複素数倍である。

複素数 ζ := χ(g)/n は代数的整数だから、そのノルム N(ζ) ( ζ の Q上の最小多項式の根全体(共役数)を掛け合わせたもの)は0でない有理整数になる。

ζ およびその共役数はいずれも1の冪根(ρ(g) の固有値)の算術平均なので、絶対値は1以下である。一方それらの積 N(ζ) は1以上だから、絶対値はちょうど1でなければならない。

特に ζ の絶対値は1であり、これは ρ(g) の固有値が全て等しいことを意味する。よって ρ(g) の対角化を考えると、 ρ(g) 自身が単位行列の複素数倍であることがわかる。

結論

N を ρ のとする。ρ(g) は Im(ρ) において中心的であるが、 gG において中心的ではない。G/N と Im(ρ) が標準的に同型である( )ことを考えると、N は単位元以外の元を含む。ここで G は単純群だから、NG と一致する。ところがこれは、 ρ は自明表現でないとしていた仮定と矛盾する。

以上よりバーンサイドの定理は証明された。Q.E.D.

脚注

[編集]
  1. ^ D. Gorentein (1980). Finite Groups (Second ed.). American Mathematical Society. p. 233. ISBN 978-0-8218-4342-0 

参考文献

[編集]
  • Bender, Helmut (1972), “A group theoretic proof of Burnside's paqb-theorem.”, Math. Z. 126: 327–338, doi:10.1007/bf01110337, MR0322048 
  • Burnside, W. (1904), “On Groups of Order pαqβ”, Proc. London Math. Soc. (s2-1 (1)): 388–392, doi:10.1112/plms/s2-1.1.388 
  • Goldschmidt, David M. (1970), “A group theoretic proof of the paqb theorem for odd primes”, Math. Z. 113: 373–375, doi:10.1007/bf01110506, MR0276338 
  • James, Gordon; and Liebeck, Martin (2001). Representations and Characters of Groups (2nd ed.). Cambridge University Press. ISBN 0-521-00392-X. See chapter 31.
  • Matsuyama, Hiroshi (1973), “Solvability of groups of order 2aqb.”, Osaka J. Math. 10: 375–378, MR0323890 

関連項目

[編集]