ジゴキシン

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ジゴキシン
IUPAC命名法による物質名
臨床データ
胎児危険度分類
法的規制
  • S4 (Au), POM (UK), ℞-only (U.S.)
投与経路 経口、静脈注
薬物動態データ
生物学的利用能60 - 80% (経口)
血漿タンパク結合25%
代謝肝臓 16%
半減期36 - 48 時間
(腎機能正常者)
3.5 - 5 日
(腎機能障害者)
排泄腎臓
識別
CAS番号
20830-75-5
ATCコード C01AA05 (WHO)
PubChem CID: 2724385
KEGG D00298
ChEBI CHEBI:4551
ChEMBL CHEMBL1751
化学的データ
化学式C41H64O14
分子量780.938 g/mol
物理的データ
融点249.3 °C (480.7 °F)
水への溶解量0.0648 mg/mL (20 °C)
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ジゴキシン(Digoxin)とはジギタリス植物であるケジギタリス英語版 (Digitalis lanata) の葉から抽出される強心配糖体である。作用はジギトキシンより強く、作用時間が長い。ジゴキシンのアグリコン(非糖部)に相当する化合物はジゴキシゲニン (Digoxigenin) である。糖部であるジギトキソース (Digitoxose) は呈色反応であるケラー–キリアニ反応に対して陽性を示す。商品名はジゴシン

薬理作用[編集]

ジゴキシンは細胞膜に存在するNa+/K+-ATPaseを阻害することによって細胞内Na+濃度の上昇をもたらす。結果、Na+を細胞へ取り込み、代わりにCa2+排出する経路として存在するNa+-Ca2+-交換体が抑制され、心筋細胞内Ca2+濃度の増加を引き起こし、心筋の収縮力の増加(陽性変力作用)[1][2]、心拍数の減少(陰性変時作用)および心筋における神経興奮伝導速度の低下(陰性変伝導作用)を引き起こす。主に狭心症[要出典]および心房細動に対して用いられる。副作用として嘔吐不整脈などがある。

体内動態[編集]

半減期は約36時間であり、臨床において通常1日1回125μgまたは250µgを投与する。消化管吸収は良好であり、経口、静注、筋注での投与が可能である。腎排泄型の薬物であり、P-糖蛋白質(P-glycoprotein)により血中から尿細管へと分泌・排泄される。そのため腎障害の患者に対する投与は不適である。ジギトキシンは有効血中濃度範囲が狭く、臨床で用いる際には薬物治療モニタリング(Therapeutic Drug Monitoring、TDM)が必要となる。

後発品の品質[編集]

2008年4月、米国食品医薬品局(FDA)は、マイラン製薬のジゴキシン製剤についてクラスIの回収英語版を実施すると発表した[3][4]。一部の錠剤で厚さが2倍あり、含有量が2倍であるので一部の患者でジゴキシンの毒性が見られた。

2009年3月31日にも、FDAは別のジェネリック医薬品メーカーCaraco Pharmaceutical Laboratories, Ltd.が製造したジゴキシン錠を自主回収すると発表した。「Caraco社は全米でジゴキシン錠全ロットの自主回収を実施する。その理由は錠剤の大きさの変動幅が大き過ぎるためである。」

同日発表されたCaraco社の記者発表を以下に引用する。

2009年3月31日以前に出荷されたCaraco社製の全てのジゴキシン錠は、0.125mg錠も0.25mg錠も使用期限2011年9月を迎えていませんが、消費者の皆様の手に渡ったものを含めて自主回収致します。錠剤の大きさにばらつきがあり、1錠当りの成分量が多過ぎまたは少な過ぎるからです。

その他[編集]

2008年に発表された研究では、ジゴキシンの有用性は心臓に対する作用だけでなく、一部の癌発症の可能性を低下させるとされた[5] が、ジゴキシンの通常の用量では効果がないと思われ[6]、結果の解釈にはさらなる研究が必要である[7]

心房細動において、ジゴキシン処方は全死亡・心血管死亡・突然死の増加と関連が報告された[8]

アメリカでは看護師であったチャールズ・カレンがジゴキシンを用いて患者を殺害する事件が起きている。

出典[編集]

  1. ^ 獣医学大辞典編集委員会『明解獣医学辞典』チクサン出版社、1991年。ISBN 4885006104 
  2. ^ 高橋迪雄『獣医生理学 第2版』文永堂出版、2000年。ISBN 4830031824 
  3. ^ Recalls, Market Withdrawals & Safety Alerts”. FDA (2008年10月15日). 2011年11月8日閲覧。
  4. ^ “Urgent Digitek Digoxin Recall”. U.S. Recall News. (2008年4月28日). オリジナルの2008年5月4日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20080504060554/http://www.usrecallnews.com/2008/04/urgent-digitek-digoxin-recall.html 2009年7月25日閲覧。 
  5. ^ Zhang, H.; Qian, D. Z.; Tan, Y. S.; Lee, K.; Gao, P.; Ren, Y. R.; Rey, S.; Hammers, H. et al. (2008). “Inaugural Article: Digoxin and other cardiac glycosides inhibit HIF-1 synthesis and block tumor growth”. Proceedings of the National Academy of Sciences 105 (50): 19579–19586. Bibcode2008PNAS..10519579Z. doi:10.1073/pnas.0809763105. PMC 2604945. PMID 19020076. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2604945/. 
  6. ^ Lopez-Lazaro M (March 2009). “Digoxin, HIF-1, and cancer” (pdf). PNAS 106 (9): E26. Bibcode2009PNAS..106...26L. doi:10.1073/pnas.0813047106. PMC 2651277. PMID 19240208. http://www.pnas.org/content/106/9/E26.full.pdf. 
  7. ^ Zhang, H.; Semenza, G. L. (2009). “Reply to Lopez-Lazaro: Evidence that digoxin inhibits human cancer”. Proceedings of the National Academy of Sciences 106 (9): E27. Bibcode2009PNAS..106...27Z. doi:10.1073/pnas.0900125106. 
  8. ^ Washam JB, Stevens SR, Lokhnygina Y, Halperin JL, Breithardt G, Singer DE et al. (2015). “Digoxin use in patients with atrial fibrillation and adverse cardiovascular outcomes: a retrospective analysis of the Rivaroxaban Once Daily Oral Direct Factor Xa Inhibition Compared with Vitamin K Antagonism for Prevention of Stroke and Embolism Trial in Atrial Fibrillation (ROCKET AF).”. Lancet 385 (9985): 2363-70. doi:10.1016/S0140-6736(14)61836-5. PMID 25749644. http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(14)61836-5/abstract. 

参考文献[編集]

  • 田中千賀子ら編集 『NEW 薬理学 第4版』 南江堂 2002年 ISBN 4524220836
  • 大本太一ら編集 『天然物薬品化学』 廣川書店 1991年 ISBN 4567431022

関連項目[編集]