サンゴジュ

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サンゴジュ
Viburnum odoratissimum var. awabuki
Viburnum odoratissimum var. awabuki
(2007年7月29日、大阪府
分類APG III
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 angiosperms
階級なし : 真正双子葉類 eudicots
階級なし : コア真正双子葉類 core eudicots
階級なし : キク類 asterids
階級なし : 真正キク類II euasterids II
: マツムシソウ目 Dipsacales
: ガマズミ科 Viburnaceae
: ガマズミ属 Viburnum
: サンゴジュ(広義)
V. odoratissimum
変種 : サンゴジュ
V. o. var. awabuki
学名
Viburnum odoratissimum Ker Gawl. var. awabuki (K.Koch) Zabel (1902) 標準[1]
Viburnum odoratissimum Ker Gawl. (1846) 広義[2]
シノニム
和名
サンゴジュ(珊瑚樹)
英名
sweet viburnum

サンゴジュ(珊瑚樹[4]学名: Viburnum odoratissimum または Viburnum odoratissimum var. awabuki)は、ガマズミ科[注 1]ガマズミ属に属する常緑高木である。暖地の海岸近くに生え、珊瑚に見立てられた赤い果実がつき、庭木、生け垣、防風・防火樹に利用される。

名称[編集]

和名サンゴジュは、盛夏からに真っ赤に熟す果実が柄まで赤く、この姿をサンゴに見立てたのが由来となっている[5][6]

標準学名の Viburnum odoratissimum var. awabuki は、中国名で「日本珊瑚樹」とされ、APG体系でガマズミ科・レンプクソウ科、クロンキスト体系新エングラー体系スイカズラ科に分類される[1]。広義の学名は Viburnum odoratissimum で、中国名で「珊瑚樹」とされる[2]

分布[編集]

日本朝鮮半島南部、台湾に分布する[5]。日本では、本州関東地方南部以西の海岸寄り、東海地方南部の海岸寄り、四国九州沖縄まで自然分布する[7]。暖地の海岸近くの山地や山野に生える[5][6][4]。庭や公園でもよく見かける[4]

形態・生態[編集]

常緑広葉樹の小高木から高木で[5]、長円錐形の整った樹形になる[6]樹皮は灰褐色でなめらか[4]。若い枝は褐色で盛り上がった皮目が多い[4]。太い幹の樹皮は裂け目が入って荒れ肌になる[4]

は長楕円形で[5]葉縁に小さくまばらな鋸歯がある。葉身は光沢と厚みのある革質で[5]、枝から折り取ると白い綿毛が出る。若葉は褐緑から褐色であるが、夏は淡緑色、冬は濃緑色へと変化する[6]。葉は虫食いだらけで穴が開いているものも多い[4]

花期は初夏(6 - 7月ごろ)[5]。小枝の先端から大型の円錐花序を出して、やや紫を帯びた小型の白いが多数開花する[7]花冠は、長さ約6ミリメートル (mm) の筒状で、先端が浅く5裂する[7]果実液果で、長さ7 - 8 mmの楕円形の実を赤い果柄の先端に多数つける[7]。はじめは鮮やかな赤色であるが、9 - 11月ごろに熟すとしだいに黒ずんで青黒色に変わる[5][7]

冬芽は長楕円形で、淡緑褐色の4 - 6枚あるフェルト質の芽鱗に包まれる[4]。側芽は対生する葉の付け根につく[4]。葉痕は半円形で維管束痕は3個つく[4]

栽培[編集]

日なたから日陰まで植栽できる。土壌の質は全般で、適湿地に深く根づく[6]。植栽適期は3月 - 4月上旬か6 - 7月、9月 - 10月上旬とされ[6][7]、剪定は3 - 4月か6月下旬 - 7月、9月下旬 - 10月下旬に行うとされる[6]。施肥は1 - 2月と9月に行う[6]

人間との関わり[編集]

庭木公園樹などとして植えられ[4]、防火・防風・防音の機能を有する樹種(防火樹・防風樹・防音樹)としても知られる[8]。また、花材としても用いられる[5]

種小名のawabukiに示されるように、厚く水分の多い葉や枝は、火をつけても泡をふくばかりで燃えにくい。それゆえ、火災延焼防止に役立つともいわれ、防火樹として庭木や生垣によく用いられる。刈り込みに強く、良く分枝して下枝が枯れないことから、古くから高さ2 - 4 mくらいの生け垣をつくるのに使われており、対潮性があり海岸の防風垣としても利用される[7]

魚毒植物としても知られており、沖縄県ではかつて毒流し漁に利用されていた[9][10]横浜市大東市防府市の市の木。

化学[編集]

ビブサニンAやBを始めとしたビブサン型ジテルペノイドが多数含まれている[10][11]

ビブサニンAの構造

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 最新のAPG体系ではレンプクソウ科 (Adoxaceae) にまとめられたものが2017年の採決によってガマズミ科 (Viburnaceae) とされており、さらに古い分類体系のクロンキスト体系新エングラー体系ではスイカズラ科 (Caprifoliaceae) に分類されていた[1]

出典[編集]

  1. ^ a b c 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Viburnum odoratissimum Ker Gawl. var. awabuki (K.Koch) Zabel サンゴジュ(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年12月8日閲覧。
  2. ^ a b 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Viburnum odoratissimum Ker Gawl. サンゴジュ(広義)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年12月8日閲覧。
  3. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Viburnum awabuki K.Koch サンゴジュ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年12月8日閲覧。
  4. ^ a b c d e f g h i j k 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文 2014, p. 25.
  5. ^ a b c d e f g h i 平野隆久監修 永岡書店編 1997, p. 155.
  6. ^ a b c d e f g h 正木覚 2012, p. 62.
  7. ^ a b c d e f g 山﨑誠子 2019, p. 54.
  8. ^ 藤山宏『プロが教える住宅の植栽』学芸出版社、2010年、9頁。 
  9. ^ 盛口満 (2015). “琉球列島における魚毒漁についての報告”. 沖縄大学人文学部紀要: 69-75. https://hdl.handle.net/20.500.12001/19043. 
  10. ^ a b Kawazu, K. (1980). “Isolation of Vibsanines A, B, C, D, E and F from Viburnum odoratissimum”. Agric. Biol. Chem. 44: 1367-1372. doi:10.1271/bbb1961.44.1367. 
  11. ^ Fukuyama, Y.; Minami, H.; Takeuchi, K.; Kodama, M.; Kawazu, K. (1996). “Neovibsanines A and B, Unprecedented Diterpenes from Viburnum awabuki”. Tetrahedron Lett. 37: 6767-6770. doi:10.1271/bbb1961.44.1367. 

参考文献[編集]

  • 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文『樹皮と冬芽:四季を通じて樹木を観察する 431種』誠文堂新光社〈ネイチャーウォチングガイドブック〉、2014年10月10日、25頁。ISBN 978-4-416-61438-9 
  • 平野隆久監修 永岡書店編『樹木ガイドブック』永岡書店、1997年5月10日、155頁。ISBN 4-522-21557-6 
  • 正木覚『ナチュラルガーデン樹木図鑑』講談社、2012年4月26日、62頁。ISBN 978-4-06-217528-9 
  • 山﨑誠子『植栽大図鑑[改訂版]』エクスナレッジ、2019年6月7日、54 - 55頁。ISBN 978-4-7678-2625-7 
  • 林将之『葉で見わける樹木 増補改訂版』小学館〈小学館のフィールド・ガイドシリーズ〉、2010年、164頁。ISBN 978-4-09-208023-2 
  • 林将之『樹木の葉 : 実物スキャンで見分ける1100種類 : 画像検索』山と溪谷社〈山溪ハンディ図鑑〉、2014年、682頁。ISBN 978-4-635-07032-4 
  • 林将之『葉っぱで見わけ五感で楽しむ樹木図鑑』ナツメ社、2016年、319頁。ISBN 9784816355905 

関連項目[編集]

外部リンク[編集]