オキチモズク属

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オキチモズク属
分類
: アーケプラスチダ Archaeplastida
: 紅色植物門 Rhodophyta
亜門 : 紅色植物亜門 Rhodophytina
: 真正紅藻綱 Florideophyceae
亜綱 : ウミゾウメン亜綱 Hildenbrandiophycidae
: チスジノリ目 Thoreales
: チスジノリ科 Thoreaceae
: オキチモズク属 Nemalionopsis
学名
Nemalionopsis Skuja1934[1]
和名
オキチモズク属[1]

オキチモズク属(オキチモズクぞく、学名:Nemalionopsis)は、チスジノリ目チスジノリ科の1つ[3]。淡水産の紅藻であり、21品種が知られているが[3][4]、属内の種分類については複数の異論も出されている[3]基準種(タイプ種)Nemalionopsis shawiiである[1][3]

特徴[編集]

藻体はひも状で、髄層部と、それを取り巻く同化糸からなる皮層部からなる[1][5]。粘性に富み、多数に分枝する[1]有性生殖器官は長らく知られていなかったが[1]、属内の1種オキチモズクでは存在が確認された[6]。ただし、有性生殖を行う時期等は明らかになっておらず、主に無性生殖で繁殖すると考えられている[6]

同じチスジノリ科に属するチスジノリ属と類似するが、本属では同化糸が末端部で分岐して先端に単胞子を形成するのに対して、チスジノリ属では同化糸が基部で疎らに分岐して同化糸の基部に果胞子を形成する点で異なる[6]

分類[編集]

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オキチモズク属には以下の21品種が知られている[3]

分類に対する異論[編集]

N. shawiiオキチモズクの違いは、藻体の全長がN. shawii は約6.5センチメートル程度であるのに対してオキチモズクは約40センチメートルまで成長すること、分枝がN. shawii では少なくオキチモズクでは多いこと、藻体がN. shawii ではあまり屈曲しないのに対してオキチモズクでは屈曲することとされたが[7]、オキチモズクはN. shawii品種レベルでの違いに過ぎないとする見解も早い段階から出されていた[5]。この見解を支持する立場から、1979年昭和54年)にアメリカノースカロライナ州の河川で発見されたオキチモズク属の紅藻N. shawii の1品種N. shawii f. caloriniana として報告された[5]

これに対して、1993年平成5年)にRobert G. Sheathらは各種標本を用いて形態形質や計数形態形質による分枝分類学的解析を行い、N. shawii f. caloriniana についてはオキチモズクの同物異名であり、N. shawii とオキチモズクは別種であると結論付けた[5]。一方、2002年平成14年)にはMartin K. MüllerらがN. shawii f. caloriniana とオキチモズクを用いて遺伝子塩基配列による分子遺伝学的形態解析を行い、18S rRNAとrbcL遺伝子の塩基の総和あたり2.88%相違があると報告した[5]。これはN. shawii f. caloriniana とオキチモズクが別種であることを示唆するものであり、Sheathらの分枝分類学的解析と矛盾する結果となった[5]

さらに、2008年平成20年)には須田彰一郎らが沖縄県内で採取したオキチモズク属の藻体を用いた形態観察と形態学的計数形質を計測して文献との比較を行った結果として、N. shawii とオキチモズクの明瞭な違いと考えられていた同化糸の長さをはじめ、他の形態形質でもN. shawii とオキチモズクの中間的な形質を示したことが報告された[5]

このように、オキチモズク属の種分類については混乱があり、確定させるために各種標本等のさらなる解析の必要性が指摘されている[8]

分布[編集]

基準種であるN. shawii は、フィリピンルソン島バターン州がタイプ産地であり、現在までタイプ産地以外では確認されていない[2]N. shawii f. caloriniana は、アメリカノースカロライナ州ウェイク郡で確認されている[2]

オキチモズクは、日本愛媛県東温市お吉泉で初めて確認され、長崎県雲仙市土黒川チスジノリと鑑定されて1924年(大正13年)に「チスジノリ発生地」として天然記念物に指定されていた紅藻がオキチモズクであったことが明らかになった[9]。その後、福岡県熊本県鹿児島県沖縄県でも確認され、四国九州沖縄で計20数か所で発生が知られている[6]。ただし、発生がみられなくなったところも多い[9][10]。オキチモズクは長らく日本固有種と考えられていたが、台湾での生育が確認されている[11]。また、お吉泉が北限とされていたが、2013年平成25年)に東京都立川市で発生が確認されている[4]

出典[編集]

  1. ^ a b c d e f g 熊野茂 『世界の淡水産紅藻』 株式会社内田老鶴圃2000年、p. 292
  2. ^ a b c 熊野茂 『世界の淡水産紅藻』 株式会社内田老鶴圃2000年、p. 293
  3. ^ a b c d e 須田彰一郎比嘉清文久場安次横田昌嗣香村眞徳熊野茂「沖縄県に生息する絶滅危惧藻類オキチモズク(チスジノリ目、紅藻綱)について」『沖縄生物学会誌』第46号、沖縄生物学会2008年、p. 24
  4. ^ a b 林直也田中次郎「絶滅危惧種の淡水藻類オキチモズク(チスジノリ科、紅藻)を東京都で初確認」『植物研究雑誌』第90巻第2号、植物分類地理学会2015年、p. 135
  5. ^ a b c d e f g 須田彰一郎比嘉清文久場安次横田昌嗣香村眞徳熊野茂「沖縄県に生息する絶滅危惧藻類オキチモズク(チスジノリ目、紅藻綱)について」『沖縄生物学会誌』第46号、沖縄生物学会2008年、p. 29
  6. ^ a b c d 環境省自然環境局野生生物課希少種保全推進室編集 『レッドデータブック2014 -日本の絶滅の恐れのある野生生物- 9 植物Ⅱ(蘚苔類・藻類・地衣類・菌類)』 株式会社ぎょうせい2015年、p. 294
  7. ^ 須田彰一郎比嘉清文久場安次横田昌嗣香村眞徳熊野茂「沖縄県に生息する絶滅危惧藻類オキチモズク(チスジノリ目、紅藻綱)について」『沖縄生物学会誌』第46号、沖縄生物学会2008年、p. 30
  8. ^ 須田彰一郎比嘉清文久場安次横田昌嗣香村眞徳熊野茂「沖縄県に生息する絶滅危惧藻類オキチモズク(チスジノリ目、紅藻綱)について」『沖縄生物学会誌』第46号、沖縄生物学会2008年、p. 32
  9. ^ a b 加藤睦奥雄沼田眞渡部景隆畑正憲監修 『日本の天然記念物』 株式会社講談社1995年、p. 611
  10. ^ 水産庁編集 『日本の希少な野生水生生物に関するデータブック』 社団法人日本水産資源保護協会2000年、p. 319
  11. ^ 林直也田中次郎「絶滅危惧種の淡水藻類オキチモズク(チスジノリ科、紅藻)を東京都で初確認」『植物研究雑誌』第90巻第2号、植物分類地理学会2015年、pp. 134-135

参考文献[編集]

関連項目[編集]