イラネッチケー

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

イラネッチケー(IRANEHK)は、テレビジョン放送のうち日本放送協会(NHK)のものだけを受信しないようにする帯域除去フィルタ機器である[1][2]筑波大学映像メディア工学専攻の掛谷英紀研究室が開発した[2]。名称は「いらねー」と「NHK」を組み合わせた造語である。

概要[編集]

直径21ミリメートルほどの筒状の装置で、テレビ受像機アンテナ入力端子などに取り付けると、NHKのテレビ周波数の放送波を遮断する[2]。作動原理は、アンテナマッチング回路LC回路を接続した帯域除去フィルタであり、これによりNHKの放送周波数のみ減衰できる[2]NHK総合テレビジョンNHK教育テレビジョンを対象とする関東地上波用とNHK BS1NHK BSプレミアムを対象とするBS用が商品化され、2014年(平成26年)からインターネット通信販売されている[2]

この機器を開発した研究室は、「NHKだけ映らないアンテナ」を開発しニコニコ超会議2015(2015年4月25日-26日、千葉市幕張メッセ)の「ニコニコ学会」ブースに出展、「研究してみたマッドネス部門」で大賞を受賞した[3]

BSを対象としたイラネッチケーは、2018年の周波数帯域改変によりNHKが他のテレビ局と割当が共同になったため、2023年12月現在、BS-3ch使用のNHK BSプレミアムをカットするとWOWOWプライム、BS-15ch使用のNHK BS1→NHK BSではスターチャンネル2・スターチャンネル3、BS-17ch使用のNHK BS4KNHK BSプレミアム4KではBS-TBS 4KBSフジ 4Kもそれぞれ受信することが出来なくなる[4]

NHK BS8Kは8K受信機器の普及率が非常に低いため製造販売数が少ない。

製品一覧[編集]

現在、以下のものが市販されている。

サイトウコムウェア(公式HP)はカットフィルターの製造販売をしているが、混信防止やCATVスカパーの信号防止が目的である。

開発の経緯[編集]

国会で従軍慰安婦問題に関する答弁が、中山成彬議員のみ著作権侵害を理由にNHKによってYouTubeから削除されたことを疑問視し、合法的にNHK受信料を拒否できるよう開発を決意したとしている[5][6][注釈 1]。また、開発においてテレビ受像機では、NHK放送技術研究所地上デジタル放送特許権を所有しており、開発できないため、知的財産権の制約が少ないフィルタ回路を開発したとしている[2]。イラネッチケーを使えば、NHKの放送が見られなくなるので、NHK受信料を払わなくても良いと、掛谷英紀は述べている[1][2]

法令上の問題[編集]

弁護士の松浦亮介は「フィルターが着脱可能なことから、NHK受信料を支払わなくてよいという解釈は難しい」との見解を示している[6]

NHKも「アンテナが着脱可能なことから受信契約が必要」との見解を示している[6]

一方、開発者は「着脱不能にする方法もある」としている[5]。フィルターを溶接する方法、及びフィルターを一体化したテレビとして販売した例では契約義務が発生する判決が出ている(後述)。

NHK受信料をめぐる裁判[編集]

2015年6月1日、船橋市の元市議会議員である立花孝志NHKから国民を守る党)がイラネッチケーを取り付けた上で、NHKとの受信契約が無いことを確認する為、東京地裁債務不存在確認訴訟を起こした[1][2]

2016年7月20日、東京地裁谷口園恵裁判長)は、イラネッチケーを設置しても元に戻しNHKを受信できるとして、立花に対し、一か月分のNHK受信料の支払いを命じた[7][8]

後にテレビに溶接して同様の訴訟が起こされたが東京地裁にて敗訴する結果が出ている[9]

フィルターを一体化したテレビとして販売した事例[編集]

2020年6月26日、東京地裁(小川理津子裁判長)は、イラネッチケーを組み込んだテレビを購入した女性がNHKに受信契約を結ぶ義務がないことの確認を求めた訴訟の判決で、女性の請求を認めた。NHKはブースターの取り付けや工具を使った復元により視聴は可能であると主張したが、小川裁判長は専門知識のない女性には困難であるとし主張を斥けた[10][11]。同フィルターを付けた訴訟は過去に4例あり、3件はNHKの勝訴、1件は取り下げられていた[10]。NHK敗訴の判決はこれが初めてであり、同一の裁判所で正反対の判決が出たことになる[10]

2021年2月24日、二審の東京高裁広谷章雄裁判長)は一審の判決を取り消し、NHKを受信できない機器を取り付けてもブースターや工具を使うなどすれば元に戻せる場合、契約を結ぶ義務がある判決を下した[12][13]。東京高裁は、NHKを受信できない機器を取り付けても[注釈 2]、機器を取り外すことで復元できる場合その難易度に関わらずNHKを受信できる設備であると指摘した[12][13]

2021年12月3日、最高裁は原告の上告を受理しない決定をし、NHKと契約を結ぶ義務があるとした二審の東京高裁の判決が確定した[14]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 当時の国会議員・亀井亜紀子も問題視し、国会で当時NHKの理事であった石田研一に質問、石田は中山議員と正反対の意見を述べた辻元清美議員の答弁も後に削除したと答弁したが、削除に時間差が生じた理由は説明しなかった[5]
  2. ^ 機器のチャンネルスキップ、選局ボタン無効化等の設定をしていても、初期化すれば元に戻せる。

出典[編集]

  1. ^ a b c “NHKだけ受信しない装置「イラネッチケー」 約130個売れる”. 週刊ポスト. (2015年6月19日). https://www.news-postseven.com/archives/20150611_327969.html?DETAIL 2015年6月14日閲覧。 
  2. ^ a b c d e f g h “開発秘話「NHKだけ映らないアンテナ」はこうして生まれた! 掛谷英紀(筑波大学准教授)”. 産経新聞. (2015年11月22日). https://www.sankei.com/article/20151122-P6B4GMRWVVND7DCFXTBPUO3DLY/ 2015年12月24日閲覧。 
  3. ^ “「NHKだけ映らないアンテナ」で受信料支払い不要に? 「公正で有益なNHKのあり方を議論するきっかけに」”. ITmediaニュース. (2015年4月27日). https://www.itmedia.co.jp/news/articles/1504/27/news095.html 2015年6月14日閲覧。 
  4. ^ BS再編で行われた「イラネッチケー潰し」とは”. 2019年1月22日閲覧。
  5. ^ a b c “「公共性欠如のNHKはいらない」 民放だけが映る“アンテナ”が人気”. 産経新聞. (2015年4月27日). https://web.archive.org/web/20150816170901/http://www.sankei.com/premium/news/150815/prm1508150009-n2.html 2016年1月14日閲覧。 
  6. ^ a b c “NHKだけ見えないテレビが開発 それでも「受信料払う義務あり」らしい”. J-CASTニュース. (2015年4月13日). https://www.j-cast.com/2015/04/13232888.html 2015年12月14日閲覧。 
  7. ^ “NHK遮断は無効 受信料支払い命令”. 佐賀新聞. (2016年7月21日). http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10101/335828 2016年7月21日閲覧。 
  8. ^ “NHKだけ映らない機器設置の男性に受信料1310円支払い命令 東京地裁「機器取り外せる」 男性が反論「今度は溶接して司法判断仰ぐ」”. 産経新聞. (2016年7月21日). https://www.sankei.com/article/20160720-ZZUDMM54CRIJLFXQ5EANFL63AM/ 2016年7月21日閲覧。 
  9. ^ 街宣活動でNHKを堂々批判 受信料を巡る訴訟乱発も敗訴続き”. 日刊ゲンダイ (2019年6月8日). 2019年1月1日閲覧。
  10. ^ a b c 契約義務認めず、NHK敗訴 視聴不可テレビ設置―東京地裁”. 時事通信 (2020年6月26日). 2020年6月26日閲覧。
  11. ^ NHK放送映らず契約義務なし 加工テレビで東京地裁”. 共同通信社 (2020年6月26日). 2020年6月26日閲覧。
  12. ^ a b 視聴できぬテレビも契約義務 NHKが逆転勝訴―東京高裁”. 時事通信 (2021年2月24日). 2021年2月24日閲覧。
  13. ^ a b NHK映らずとも契約義務 加工テレビ訴訟、東京高裁”. 産経新聞 (2021年2月24日). 2021年2月24日閲覧。
  14. ^ NHKの逆転勝訴確定 映らぬテレビに契約義務―最高裁”. 時事通信 (2021年12月3日). 2021年12月3日閲覧。

関連項目[編集]

外部リンク[編集]