アレクサンドル・ヴスティン

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アレクサーンドル・ヴースチン

アレクサーンドル・クジミーチ・ヴースチンロシア語: Алекса́ндр Кузьми́ч Ву́стин / Alexander Kuzmich Vustin, 1943年4月24日 モスクワ - 2020年4月19日[1])は、 旧ソ連邦およびロシア作曲家。日本では、「ウスティン」と紹介されることが多い。

略歴[編集]

最初は地方の音楽大学でグリゴリー・フリートに作曲を師事するが、後にモスクワ音楽院でヴラジーミル・フェレーに師事して1969年に修了した。1969年から1974年にかけてソ連ラジオ局の音楽部長を務め、1974年からはモスクワ楽譜出版社ソヴェツキー・コンポジトル(Совецкий Композитор)に編集者として勤務した。

夫人のマリナ・イェリャノヴァもモスクワ放送局の音楽部長である。息子ユーリは合唱団「アンサンブル・マドリガル」の団員で、即興演奏家としても活動している。ヴスティン作品の録音にユーリが起用されて即興演奏を行うこともある。

テルミンのプロ奏者でもある。

作風[編集]

作曲家としての活動は1963年に遡る。しかしながら当人は、1972年以降の作品のみを承認しており、それ以前のものは認めていない。ヴスティンの音楽語法は、楽曲のテクスチュアの際立った組織化が特徴的である。ヴスティンも十二音技法を用いはするが、独自の方法によっている。最初の重要な作品は1970年代半ばに作曲されている。木管楽器金管楽器打楽器のために作曲され、恩師グリゴリー・フリートに献呈された8分ほどの長さの《ことば》(1975年)と、バリトン弦楽四重奏のために作曲された3分ほどの長さの《ボリス・クリュズネルを偲んで》(1977年ユーリ・オレシャの自叙伝風の歌詞による)がそれである。そのほかに印象深い作品に、マタイ福音書第5章を用いて、ボーイソプラノ(もしくはカウンターテノール)と室内アンサンブルのために作曲された《魂の貧しき者に幸いあれ》(1988年作曲)が挙げられる。

歌劇《恋する悪魔》は、ジャック・カゾットの同名の小説を基にヴラジーミル・ハチャトゥーロフが作成したロシア語の台本によっている。1975年から1989年までのおよそ15年間の苦心の作で、おそらく最も重要なヴスティン作品のうちの一つである。にもかかわらず、《恋する悪魔》は未だに舞台化されていない。《恋する悪魔》の素材は、同時期に創作された多数の楽曲の母胎となった。

受容[編集]

ヴスティンの作品は、クレメラータ・ムジカロッケンハウス室内楽フェスティバル、モスクワ・フォーラム、モスクワの秋、ドナウエッシンゲン音楽の日々、チューリヒ現代音楽の日々、オランダ音楽祭、第14回ベルリン音楽ビエンナーレなど、しばしば多くの主要な音楽祭のプログラムに取り上げられている。ヴスティン作品を取り上げてきた指揮者や演奏家に、ラインベルト・デ・レーウレフ・マルキス、エリ・クラース、イーゴリ・ドロノフ、アレクサンドル・ラザレフ、ヴィタリー・カターエフ、ギドン・クレーメルマーティン・ブラビンズ、クリストフ・ハーゲルらの名が挙げられる。演奏団体では、クレメラータ・バルティカやアムステルダム吹奏楽団、シェーンベルク・アンサンブルオランダ・フィルハーモニー放送管弦楽団、ニュー・シンフォニエッタ・アムステルダム、モスクワ現代音楽アンサンブル、ボリショイ劇場ソリスト・アンサンブル、BBC交響楽団などがある。

作品一覧[編集]

Alexander Vustin (2008)

習作[編集]

  • 弦楽四重奏曲 1966年
  • 交響曲 1969年

歌劇[編集]

  • 《恋する悪魔(フランス語: Le Diable amoureux / ロシア語: Влюблённый дьявол)》(全3幕、原作:ジャック・カゾット、台本:ヴラジーミル・ハチャトゥロフ、1975年 - 1989年)

声楽曲[編集]

  • 『トロペッツ』から3つの歌 (1972年)
  • バリトンと弦楽四重奏のための《追悼ボリス・クリュズネル》(原詩:ユーリ・オレシャ、 1977年)
  • 女声独唱と男声合唱、器楽合奏のための《綺想曲(Capriccio)》 (1977年)
  • バリトンと13人の奏者のための《帰郷》(原詩:ディミトリー・シチェドロヴィルスキー、 1981年、編成:2つの弦楽四重奏、2つのピアノ、ホルン、2人の打楽器奏者)
  • バリトンと打楽器のための《コズマ・プルトコフの余暇 (Досуги Козмы Пруткова)》 (1982年)
  • 児童合唱と管弦楽のための《祝日(Праздник)》 (1987年)
  • 声楽とアンサンブルのための《魂の貧しき者に幸いあれ》 (1988年)
  • 語り手と弦楽合奏、バスドラムのための《ザイツェフの手紙》 (1990年)
  • アンサンブルのための《10名のための音楽》(原詞:ジャン=フランソワ・ド・ラ・アルプ、 1991年)
  • クラリネット、バスクラリネット、ヴィオラ、チェロ、コントラバスとソプラノのための《3つの歌》(原詩:アンドレイ・プラトノフの小説『チェヴェングル(Чевенгур)』より、 1992年)
  • 混声合唱、打楽器とオルガンのための《神の羔(Agnus Dei)》 (1993年)
  • ソプラノと弦楽合奏のための《小さな鎮魂歌(Small Requiem)》 (1994年)
  • 男声合唱と管弦楽のための《歌》(原詞:アンドレイ・プラトノフの小説『チェヴェングル(Чевенгур)』より、1995年)
  • 合唱とアンサンブルのための《来たれ聖霊(ラテン語: Veni Sancte Spiritus)》

協奏曲[編集]

  • 打楽器、鍵盤楽器と弦楽合奏のための協奏曲《記憶 第2番(Memoria2)》 (1978年)
  • 打楽器と小オーケストラのための協奏曲《ベートーヴェンを讃えて(Hommage à Beethoven)》 (1984年)

管弦楽曲[編集]

  • 無題 (Sine Nomine, 2000年)
  • ヴァイオリン独奏と弦楽合奏、打楽器のための《タンゴ「ギドンを讃えて」(Tango hommage à Gidon)》

室内楽曲[編集]

  • 室内アンサンブルのための《3楽章の夜想曲》(1972年、1982年改訂)
  • 6つの楽器のためのソナタ(1973年、編成:ピッコロ、フルート、クラリネット、ヴィオラ、チェロ、5台のコントラバス)
  • 合奏曲《『トロペッツ』の歌》(1975年)
  • 合奏曲《ことば》(1975年)
  • オーボエ独奏のための《お伽噺(Сказка)》(1979年)
  • 合奏曲《英雄的な子守唄》(1991年)
  • 合奏曲《息子へ(Посвящённые сыну)》(1992年)
  • 弦楽四重奏曲《曲が産まれる》 (1994年)
  • サクソフォン、ヴィブラフォン、チェロのための《天使のための音楽(Musique pour l'ange)》 (1995年)
  • ピアノ三重奏曲 (1999年)

鍵盤楽曲[編集]

  • ピアノ・ソナタ(《6楽器のためのソナタ》のピアノ独奏版、 1973年)
  • ピアノ曲《ラメント》 (1974年)
  • オルガン曲《白い音楽》 (1990年)

その他[編集]

  • 映画『アンナ・カラマゾワ』のための音楽

関連項目[編集]

参考文献[編集]

«Ex oriente...III» Eight Composers from the former USSR: Philip Gershkovich, Boris Tishchenko, Leonid Grabovsky, Alexander Knaifel, Vladislav Shoot, Alexander Vustin, Alexander Raskatov, Sergei Pavlenko Edited by Valeria Tsenova. English edition (studia slavica musicologica, Bd. 31), 206 pp., music illus., ISBN 3-928864-92-0

脚注[編集]

  1. ^ В Москве скончался композитор Александр Вустин. Его друзья винят коронавирус”. www.fontanka.ru. Новости Санкт-Петербурга - главные новости сегодня. 2020年4月19日閲覧。

外部リンク[編集]