なりすまし

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なりすまし(成り済まし)とは、他人のふりをして活動する行為である[1]。詐欺などと併用される[2]。極一部の例外を除き、犯罪行為であり、なりすましの種類は多岐にわたり、問われる罪も幅が広い[1]

代表的なカテゴリとしては、次のようなものがある。

スパイ活動による「なりすまし(背乗り)」[編集]

諜報機関工作員が諜報活動や工作活動の一環として、身分を偽り他人になりすますことがある。実在する他人の身分・戸籍を乗っ取って、その人物に成りすます行為、工作員(スパイ)によって行われるものを「背乗り」と呼ぶ。

ソ連の情報機関が編み出した対外工作手法であり、対立国へ使われてきた。ソ連から取り入れた北朝鮮の情報機関の工作員は、日本人に似た東アジア人の容貌を持っているため、日本人拉致や日本国内での工作において、日本語を操って日本に背乗りを仕掛けてきた[3]

特殊詐欺におけるなりすまし[編集]

他者へのなりすましは、詐欺にしばしば用いられる。 例えば、「オレオレ詐欺」や「振り込め詐欺」などのような特殊詐欺は電話などの手段によって、親族や警察官、金融機関職員、自治体職員などになりすますことにより、現金を騙し取る詐欺行為である。

近年はプラットフォームでのなりすまし広告やアカウントといった、非対面型・オンライン経由でSNS型投資詐欺やロマンス詐欺の被害者が急増している[4][5]

ソーシャル・エンジニアリングの一種としてのなりすまし[編集]

顧客や取引先、あるいは社員になりすまして、企業に接触・侵入し、機密を聞き出したり、盗んだりする行為。また、この際にあらかじめ、なりすます対象の情報(顧客や取引先情報の取得、社員証の盗みや偽造など)を元にその活動を、ソーシャル・エンジニアリングとも呼ばれている。

インターネットにおけるなりすまし[編集]

後述の投資広告関連なりすまし詐欺やロマンス詐欺[4]を除いたインターネットにおけるなりすましとして、以下のようなものがある。

他者のID・パスワードの盗用(不正アクセス)[編集]

他人のユーザIDとパスワードを盗み、システムにアクセスし活動する。他人のIDやパスワードを無断で使用してログインを試みる行為は、不正アクセス行為と呼ばれ、日本では不正アクセス行為の禁止等に関する法律(不正アクセス禁止法)により処罰対象となる。

IPスプーフィング[編集]

特定のIPアドレスのマシンからのアクセスしか許可しないように設定されたサーバーに対して、送信元のIPアドレスを偽装・操作して、アクセスを許可されたマシンのふりをする。

インターネットを悪用した他者へのなりすまし(顔写真、名前、ニックネーム・ハンドル等の盗用した犯罪行為)[編集]

ブログや電子掲示板、SNSなど、自由にハンドルネームを設定して書き込みができる場において、他人のハンドルネームや名前を使用し、その人のふりをして活動する事例がある。なりすまし内容によっては、名誉毀損罪になる。そして、場合によっては慰謝料請求対象となる[6]

登録制のソーシャル・ネットワーキング・サービスの場合、実在する別の人物の名(有名人の場合が多いが一般人の場合もある)のアカウントを作成しその人物のふりをして活動したり、企業・団体名のアカウントを作成しその企業・団体の公式アカウントのふりをして活動したりする例がある。このなりすましの対策としてTwitterでは、Twitterの運営者が本人確認をしたアカウントに対してそれを表す認証済みバッジを表示している[7]

なりすまし広告詐欺・SNS型投資詐欺・SNS型ロマンス詐欺[編集]

SNS型ロマンス詐欺の場となっている問題だけでなく、投資詐欺目当てのなりすまし広告(SNS型投資詐欺)と、甘い掲載前の審査・掲載後も通報後も削除せずに放置するプラットフォーム会社(プラットフォーマー)のあり方が問題になっている[4][2][8][9][5][10]。日本の警察庁によるとオンライン経由投資詐欺において、Instagram、Facebook、LINE[11]マッチングアプリの4ルートだけで、被害全体の4分の3を占めている[8][4]

主にSNS型投資詐欺はFacebookやInstagramに掲載された、基本的に著名人側が掲載したとなりすました広告を載せ、「儲かる話を教える」としてLINEグループに誘導し、詐欺を働き、金銭を奪う流れとなっている。特にプラットフォーマー側が通報しても削除等の対応しない、そもそも掲載前の審査不足なことから被害が拡大している[9]。プラットフォーマーの非短期的な詐欺広告放置行為は、民法上の不法行為にあたり、偽広告掲載側の目的が刑事罰に該当する犯罪行為であれば共犯となるだけでなく、共同正犯と厳罰となる可能性も指摘されている[5]

警察庁の調査によると2024年3月時点で投資詐欺接触に使われたオンラインルートを被害男女別にみると、男性の1292件のうち、フェイスブックが285件(22.1%)、ラインが273件(21.1%)、インスタグラムが231件(17.9%)であった。女性は979件のうち、インスタグラムが308件(31.5%)、ライン188件(19.2%)、マッチングアプリ138件(14.1%)の順であることが判明した[8][4]

Meta(Instagram・Facebook)[編集]

2023年8月末にZOZO創業者の前澤友作インスタグラムフェイスブックにおける何百個もなりすまし広告を放置し、抗議しても対応しないMeta社日本法人に痺れを切らし、本社にも内容証明を送ったことを明かしている[10][12][2][13]

2023年9月1日、三崎優太もSNSで「私は投資を教えるような広告やサービスを一切やってません。全部詐欺!」と、「三崎優太の秘密の投資教室」など自分の名前と写真を使った詐欺投資広告画像を貼付しながら「なりすまし広告もここまできた。悪質すぎる」と批判した。さらにこれらを放置しているMeta社の名前をあげ「Meta社にはいい加減対応して欲しい。多くの著名人が何度も呼びかけているが、まだ対応されない。」とプラットフォームにも責任があると訴えた[2]

この他にも投資家実業家著名人を中心に前澤や三崎と同様の被害に遭っていることが報じられており、SBIホールディングス会長の北尾吉孝経済アナリスト森永卓郎、経済ジャーナリストの荻原博子、実業家の堀江貴文お笑いタレント田村淳、元棋士桐谷広人などになりすました広告も確認されている[14][15][16]。2024年に入ると、投資とは無縁の人物にも被害が広がっており、テニス選手の大坂なおみジャーナリスト池上彰などになりすました広告も存在していると報じられている[17]

企業も例外では無く、みずほ証券によると、同社名義による投資に関するなりすまし広告が最大で300サイトに表示され、実際に被害にあったと訴える事例も数件報告されている[14]

2024年4月に自民党はMeta社に現行の対応を続けるならば、日本国内での広告停止処分すると警告した[18]

LINE[編集]

LINEはなりすまし広告だけでなく[19]、主になりすまし広告で「集客した被害者ら」を詐欺師らが「投資グループ」へ送る誘導先になっている。詐欺師らで構成されたグループ内で興味を示した被害者に個別ラインで搾取してく仕組みが組まれている[20][21]。警察庁によるもSNS型広告詐欺・SNS型ロマンス詐欺で「集客」した被害者ら基本的にLINEに誘導されており、約9割の被害者の被害時の連絡ツール(欺罔が行われた主たる通信手段)となっている。そして、86%の被害者が銀行振込、約1割が暗号通貨で金銭を振込させられている[4]。他にも「送金詐欺」「情報商材詐欺」の場に悪用されている[22]

三重県津市の70代の男性が2023年10月頃にLINE経由で「著名な経済学者」のなりすましと知り合い、「投資アプリ」をダウンロードするよう勧められ、現金計約4550万円の詐欺にあっている[23]

北九州市八幡西区の40代の男性がLINE上に掲載された「実在する外資系会社の社員を名乗る人物」へのなりすまし広告をきっかけに、嘘の投資話による3800万円の詐欺被害にあっている[19]

不特定人物へのなりすまし・自作自演[編集]

なりすましの中には不特定の人物、特に「自己と対立する属性・思想の持ち主」を装って匿名の書き込みを行い、詐欺的に[[炎上_(ネット用語)|炎上] ]などを引き起こす事例がある。なりすましによる炎上を対立する属性の持ち主を攻撃する口実として用いる場合には、一種の偽旗作戦ともいえる[24]

自作自演[編集]

他にも、「差別されている」ことで得られる利益目的で○○という属性を持つ人が「○○差別者」という不特定な匿名者へなりすまし、自分自身や自己の属性を誹謗中傷する自作自演を行うケースがある。同和関連差別自作自演ケースとして、立花町連続差別ハガキ事件滋賀県公立中学校差別落書き自作自演事件解同高知市協「差別手紙」事件などがその例の一部である。 他の自演のケースとして、セルフ・ネットいじめ(デジタル自傷行為)がある。これに対するアメリカ合衆国における調査で、アメリカ人の10代の5〜9%が“デジタル自傷行為”を行っていることが明らかになっている。理由としては注目を集めたかったり、中傷が来ることで「そんなことないよ」といった自身への同情コメント誘発を狙っていると判明した[25]。対立思想になりすました具体的な事例として青識亜論によるフェミニストなりすましアカウントの運用がある[24]

脚注[編集]

  1. ^ a b 勝つための情報学 バーチャルからリアルへ - p43, 山村明義, 2018
  2. ^ a b c d 三崎優太氏 悪質さ増した詐欺広告に怒り「Meta社にはいい加減対応して欲しい」”. 東京スポーツ (2023年9月11日). 2023年9月11日閲覧。
  3. ^ 背乗り(はいのり)と拉致 【調査会NEWS3540】(R3.12.16) | 特定失踪者問題調査会”. www.chosa-kai.jp. 2023年6月20日閲覧。
  4. ^ a b c d e f https://www.soumu.go.jp/main_content/000942561.pdf
  5. ^ a b c 日本放送協会 (2023年9月24日). “有名人なりすまし“偽の投資広告” SNSで急増 その手口とは | NHK”. NHKニュース. 2024年4月19日閲覧。
  6. ^ Twitterで「なりすまし」をした人を特定する方法|アカウントを削除する手順や対処法”. 法律相談ナビ. 2023年6月20日閲覧。
  7. ^ 認証済みアカウントに関するFAQ - Twitterヘルプセンター
  8. ^ a b c FB、インスタによる接触が最多 投資詐欺、著名人詐称例も(共同通信)”. Yahoo!ニュース. 2024年4月19日閲覧。
  9. ^ a b いくら通報しても意味がない…フェイスブックの「なりすまし詐欺広告」が社会問題に発展した根本原因 メタ社は日本対応を後回しにしているのではないか”. PRESIDENT Online(プレジデントオンライン) (2024年4月14日). 2024年4月19日閲覧。
  10. ^ a b 前澤友作氏 自身騙る詐欺広告でMeta社に内容証明「何度要請しても改善されない」 (東スポWEB)”. Yahoo!ニュース. 2023年9月11日閲覧。
  11. ^ 警察庁の調査によると特にLINEは集客する場としてだけでなく、「被害時の連絡ツール(欺罔が行われた主たる通信手段)」としてロマンス詐欺や広告詐欺で釣った被害者の約9割がLINEに誘導され、そこでやり取りした後に振込させられている。
  12. ^ 前澤友作氏、フェイスブックやインスタで自身なりすまし“詐欺広告”を500個以上確認 Meta社に「通知書」送付・全公開 (オリコン)”. Yahoo!ニュース. 2023年9月11日閲覧。
  13. ^ 前澤友作氏が怒り…SNS上の詐欺広告でFacebook Japanに抗議 回答「本国Meta社に」”. テレ朝news. 2023年9月11日閲覧。
  14. ^ a b 植田祐、斉藤光峻 (2023年9月24日). “有名人なりすまし“偽の投資広告” SNSで急増 その手口とは”. NHKニュース. 日本放送協会. 2023年11月5日閲覧。
  15. ^ [社説]SNS詐欺広告を放置するな”. 日本経済新聞 (2023年10月16日). 2023年12月11日閲覧。
  16. ^ 板垣聡旨 (2023年12月11日). “「私がなぜ?」投資反対の荻原博子氏が投資広告に顔写真 多発するSNS広告のなりすまし被害”. AERA dot. (アエラドット). 2023年12月11日閲覧。
  17. ^ 植田祐、絹川千晴、岡谷宏基 (2024年4月6日). “なぜなくならない?SNS有名人なりすまし広告 クリックすると…”. NHKニュース. 日本放送協会. 2024年4月12日閲覧。
  18. ^ 自民、メタに広告停止検討を要請 著名人なりすましSNS詐欺被害|全国のニュース|京都新聞”. 京都新聞 (2024年4月19日). 2024年4月19日閲覧。
  19. ^ a b KBC九州朝日放送. “LINEの広告から…3800万円余り投資詐欺被害|KBCニュース”. KBC九州朝日放送. 2024年4月19日閲覧。
  20. ^ SNSで「有名人詐欺広告」がバンバン表示されるのはなぜ? プラットフォーマーの対策はどうなっているのか:東京新聞 TOKYO Web”. 東京新聞 TOKYO Web. 2024年4月19日閲覧。
  21. ^ 突如LINE「数年で裕福」 中国人が著名投資家を装う…日本人標的の詐欺G摘発 63人拘束”. テレ朝news. 2024年4月19日閲覧。
  22. ^ 株式会社インプレス (2024年3月29日). “LINE、警察と連携し「送金詐欺」など新たな手口に注意喚起”. Impress Watch. 2024年4月19日閲覧。
  23. ^ 著名学者になりすましたLINEアカウント…70代男性がウソの投資話持ち掛けられ4500万円余りの詐欺被害(東海テレビ)”. Yahoo!ニュース. 2024年4月19日閲覧。
  24. ^ a b 小川たまか (2022年6月15日). “トナカイさんへ伝える話(91)ネットで行われているいじめについて・4”. Yahoo!ニュース個人. 2022年12月17日閲覧。
  25. ^ TIMES編集部, ABEMA (2022年12月9日). “「中毒性があって止められない」裏アカで自分を誹謗中傷する“デジタル自傷” 当事者の思い | 国内 | ABEMA TIMES | アベマタイムズ”. ABEMA TIMES. 2023年6月20日閲覧。

参考文献[編集]

参考論文[編集]

  • 折田明子 『ソーシャルメディアにおけるなりすまし問題に関する考察』 情報処理学会研究報告 電子化知的財産・社会基盤(2009-EIP-44(4) 1-6)、2009年。

参考Webサイト[編集]

関連項目[編集]