うお座

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
うお座
Pisces
Pisces
属格 Piscium
略符 Psc
発音 [ˈpaɪsiːz]、属格 /ˈpɪʃiəm/
象徴 the Fish
概略位置:赤経 1
概略位置:赤緯 +15
21時正中 11月10日
広さ 889平方度[1]14位
バイエル符号/
フラムスティード番号
を持つ恒星数
86
3.0等より明るい恒星数 0
最輝星 η Psc(3.620
メシエ天体 1
確定流星群 うお座υ流星群
隣接する星座 さんかく座
アンドロメダ座
ペガスス座
みずがめ座
くじら座
おひつじ座
テンプレートを表示

うお座(うおざ、魚座、Pisces)は、黄道十二星座の1つ。トレミーの48星座の1つでもある。最も明るい星でも4等星と、あまり目立たない星座である。ペガススの大四辺形の南にある、γ星、7番星、θ星、ι星、19番星、λ星、κ星が形作る環状のアステリズムは、欧米では Circlet と呼ばれる。21世紀現在、ω星の約7°南に春分点がある。

主な天体[編集]

恒星[編集]

以下の9個の恒星には国際天文学連合 (IAU) によって固有名が認証されている[2]

  • α星:4.11等[3]のA星と5.1等[4]のB星からなる連星系で、A・Bのどちらも分光連星の可能性を示唆されている。A星にはアラビア語で「ひも」を意味する言葉に由来する「アルレシャ[5](Alrescha[2])」という固有名が付けられている[6]
  • β星:5等星(4.52等[7])で、Circletの西、西の魚の口の位置に見える。「フムアルサマカ[8](Fumalsamakah[2])」という固有名がある。
  • ζ星:5等星[9]。A星には、ヒンドゥーの月宿「ナクシャトラ」の第26宿レーヴァティ (Revati) に由来する「レーヴァティ (Revati[2])」という固有名が付けられている。
  • η星:4等星(3.620等[10])ながら、うお座で最も明るい恒星。A星には「アルフェルグ[8](Alpherg[2])」という固有名が付けられている。
  • ο星:4等星[11]。A星には「トルクラー[8](Torcular[2])」という固有名が付けられている。
  • HD 1502:IAUの100周年記念行事「IAU100 NameExoworlds」でハイチに命名権が与えられ、主星はCitadelle、太陽系外惑星はIndépendanceと命名された[12]
  • HD 8574:IAUの100周年記念行事「IAU100 NameExoworlds」でフランスに命名権が与えられ、主星はBélénos、太陽系外惑星はBélisamaと命名された[12]
  • HD 218566:IAUの100周年記念行事「IAU100 NameExoworlds」でシリアに命名権が与えられ、主星はEbla、太陽系外惑星はUgaritと命名された[12]
  • WASP-32:IAUの100周年記念行事「IAU100 NameExoworlds」でシンガポールに命名権が与えられ、主星はParumleo、太陽系外惑星はViculusと命名された[12]

上記以外に知られている恒星には以下のものがある。

星団・星雲・銀河[編集]

  • M74渦巻銀河(Sc型)。η星の北東方向付近にある。光度は9.8等と暗い。
渦巻銀河M74

由来と歴史[編集]

うお座は古代メソポタミア文明に由来する星座とされる[14]。2匹の魚とそれから伸びる紐は、チグリス川ユーフラテス川をあらわし、紐が魚に繋がっているのは2本の川が合流することを表している。2匹の魚の間にあるペガススの大四辺形は、2本の川の間にあるバビロンまたは農地を表しているといわれる[15]。また2匹の魚のうち南の魚をツバメとして描いた図も遺されている[15]

中国[編集]

中国の天文では、うお座の星々は二十八宿室宿壁宿奎宿婁宿にまたがって位置している。室宿では、27・29・33・30の4星が、みずがめ座、やぎ座の星とともに「塁壁陣」という星官を形作る[14]。壁宿では、32・45の2星が土木工事の役人を表す「土公」という星官を成す[14]βγ・θ・ιωの5星は雷を表す「霹靂」、κ、12、21、λの4星は雲と雨を表す「雲雨」という星官を成している[14]。奎宿では、τ・91・υ・φ・χ・ψ1の6星がアンドロメダ座の星とともに白虎の脚を表す星官「奎」を成している[14]。またδ・εζ・μ・ν・ξ・αの7星は「外屏」という星官を成す[14]。婁宿では、σ・η・π・ο・104の5星が牧畜を管理する役人を表す「右更」という星官を成していた[14]

神話[編集]

ウラニアの鏡』に描かれたうお座

紀元前3世紀のギリシャ人学者エラトステネースの著書『カタステリスモイ[注 1]』では、シリアの女神デルケトー英語版が誤ってマンビジ近くの湖に落ちたときに、彼女を助けた魚が天に上げられたとする神話を伝えている[14]。この神話では、デルケトーを助けた魚はみなみのうお座で、その2匹の子供がうお座であるとしている[14][16]

紀元前1世紀の著述家ヒュギーヌスは著書『天文詩』の中で、紀元前4世紀以降の歴史家エリトリアのディオグネトスの伝える話として、美の女神アプロディーテーとその子エロースにまつわる神話を紹介している。アプロディーテーとエロースがユーフラテス川の近くを訪れたところ、突然、怪物テューポーンが現れた。驚いた2人は川に飛び込み、魚に姿を変えて逃げた[16]。また、ヒュギーヌスは著書『神話集』の中で、ユーフラテス川に落ちたの卵を助けた2匹の魚をアプロディーテーが記念して星座とした、とする話を伝えている[14]

呼称と方言[編集]

ラテン語の学名では Pisces と複数形となっている。これは2匹の魚と見做されていたことに由来しており、アラビア語名でも al-Samakatān (アッ゠サマカターン)と双数形をとっている。現代中国名(中文名)でも双魚座と呼ばれる。

日本では、1879年(明治12年)にノーマン・ロッキャーの著書『Elements of Astronomy』を訳した『洛氏天文学』が刊行された際に「魚」という訳語が充てられた[17]。その後は「雙魚」という訳語が使われるようになり、1908年(明治41年)4月に創刊された日本天文学会の会誌『天文月報』でも同年8月第5号から「雙魚」とした星図が掲載されていた[18]が、1910年(明治43年)2月に訳語が改訂された際に「雙魚」から「魚」に変更されている[19]。戦後の1952年(昭和27年)7月、日本天文学会は「星座名はひらがなまたはカタカナで表記する」[20]とした。このときに、Pisces の訳名は「うお」と定まり[21]、以降この呼び名が継続して用いられている。

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 『カタステリスモイ』の作者はエラトステネースではない、とする説もある。

出典[編集]

  1. ^ 星座名・星座略符一覧(面積順)”. 国立天文台(NAOJ). 2023年1月1日閲覧。
  2. ^ a b c d e f IAU Catalog of Star Names (IAU-CSN)”. 国際天文学連合 (2022年4月4日). 2022年11月9日閲覧。
  3. ^ "alp Psc A". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2022年12月8日閲覧
  4. ^ "alp Psc B". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2022年12月8日閲覧
  5. ^ 原恵『星座の神話 - 星座史と星名の意味』(新装改訂版第4刷)恒星社厚生閣、2007年2月28日、194頁。ISBN 978-4-7699-0825-8 
  6. ^ Kunitzsch, Paul; Smart, Tim (2006). A Dictionary of Modern star Names: A Short Guide to 254 Star Names and Their Derivations. Sky Pub. Corp.. p. 50. ISBN 978-1-931559-44-7 
  7. ^ "bet Psc". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2022年12月8日閲覧
  8. ^ a b c 『ステラナビゲータ11』(11.0i)AstroArts。 
  9. ^ "zet01 Psc". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2022年12月8日閲覧
  10. ^ "eta Psc". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2022年12月8日閲覧
  11. ^ "omi Psc". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2022年12月8日閲覧
  12. ^ a b c d Approved names” (英語). Name Exoworlds. 国際天文学連合 (2019年12月17日). 2022年11月29日閲覧。
  13. ^ "Wolf 28". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2022年12月8日閲覧
  14. ^ a b c d e f g h i j Ridpath, Ian. “Star Tales - Pisces”. 2022年11月29日閲覧。
  15. ^ a b 近藤二郎『わかってきた星座神話の起源 古代メソポタミアの星座』誠文堂新光社、2010年。ISBN 978-4-416-21024-6 
  16. ^ a b Condos; Theony (1997). Star myths of the Greeks and Romans : a sourcebook containing the Constellations of Pseudo-Eratosthenes and the Poetic astronomy of Hyginus. Grand Rapids, MI, U.S.A.: Phanes Press. p. 145-149. ISBN 978-1-60925-678-4. OCLC 840823460 
  17. ^ ジェー、ノルマン、ロックヤー 著、木村一歩内田正雄 編『洛氏天文学 上冊文部省、1879年3月、57頁https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/831055 
  18. ^ 天圖の説明」『天文月報』第1巻第5号、1908年8月、12頁、ISSN 0374-2466 
  19. ^ 星座名」『天文月報』第2巻第11号、1910年2月、11頁、ISSN 0374-2466 
  20. ^ 『文部省学術用語集天文学編(増訂版)』(第1刷)日本学術振興会、1994年11月15日、316頁。ISBN 4-8181-9404-2 
  21. ^ 星座名」『天文月報』第45巻第10号、1952年10月、13頁、ISSN 0374-2466 

座標: 星図 01h 00m 00s, +15° 00′ 00″