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WISEA 1810-1010

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
WISEA 1810-1010
UKIRT赤外線ディープスカイサーベイ(英語版)(UKIDSS)で撮影されたWISEA 1810-1010の近赤外画像
UKIRT赤外線ディープスカイサーベイ英語版(UKIDSS)で撮影されたWISEA 1810-1010の近赤外画像
星座 へび座
見かけの等級 (mv) 17.264 ± 0.020(Jバンド)[1]


16.500 ± 0.018(Hバンド)[1]
17.162 ± 0.081(Kバンド)[1]

位置
元期:J2000.0
赤経 (RA, α)  18h 10m 06.18s[1]
赤緯 (Dec, δ) −10° 10′ 00.5″[1]
固有運動 (μ) 赤経: −1027.0±3.5ミリ秒/[2]
赤緯: −246.4±3.6ミリ秒/年[2]
年周視差 (π) 112.5 ± 8.1ミリ秒[2]
(誤差7.2%)
距離 29 ± 2 光年[注 1]
(8.9 ± 0.6 パーセク[注 1]
物理的性質
半径 0.65+0.31
−0.19
木星半径[2]
質量 17+56
−12
木星質量[2]
表面重力 5.0±0.25cgs[2]
絶対等級 (H) 19.850+0.082
−0.074
表面温度 1000±100K[3]
金属量[Fe/H] [Fe/H] = −1.7±0.2[3]
他のカタログでの名称
WISEA J181006.18-101000.5, CWISEP J181006.00-101001.1
Template (ノート 解説) ■Project

WISEA J181006.18-101000.5またはWISEA 1810-1010へび座方向に地球から8.9パーセク(29光年)離れた位置にある褐色矮星である[2]L型褐色矮星T型褐色矮星のちょうど両方にも属するような独特な色をしていることで注目されており、これは組成中の金属量が極端に小さいことに起因するとされている。WISEA 0414−5854と共に、最初に発見された、スペクトル分類でT型に属するesd(extreme subdwarf)と呼ばれる天体である[4]。大気中に水素や水蒸気が豊富に存在することから、WISEA 1810-1010を水蒸気矮星と呼ぶ研究者もいる[2]

発見

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WISEA 1810-1010が最初にカタログ上に現れるのは広視野赤外線探査機(WISE)で2016年に行われたNEOWISE固有運動サーベイでのことだが、この天体がちょうど銀河面の背景の恒星の密度が高い領域に位置していたため、固有運動が測定できないままになっていた。 その後オンライン上のシチズン・サイエンスのウェブポータル、ズーニバース市民科学プロジェクトのバックヤード・ワールドにおいてWiseViewツールを用いて研究者が観察した結果、大きな固有運動を持つことが見つかった。同時に同プロジェクトに参加していた市民科学者のArttu Sainioも独立して、大きな固有運動を持つこの天体に気付いた[4]

詳細観測

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発見を受けて、バックヤードワールドプロジェクトの研究者が2019年から2020年にかけて最初に行った追跡観測では、W・M・ケック天文台のNIRES、パロマー天文台/TripleSpec[4]といった分光装置で分光観測が行われた。その後スペインイギリスポーランドの研究者から成る別の研究チームが2020年から2021年にかけて、北欧光学望遠鏡のALFOSC、カナリア大望遠鏡の複数装置、カラル・アルト天文台のOmega2000といった観測装置で観測した[2]。さらに2024年7月21日にはカナリア大望遠鏡のより分解能に優れた装置であるEMIRで測光、分光観測が行われた[3]

ケックとパロマーからの分光観測では、WISEA 1810-1010は同じようなスペクトル型を持つL7型esdである2MASS J05325346+8246465英語版と比べて、1.15 μm (Y/Jバンド)においてはるかに深い吸収が検出された一方で、Hバンド領域でのスペクトル形状においては共通していた。YバンドやJバンドのスペクトルはL型よりも、むしろ早期T型準矮星によく似ていた[4]

距離と物理特性

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当初、この天体までの距離は14pcか67pcと不確かにしか限定されていなかったが[4]2022年の論文ではアーカイブデータや新しい観測データから視差が測定され、距離が8.9+0.7
−0.6
 pc
と決定された[2]

この天体の質量はSANDモデルでのベストフィットから17+56
−12
 MJ
と測定されたため褐色矮星か準褐色矮星に分類され、温度は700 から 900 Kである[2]。 スペクトル型はesdT3:と推定されており、これは低温準矮星のための新しい分類手法を導入した研究に基づいている。esdとは"extreme subdwarfs"の略で、末尾のコロンはスペクトル型の数字の不確定性が大きいことを表している。

WISEA 1810-1010の固有運動から、銀河系円盤のうち薄いディスク英語版と呼ばれる部分に属する確率が91%、厚いディスク英語版と呼ばれる部分のメンバーである確率が9%と求められている。しかし薄いディスクの一員である可能性が高いからと言って厚いディスクに属する可能性が排除されたわけではなく[5]、最新の視線速度観測では厚いディスクに属する確率がより高く評価されている[3]

大気

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当初WISEA 1810-1010の大気中で検出された組成は水素と水蒸気による強い吸収のみであった。T型褐色矮星の定義の1つとして大気中のメタンの存在があり、より高温のL型褐色矮星は大気中に一酸化炭素を有することが定義の一部になっているため、そのどちらも検出されていないことは予想に反していた。この一酸化炭素とメタンの欠乏は、金属量が少ないため炭素を多く含まない大気を持つことや、酸素が多く含まれることで説明できる[2]。 後にカナリア大望遠鏡でのスペクトル観測で17±6 ppmのメタンが検出されたが、一酸化炭素やカリウムは検出されなかった。 炭素の存在量は水素と比較して[C/H]=-1.5+/-0.2 dexと決定された。さらにスペクトル中には15720 Åの位置に未知の吸収線が見られた[3]

スペクトルのモデルフィットから、[Fe/H]=-1.5+/-0.5という非常に金属量の少ない大気を持つことが示された[2]

スペクトル型

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2020年にこの天体を報告したSchneiderらはまずこの天体がL型/T型の両方の特徴を持つスペクトルを示すことに注目した。推定温度が低いことからこの時は暫定的にスペクトル型をesdT0.0±1.0と仮定していた[4]。 2022年にLodieuらが近赤外スペクトルからメタンが検出されなかったことからT型褐色矮星としての分類に疑問を呈した。メタンはT型褐色矮星にとって重要な分類指標である[2]。 一方でJun-Yan Zhangらは2023年に、WISEA 1810をL型褐色矮星に分類することができないことを以下の重要な違いから示していた[6]

  • W1–W2の色指数がよりL型褐色矮星にしては赤いこと
  • FeHのような、金属量の少ないL型褐色矮星では多く存在するはずの水素化合物が欠乏していること
  • L型準矮星では水の吸収はほとんど見られないはずが、WISEA 1810は深い水の吸収スペクトルが検出されていること

ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡での中間赤外線におけるメタンやその他物質の分子線の観測や、その他の提案中のesdT型天体の観測が、こうした天体がT型褐色矮星に分類できるかを解決する可能性がある。 もしこうした天体がT型褐色矮星に分類できないのなら、新たなスペクトル型を定義することになる。 Jun-Yan Zhangらはこうした事態に備えてH型、あるいはZ型褐色矮星という分類名を提唱している。 新たなesdT(あるいはH/Z型褐色矮星)は今後の欧州宇宙機関(ESA)のユークリッド宇宙望遠鏡NSFヴェラ・C・ルービン天文台での将来の観測からさらに数多く発見される可能性がある[6]

なおJun-Yan Zhangらは以前の検討から2年後の2025年にさらに高精度の観測機器によって地上観測からメタンの検出に成功したことを報告し、WISEA 1810-1010をT型褐色矮星に分類できるとしている[3]

関連項目

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脚注

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注釈

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  1. ^ a b パーセクは1 ÷ 年周視差(秒)より計算、光年は1÷年周視差(秒)×3.2615638より計算

出典

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  1. ^ a b c d e WISE J181006.21-101000.3 -- Brown Dwarf”. 2025年12月29日閲覧。
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m n Lodieu, N.; Zapatero Osorio, M. R.; Martín, E. L.; Rebolo López, R.; Gauza, B. (2022-07-01). “Physical properties and trigonometric distance of the peculiar dwarf WISE J181005.5−101002.3”. アストロノミー・アンド・アストロフィジックス 663: A84. arXiv:2206.13097. Bibcode2022A&A...663A..84L. doi:10.1051/0004-6361/202243516. ISSN 0004-6361. https://ui.adsabs.harvard.edu/abs/2022A&A...663A..84L. 
  3. ^ a b c d e f Jerry Jun-Yan Zhang; Lodieu, Nicolas; Martín, Eduardo L.; Tremblin, Pascal; María Rosa Zapatero Osorio; Béjar, Víctor J. S.; Vitas, Nikola; Gauza, Bartosz et al. (2025). “Detection of Methane in the Closest Extreme Metal-poor T Dwarf WISEA J181006.18-101000.5”. アストロフィジカルジャーナル 984 (1). arXiv:2503.22289. Bibcode2025ApJ...984L..35Z. doi:10.3847/2041-8213/adc91f. 
  4. ^ a b c d e f Schneider, Adam C.; Burgasser, Adam J.; Gerasimov, Roman; Marocco, Federico; Gagné, Jonathan; Goodman, Sam; Beaulieu, Paul; Pendrill, William et al. (2020-07-01). “WISEA J041451.67-585456.7 and WISEA J181006.18-101000.5: The First Extreme T-type Subdwarfs?”. アストロフィジカルジャーナル 898 (1): 77. arXiv:2007.03836. Bibcode2020ApJ...898...77S. doi:10.3847/1538-4357/ab9a40. ISSN 0004-637X. 
  5. ^ Burgasser, Adam J.; Schneider, Adam C.; Meisner, Aaron M.; Caselden, Dan; Hsu, Chih-Chun; Gerasimov, Roman; Aganze, Christian; Softich, Emma et al. (2 Nov 2024). “New Cold Subdwarf Discoveries from Backyard Worlds and a Metallicity Classification System for T Subdwarfs”. アストロフィジカルジャーナル 982 (2): 79. arXiv:2411.01378. Bibcode2025ApJ...982...79B. doi:10.3847/1538-4357/adb39f. 
  6. ^ a b Jun-Yan Zhang, Jerry; Lodieu, Nicolas; Martín, Eduardo (2023-08). “Optical properties of metal-poor T dwarf candidates”. アストロノミー・アンド・アストロフィジックス 678: 12. arXiv:2308.10617. Bibcode2023A&A...678A.105Z. doi:10.1051/0004-6361/202346923.