TRONプロジェクト

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TRONプロジェクト(トロンプロジェクト)は、坂村健による、リアルタイムOS仕様の策定を中心としたコンピュータ・アーキテクチャ構築プロジェクトである。プロジェクトの目指す最終的到着点のグランドイメージとして「どこでもコンピュータ」ことHFDS[1]を掲げている[2]1984年6月開始[3]

概要[編集]

プロジェクトの中心と言える団体は、現在は「トロンフォーラム」[4](2015年4月1日にT-Engine フォーラムから名称変更)である。以前は社団法人トロン協会によって運営されていた(2010年1月15日付けで解散)。現在は組込みシステム関連企業などが主として参加している[5]RTOS等の、完成した仕様については一般に無償で公開されており、仕様の使用についてはライセンスフィーを要求されず、実装・商品化は誰でも自由に行える。仕様書やT-License(現在のバージョンは2.0)で配布しているソースコードの著作権者は同フォーラムあるいは坂村健となっている。

TRONは、the real-time operating system nucleus頭字語である。組込み分野やパーソナルコンピュータGUIなど、リアルタイム性が必要な応用を重視していることによる。プロジェクト発足直後にあたる時期の坂村の著書『電脳都市』の映画「トロン」の章の注によれば、よく映画から採ったのか、と聞かれるのだが「そうでもないし、そうでもある、というところで実のところ全く関係ない。でも、このプロジェクトを始める前に映画を見た記憶はある。TRONThe… の略である。」と[6]なんとも曖昧なことを書いている。

当初は、リアルタイムカーネルのITRONと、より大きなシステム(BTRON、後にCTRONも加わる)、及びハードウェアのアーキテクチャ(チップ)、それらを統合するシステム(MTRON)[7]といったロードマップを示していたが、1987年の The Objectives of the TRON Project[8]において、HFDS(Highly Functionally Distributed System、超機能分散システム)として、未来の地球人類社会では、日常生活のあらゆる部分(電球1個、壁パネル1枚)にまでマイコンが入り込み何らかの形で人間と関わりを持つようになると予想し、それらのコンピュータをそれぞれの機器別にバラバラに扱うのではなく、標準によってうまく連携させるのだというヴィジョンが提示され、TRONはその実現に向け準備するプロジェクトだ、と規定された。

サブプロジェクト[編集]

次のようなプロジェクトがある(あった)。

  • MTRON - 超機能分散システム(HFDS)全体を対象とするようなOS(の構想)。
  • ITRONμITRON)- 組込みシステム向け(を重視した)リアルタイムOS。デジタル家電で広く使用されている他、日本ではフィーチャー・フォンにおいても広く使われていた。μITRONは、元々はITRONのバージョン2が組込み向けとしては少々大きくなったこともあり、ワンチップマイコンのROMに内蔵するなどごく小規模な実装のためのサブセットだったが、そちらのほうが主流となったことから一本化し、μITRON3.0以降はITRON全体の新バージョンとして、ほぼ全機能を持っている。
  • BTRON - Business TRON の略。パーソナルコンピューター向けのOS。小学校の教育用パソコンへの導入が決まりかけていたが、1989年に日米ハイテク摩擦を背景とした米国からの圧力(スーパー301条の対象として挙げられた)があったりなどした結果(経緯の詳細はBTRON#通商問題を参照)、小学校への導入は当初の予定どおりには実現しなかった(相当機種が「PanaCAL ET」として発売自体はされたので、それを選択して導入した学校は存在する)。
  • CTRON - NTTの電話交換機用として設計されたOS。
  • JTRON - μITRONのタスクと Java仮想マシンのインタフェースを定めた規格。
  • eTRON - ICカード、特に非接触のものの通信や、認証などのセキュリティなどの規格。
  • T-Engine - 組込みシステムの開発時[9]の使用を主として想定した、統一標準化プラットフォーム。規格化されたハードウェアの他、OS(T-Kernel)や標準ミドルウェアなども合わせて提供し、ワンストップサービスの実現を目指していた。
  • TRONCHIP - マイクロプロセッサ富士通三菱日立(GMICROグループ)によるGMICROシリーズなどが開発・設計・製造された。
  • トロンヒューマンインタフェース仕様(略称: トロンHMI仕様、トロン作法とも[10])『トロンヒューマンインタフェース標準ハンドブック』[11]として市販されている。(TRON HMIガイドライン、という名前での言及も見られる)以上のようなTRONプロジェクト全体からの参照に限られず、従来の機械スイッチ類等についての検討なども含まれている、人間と機械類等との幅広いインタフェースの設計(デザイン)の指針である。IEC TR 61997[12]

シンボル[編集]

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TRON-symbol.jpg

1989年のデザイン[13]。「TRON 2-D77C.gif」(大漢和 5-13536、GT 17106、U+23091「𣂑」)をモチーフとしたもの。「斗」の古字で「」の意があり、升=計器=規格に通じる、といった考えがある。中央の「十」の部分がTRONの頭文字「t」を模してもいる。

また、この字を使い、TRONを漢字で「TRON 2-D77C.gif論」と当て字したりもする。中国で篆刻してもらおうとしたところ、この字は国字であるために中国でも通用する「斗」にされてしまい、さらに篆書体のために、まるで「毛」という字のような、当初の意図とは全くかけ離れたものが出来上がってしまった、というエピソードがある[14]

Unicode批判[編集]

Unicode、特にCJK統合漢字のために行われた Han unification英語版を、漢字文化圏の文化を破壊するものとして、強く批判した。主要な主張は日本電子工業振興協会発行の『未来の文字コード体系に私達は不安をもっています』(全国書誌番号:20985671)にある(このパンフレットは1993年に発行されており、坂村らの以後の主張が指す「Unicode」は、当時の規格である、Unicode 1.1 と、Unicode との共通性を強く指向したISO/IEC 10646-1:1993を基としている)。

TRONキーボード[編集]

TRONプロジェクトでは、コンピュータ用として新しくデザインし直されたキーボードも製作した。放射状の配列を採用した「TRONキーボード」と、ノートPC等での使用を考慮し、矩形内に配列した「μTRONキーボード」がある。

プロジェクトの当初の時期に設計・試作(一部製品化)されたキーボードは、英字系がDvorak配列ベース、日本語系がプロジェクトでの調査にもとづく独自配列(物理形状としてはM式等に類似、日本語入力方式はシフトによりひとつのキーに割り当てられた複数のかなを切り替えるという点は親指シフトに類似している)というものであった。

掌に合わせた物理形状であることから、掌の大きさに合わせないと使い辛くなることが予想でき、それに対応するためS・M・Lの複数サイズを最終的には用意することとしていた[15]が、沖による試作品やTK1などでMサイズ以外のものは作られなかった(後述する現在製造市販されているμTRONキーボードは、左右セパレート型にすることである程度のポジションの違いに対応している)。

μTRONキーボード」として現在生産・市販されているものは、QWERTYJISかな配列になっており、TRON本来の配列は添付の厚紙製トレーナーと、ドライバソフトウェアによるサポートとなっている。「TRON配列モード」に切り替えるとUSBから一瞬論理的に切り離され、USBプロダクト IDが変化して再接続する。

日米ハイテク摩擦[編集]

1980~90年代に激しく火花を散らした日米ハイテク摩擦(他にスパコン(日米スパコン貿易摩擦)、FSX(F-2 (航空機)#開発経緯)、人工衛星(日米衛星調達合意)等)のひとつとして、BTRONの通商問題が挙げられることがある。

参考文献[編集]

脚注[編集]

  1. ^ : highly functional distributed system、超機能分散システム、1990年代以降はユビキタスコンピューティングとも。
  2. ^ 坂村健「TRONの目指すもの」、『TRONプロジェクト'87-'88』pp. 3~19
  3. ^ 坂村健『TRONを創る』p. 2
  4. ^ http://www.tron.org/ja/
  5. ^ T-Engineフォーラム 会員リスト
  6. ^ 『電脳都市』岩波版(ハードカバー版)p. 290
  7. ^ 先頭のアルファベットを並べると「IBM」ではないか、という冗談があった。CTRONが加わり「ICBM」と、より物騒になった、というオチが付く。
  8. ^ The Objectives of the TRON Project doi:10.1007/978-4-431-68069-7_1
  9. ^ 価格などの点で、直接の製品への組込みは(当初は)あまり想定されていなかった。
  10. ^ 『トロンヒューマンインタフェース標準ハンドブック』、はじめに(p. XIV)
  11. ^ http://www.personal-media.co.jp/book/tron/141.html
  12. ^ https://webstore.iec.ch/publication/6269
  13. ^ 『TRON DESIGN』p. 4
  14. ^ 『TRONWARE』Vol. 36 p. 7
  15. ^ TRONを創る』p. 171

関連項目[編集]

外部リンク[編集]