T1ラグビー
T1ラグビー(ティーワンラグビー、T1 Rugby)は、2023年にワールドラグビーが開発した、ノンコンタクト(非接触)でプレーするラグビーである[1]。後述のように、相手の身体に軽く触れる程度の接触はある。
概要
[編集]T1ラグビーは、ラインアウト・スクラム・キック・ブレイクダウンといったラグビー本来の魅力を残しつつ、年齢、性別や経験を問わず、誰でも簡単にプレーできるシンプルなスタイルを特長とする[2]。タッチラグビーやタグラグビーよりも、プレーの種類が多い。
防御側はタックルのかわりに、腰の左右につけたタグを奪うことや、相手の肩または肩より下にタッチすることで、ブレイクダウンとして一時的にプレーが止められる。スクラムでは3人ずつが相手の肩に触れるだけで、つかんではいけない。ラインアウトで争奪はできるが、サポートリフトはできない[3]。
原則として、1チーム7人、最大10分ハーフ、フィールドの広さは成人15人制の半分以下となる。日本ラグビーフットボール協会は「みんなにやさしいラグビー」だとしている[2]。未経験者、ラグビー初心者、長く競技から離れていた人など、あらゆる能力や体力レベルに対応しており、男女混合チームでもプレー可能だが[2]、対戦する両チームのレベルを適度に合わせる必要はある。
普及
[編集]2023年から、開発したワールドラグビーのほか[1]、イングランドラグビー協会[4]、ニュージーランドラグビー協会[5]、アイルランドラグビー協会[6]などが、WEBサイトや各協会イベント、ラグビークラブで普及活動を始めた。
日本ラグビーフットボール協会は、2025年に特設ページを開設した[7]。同年7月には、T1ラグビーの情報動画をYouTube『みんなでラグビー』チャンネルで公開[8]。8月には、現役高校生を対象とした育成プログラム「ラグビー・エンパワメント・プロジェクト(REP)」の合宿で、T1ラグビーも扱った。11月1日には体験イベント「T1 Rugby Challenge in TATSUMI」を辰巳の森ラグビー練習場(東京都江東区)で開催する[9]。
競技規則
[編集]2025年10月1日現在。日本語版出典:[3]、英語版出典:[10]
- 本ゲームはラグビー憲章に掲げられたバリューである、品位、情熱、結束、規律、尊重を遵守する。
- 本ゲームは誰でも制限なく参加できるものであり、参加者同士の尊重と善意が不可欠な要素である。
- 攻撃側チームは、相手側のトライライン上、または、それを越えてボールを置きトライを取ることをめざす。
- 本ゲームには「タグ」と「タッチ(片手可)」の2種類があり、どちらにも共通する要素でプレーされる (ただし、タグの用具を除く)。
- 攻撃側チームは、7フェーズ以内に得点を狙う。7回目のタグ/タッチで相手側チームにボールが渡る。
- 防御側チームは、ボールキャリアーの肩または肩より下にタッチタックルを行うか、ボールキャリアーが着用している ベルトからタグを取ることによって、攻撃側チームの得点を阻止しようとする。
- ルール、プレーヤーの人数、フィールドのサイズは、参加者のニーズに応じて柔軟に調整することができる。
一般ルール
[編集]- チームは最大7名のプレーヤーで構成され、性別や年齢を混合することができる。ただし、混合させる場合は事前に 合意が必要である。試合中、両チームの人数は同じでなければならない。ただし、スペースに余裕がある、 または、制約がある場合は、人数を適宜調整することができる。
- 各チームは最大5名の交替プレーヤーを持つことができ、自由に交替を繰り返すことができる。
- 試合は(競技時間)最大10分間の2つのピリオドで構成される。ただし、事前に合意が必要である。
- 相手側のトライライン上、または、それを越えてボールを置きトライを取ることをめざす。
- これは「トライ」と呼ばれ、1点が与えられる。他の得点方法はない。
- T1ラグビーにおいて、攻撃側チームは7フェーズ以内に得点を狙う。フェーズとは、タグまたはタッチ間のプレーの流れを指す(補足として、トライが得点されなかった場合、7回目のタッチ/タグで相手側チームにボールが渡る)。
- 防御側チームは、ボールキャリアーに片手で肩もしくは肩より下にタッチタックルを繰り返し行うか、ボールキャリアーが腰につけているタグを取ることによって攻撃側チームの得点を阻止することをめざす。
キック
[編集]- 試合はピッチの中央地点からのドロップキックで開始される。
注意:異なる蹴り方(パントキック、グラバーキック、プレースキック)でボールを蹴っても、罰は科されない 。
- キックオフ/プレー再開のキックは、キックを行わなかったチームが自陣の任意の場所でボールを受け取らなければならない。キック側のチームは、キックをしていないチームがボールをキャッチ、または、拾えるようにしなければならず、ボールを争奪したり、または、自分達で保持することはできない。
- ボールを受け取るプレーヤーは、地上に倒れずにボールを回収しようとしなければならい。
- トライ後、得点したチームがハーフウェイラインからドロップキックでプレーを再開する(ボールが異なる蹴り方でボールを蹴っても、罰は科されない)。
- プレー再開のキックがタッチラインやデッドボールラインを越え、相手チームによってプレーされなかった場合、キックしなかったチームは以下の選択肢を持つ:キックのやり直し、または、ハーフウェイラインでのスクラム(自チーム投入)。
- 試合中、プレーヤーはどのタイミングでも手から離したボールを蹴ることができる。
- オープンプレーでキックされたボールを争奪する際は、相手側チームとの接触に細心の注意を払う必要がある。 チェイス、ルーズボールの回収、または、空中でのボール争奪において接触があってはならない。争奪が起きそうな場合、 レフリーはどちらのチームがボールを保持すべきかを指示する。
- プレー再開のキックを除き、ボールがタッチライン外に蹴り出された場合、ボールが出た地点でラインアウトにてプレーが再開される。相手側チームが投入を行う。
- キックオフやプレー再開のキックを除き、いかなるキックでもボールがデッドボールラインを越えた場合、トライラインから15mの地点で相手側チームへのタップ&パスによってプレーが再開される。
ブレイクダウン
[編集]- タグ/タッチがされた時点で5人のプレーヤーによってブレイクダウンを形成する。
- 攻撃側:ボールキャリアーと味方プレーヤー1人。
- 防御側:タグ/タッチを行ったプレーヤーと、もう2人のディフェンダーがタグ/タッチを行ったプレーヤーの肩に外側の 手を置いて三角形を形成する。
- ブレイクダウンに参加するプレーヤーは、5秒以内に味方プレーヤーのみに接触しなければならない。
- ボールキャリアーは自陣に向かい、味方プレーヤー(リッパー)にボールを差し出す。
- リッパーは、パスやキックを行うことができるが、トライをすることができない。
- リッパーはパスをする前に最大3歩進むことができるが、それ以上進むことはできない。
- リッパーはボールをパスする前に、防御側によってタグ/タッチされたりしてはならない。
- ブレイクダウンに参加していないプレーヤーは、オフサイドラインの後方に移動しなければならない。
- 防御側の3人が位置に着く前に、攻撃側がプレーをすることを選択した場合、防御側に罰は科されない。
- 防御側が防御側の三角形を形成するためにブレイクダウンに向かおうとしない場合は、罰が科され、7回のカウントがリセットされプレー再開となる。
スクラム
[編集]スクラムは、ノックフォワード、スローフォワード、または、その他の必要な試合の中断時に与えらえる。
- プレーが止まった地点の最も近くにいた3人のプレーヤーで構成される3対3の制限付きスクラムでプレー再開となる。
- ボールを投入するチームはボールを保持し続けなければならない。相手チームはエンゲージ、プッシュ、ヒットをしては ならず、ボールの積極的な奪取も行ってはならない。
- 各チームの3人のプレーヤーは、互いに近くに並び、相手チームと向かい合う。その後、プロップは、相手の肩に軽く触れるが、掴むことはできない。
- 各チームにはスクラムハーフが1人いる。防御側のスクラムハーフは、味方チームの3人の真後ろに立つ。 攻撃側のスクラムハーフはボールをスクラムへ投入する。
- スクラムハーフは、ボールをスクラムの中に置く/転がして投入し、中央のプレーヤーは足を使ってボールを脚の間から 後方へかき出す/プレーしなければならない。
- スクラムは、スクラムハーフがボールをスクラム外へプレーした時点で終了する。スクラムハーフは、ボールをパスするか、 キックすることができる。
- スクラムハーフは、パス、または、キックをする前に最大3歩進むことができるが、それ以上進むことはできない。
- スクラムハーフは、このプレー中、スクラムに参加しているプレーヤーからタグを取られたり、タッチされてはならない(プレーオン ‒ ペナルティはなし)。
ラインアウト
[編集]ボールが競技区域のサイドから外へ出た場合、ボールを取ったり、キックしたり、プレーをしなかったりしたチームが争奪のないラインアウトでプレーを再開する。
- 3対3でラインアウトのフォーメーションを形成し、最前列のプレーヤーはタッチラインから約5m離れた位置に立つ。
- 防御側には、味方プレーヤー3人の後方に位置する「スクラムハーフ」がいなければならない。
- 他のプレーヤーは、ラインオブタッチから5m後方に位置しなければならない。
- いかなるリフティング、サポーティング、または争奪も行ってはならない。
- ボールは、タッチラインから任意のパス方法でラインアウトの中央へ投げ込れなければならない。まっすぐに投げることが求められるが、そうでなくても罰は科されない。
- ボールをキャッチしたプレーヤーは、5m後方にいる味方プレーヤー、または、ボールを投げ入れた後にスクラムハーフの ポジションへ移動したプレーヤーへパスしなければならない。
- ラインアウトは、ラインアウトキャッチャーの手からボールが離れた時に終了し、7回のタグ/タッチの攻撃が開始する。
- キャッチャーは、ボールを保持している間、タグやタッチをされることはない。
ペナルティ
[編集]ペナルティは、競技規則に反するすべての反則(ハイタックル、攻撃的な接触、不正なプレーまたは危険なプレー、スポーツマン シップに欠ける行為、ブレイクダウン時に必要な人数を参加させない、ブレイクダウン/スクラム/ラインアウトにおいて相手プレーヤーを掴んで離さない行為)に対して与えられる。ペナルティが与えられた場合、プレーは「タップ&パス」でプレーが再開される。
- ボールは、はっきりと動かさなければならず、単に足にタップするだけではいけない。
- プレー再開後、違反のなかったチームのカウントはリセットされ、新たに7回のプレーを行うことができる。
- ペナルティが与えられたチームは、ただちに自陣のゴールラインの方向へ5m、または、5mの距離がない場合は自陣の トライラインまで、後退しなくてはならない。
タッチ
[編集]- 高い位置でのタッチ、または、過度に攻撃的なタッチに対して、ペナルティが与えられることがある。
タグ
[編集]- タグが取られたプレーヤーに速やかにタグが返されなかった場合、ペナルティが与えられる。
- タグではなく、プレーヤーが触れられたり/掴まれたりした場合、ペナルティが与えられる。
- タグが正しく着用されていない場合(腰の片側だけタグが付いている、またはプレーヤーのシャツ/ビブス/ベストに隠れ ている場合)、ペナルティが与えられる。
- ボールキャリアーがボールを使って自分のタグを隠したり、防御側がタグを取るのを妨げた場合、ペナルティが与えられる。
7フェーズ目(タッチまたはタグ)の終了
[編集]- 7フェーズ以内にトライが得点されなかった場合、7回目のタグ/タッチが行われた地点からプレー再開となり、相手チーム にボールが渡る。相手チームはタップ&パスでプレーを再開する。
- 相手チームは、プレーが再開される前に5m後退しなければならない 。
- 攻撃側チームが、防御側のプレーヤーが5m後退する前にボールをプレーすることを選択した場合、防御側チームに対して罰は科されない。ただし、ボールがすばやくプレーされた際に防御側が後退していた場合、ボールキャリアーはタグ、または、タッチされることがある。
柔軟なルール(ゲームオン)
[編集]- 以下の要素は、両チーム合意のもとで適応または柔軟に変更することができる。
- フィールドのサイズは必要に応じて調整することができる。
- プレーヤーの人数、年齢・性別の特定の組み合わせを変更することができる。
- 6対6から10対10までの試合形式を設定できる。
- オープンプレー中のキックは、両チームの合意により取り入れないことができる。
- 試合時間は、両チームの合意に基づき、(プレーヤーの人数に応じて)短縮または延長することができる。
- 争奪ができるエリア:ブレイクダウンおよびラインアウト。
- ラインアウト ‒ 争奪は許されるが、サポートリフトは禁止。ボールは肩の高さより上、ラインアウトの中央に投げ入れられ なければならない。2人のプレーヤーがジャンプし、ボールを争奪する(同じ位置に着地しなければならない)。
- ブレイクダウンエリア ‒ 攻撃側がボールをパスする前に、防御側が3人目の選手を適切な位置に入れることでターンオーバーを獲得する。
出典
[編集]- ^ a b worldrugby.org. “T1 Rugby was created with the help of many member unions”. www.world.rugby. 2025年10月1日閲覧。
- ^ a b c “T1ラグビー”. ラグビーファミリーガイド. 2025年10月1日閲覧。
- ^ a b “T1 RUGBY 競技規則”. 日本ラグビーフットボール協会. 2025年10月1日閲覧。
- ^ “Delivering T1 Rugby | Rugby Football Union” (英語). www.englandrugby.com. 2025年10月1日閲覧。
- ^ “T1 Rugby”. ニュージーランドラグビー. 2025年10月1日閲覧。
- ^ “Irish Rugby | T1 Rugby” (英語). 2025年10月1日閲覧。
- ^ “T1ラグビー”. ラグビーファミリーガイド. 2025年10月1日閲覧。
- ^ みんなでラグビーTV (2025-07-22), 誰もが楽しめるノンコンタクトラグビー「T1ラグビー」 2025年10月1日閲覧。
- ^ JRFU. “「T1 Rugby Challenge in TATSUMI」 開催のお知らせ|日本ラグビーフットボール協会”. www.rugby-japan.jp. 2025年10月1日閲覧。
- ^ “T1 RUGBY Rules of the Game”. World Rugby. 2025年10月1日閲覧。
関連項目
[編集]外部リンク
[編集]- T1ラグビー - 日本ラグビーフットボール協会
- 【動画】誰もが楽しめるノンコンタクトラグビー「T1ラグビー」 - 日本ラグビーフットボール協会YouTubeチャンネル「みんなでラグビーTV」
- 【動画】T1ラグビーの審判 - ワールドラグビーによる、プレーおよびレフリーに関する解説(英語)
- T1 Rugby - ワールドラグビー(英語)
- Delivering T1 Rugby - イングランドラグビー協会(英語)
- T1 Rugby - ニュージーランドラグビー協会(英語)
- T1 Rugby - アイルランドラグビー協会(英語)