MULTI 16シリーズ

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MULTI 16シリーズ(まるち 16しりーず)は日本の三菱電機が開発及び販売を行った、パーソナルコンピュータの製品群。

製品展開[編集]

初代機は1981年[1]末に発表され、1982年1月より営業活動を開始[2]、同年4月より出荷が開始された[3]

CPUIntel 8088を採用。画面解像度は640×400ドットと当時としては高解像度のビットマップグラフィック画面を備えていた。BASIC ROMは内蔵せず、DOSCP/M-86またはMS-DOS)の使用を前提とした。テキストの表示はフロッピーディスクからフォントを読み込んでグラフィックとして画面に描画するという、後のDOS/Vに通じる仕組みを採用していた。また、日本語文字コードのシフトJISはこの機種のOSのために三菱電機の提案で制定された[4]

三菱にとってはこれが同社初のパソコンであった。NEC富士通といった大手コンピューターメーカーが先行して8ビットパソコンや16ビットパソコンを投入して市場の動向を見守る中、三菱は始めから16ビットパソコンで勝負に出たことが登場時に話題になった[3]。名称の「マルチ」には「何にでも使える」という意味が込められていた[4]

シリーズとしては8086-2搭載で完全に16ビットアーキテクチャ化されたMULTI 16 II、その後継で本体に5インチ2HDフロッピーディスクドライブが内蔵されたMULTI 16 III、Intel 80286を搭載し輸出向けPC/AT互換機との設計共通化が進んだMULTI 16 IV、と続き、それぞれMULTI 16 II・IIIの筐体に初代機と同等の機能を備えた廉価版のMULTI 16 カスタム・MULTI 16 Sも販売されたが、1987年発売開始のAX規格準拠パソコンMAXYと交代する形でシリーズ終了となった。

本シリーズはデスクトップモデルのみの展開であり、ラップトップモデル(後継機種であるMAXYでは提供された)やノートブックモデルといった可搬モデルは存在しない。

なお、MAXY発表直前に発表された三菱電機製PC/AT互換機であるM3300シリーズでは、変換アダプタの併用により、一部の本シリーズ用拡張カード[* 1]のサポートが謳われていた。また、このM3300シリーズでは専用OSである拡張日本語コンカレントCP/M-86上でのMULTI 16用アプリケーション動作互換性確保を目的として、専用グラフィックコントローラに16ドット表示モード[* 2]が搭載され、同時発表の14インチカラーCRT (M6310)と14インチモノクロCRT (M6311)にはこのモードでの表示をサポートするため、マルチスキャン機能が搭載されていた[5]

評価[編集]

本シリーズは当初、パーソナルユースからビジネスユースまで幅広い展開を期してソフトウェアや周辺機器を含めた製品展開[* 3]が行われた。だが、ROM BASICを搭載せずフロッピーディスク上でのOS[* 4]使用を前提とする[* 5]など、その後のパソコンの発達史からすれば正攻法のシステム構成は、当時の市場においてはあまりに重装備かつ高価[* 6]であったことから、当初の手厚いソフトウェアサポートにもかかわらず、幅広く受け入れられるには至らなかった。

しかも、ビジネスとしては後発のNEC PC-9800シリーズが内部バスの完全な16ビットアークテクチャ化やグラフィック表示機能の高速化[* 7]といった本シリーズの弱点を補うアーキテクチャを備えて発表され、BASICマシンとしては先行するPC-8801シリーズとの一定の互換性を有し、周辺機器についてもPC-8801用のものの大半が流用可能で、なおかつ本体も充分に廉価な価格設定であった。この結果、性能と価格、それにソフトウェア・ハードウェア資産の継承の3点でPC-9800シリーズに劣った本シリーズは一般市場向けパソコンとしては事実上の失敗に終わり、以後は三菱グループの各社で使用される程度にとどまった。

仕様[編集]

MULTI 16(MP-1601,1602,1605)[6]

  • CPU:Intel 8088 4.44MHz
  • FPUIntel 8087(オプション)
  • メモリ
  • 画面解像度
    • テキスト:40文字×20行、40文字×25行、80文字×20行、80文字×25行
    • グラフィック:640×400ドット
  • 画面表示色
    • MP-1601,1602:モノクロ
    • MP-1605:カラー(8色、ドット単位で色指定可能)
  • 補助記憶装置
    • 5.25インチ2D FDD(両面倍密度:320KB)
      • MP-1601:1台標準装備
      • MP-1602,1605:2台標準装備
    • 8インチ2D FDD(両面倍密度:1MB)(オプション)
    • 5.25インチ FXD(10MB)(オプション)
  • キーボード:JIS配列準拠、一体型
  • オプションI/Oスロット(計5スロット)
    • MP-1601,1602:4スロット使用可能(1スロットをFDDインターフェイスカードで占有)
    • MP-1605:3スロット使用可能(2スロットをFDDインターフェイスカードとメモリーカードで占有)
  • インターフェイスカード:GP-IBRS-232Cジョイスティックプリンタープロッター (オプション)
  • OS:CP/M-86
  • サポート言語:BASIC(M-BASIC)、COBOL(CIS-COBOL)、FORTRAN(FORTRAN-77)

MULTI 16-II(MP-1642,1645)[7]

  • CPU:Intel 8086 7.4MHz
  • FPU:Intel 8087(オプション)
  • メモリ
    • メインRAM:256KB
    • VRAM
      • MP-1642:64KB
      • MP-1645:192KB
    • システムROM:16KB
    • JIS第1水準漢字ROM:128KB
    • JIS第2水準漢字ROM:128KB(オプション)
  • 画面解像度
    • テキスト:40文字×20行、40文字×25行、80文字×20行、80文字×25行
    • グラフィック:640×400ドット 2画面、640×450ドット 1画面
  • 画面表示色
    • MP-1642:モノクロ
    • MP-1645:カラー(8色、ドット単位で色指定可能)
  • 補助記憶装置
    • 5.25インチ2HD FDD(両面高密度:1MB)または 8インチ2D FDD(両面倍密度:1MB)
    • 5.25インチ FXD(オプション)
  • キーボード:JIS配列準拠、分離型
  • 内蔵インターフェイス:FDD、RS-232C、プリンター、拡張用インターフェイス(5.25インチハードディスクユニット接続用)
  • OS:CP/M-86、MS-DOSコンカレントCP/M

脚注[編集]

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注釈[編集]

  1. ^ シリアルポート、セントロニクス準拠プリンタポート、GPIBの3種。
  2. ^ 解像度は640×450ドット。なお、M3300シリーズはPC/AT互換機がベースであるが、グラフィックコントローラは専用設計の独自規格のものを搭載(ただし、EGA相当のアダプタも搭載可能で、この場合は対応キーボード(M6900-2・M6901-2・M6905の3種)が接続されていれば一般的なPC/AT互換機用MS-DOSも動作可能である)していた。このためVRAMとしてテキストVRAMを32KB×4、グラフィックVRAMとして1MB(モノクロモデル)あるいは2MB(カラーモデル)を搭載しており、画面解像度は24×24ドットの文字(全角)による1,120×756ドット表示が基本となっていた。
  3. ^ その過程では、VisiCalcに相当する表計算ソフトの開発がマイクロソフトに依頼され、Microsoft Multiplan(その開発経緯から、製品名の「Multi」は本シリーズに由来する)が提供されるなど、ここでもいくつかの重要な成果が得られている、
  4. ^ 当初はデジタル・リサーチ社のシングルタスクOSであるCP/M-86が日本語化の上で提供され、後継機種ではこれをマルチタスク対応としたコンカレントCP/M-86やマイクロソフト社のMS-DOSも提供された。ただし、初代機についてはスタンドアロンM-BASICとしてフロッピーディスクから直接起動し、ディスクフォーマットがCP/M-86と互換で機能的にCP/M-86用M-BASICのサブセットとなるディスクBASICが添付されていた。
  5. ^ BASICはCP/M-86上のアプリケーションとしてマイクロソフト製M-BASICが標準でバンドルされていた。なお、このCP/M-86版のM-BASIC上ではOSの日本語入力機能により、日本語文字コードを文字列データとして使用することも可能であった。
  6. ^ 初代機では8色表示のカラーディスプレイモデルとモノクロ表示のグリーンディスプレイモデルが提供されたが、5インチ2Dフロッピーディスクドライブ2基を搭載しメインメモリ160KB(公称は256KBだがVRAMとして96KBのメモリ領域を消費するため、ユーザーメモリはその分差し引かれる)搭載のカラーディスプレイモデル(MP-1605)の定価が123万円、5インチ2Dフロッピーディスクドライブ1基搭載でメインメモリを96KB(公称は128KBだが、ユーザーメモリとしてはカラーモデルと同様の理由でVRAMに用いる32KBを差し引いた値となる)搭載するシリーズ最下位のグリーンディスプレイモデル(MP-1601)でさえ定価73万円、と当時は非常に高価であったフロッピーディスクドライブを標準搭載したためもあって、発表当時の市場における一般的なパソコンの定価と比較しても高価に過ぎた。ただし、初代機の段階でメインメモリは64KB(MP-64ZM)あるいは128KB(MP-128ZM)単位で汎用拡張スロットにメモリボードを搭載することで最大576KB(VRAMを含む。つまり、ユーザーエリアは最大480KBとなる)まで実装可能であった。なお、標準で8インチフロッピーディスクドライブを内蔵するモデル(MP-1622・1625)も存在し、専用DMAコントローラ搭載の専用FDインターフェイスカードは公称容量10MB、フォーマット時容量9MBの外付ハードディスクユニットの接続にも対応していた。
  7. ^ MULTI 16は640×400ドットあるいは640×450ドット(MULTI 16 II以降の8086-2/80286搭載機種のみサポート)の解像度のビットマップグラフィック画面を1画面備え、汎用ICなどを組み合わせたディスクリート回路によって描画を行い、更にここにテキスト表示も行う。つまり、後年のDOS/Vと同様に文字表示に際しては8×16あるいは16×16ドットのキャラクタパターンデータを順次VRAM上に転送する必要がある。このため、専用のグラフィックコントローラとテキストVRAMを備え、文字コードをテキストVRAMに書き込むだけで文字表示が行われるPC-9800シリーズと比較すると文字表示速度で大きく見劣りした。

出典[編集]

  1. ^ 佐々木 2013, p. 9.
  2. ^ 「ASCII EXPRESS:三菱電機、16bitCPUを搭載したパーソナルコンピュータ「MULTI16」を発表」、p.63。
  3. ^ a b 「16ビットパソコンの製品化相次ぐ―OA機器の主役に、輸出戦略商品狙う動きも。」『日本経済新聞』 1982年6月7日朝刊、7面。
  4. ^ a b 「歴史の陰の先人(3) シフトJIS(パソコン革命の旗手たち)」『日本経済新聞』 1999年8月18日夕刊、5面。
  5. ^ 『三菱マルチワークステーション M3300シリーズ』
  6. ^ 「三菱パーソナルコンピュータ《MULTI 16》」
  7. ^ 「三菱パーソナルコンピュータ《MULTI 16》モデルII」

参考文献[編集]

  • 『MULTI 16 オーナーズマニュアル』、三菱電機、1981年
  • 「三菱パーソナルコンピュータ《MULTI 16》」、『三菱電機技報 Vol.56 No.5』、三菱電機技報社、1982年、pp.46-50
  • 「三菱パーソナルコンピュータ《MULTI 16》モデルII」、『三菱電機技報 Vol.58 No.4』、三菱電機技報社、1984年、pp.62-66
  • 「ASCII EXPRESS:三菱電機、16bitCPUを搭載したパーソナルコンピュータ「MULTI16」を発表」、『ASCII』 1982年2月号、アスキー、pp.63-65
  • 「ASCII EXPRESS:オフィスオートメーションの新たな中核パーソナルコンピュータは複合OAマシン」、『ASCII』 1982年4月号、アスキー、p.73
  • ASCIIラボラトリーズ 「LOAD TEST No.27 三菱電機 Multi 16」、『ASCII』1982年12月号、アスキー、pp.185-200
  • 『三菱パーソナルコンピュータMULTI 16総合カタログ』(Z-C5549-C)、三菱電機、1985年5月
  • 『三菱マルチワークステーション M3300シリーズ』(Z-C9537-B)、三菱電機、1986年10月
  • 佐々木, 潤 (2013), 80年代マイコン大百科, 総合科学出版 

関連項目[編集]