HAKUTO-R ミッション1

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HAKUTO-R ミッション1
所属 ispace
主製造業者 ispace
公式ページ https://ispace-inc.com/jpn/m1
国際標識番号 2022-168A
カタログ番号 54696
状態 運用中
目的 月探査
観測対象
打上げ機 ファルコン9
打上げ日時 2022年12月11日2:38:13 (EST)
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HAKUTO-R ミッション1 (ハクトアール ミッションワン、M1) は、日本の航空宇宙企業ispace着陸機。同社の月探査プログラムHAKUTO-Rの最初のミッションに位置付けられている[1]。このミッションではispaceの月面ローバーは搭載されないものの[1][注 1]アラブ首長国連邦の政府宇宙機関MBRSCアラビア語版英語版が開発した月面ローバーラシッドを月面まで運ぶ[2]。着陸機の組み立てはドイツで行われた[3]。HAKUTO-R ミッション1はスペースXファルコン9ロケットによって2022年12月11日に打ち上がった[4]

概要[編集]

HAKUTO-R ミッション1はispace初の月着陸ミッション。このミッションには同社の月着陸機「シリーズ1」が使用される[5]。2021年よりドイツで機体の組み立てが開始された[6]。2022年12月11日にアメリカフロリダ州ケープカナベラル宇宙軍施設より打ち上がった[4]。なお相乗りでNASAの月探査機ルナー・フラッシュライトがM1と一緒に打ち上げられた。打ち上げから3、4ヶ月後にM1は月面に着陸する[7]。M1の管制は東京日本橋にあるispaceのミッションコントロールセンターより行われる。

搭載される貨物[編集]

以下の貨物がHAKUTO-R ミッション1の着陸機によって月面に運ばれる予定となっている[8][9]

固体電池
日本特殊陶業が開発した全固体電池。月面で実証実験を行う[10][11]
月面探査ローバーラシッド
MBRSCが開発した4輪の月面探査ローバー (月面車) 。
変形型月面ロボット
JAXAタカラトミーソニー同志社大学と共同で開発中のロボット[12]。着陸機内にはコンパクトに収納された状態で搭載され、月面到着後に走行用の形状に変形する[13]。JAXAが研究中の有人与圧ローバーの評価用に月面の画像データなどを取得する[14][15]
人工知能のフライトコンピューター
カナダのMission Control Space Services (MCSS)社が開発した機器[16]。Rashidが撮影した画像内の地形を認識する[17]
カメラ
カナダのCanadensys社の360度カメラ[18]
HAKUTOクラウドファンディングネームプレート
Google Lunar X Prizeに参加していたHAKUTOクラウドファンディングで募った出資者の名前が刻まれたプレート。当時HAKUTOが開発していた月面ローバー「SORATO」に搭載される予定だった[19]
HAKUTO応援歌サカナクション音源DISC・SORATO設計データ
サカナクションの楽曲「SORATO」を収録したM-DISC[9]

運用[編集]

HAKUTO-R ミッション1は2022年12月11日にアメリカのケープカナベラル宇宙軍施設から打ち上がり、リフトオフから47分後にロケットから分離した[4]。打ち上げから約5時間後、ispaceはM1との交信を確立したことを発表[20]。12月12日の時点では姿勢や電力、着陸機の基幹システムに問題はないことが発表された[21]。12月14日、ispaceは着陸機に搭載されたカメラが撮影した画像を初めて公開。ロケットから分離した19時間後にispaceのカメラが撮影した地球の画像と、顧客であるCanadensys社の360度カメラがロケット分離2分後に遠ざかるファルコン9ロケットの上段の様子を捉えた画像が公開された[22][18]。12月15日には打ち上げ後初めて推進系を稼働させ、予定していた軌道への投入に成功した[23]。12月16日、着陸機に搭載された貨物に問題がないことの確認が済んだ[24]

2023年1月2日には2週前の12月15日に続き2度目の軌道変換を実施[25]。1月12日、深宇宙での運用期間が1ヶ月に達した[26]。ミッション1はなるべく多くの貨物を搭載するため、遠回りだが燃料を節約できる弾道捕捉英語版という軌道を飛行している。打ち上げ後、着陸機は地球から遠ざかる方向へ飛行し、日本時間1月20日夜には地球からの距離が約140万kmに達した[27]。以後は地球と月の近くまで徐々に戻り、4月頃に月周回軌道へ投入される予定となっている。

月保険[編集]

HAKUTO-R ミッション1は三井住友海上火災保険の「月保険」に契約した最初の事例となっている。このサービスは三井住友海上火災保険がispaceと共同開発したもので[28]、M1の機体がロケットと分離してから、月面着陸後に地球との交信が確立されるまでの間に生じた損害が補償の対象となる[29]。一方着陸機に搭載された個別の貨物へ生じた損害には保険は適用されない[30]。宇宙特有の課題として、損害が発生した際それを目視等で直接確認するのが難しいため、月保険ではM1の着陸機から地球へ送られるデータを基に保険金給付の判定がなされる[28]。過去に政府機関の月探査機に保険が掛けられたことはあるものの、民間企業の月着陸機に保険が掛けられるのは世界初である[30]

脚注[編集]

出典[編集]

  1. ^ a b MISSIONS”. ispace. 2022年12月11日閲覧。
  2. ^ 大塚実 (2021年4月16日). “アラブ初の月面ローバーがispaceのランダーを選択、決め手は「技術力」”. マイナビニュース. 2022年1月3日閲覧。
  3. ^ 小川詩織 (2021年7月15日). “月着陸船の組み立て始まる 22年後半にも打ち上げへ”. 朝日新聞. 2022年1月9日閲覧。
  4. ^ a b c Japanese moon lander, NASA hitchhiker payload launched by SpaceX”. Spaceflight Now (2022年12月11日). 2022年12月11日閲覧。
  5. ^ Japanese company ispace delays its second private moon mission to 2024” (英語). Space.com. 2022年2月22日閲覧。
  6. ^ 大塚実 (2022年2月14日). “ispaceの月面着陸は2022年末に実施へ、運用のシミュレーション訓練も公開”. マイナビニュース. 2022年2月22日閲覧。
  7. ^ Japanese Company Joins March Back to the Moon in 2022” (英語). ニューヨーク・タイムズ (2022年1月25日). 2022年2月22日閲覧。
  8. ^ 民間月面探査機を最短で2022年11月に打ち上げへ”. ITmedia Japan (2022年8月10日). 2022年11月20日閲覧。
  9. ^ a b ispace、ミッション1の打ち上げ予定日を発表”. ispace (2022年11月17日). 2022年11月20日閲覧。
  10. ^ HAKUTO-Rのミッションで月に全固体電池を輸送 世界初となる月面での全固体電池の技術実証試験を実施予定 ~HAKUTO-Rのコーポレートパートナーとして参画~”. 日本特殊陶業 (2019年2月22日). 2022年1月9日閲覧。
  11. ^ 野澤哲生 (2021年5月10日). “日本特殊陶業が固体電池開発、2022年に月面で実証実験へ”. 日経BP. 2022年1月9日閲覧。
  12. ^ 有人与圧ローバの実現に向けた変形型月面ロボットによる月面データ取得の実施決定について”. JAXA (2021年5月27日). 2022年1月9日閲覧。
  13. ^ JAXAとタカラトミー開発の探査ロボットが月へ…8センチの超小型、車輪に「変形」も”. 読売新聞 (2021年5月27日). 2022年1月9日閲覧。
  14. ^ 小林行雄 (2021年5月27日). “JAXAがソニー等と変形型月面ロボットを共同開発へ、月面データの取得を計画”. マイナビニュース. 2022年1月9日閲覧。
  15. ^ 2022年の民間月面探査プログラムで小型ロボットを月面輸送へ”. ITmedia (2021年6月16日). 2022年1月9日閲覧。
  16. ^ 小林行雄 (2021年5月27日). “ispace、カナダMCSSと月へのペイロード輸送サービス契約を締結”. マイナビニュース. 2022年1月9日閲覧。
  17. ^ Mission Control is flying to the Moon!” (英語). Mission Control Space Services. 2022年1月9日閲覧。
  18. ^ a b First in-space image released from Canadensys Aerospace Lunar Imaging System”. Canadensys Aerospace Corporation (2022年12月14日). 2022年12月17日閲覧。
  19. ^ 世界初!民間の力で月へ。皆でHAKUTOの月面探査ローバーを打ち上げよう!”. A-Port 朝日新聞社. 2022年1月9日閲覧。
  20. ^ 小林行雄 (2022年12月11日). “ispaceがHAKUTO-Rミッション1ランダーとの通信を確立、姿勢・電力も安定を確認”. マイナビニュース. 2022年12月11日閲覧。
  21. ^ 民間初の月着陸へ 国内ベンチャー開発の月着陸船が打ち上げ成功”. ITmedia (2022年12月12日). 2022年12月12日閲覧。
  22. ^ ispace、宇宙空間においてランダーに搭載したカメラでの撮影、データ取得に成功”. ispace (2022年12月14日). 2022年12月15日閲覧。
  23. ^ 小林行雄 (2022年12月15日). “ispaceがHAKUTO-Rミッション1ランダーとの通信を確立、姿勢・電力も安定を確認”. マイナビニュース. 2022年12月15日閲覧。
  24. ^ ispace、ミッション1マイルストーンのSuccess3を完了” (2022年12月16日). 2022年12月18日閲覧。
  25. ^ ispace、ミッション1における2回目の軌道制御マヌーバを実施完了”. ispace (2023年1月11日). 2023年1月3日閲覧。
  26. ^ ispace、ミッション1マイルストーンのSuccess5を完了 深宇宙航行の安定運用を1か月間完了”. ispace (2023年1月11日). 2023年1月12日閲覧。
  27. ^ 民間月着陸船、地球から最遠到達 140万キロ先”. 共同通信 (2023年1月23日). 2023年1月28日閲覧。
  28. ^ a b 月への航行・着陸を補償する世界初「月保険」を ispace と開発”. 三井住友海上火災保険 (2022年10月7日). 2022年11月29日閲覧。
  29. ^ ispaceが月着陸船28日打ち上げ、加入した世界初「月保険」ってなに?”. 日刊工業新聞 Japan (2022年11月19日). 2022年11月29日閲覧。
  30. ^ a b Japan’s ispace negotiating first commercial moon landing insurance”. SpaceNews (2022年4月22日). 2022年11月29日閲覧。

注釈[編集]

  1. ^ 本ミッションの次に予定されているミッション2ではispaceの月面ローバーが搭載される予定となっている。

関連項目[編集]

外部リンク[編集]