ボーダーフリー

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
Fランク大学から転送)

ボーダーフリー和製英語:Border Free)とは、予備校河合塾が各大学が個別に実施する試験の難易度を全統模試の16区分偏差値帯(学力偏差値)による大学受験の難易予想ランキング表[注釈 1]で定められ、偏差値35 未満(下位6.68%未満)[1]大学の事を指す[2][3]。模擬試験受験生から志願者数が少ない定員割れや定員割れ予備軍の大学には、偏差値は付かなくなっていき、最終的に「ボーダーフリー」となる[4]

河合塾は合格者と不合格者の割合が50%ずつになる偏差値帯を算出して設定してきたが、この偏差値帯[注釈 2]を算出できない大学・学部が急増したことで作成された区分である[5]広義では、少子化と大学増加によって、大学志願者より大学側の定員の方が上回る「大学全入時代」以降に入学者の基礎学力が十分ではない大学を意味する[3][5]。上位大学卒業生と比較して、下位大学卒業生ほど大卒学歴が欲しいばかりに奨学金で無理をして入ったものの卒業後は返せない状態に陥るケースが多い。そのため、奨学金の延滞率が最も高くなっている層である[6]

概要[編集]

大学経営側に注目すると、Fラン大学の経営は特に貸与型奨学金に支えられているとの指摘がある[7][8]。大学ランクが下がるほど貸与型奨学金の滞納率が高くなっており、大卒学歴が欲しいために借金で無理をして入って卒業後に返せなくて人生が破綻する流れが多いという[9]。また、卒業後の就活においても学歴フィルターにも引っ掛る可能性が高いとされる[10][11]

1990年の大学進学率は24.6%であったが、2007年時点で大学進学率は47.2%と約2倍となっている[12]2009年時点で私立大の46.5%・短期大学の69.1%が定員割れとなっている[13]。ただし、定員割れは2014年の45.8%がピークであり[5]、2019年度は定員割れの大学が33.0%に低下し[5]、高等教育無償化法の認定校基準である「定員充足率80%未満が3年以上」という大学は122校(2014年)から51校(2019年)にまで減少している[5]2022年時点で定員割れで倒産した私立大学は15校のみである[14]2023年8月には定員割れの大学(未充足校)は前年比37校増の320校であり、日本国内の大学全体に占める割合は53.3%と、調査開始以降初の5割超えという過去最多を更新した[15]

派生語・類語[編集]

学生の就学動機や学力、学習観が多様化する中で、特に「受験さえすれば合格できる確率が高い大学、すなわち事実上の全入状態にある大学」はボーダーフリー大学(BF大学)と呼称される[16][17][18]。また「ボーダーフリー」から派生し、低偏差値大学への呼称としてFランク大学(Fランク、Fラン)という言葉が生まれた[7][19][17]インターネット上では、同年代学力平均を越えている偏差値帯の中堅大学を「Fランク大学」と呼ぶ場合があるが[20]、実態に即していない用法である[10][20][21]

大学生ホワイトカラー内定率悪化の背景はFラン大学生数が増えたからであり、中堅大学以上であれば、昔に比べても就職難易度は変わっていないと指摘されている[21][22]

海外の類似表現[編集]

海外にも類語が存在し、アメリカ合衆国イギリスでは無価値など見なされている講義や大学を「ミッキーマウス学位(英語:Mickey Mouse degrees)」がある。ミッキーマウスは英語俗語的な形容詞として、重要でない、取るに足りない、〔科目・講座などが〕単位の取りやすい、〔学校の宿題や課題〕簡単な、などの意味がある[23]

カナダでは、鳥コース(bird courses )が「ほとんど勉強や知的能力を必要としない」講義を指す[24]

韓国では、Fランと似たような表現に「地方にある雑多な大学」(韓国語지방소재의 잡다한 대학(地方所在의 雜多한 大學) 、略称として지잡대(地雜大)と呼ばれる[25]

中国では、もともと偽物の学歴を売る詐欺こと「ニセ大学」を表す言葉「野鶏大学」があって、語源は英語のディプロマミルから来ている。転じて「本物の大学だが、卒業しても意味がない大学」も「野鶏大学」を呼ぶ傾向が近年には増えている[26]。また、「楽単」や「何もしなくても単位を取れる授業」のことを「水課」と言い、「楽で卒業できる修士(硕士)、博士」は「水硕」「水博」と言うなど、「質が低い、ハードルがない」ことを「水」を付ける造語で言うことが多い[27]

関連項目[編集]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 37.4以下、37.5~39.9、40.0~42.4、42.5~44.9、45.0~47.4、47.5~49.9、50.0~52.4、52.5~54.9、55.0~57.4、57.5~59.9、60.0~62.4、62.5~64.9、65.0~67.4、67.5~69.9、70.0~72.4、72.5以上の16区分。37.4以下の偏差値帯は便宜上35.0で表示
  2. ^ 合格者と不合格者の割合が50%ずつになる偏差値帯

出典[編集]

  1. ^ 偏差値とは何?偏差値の意味と求め方・計算方法をわかりやすく解説!|栄光の個別ビザビ|個別指導の塾・学習塾なら”. www.eikoh-vis-a-vis.com. 2022年7月1日閲覧。
  2. ^ 入試難易予想ランキング表 | 志望校をさがす | 河合塾 Kei-Net”. www.keinet.ne.jp. 2022年1月15日閲覧。
  3. ^ a b バカでも入れる? 偏差値35未満「Fラン大学」が定員割れの進む「大学全入時代」に増えた実態と今後”. [大学受験] All About. 2022年7月1日閲覧。
  4. ^ 増加する「Fランク大学」、“ボーダーフリー”時代の大学の選び方”. ダイヤモンド・オンライン (2022年12月22日). 2023年8月31日閲覧。
  5. ^ a b c d e Fランク大学が都市部で消滅へ~激戦の大学受験事情とは(石渡嶺司) - 個人”. Yahoo!ニュース. 2022年8月30日閲覧。
  6. ^ 大学タイプ別の奨学金利用率・延滞率舞田敏彦 (2017年4月21日).「大よそランクが下がるほど,奨学金の延滞率が高くなっています。Aランクでは0.91%ですが,Fランクでは2.69%,およそ37人に1人です。」「大卒学歴が欲しいばかりに,奨学金という借金を背負って,無理をして入ってくる。卒業後,それが返せなくて人生が破たんする。」
  7. ^ a b 奨学金が支える「Fランク大学」の葛藤と不安 | 奨学金制度はどうあるべきか”. 東洋経済オンライン (2016年4月26日). 2022年7月1日閲覧。
  8. ^ 舞田敏彦博士 (2017年4月21日). “データえっせい: 大学タイプ別の奨学金利用率・延滞率”. データえっせい
  9. ^ 舞田敏彦 (2017年4月21日). “データえっせい: 大学タイプ別の奨学金利用率・延滞率”. データえっせい. 2022年7月1日閲覧。
  10. ^ a b Fランク化する大学p13(小学館新書)音真司
  11. ^ Fラン大学の学生、就活の敵は「学歴フィルター」だけではない | マネーポストWEBマネーポストWEB”. マネーポストWEB (2018年7月10日). 2022年1月15日閲覧。
  12. ^ https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/11-3/dl/06.pdf
  13. ^ 私学を取り巻く経営環境:文部科学省”. www.mext.go.jp. 2022年8月30日閲覧。
  14. ^ 編集部, ABEMA TIMES. ““受験生に2万円給付”案がネットで賛否 「Fラン大学無償化は税金の無駄」主張のひろゆき氏と考える、大学進学の意味 | 国内”. ABEMA TIMES. 2022年8月30日閲覧。
  15. ^ 定員割れの私立大53.3%…過去最多を更新(リセマム)”. Yahoo!ニュース. 2023年8月31日閲覧。
  16. ^ 菊池 美由紀 (2020). “ボーダーフリー大学におけるキャリア科目担当教員のストラテジー”. 教育社会学研究 107: 27-47. doi:10.11151/eds.107.27. 
  17. ^ a b ボーダーフリー大学における学生調査の意義と課題 広島大学
  18. ^ 九九が言えない学生も…大学のバカ化が凄いことに | 女子SPA!”. 女子SPA! (2016年2月8日). 2022年1月15日閲覧。
  19. ^ まるで小学校? 低レベル学生を過剰に“おもてなし”するFラン大学の実態 | マネーポストWEBマネーポストWEB”. マネーポストWEB (2019年5月27日). 2022年1月15日閲覧。
  20. ^ a b 日東駒専レベルは低いと言うSNSに騙されてはいけない! - 予備校なら武田塾 茂原校”. 武田塾. 2022年7月2日閲覧。
  21. ^ a b 危ない大学・消える大学p23-26. 2008年、島野清志
  22. ^ 大学生ホワイトカラー内定率悪化はFラン大学生数増えたから”. NEWSポストセブン. 2020年7月17日閲覧。
  23. ^ 英辞郎 on the WEB”. eow.alc.co.jp. 2022年1月15日閲覧。 “〈米俗〉重要でない、ささいな、取るに足りない〈米俗〉〔科目・講座などが〕単位の取りやすい、〔学校の宿題や課題〕簡単な”
  24. ^ Barber, Katherine (2008). Only in Canada, You Say. Don Mills, Canada: Oxford University Press. p. 215. ISBN 978-0-19-542984-8.
  25. ^ 韓国のFランに通う学生がかえって幸福な理由”. ライブドアニュース. 2023年8月31日閲覧。
  26. ^ 峰俊, 安田. “その数400校! 中国で「ニセ大学」による入試詐欺が増えている理由”. 文春オンライン. 2024年3月14日閲覧。
  27. ^ 【ニュース・中国】教育部:本科教育を全力指導!専門家:根源の改革が先 | JSPS海外学術動向ポータルサイト”. 2024年3月14日閲覧。