R800
R800は、1990年に株式会社アスキーが開発し、アスキー三井物産セミコンダクタ株式会社(当時)が製造した、Z80バイナリ互換の命令セットを持つ16ビットプロセッサ。MSX turboRのCPUに採用された。外部ハードウェアデータバスは8ビットであり、DRAMインターフェイス、割込み制御、DMAコントローラーなどを備える。
概要
アスキーはMSX turboRを開発するにあたって、搭載するCPUの候補として、Z80互換・非互換を含めて様々な既存の物を検討していた。当時、社内にいた岸岡和也が独力でASICを使用したZ80高速版の研究をしており、これを元にしてMSX向けにカスタマイズし、採用することとなった[1]。
Rは「RISC」の頭文字である。RISCかCISCか、という議論では、内部構造はRISCであるが、Z80バイナリ互換のために完全なロード・ストア型の命令セットではない。しかしZ80の命令は典型的CISC(たとえばVAX)に比べれば十分シンプルである。よって、「Z80互換の命令セットを持ちRISCの内部構造で実装したプロセッサ」とでもするのが妥当なところと思われる。
特徴
- Z80命令コード上位コンパチブル
- M1サイクルを廃止するなど、メモリー・アクセスサイクルを高速化。
- アドレスの上位バイトが変化しないとき(下位8ビットのみ変化するとき)にアクセスを高速化するページアドレスモードを導入。
- IX,IYレジスタを8ビットで使用するなどの隠し命令を正式サポート。
- 16ビットALU(演算論理装置)を備え、演算能力を向上。
- 24ビット幅 16MBのアドレス空間をサポート(MMU)。
- DRAMインターフェイスを内蔵し、直接DRAMを接続してリフレッシュやノーウェイトのアクセス制御が可能。
- 外部からDRAMアクセスするためのアービトレーション(調停)機能内蔵。
- クロックジェネレーター内蔵
- MSX turboRでは28.636360MHzの水晶振動子を接続し、内部で4分周した7.15909MHzでCPUコアの動作が可能。(MSXシリーズのZ80A 3.579545MHz比で周波数2倍×基本命令5倍=10倍速。一部の複雑な命令ではそれ以上の高速化を実現)
- 従来のZ80互換割込みモードのほか、従来の割込みとは排他的使用で新たに7種類の割込みモードを備える。
- Z80互換割込み信号:NMI#、INT#
- 新割込み信号 :NINT1#~7#
- DMAコントローラー内蔵
- チャンネルは2つ(DMA0、DMA1)内蔵。
- メモリー to メモリー、I/O to メモリー、メモリー to I/O、I/O to I/Oの転送が可能。
- 転送アドレスは24ビットリニア指定可能。
- DMAアドレス自動インクリメント機能内蔵。
- LSIパッケージは100ピン0.65mmピッチQFP(フラットパッケージ)を採用。
その他
DMA・MMUは互換性確保のためMSXturboRでは使用されておらず、アドレス空間の拡張はメモリーマッパー機能(バンク切り替え)により実現されている。また、MSXturboRではMSX2+までとの互換性徹底のためにZ80相当品も搭載し(正確には「相当する機能が、搭載しているMSX-ENGINEに含まれており」)、R800と排他切替して使用している。
MSXturboR「FS-A1ST」はR800を搭載して発売したものの、一方で搭載予定だった新VDPの開発が間に合わず、既存の低速なV9958のままで製品化された。このため、折角の高速CPUは速度的に足を大幅に引っ張られることとなった。