鯉津栄之助

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鯉津栄之助(こいつええのすけ)は、上方落語の演目の一つ。原話は、安永4年(1775年)に出版された笑話本「聞童子」の一編である「はやり」。

道中噺『東の旅』(本題『伊勢参宮神乃賑』)の一編。

あらすじ[編集]

伊勢参りの途中、伊賀名張へとやって来た喜六と清八

おりしも領主の鯉津氏に『栄之助』というご嫡男がご誕生なさったと言う事で、ご嫡男の名前である【鯉津栄之助】の名前に通じる『こいつぁええ』という言葉を使わぬよう、忠告するための関が作られていた。

「通行手形を所持しておるか?」

こんな事になっているとは知らない二人、あいにく手形を用意していしなかった。

「本来なら通すこと相ならぬが…おめでたい御代故、芸を見せれば通してやる」

芸をやったら通す? 可笑しな事になってきたが、ここはひとつ見せるより仕方がない。

清八は都々逸、喜六は番人を秀句攻めにして関所を突破。ほかの面々も、持ち前の芸事を披露して関所を通り抜けて行った。

しばらく歩いた二人は、街の煮売り屋で休息をとることに。

煮売り屋の倅相手に将棋を指して時間をつぶし、ドジョウ汁を食べていると裏の方から三味線の音が聞こえてきた。

「見てみぃ、綺麗なお嬢さんが三人寄って三味線を弾いとるで?」
「一杯飲みながら三味線の音を聞く…こいつぁええ!」

途端に役人が数名なだれ込んできて、喜六がグルグル巻きに縛られてしまった。

「アタタタタ…何しますんがな!?」
「黙れ! みどもが店の前を通りしおり、その方、いま『こいつぁええ』と申したな!?」

喜六は恐怖のあまり声も出ない。代わりに清八が立ち上がりお役人を煙に巻き始める。

「違いますがな。酒を飲んでおりましたら、裏手の方で三味線の音色が聞こえましてね。ヒョッと見ますと、綺麗な娘はんが三人そろって三味線を弾いておりまっしゃろ? そのお着物がまた見事なんですがな、右が縞、真ん中が花柄で、左が濃い茶色の着物でございます。三人の三味線の中で、左端の濃い茶色の着物を着たお嬢さんが一番巧いと思いましてね、濃い茶のがええなぁ…『濃い茶ぁええ』と申したんですがな」

それを聞いたお役人、「なかなかうまい言い訳をする奴じゃ…濃い茶はええ、『濃い茶ぁええ』…」

とうとう膝を叩いて「こいつぁええ!」

概要[編集]

上方落語の大ネタ。ながらく埋もれていたのを1973年(昭和48年)ごろに、二代目露の五郎兵衛により復活された。

江戸落語にも、言うことを禁止されている流行り言葉「こいつはええ」を言ってしまいお縄にかけられた紺屋の職人が、白洲で「『こび茶(色)はええ』と言った」と言い訳し、最後に奉行に「こいつはええ」と言わせてしまう「こび茶」という演目が存在する。原話は上方のものと同じで、三遊亭一朝の速記が残っている。[1]

脚注[編集]

  1. ^ 武藤禎夫『定本 落語三百題』 岩波書店〈岩波文庫〉、2007年、165頁。