質量

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質量
mass
量記号 m
次元 M
種類 スカラー
SI単位 キログラム (kg)
CGS単位 グラム (g)
MTS単位 トン (t)
FPS単位 ポンド (lb)
MKS重力単位 メトリックスラグ
FPS重力単位 スラグ
プランク単位 プランク質量
原子単位 電子の静止質量 (me)
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質量(しつりょう、: massa: μᾶζα: Masse: mass)とは、物体の動かしにくさの度合いを表すのこと。

概説

質量という概念の内容や定義は、動力学力学の歴史とともに推移してきている[1]

物理学的には厳密には、動かし難さから定義される慣性質量 (inertial mass)[2]と、万有引力による重さの度合いとして定義される重力質量 (gravitational mass)[3]の 2 種類の定義があるが、現在の物理学では等価とされている。

慣性質量と重力質量の等価性は、たとえば重力加速度が落下する物体によらず定まることから知ることができる。物体に働く重力は重力質量に比例するが、一方で重力加速度は重力を慣性質量で割ったものなので、重力質量と慣性質量は比例していることが分かる。

mI:慣性質量、mG:重力質量、FG:重力、g:質量加速度。

ここで重力質量と慣性質量の単位を適切に選べば、それらを結ぶ比例定数を 1 にすることができ、重力質量と慣性質量の次元を同一視することができる。

質量の発生原理としてヒッグス機構が有力視されているが完全には分かっていない。

質量は重さと混同される場合も多いが、異なる概念である。物体の重さとは、その物体が受ける重力の大きさを表し、重力が異なる場所では、たとえ同じ物体を用意したとしても、その重さは異なる。しかしながら、どちらの場合においてもその物体の質量は同じである。

以上は物体の固有な量としての質量についてであるが、金属などの結晶中を運動する電子など、特殊な状況において質量に相当するような量を考えることができる。それらを通常の質量と区別して有効質量 (effective mass) と呼ぶ。

質量の概念

より正確な記述は後述することにして、「質量の概念」や「質量・重量(重さ)の違い」について概略を述べる。

バケツやコップに水を注ぐと、注いだ分だけバケツやコップの重さが増す。このことは、容器を変えても同様であり、水の量(体積)に応じて水の重さが変わることが分かる。また、同じ容器に水ではなく水銀などを入れると、同じ大きさの容器かつ同じ体積であるにもかかわらず、入れた物質によって「重さ」が異なることが分かる。このように、物の重さはその物の種類と量によって異なり、逆に同じ重さであっても異なる種類と量の物を用意することができる。このことから、様々な物体に共通する、物体の重さを支配する量が存在すると期待できる。後述するように、このような役割を果たす物体固有の量が、質量である。

物を支える際に感じる「重さ」以外にも、物を動かしたときにもその物体の「重さ」を感じることができる。台車に荷物を載せて運ぶ際、台車を動かし始めるときや動いている台車を止めるとき、たとえ同じ速さで台車が動いていたとしても(あるいは動いていなかったとしても)、台車に載せた積荷の量によって感じる手応えは異なる。このように、物体の動かし難さとしての「重さ」が存在し、それは物体の種類と量によって異なるため、先ほどの場合と同様に物体がある種の「質量」を持っていると考えられる。

物体を支える際に感じる「重さ」は、その物体を支えるものがなければ物体は落ちていってしまうので、物の落下する性質に関係する。物体が落下しようとする力を重力と呼び、これに関係する質量を重力質量と呼ぶ。重力質量の大きさは天秤を用いて測ることができる。同じ重力質量を持つ物体同士は重さも等しいので、天秤に載せると互いに釣り合う。基準となる物体を用意することで、基準に対するとして重力質量が定まる。

物体を動かす際に感じる「重さ」は、静止している物体は静止し続け、ある速さで運動する物体は同じ速さで運動し続けようとする性質、すなわち物体の慣性に関係する。これに関連する質量を慣性質量と呼ぶ。慣性質量は、たとえばハンマー投げのように物体を円運動させたときに感じる手応えによって知ることができる。慣性質量の異なる物体を同じように円運動させたとき、慣性質量が大きいほど円運動を維持するのに必要な力は大きくなる。

経験的に、慣性質量の大きな物体は重力質量が大きい、つまり「地球の重力で引っ張られて重い」(持ち上げにくい)と感じられる物ほど、「無重力状態でも動かしにくい」ことが知られている。この事実から、慣性質量と重力質量の違いに因われることなく、物体の重さを感じることができる。この慣性質量と重力質量の関係性を直接的に示すものが落体の法則である。落体の法則によれば、自由落下する物体の運動は、物体の重力質量に依らず同じであり、このことから重力質量と慣性質量が等価であることが導かれる。重力質量と慣性質量の等価性から、両者を区別することなく、単に質量と呼ぶことができる。この現象は、基本的には一般相対性理論等価原理によって説明される。

二つの質量

質量には慣性質量と重力質量の 2 種類がある。

慣性質量

慣性質量inertial massmIニュートンの運動方程式において導入される量である。 物体に作用する F と物体の加速度 a の比例係数として次の様に表される。

これは実際に実験を行い、物体を(バネの変形などによる)既知の力で引っ張ったときの加速度を調べ、比例係数を計算することで求められる。慣性質量は物体の動きにくさ(あるいは止まりにくさ)を表す値であるといえる。

重力質量

重力質量gravitational massmG重力万有引力)を起こす質量のことである。 物体に作用する重力 FG とその場所での重力加速度 g により次の様に表される。

これは体重計などで計ることができる、直感的にイメージする「重さ」を生じさせる質量である。

等価原理

両者は全く別の定義であるが、これらは同一の値を取る。この経験則を等価原理といい、エトヴェシュ・ロラーンドなどが行った実験により高い精度で示されている。落体の法則振り子等時性といった法則は、この原理のために成り立っている。だが、なぜ慣性質量と重力質量が同じ値をとるのかという理由は、現在でもわかっていない。慣性質量が生じる仕組みについてはヒッグス粒子によるヒッグス機構が唱えられているが、これは重力質量にはあてはまらない。重力質量発生のしくみは重力子交換によるものであると考えられている[要出典]

相対論的質量

光速に近い速度で運動する物体の質量が増えるといわれることがある。これは相対論的質量とよばれる考え方で、運動方程式 F = ma が速度の大きな物体についても成り立つように、相対論的効果を質量に押し付けた結果生ずるものである。現在では、このような相対論的質量の考え方を用いないのが一般的である。詳しくは特殊相対性理論を参照。

他の物理量との関係

マクロな物質の質量は同一物質で同温同圧の条件下においては、経験的に体積におおよそ比例することが知られている。この性質から、特に温度や圧力による体積変化が少ない固体液体において、物質ごとに定まる物理量としての密度が用いられる。

これより、均一物質を分けた場合、その体積比と質量比はおおよそ一致することとなる。この性質により、物質を根源となる粒子まで細かく分けていけば、その粒子の種類ごとに質量が定まり、その粒子の質量の総和が物質の質量となるという、いわゆる原子論の類の説が説得力を持つことになる。アヴォガドロの分子説の根幹である「同温・同圧の気体中には同数の分子が存在する」という主張も、体積と質量の比例関係から一定の説得力を得られるのである。これらの化学の発展に基づき、同一物質であれば質量に比例する物質量が定義されるに至った。

ニュートン力学においては、と質量、加速度の関係を表す運動方程式、

F:物体に働く合力、m:物体の質量、a:物体の加速度

が成り立つ。これは運動の第2法則

運動量 p と質量 m および速度 v の関係

を適用したものである。

特殊相対性理論においては、物体のエネルギー

E:物体のエネルギー、c光速m:物体の静止質量t:観測者の時刻、τ固有時

で定義される。これを計算すると、

v:物体の速さ

が求められる。ここで v = 0 とすると、E = mc2 という有名な公式を導くことができる。これが「質量とエネルギーの等価性」を示しているのである。また、v/c1 より充分小さいとき、2 次のテイラー展開より、

が成り立つ。この右辺の第 2 項がニュートン力学における運動エネルギーに対応する。第 1 項は定数であるため、この定数分を引いたものを新たに系のエネルギーとして定義することができる。そのため、この結果は速度が充分小さい運動について非相対論的な理論と一致していることを示す。

単位表記

素粒子物理学では、素粒子の質量を静止エネルギー値(eV)を用いて eV/c2 という単位表記がなされる。これは、「静止エネルギーを光速2で除算する値」という一種の記法であり、「除算した値」ではないことに注意。例として、電子の静止エネルギーは 511 keV で、電子の静止質量は 511 keV/c2 と表される。

脚注

参考文献

  • 小出昭一郎「質量」『世界大百科事典』平凡社、1988年。 
  • 朝永振一郎『物理学読本』(第2)みすず書房、1981年。ISBN 4-622-02503-5 

関連項目