血圧

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血圧(けつあつ、英語: blood pressure)とは、血管内の血液の有する圧力のことである。一般には動脈の血圧のことで、心臓の収縮期と拡張期の血圧をいい、それぞれ収縮期血圧(または最高血圧: systolic blood pressure)、拡張期血圧(または最低血圧: diastolic blood pressure)と呼ぶ。単位は永年の慣行からSI単位パスカル(Pa)ではなく、水銀柱ミリメートル(mmHg)を使用することがほとんどである。

ヒトの血圧

ヒトの血圧は呼吸脈拍体温と並んで生命活動の客観的な徴候となるバイタルサインの一つである[1]

人間では家庭血圧の正常値は、最高血圧が135mmHg未満、最低血圧が85mmHg未満であり、一方、診察室血圧の正常値は、最高血圧が140mmH未満、最低血圧が90mmHg未満と[2]される。血圧が上昇した場合、血圧反射機能により、自律神経を介した反射性の制御が行われ、心拍数が減少し、血管が拡張し、血圧は正常な範囲に戻る。この正常範囲は21世紀初頭のものであり、以前から何回か改定されており、今後も改訂の可能性がある。

正常範囲を超えた血圧が維持されている状態は高血圧(高血圧症)と呼ばれ、生活習慣病のひとつである。また、正常範囲より低い状態は低血圧(低血圧症)と呼ばれる。低血圧は、疲れが取れにくい・慢性的に体がだるい重い・耳鳴りがする・動悸や息切れがする・脳貧血で意識を失いやすいなどの症状は出るが、必ずしも早起きが苦手だとは言えない。このことに関しては医学的に根拠がない。

心臓の収縮力低下、アナフィラキシーショックなど血管の異常な拡張、血液の喪失などによって重要臓器への血流が保てないほど血圧が低下した状態はショック(末梢循環不全)と呼ばれる。この場合、中心静脈圧(静脈血圧)の低下も同時にみられる。

他に、医学的に重要な、特殊な血圧として、肺動脈楔入圧が挙げられる。

血圧は一拍ごとに異なるため、治療方針を決定するためには血圧は4回または5回測定することが好ましい[3]

血圧を決定する因子

血圧を決定する因子には左心室の拍出量や循環血圧量などがある[4]

  • 左心室の拍出量 - 左心室からの血液の拍出量が多くなると血圧は上昇する[4]
  • 循環血圧量 - 循環血圧量が減少すると血圧は低下する[4]
  • 末梢血管の抵抗 - 末梢血管の抵抗が増大すると血圧は上昇する[4]
  • 血液の粘弾性 - 血液の粘稠度が上昇すると血圧は上昇する[4]
  • 血管壁の弾力性 - 血管壁の弾力性が低下すると血圧は上昇する[4]

血圧値に影響する因子

ヒトの血圧はさまざまな影響を受けて変動する。

  • 体位 - 臥位から座位、立位への変換によって一過的に低下し、その後、圧受容体反射などで回復する(回復が遅れると立ちくらみが起こる)。
  • 体格 - 肥満の人は、やせた人よりも高い傾向がある。
  • 性別 - 女性は男性よりも5 - 10mmHg低い傾向がある。
  • 時刻 - 一般に夜間、睡眠中が最低で、午後は午前よりやや高い。夜間は低くなり、起床とともに高くなる。
  • 摂食 - 食後は上昇し、1時間ほどで元に戻る
  • 運動 - 運動後は一般に上昇する。
  • 入浴 - 適温であればわずかに低下する。熱い風呂は上昇させる。
  • アルコール摂取 - 適度の飲酒は血圧を低下させる。過度の飲酒は上昇させる。
  • 喫煙ニコチンガムニコチンパッチ - ニコチンはニコチン受容体を刺激し、血圧を上昇させる。
  • 薬剤 - 一部の薬剤や物質にはカフェインなどのように血圧を一時的に上昇させるもの、麻酔など逆に低下させるものがある。
  • 気温 - 温暖時は低下し、寒冷時は上昇する。
  • 心理的要素 - 緊張や感情の動揺、ストレスは血圧を上昇させる。逆にリラックスすると血圧はやや低下する。医療機関で測定した値と家庭や職場で測定した値とで血圧が大きく異なる場合など(白衣高血圧仮面高血圧も参照)。
  • 恐怖感情 - 著しい恐怖などの感情を覚えると、ノルアドレナリンが分泌され脈拍と同時に一時的に急上昇する。
  • 性行為 - 性行為を行うと内分泌系の作用により血圧は一時的に上昇し、その後は降下する。
  • 電解質 - 食塩中のナトリウムは血圧を上昇させる。
  • 代謝性アルカローシス - 代謝性アルカローシスは、明らかな血圧降下作用を惹起すると指摘されている。この作用がチアジド系降圧剤の降圧機序の一因子であることが指摘されている[5]
  • アルカロイドの摂取 - アルカロイドの摂取により、血圧の変動が起こりうる。例えばダイダイに多く含まれるシネフリンには、血管収縮・血圧上昇作用がある[6]
  • アレルギー反応・ヒスタミン食中毒 - アレルギー反応によるヒスタミン分泌やヒスタミン食中毒により、血圧降下が起こる。そのため、抗アレルギー薬やリンゴの摂取などによりヒスタミンの分泌が抑制されると、血圧上昇が起こりうる。
  • プロスタグランジン分泌 - プロスタグランジンの中には、血管の拡張作用やレニン分泌作用のあるものがあり、血圧降下や血圧上昇を引き起こしうる。プロスタグランジンの分泌には、ナイアシンの過剰摂取によるナイアシンフラッシュなどがある (en:Niacin#Facial flushing)。
  • カリウム摂取・飲尿 - カリクレインは血圧降下に関わっており、カリウムは腎カリクレインの分泌を増加させるとされる。また、尿にはカリクレインが含まれている。このカリクレインは、食塩感受性高血圧との関係があると言われている。

測定法

大きく分けて間接法(非観血的測定)と直接法(観血的測定)の2つがある。

間接法

体表からカフやセンサーを用いて測定する。生体を傷つけず測定でき、自動血圧計や一般診療で日常的に用いられる。

オシロメトリック法

四肢にカフを巻き、カフを加圧した後、減圧していく。この過程で生じるカフ圧の微小な拍動を調べることにより血圧を測定する。現在使用されている自動血圧計のほとんどはこの方式による[7]

コロトコフ法

別名聴診法とも呼ばれる。カフと聴診器を組み合わせて、カフで動脈を圧迫し、その圧を徐々に減圧していく過程で発生する血管音を聴診器から聞き取ることにより、最高血圧(収縮期血圧)と最低血圧(拡張期血圧)を測定する。

Pulse Wave Transit Time法

心電図 (ECG) センサーと血中酸素飽和度の測定に使用されるSpO2センサーを使い、心臓の鼓動と脈波が指に伝わる時間からパルス伝搬速度を計測して算出する[8]

直接法

血管内に管(カテーテル)を挿入して測定する。一拍ごとの血圧の変化や血圧波形を観察でき、間接法では測定困難な静脈圧を測定できるといった利点があるが、皮下出血感染などのリスクが伴う。手術や集中治療で用いられる。

water-filled法

生理食塩水で満たしたカテーテルの先端を血管内に留置し、末端に圧力計を繋げる。血管内圧がカテーテル内の流体を通して体外の圧力計に伝わる。低コストだがカテーテル内の気泡混入などで誤差を生じやすい。

カテーテル先端型圧力計を用いる方法

先端に小型の圧力計が付いたカテーテルを血管内に留置する。一般に精度が高いが高コストである。

脚注

  1. ^ 鈴木俊明『臨床理学療法評価法』エンタプライズ、2004年、83-84頁。 
  2. ^ 血圧のおはなし2019年6月2日
  3. ^ Ann Intern Med 2011 Jun 21; 154: 781.
  4. ^ a b c d e f 鈴木俊明『臨床理学療法評価法』エンタプライズ、2004年、90頁。 
  5. ^ 高血圧症に関する研究(第I報):酸塩基平衡の循環動態因子におよぼす影響について 竹越襄、Japanese Circulation Journal、Vol.32(1968) No.9
  6. ^ シネフリン - 素材情報データベース<有効性情報>(国立健康・栄養研究所
  7. ^ 医機学 vol.80, No.6 (2010)
  8. ^ センサーをこめかみに当て、体温・心拍数から血圧までを測定, http://ventureclef.com/blog2/?p=2022 

関連項目