菜根譚
菜根譚(さいこんたん)は、中国古典の一つ。前集222条、後集135条からなる中国明代末期のものであり、主として前集は人の交わりを説き、後集では自然と閑居の楽しみを説いた書物である。別名「処世修養篇」(孫鏘(そん しょう)の説)。洪自誠(洪応明、還初道人)による随筆集。
その内容は、通俗的な処世訓を、三教一致の立場から説く思想書である。中国ではあまり重んじられず、かえって日本の加賀藩儒者、林蓀坡(はやし そんぱ、1781年-1836年)によって文化5年(1822年)に刊行(2巻、訓点本)され、禅僧の間などで盛んに愛読され、仏典に準ずる扱いも受けてきた。また実業家や政治家などにも愛読されてきた。尊経閣文庫に明本が所蔵されている。
菜根譚という書名は、朱熹の撰した「小学」の善行第六の末尾に、「汪信民、嘗(か)って人は常に菜根を咬み得ば、則(すなわ)ち百事做(な)すべし、と言う。胡康侯はこれを聞き、節を撃(う)ちて嘆賞せり」という汪信民の語に基づくとされる(菜根は堅くて筋が多い。これをかみしめてこそものの真の味わいがわかる)。
「恩裡には、由来害を生ず。故に快意の時は、須(すべか)らく早く頭(こうべ)を回(めぐ)らすべし。敗後には、或いは反(かえ)りて功を成す。故に払心の処(ところ)は、便(たやす)くは手を放つこと莫(なか)れ(前集10)」(失敗や逆境は順境のときにこそ芽生え始める。物事がうまくいっているときこそ、先々の災難や失敗に注意することだ。成功、勝利は逆境から始まるものだ。思い通りにいかないからといって、決して途中で投げやりになってはならない)などの人生の指南書ともいえる名言が多い。
訳注
- 魚返善雄 訳註『菜根談』角川文庫、1955年10月
- 今井宇三郎 訳註『菜根譚』岩波文庫、1975年1月、ISBN 4-00-007025-8。ワイド版1991年
- 中村璋八・石川力山 訳註『菜根譚』講談社学術文庫、1986年6月、ISBN 4-06-158742-0
- 吉田公平『菜根譚』たちばな出版・タチバナ教養文庫、1996年7月、ISBN 4-88692-554-5
- 久須本文雄『菜根譚』講談社、1994年10月(新版)、ISBN 4-06-207232-7
- 釈宗演『菜根譚講話』麗沢大学出版会(改訂版)、2008年、篠田英雄編。初刊は京文社書店(1926年11月)。文一出版・鴻盟社ほかで再刊
- 蔡志忠作画、和田武司訳 『マンガ菜根譚・世説新語の思想』講談社+α文庫、1998年3月。※以下は入門書
- 『みんなのたあ坊の菜根譚 今も昔も大切な100のことば』サンリオ、新装版2015年、ISBN 978-4-387-15065-7
- 守屋洋『菜根譚 新訳』PHP研究所、2011年3月、ISBN 978-4-569-79600-0
- 湯浅邦弘『菜根譚――中国の処世訓』中公新書、2010年2月、ISBN 978-4-121-02042-0
- 湯浅邦弘編 『菜根譚 中国の古典』角川ソフィア文庫、2014年10月、ISBN 978-4-04-407231-5
- 大野出編、松井光彦・三浦雅彦 『菜根譚 図解雑学』ナツメ社、2010年10月