理科

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理科(りか、: science)は、学校教育小学校中学校高等学校中等教育学校特別支援学校義務教育学校)における教科の一つである。 ただし、小学校の第一学年および第二学年では社会とともに廃止され、生活科に統合されたという背景より、教科としては存在しない。

本項目では、主として現在の学校教育における理科について取り扱う。関連する理論・実践・歴史などについては「理科教育」を参照。

概要

日本の歴史において、「理科」という単語は青地林宗が、オランダ語の書物を翻訳・編纂し、文政10年(1827年)に著した「氣海観瀾」にて登場する。青地は、オランダ語の「Natuurkunde(物理学)」の訳語として「理科」という単語を使っており、「理科は物則の学なり。其の効用を察し、諸を器数に徴し、諸を測験にしらぶ」と書いている。これを端緒とし、以後、日本の科学書において、「理科」という単語が広まっていく事となる[1]

教科を示す語として採用されたのは、明治19年(1886年)の小学校令においてである。この法令では、従来の博物物理化学生理という教科を一括し、数学・情報科学以外の自然科学の内容をまとめたものを「理科」という教科名にした。一般人にはまだ馴染みがない単語だったらしく、「理科というのはいったいどんなものか」と話題になったようである。明治40年、高等小学校の1~2年が尋常小学校に統合され、尋常小学校の年数が6年となった結果、明治41年からは尋常小学校の5年、6年のすべての児童が義務教育として学ぶようになった[2]

通常「理科」という単一の教科名で児童・生徒が履修するが、私立学校の中には、中学校から理科を科目に分けて扱うところもある。高等学校(以下、中等教育学校を含む)では、いくつか用意されている科目の中から、学校の教育方針や生徒の進路に応じて数科目を選択し履修する。

理科は実験観察を伴う課題が多いため通常、小学校の段階から理科室と呼ばれる専用の特別教室を設けられている。授業も2限連続で設定されていることが多い。高等学校ではさらに物理・化学・生物・地学の科目ごとに専用の教室や実験準備室が設けられる。

学習内容

以下に、日本学習指導要領における理科の学習範囲を示す。具体的な内容は、各記事を参照されたい。

初等教育(小学校など)

かつては、第1学年及び第2学年でも履修されていたが[注 1]1992年度からは第3学年からの履修となっている。かつて履修されていた内容の多くは、社会と統合されて新設された生活科で学習する。ただし、知的障害者を教育する特別支援学校の小学部では、学年に関係なく生活を学習しているので、「社会」、「家庭」同様に、「理科」はない。

本項では、1998年告示、2002年度実施の内容について述べる。2008年に次期の学習指導要領(2011年度実施)が告示され、2009年度から移行措置が開始されたため、内容が一部変更されている。

第3学年
生物とその環境(生物的分野) 昆虫成長や体のつくり、植物の成長や体のつくり、昆虫と植物のかかわり
物質とエネルギー(物理的分野)、(化学的分野) の性質(日光)、電気回路乾電池豆電球)、磁石の性質
地球と宇宙(地学的分野) 太陽の動き(日なたと日陰)
第4学年
生物とその環境(生物的分野) 動物の活動、植物の成長
物質とエネルギー(物理的分野)、(化学的分野) 空気及びの性質(圧力)、金属、水及び空気の性質(体積温度)、電気の働き(モーター光電池
地球と宇宙(地学的分野) の特徴や動き、天気による気温の変化、水の状態変化水蒸気
第5学年
生物とその環境(生物的分野) 植物の発芽、成長、結実及びその条件、発生と成長
物質とエネルギー(物理的分野)、(化学的分野) 物の溶け方、てこおもりの動き
地球と宇宙(地学的分野) 天気の変化、流れる水の働きと土地の変化(台風
第6学年
生物とその環境(生物的分野) 人や動物の体の臓器、動物や植物と養分、生物と環境とのかかわり
物質とエネルギー(物理的分野)、(化学的分野) 水溶液の性質や働き、燃焼電流の働き(電磁石
地球と宇宙(地学的分野) 月と太陽、土地のつくりと変化(地層化石火山地震

前期中等教育(中学校、中等教育学校の前期課程など)

本項では、1998年告示、2002年度実施の内容について述べる。2008年に次期の学習指導要領(2012年度実施)が告示され、2009年度から移行措置が開始されたため、内容が一部変更されている。

教科書の体系も、従前は、第1分野上・下および第2分野上・下の4分冊による教科書構成(両分野上巻が1年次、両分野下巻が2年次にそれぞれ配布)であったものが、2012年以降は、国語・数学・外国語(英語)の教科書同様、学年別の形態に改められることになった。

第1分野(物理・化学系列)
身近な物理現象 光と(光の反射屈折凸レンズ、音)、と圧力(力の働き、力のつり合い、圧力、大気圧
身の回りの物質 物質のすがた(物質の性質、状態変化気体の性質、気体の発生)、水溶液溶解再結晶、水溶液の性質、アルカリ
電流とその利用 電流静電気、電流、回路、電圧電気抵抗)、電流の利用(電磁石電磁誘導、電流の働き)
化学変化と原子・分子 物質の成り立ち(物質の分解、原子分子元素記号)、化学変化と物質の質量化合物化学式化学反応式質量保存の法則
運動の規則性 運動の規則性(物体の運動、エネルギーエネルギー保存の法則
物質と化学反応の利用 物質と化学反応の利用(酸化還元化学エネルギー
科学技術と人間 エネルギー資源科学技術人間
第2分野(生物・地学系列)
植物の生活と種類 生物の観察、生物の体のつくりと働き(光合成呼吸蒸散)、植物の仲間(種子植物
大地の変化 地層と過去の様子、火山地震噴火火山岩深成岩、地震の揺れ、地震の発生)
動物の生活と種類 動物の体のつくりと働き(動物の観察、感覚器官消化呼吸血液循環)、動物の仲間(脊椎動物
天気とその変化 気象観測、天気の変化(気圧配置前線
生物の細胞と生殖 生物と細胞細胞分裂)、生物の殖え方(有性生殖無性生殖遺伝
地球と宇宙 天体の動きと地球自転公転(天体の日周運動星座)、太陽系惑星(太陽、恒星惑星
自然と人間 自然と環境(微生物)、自然と人間(自然災害

後期中等教育(高等学校、中等教育学校の後期課程など)

本項では、2018年告示、2022年度実施の内容[3]について述べる。

後期中等教育の必修科目は次のいずれかである。

  • 「科学と人間生活」と、「物理基礎」「化学基礎」「生物基礎」「地学基礎」のうち1科目の、合計2科目。
  • 「物理基礎」「化学基礎」「生物基礎」「地学基礎」のうち3科目。

高等学校や中等教育学校の判断で、履修させる科目を自由に選択できるようになっている。

多くの高等学校・中等教育学校などで履修される「物理」「化学」「生物」などは、学習指導要領ではすべて基礎科目履修を踏まえた選択科目扱いとなっている[4]。このため高等学校以降では学習内容のばらつきが非常に大きくなる。

文系生徒は基礎科目のみを履修し専門科目(「基礎」を付さない科目)は履修しないことが多い。 一方理系生徒は専門科目も履修することが多い。ただし地学を履修する生徒はごく一部である(大学受験の出題範囲に含まれない場合が多いため)。

「科学と人間生活」は大学入試センター試験の科目では無い[5]

総合科目

科学と人間生活
物理・化学・生物・地学の基礎となる事項を、歴史的な背景や身近な生活との関わりとともに学ぶ科目。2012年度入学生からの新科目。
科学技術の発展
人間生活の中の科学 光や熱の科学 の性質とその利用、の性質とその利用
物質の科学 材料とその再利用衣料食品
生命の科学 ヒトの生命現象、微生物とその利用
宇宙や地球の科学 太陽地球自然景観自然災害
これからの科学と人間生活


理科課題研究
2012年度入学生からの新科目。

物理

高等学校物理(Wikibooks)も参照

物理基礎
物体の運動とエネルギー 運動の表し方 物理量の測定、運動の表し方、直線運動の加速度
様々な力とその働き 様々な、力のつり合い、運動の法則、物体の落下運動
力学的エネルギー 運動エネルギー位置エネルギー力学的エネルギーの保存
様々な物理現象とエネルギーの利用 温度、熱の利用
性質振動
電気 物質電気抵抗、電気の利用
エネルギーとその利用 エネルギーとその利用
物理学が拓く世界 物理学が拓く世界
物理
様々な運動 平面内の運動と剛体のつり合い 曲線運動の速度と加速度、放物運動、剛体のつり合い
運動量 運動量と力積、運動量の保存衝突と力学的エネルギー
円運動と単振動 円運動単振動
万有引力 惑星運動万有引力
気体分子の運動 気体分子の運動圧力気体内部エネルギー、気体の状態変化
波の伝わり方 波の伝わり方とその表し方、波の干渉回折
音の干渉と回折、音のドップラー効果
の伝わり方、光の回折と干渉
電気と磁気 電気と電流 電荷電界、電界と電位電気容量電気回路
電流と磁界 電流による磁界、電流が磁界から受ける力、電磁誘導電磁波
原子 電子と光 電子、粒子性と波動性
原子と原子核 原子スペクトル原子核素粒子
物理学が築く未来 物理学が築く未来


化学

高等学校化学(Wikibooks)も参照

化学基礎
化学と人間生活 化学と物質 化学の特徴、物質の分離・精製、単体化合物熱運動と物質の三態
物質の構成 物質の構成粒子 原子の構造、電子配置周期表
物質と化学結合 イオンイオン結合分子共有結合金属金属結合
物質の変化とその利用 物質量と化学反応式 物質量化学反応式
化学反応 塩基中和酸化還元
化学が拓く世界 化学が拓く世界
化学
物質の状態と平衡 物質の状態とその変化 状態変化気体の性質、固体の構造
溶液と平衡 溶解平衡、溶液とその性質
物質の変化と平衡 化学反応とエネルギー 化学反応と熱・光、電気分解電池
化学反応と化学平衡 反応速度化学平衡とその移動、電離平衡
無機物質の性質と利用 無機物質 典型元素遷移元素
無機物質と人間生活 無機物質と人間生活
有機化合物の性質 有機化合物 炭化水素官能基をもつ化合物,芳香族化合物
高分子化合物 合成高分子化合物、天然高分子化合物
化学が果たす役割 人間生活の中の化学 様々な物質と人間生活、化学が築く未来

生物

高等学校生物(Wikibooks)も参照

生物基礎
生物の特徴 生物の特徴 生物の共通性と多様性、生物とエネルギー
遺伝子とその働き 遺伝情報DNA、遺伝情報とタンパク質の合成
ヒトの体の調節 神経系と内分泌系による調節 情報の伝達、体内環境の維持の仕組み
免疫 免疫の働き
生物の多様性と生態系 植生と遷移 植生遷移
生態系とその保全 生態系と生物の多様性、生態系のバランスと保全
生物
生物の進化 生命の起源と細胞の進化 生命の起源と細胞の進化
遺伝子の変化と進化の仕組み 遺伝子の変化、遺伝子の組合せの変化、進化の仕組み
生物の系統と進化 生物の系統と進化、人類の系統と進化
生命現象と物質 細胞と分子 生体物質と細胞、生命現象とタンパク質
代謝 呼吸光合成
遺伝情報の発現と発生 遺伝情報とその発現 遺伝情報とその発現
発生と遺伝子発現 遺伝子の発現調節、発生と遺伝子発現
遺伝子を扱う技術 遺伝子を扱う技術
生物の環境応答 動物の反応と行動 刺激の受容と反応、動物の行動
植物の環境応答 植物の環境応答
生態と環境 個体群と生物群集 個体群、生物群集
生態系 生態系の物質生産と物質循環、生態系と人間生活

地学

高等学校地学(Wikibooks)も参照

地学基礎
地球のすがた 惑星としての地球 地球の形と大きさ、地球内部の層構造
活動する地球 プレートの運動、火山活動地震
大気と海洋 地球の熱収支大気海水の運動
変動する地球 地球の変遷 宇宙太陽系と地球の誕生、古生物の変遷と地球環境
地球の環境 地球環境の科学、日本の自然環境
地学
地球の概観 地球の形状 地球の形と重力、地球の磁気
地球の内部 地球の内部構造、地球内部の状態と物質
地球の活動と歴史 地球の活動 プレートテクトニクス、地震と地殻変動、火成活動、変成作用変成岩
地球の歴史 地表の変化、地層の観察、地球環境の変遷、日本列島の成り立ち
地球の大気と海洋 大気の構造と運動 大気の構造、大気の運動と気象
海洋と海水の運動 海洋の構造、海水の運動
宇宙の構造 太陽系 地球の自転公転太陽系天体とその運動、太陽の活動
恒星と銀河系 恒星の性質と進化、銀河系の構造
銀河と宇宙 様々な銀河、膨張する宇宙


入試などへの影響

中学入試高校入試においては物理・化学・生物・地学の4科目が均等に出題される。

他方、大学入試においては各科目に分かれて出題される。 文系の高校生は、大学入試においてはセンター試験で基礎科目2科目が課されるのみである。 一方理系では、センター試験に限らず国公立大学二次試験私立大学の受験教科にもなる。基礎科目に限らず、専門科目も試験範囲に含まれることが多く、地学選択が不可能な大学や、物理と化学指定の大学も多い。

脚注

注釈

  1. ^ その為、1984年4月2日から1985年4月1日生まれの児童は第1学年は理科と社会の授業を、第2学年は生活の授業を受けている。

出典

  1. ^ 中村邦光「日本における「物理」という術語の形成過程」『学術の動向』第11巻第12号、日本学術協力財団、2006年、90-95頁、doi:10.5363/tits.11.12_90ISSN 1342-3363NAID 1300014946642020年8月25日閲覧 
  2. ^ 前田善仁 (2015年7月). “理科のはじまりと「指導案」 明治時代の「教授案(指導案)」からわかること” (PDF). 啓林館. 2020年8月22日閲覧。
  3. ^ 文部科学省: “高等学校学習指導要領” (PDF). 2020年11月19日閲覧。
  4. ^ 高等学校学習指導要領解説 理科編、p.13 平成29年4月3日閲覧
  5. ^ 平成27年度大学入試センター試験からの理科の出題方法等の一部変更について、平成29年4月3日閲覧

関連項目

外部リンク