爪白癬

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爪白癬(つめはくせん)とは、へと白癬菌が侵入して、爪にまで白癬菌が巣喰った病態、すなわち、真菌感染症の1つである。しばしば、手足の白癬が進行して、爪白癬に至る。俗に爪水虫(つめみずむし)と言う。水虫と言えば、かつての日本では中高年の男性の病気とされていたものの、若年者であっても罹患し得る病気であり、女性も革靴やブーツを履くため例外ではなくなった。

概要

爪白癬が発生した足の爪。

白癬の患者は、行く先々で白癬菌をバラ撒いており、これが他の者の身体に付着する場合もある。しかし、それを適切な頻度で洗い流していれば、免疫力が充分に有れば、簡単には白癬にならない。ところが、身体を洗う際などに爪の周囲を清浄にする事を怠っていると、そこに白癬菌が付着していた場合には、爪にも白癬菌が巣喰う場合が有る。これが爪白癬である。もっとも、白癬菌はセリンプロテアーゼを産生して、角質層や毛髪や爪を分解しながら、分解産物を自身の栄養にできる真菌であるため、手足の白癬が進行し、爪にまで白癬菌が勢力を広げる場合が目立つ。つまり、最初は爪ではなく、爪と隣接する指に白癬菌が巣喰い、そこから爪へも感染するのである。特に、長時間ブーツなどの通気性の悪い靴を履き続けて汗をかいたり、雨などにより水で濡れるなどして、多湿の状態が保たれていると、そこに白癬菌がいた場合には、感染し易くなる。

ところで、真菌はヒトと同じ真核生物であり、真菌を攻撃するための抗真菌薬を使用すると、しばしばヒトにも有害な作用を引き起こす[注釈 1]。したがって、特に抗真菌薬を内服する場合には、副作用の発現に注意する必要が有る。また、抗真菌薬にはシトクロムP450酵素を阻害する薬が多く、他にも薬を使用している場合には、薬物相互作用にも注意が必要である。例えば、分子構造中にイミダゾール環トリアゾール環を持つ抗真菌薬、すなわち、アゾール系抗真菌薬は、lanosterol C-14 demetyylase(別名、P45014DM)を阻害する作用を持つわけだが、ヒトが持つシトクロムP450酵素も阻害する[1]。シトクロムP450酵素は、ヒトにおいて薬物の代謝に関わっており、使用した薬物が異常高濃度になったりする場合が有る。

なお、完全治癒率は内服薬より低いものの、副作用や薬物相互作用を避けるために、外用薬の抗真菌薬を使って治療する場合も有る。ただし、爪白癬に至っていると、容易には白癬菌を追い出せず、爪の伸びる速度が遅いと、抗真菌薬を1年間以上使用し続けねばならない事例も有る。患者は、白癬菌を追い出すまでの間、抗真菌薬を定期的に使用し、かつ、感染部位の清浄性を保つようにし続けねばならない。

症状

爪白癬になっても、軽症例では爪の色が白っぽくなるだけで、特に自覚症状が無い場合もある。しかし、白癬菌の感染が広がるにつれて、爪全体の色が、白色・黄色・黒色などに変色する。さらに、白癬菌が感染した爪は、やや盛り上がり、脆くてボロボロと崩れ易くなってくる。それにより、周囲に白癬菌をバラ撒き、他の指を含めて、新たな部位での白癬の原因となる。また、爪が生成される箇所ような、皮膚の深部にまで白癬菌の感染が達する場合もある。白癬菌の感染部位が拡大すると痛みが出てくる場合が有り、靴を履けなくなったり、歩き難くなったりするなど、日常生活に支障をきたし得る。

なお、糖尿病などで末梢に血行不良や免疫力の低下が起きている場合には、壊疽の原因になり得る。壊疽が起きれば、その部位の切断を余儀なくされる恐れが有る。

また、生活空間を共にする以上、家族などにも白癬を感染させる恐れが有るため、早期治療が望まれる。

治療法

テルビナフィンを毎日服用し続けて10週間後。新たに生えてきた部分の爪が、綺麗になっている。

爪白癬の治療には、若年者では半年、中高年では1年から1年半かかる場合も有る[2]。これは白癬菌が巣喰っている箇所の爪が、生え変わる速度の違いが関係するからである。ただ、おおよその目安として、手の場合6ヶ月、足の場合12ヶ月で、爪は完全に生え変わる。ただし、生え変わりまでの期間は指によって異なり、親指は早く、小指は遅い。また、爪の長さや、爪の生え変わりの速度などには個体差が見られるため、気長に根気良く、適切な治療を続ける必要が有る。

まず、白癬菌の侵された爪を可能な範囲で爪切りで切断する。切断した爪は白癬菌の感染源なので、適切に処理しなければならない。また、患部の適切なスキンケアや、白癬菌の感染が発生し易い環境の是正などが求められる。

その上で、大きく分けて、外用の抗真菌薬を使用する方法と、経口投与用の抗真菌薬を内服する方法の2つが有る。なお、外用薬よりも内服薬の方が向く状態の爪白癬も有る一方で、内服薬が無効な爪白癬に外用薬が有効な場合も有る[2]。したがって、爪白癬の状態に合わせて、適切な剤形の抗真菌薬を選択する事が重要である。

内服薬

爪の内部の深い場所まで白癬菌に侵されている場合には、経口投与用の抗真菌薬を内服も選択肢に入る。しかし、抗真菌薬の内服薬は、副作用が許容できる範囲であるかどうかの確認のために、血液検査が時々必要とされる[2]。抗真菌薬を内服すると、特に肝臓に機能障害が比較的発生し易い事が知られており、その指標として、肝臓からの逸脱酵素などを調べるのである。

  • イトラコナゾール - 1日2回1週間飲み3週間休薬し、それを3回行うパルス療法でしか日本では保険適用がなく治癒率は30パーセントと言われる[2]。禁忌は肝障害、妊婦。また多数の併用禁忌の薬がある[2]。薬物相互作用としてCYP3A4を阻害するため。
  • テルビナフィン - 1日1回内服。治験では3か月の投与で治癒率は50パーセント程度[2]。肝機能障害以外に、造血障害も発生し易いので、血液検査が必須[2]CYP2D6を阻害する。なお、テルビナフィンには外用薬も存在する。
  • ホスラブコナゾール英語版 - 1日1回内服。治験における成績は、3か月服用し1年後の完全治癒率が59.4パーセント[3][4]。妊婦へ禁忌。添付文書ではCYP3Aを阻害。イトラコナゾールよりCYP3A4の阻害作用が弱いとされる[4]
  • グリセオフルビン - 感受性の有る真菌に対して、形態異常を引き起こす内服薬である[5]。ただし、副作用の問題や新薬の登場などもあり、2008年に日本では生産を終了した。

2014年のシステマティックレビューでは、テルビナフィンのほうがグリセオフルビンよりも有効であり、テルビナフィンとイトラコナゾールでは比較するために適切となるような大人数の研究が欠けていた[6]

外用薬

経口投与用の抗真菌薬が使用禁忌の条件に当てはまっていたり、副作用が問題になったり、他の疾患も抱えた患者が別な薬も使用している場合に薬物相互作用が問題になる場合などでも、外用の抗真菌薬であれば使用できる場合が有る[7]。抗真菌薬を外用する事で、白癬菌の感染範囲の拡大を防げる。なお、塗り薬の場合、塗布後に手を充分に洗わないでいるなど不適切な扱いを行うと、手にも白癬菌が感染する恐れが有るため、適切な手洗いが求められる。

  • 10パーセントエフィナコナゾール - 治験での完全治癒率は、エフィナコナゾールを12ヶ月使用した場合で14.6パーセントであった[8]。ただし、エフィナコナゾールの国際的な治験は中等度の症状まで行われたため、重症では治療成績は不明である[2]。添付文書において1日1回使用すると定められている。
  • 5パーセントルリコナゾール - 治験での完全治癒率は、ルリコナゾールを13ヶ月した場合で17.8パーセントであった[8]。日本では2015年に承認され、エフィナコナゾールより安価[2]。添付文書において1日1回使用すると定められている。
研究事例

イオントフォレシス(イオン導入)で爪に外用薬を浸透させた場合、50日間程度、白癬菌の増殖阻害作用を持つ濃度を保った[9][10]

脚注

注釈

  1. ^ 細菌感染症の場合に用いる事の有る抗菌薬の中には、ヒトの細胞には存在しないペプチドグリカンの合成阻害を試みたり、ヒトや真菌とは異なるリボソームを標的した物が有る。抗菌薬の場合には、ある程度の選択毒性、すなわち、なるべくヒトに対しては害を出さないようにしつつ、細菌のみに悪影響を与えるようにし易い傾向にある。ところが、真菌の細胞とヒトの細胞は、同じ真核生物なので、その差異が少ないため、真菌に悪影響を与えようとすると、ヒトにも害が出易い傾向にある。詳しくは、細菌と真菌の違いなど、基本的な記事を参照した上で、関連する記事を幅広く参照の事。

出典

  1. ^ 上野 芳夫・大村 智 監修、田中 晴雄・土屋 友房 編集 『微生物薬品化学(改訂第4版)』 p.236 南江堂 2003年4月15日発行 ISBN 4-524-40179-2
  2. ^ a b c d e f g h i 渡辺晋一 2017.
  3. ^ 比留間政太郎「LS5-2 爪白癬患者を対象とした新規トリアゾール系経口抗真菌薬ホスラブコナゾールの第III相臨床試験」『日本医真菌学会総会プログラム・抄録集』第59巻第0号、2018年、72頁、doi:10.11534/jsmm.59.Suppl1.0_72_2NAID 130007502651 
  4. ^ a b Watanabe S, Tsubouchi I, Okubo A (October 2018). “Efficacy and safety of fosravuconazole L-lysine ethanolate, a novel oral triazole antifungal agent, for the treatment of onychomycosis: A multicenter, double-blind, randomized phase III study”. J. Dermatol. (10): 1151–1159. doi:10.1111/1346-8138.14607. PMC 6220848. PMID 30156314. https://doi.org/10.1111/1346-8138.14607.  治癒経過の写真あり。
  5. ^ 上野 芳夫・大村 智 監修、田中 晴雄・土屋 友房 編集 『微生物薬品化学(改訂第4版)』 p.234 南江堂 2003年4月15日発行 ISBN 4-524-40179-2
  6. ^ Margarido Lda C (2014). “Oral treatments for fungal infections of the skin of the foot”. Sao Paulo Med J (2): 127. doi:10.1590/1516-3180.20141322T1. PMID 24714996. https://doi.org/10.1590/1516-3180.20141322T1. 
  7. ^ 薗田良一「爪白癬治療薬クレナフィン爪外用液10%」『Drug Delivery System』第32巻第1号、2017年、60-64頁、doi:10.2745/dds.32.60NAID 130005611922 
  8. ^ a b 島村剛、宮前亜紀子、今井絢美、平栁こず恵、岩永知幸、久保田信雄、澁谷和俊「外用爪白癬治療薬の特性比較」『Medical Mycology Journal』第57巻第4号、2016年、J141-J147、doi:10.3314/mmj.16-00020NAID 130005172322 
  9. ^ Nair AB, Kim HD, Davis SP, et al. (September 2009). “An ex vivo toe model used to assess applicators for the iontophoretic ungual delivery of terbinafine”. Pharm. Res. (9): 2194–201. doi:10.1007/s11095-009-9934-y. PMID 19582550. 
  10. ^ Nair AB, Kim HD, Chakraborty B, et al. (November 2009). “Ungual and trans-ungual iontophoretic delivery of terbinafine for the treatment of onychomycosis”. J Pharm Sci (11): 4130–40. doi:10.1002/jps.21711. PMID 19340887. 

参考文献