杮葺

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杮葺の屋根(慈照寺)

杮葺(こけらぶき)は、屋根葺手法の一つで、木の薄板を幾重にも重ねて施工する工法である。日本に古来伝わる伝統的手法で、多くの文化財の屋根で見ることができる。

なお、「杮(こけら)」と「(かき)」とは非常に似ているが別字である。「杮(こけら)」は「こけらおとし」の「こけら」同様、木片・木屑の意味。ただし、両者は混用された(「こけら落とし」参照)。

概要

板葺の一種であり、薄く短い板を重ねて葺く。曲線的な造形も可能で、優美な屋根をつくることができ、主に書院や客殿、高級武家屋敷などに用いられた。 耐用年数は25年程度とされる[1]。また、瓦葺の下地として用いられることもあり、土居葺あるいはトントン葺と呼ばれる[2]

用いる杮板(こけらいた)の厚さにより以下の種類がある。

杮葺(こけらぶき)
最も薄い板(杮板)を用いる。板厚は2 - 3ミリメートル。ふつう一枚ずつ釘で打ち付ける[3]
木賊葺(とくさぶき)
杮板よりも厚い板(木賊板)を用いる。板厚は4 - 7ミリメートル。最も格の高い葺き方とされ、仙洞御所などで用いられたが、現在ではほぼ使われない[4]
栩葺(とちぶき)[5]
最も厚い板(栩板)を用いる。板厚は1 - 3センチメートル。東北地方でよくみられる[4]

材料

杮葺の構造見本
延暦寺根本中堂回廊の栩葺屋根

ヒノキサワラスギエノキなど、筋目がよく通って削ぎやすく、水に強い材木が用いられる。地方によってはクリマキも用いられる[6]。木賊葺や栩葺にも、トクサ(木賊)やクヌギ(栩)が材料として用いられるわけではない。

原木を30㎝程度の輪切り(玉取り)にし、刃物でまず耐水性に劣る辺材を落とし、次に6ないし8等分に放射状に割る(ミカン割り)。次に柾目取りに割り裂いて3㎝程度の厚板を取る(分取り)。板幅をそろえた(脇取り)後に決まった板厚に割り裂いて仕上げる(小割り)。板を裂いて作ることから、板を重ねたときに間に適度な隙間ができ、毛細管現象により水を吸い上げることを防ぎ耐久性が増す[6]

このように原木を割り裂いていくため、節があるような原木では杮板は作れない。材料の確保には手の行き届いた森林が必要であるが、林業の衰退により難しくなってきている[7]

葺き方

軒先に軒付板と呼ばれる化粧材で厚みをつくった上から平葺きする。葺足(ふきあし・上下の板をずらす間隔)は3㎝程度を基本とし、左右の板の継ぎ目は上下で重ならないようにする。板は二枚重ねごとに竹釘で止める。この際、耐久性を向上するため銅の薄板を挟み込むことがある。箕甲(みのこう・破風際の曲線)では撥型に成型した板を用いる[8]

木目方向に割って作成した板材をつかった杮葺きは通常40年程度の耐久性があるといわれている。海外ではフロー (froe)と呼ばれる道具を使い製材する。[要出典]

歴史

初期の杮葺は板葺に檜皮葺の技術を取り入れたものと考えられる。大山祇神社本殿や厳島神社摂社大元神社は、創建当初に檜皮葺と杮葺の両方の技術的な特徴がみられる、板葺から杮葺への過渡期と思われる葺き方であったことが修理で確認されている。杮葺という名称が確認できる最古の文献史料は『多武峰略記』(1197年)で、現存最古の杮葺は法隆寺聖霊院(12世紀前半)内の厨子であるとされる[4]

江戸時代までは栩葺・木賊葺も社寺建築に使用されていたが、板が厚く直線に近い屋根しか葺くことができないことから、薄板で自在性が高い杮葺へと次第に移っていった。三仏寺本堂のように、建立当時は栩葺や木賊葺であったが後世の修復で杮葺へ変わった建築物も数多い。[要出典]

よって、現存する板葺の文化財は多くが杮葺で、栩葺・木賊葺は少なく屋根職人も殆どいない。[要出典]

代表的建築物

杮葺の金閣

脚注

  1. ^ 原田多加司 2005, p. 24.
  2. ^ 原田多加司 1999, p. 33.
  3. ^ 今和次郎『改稿 日本の民家』相模書房、1943年、P.43頁。 
  4. ^ a b c 原田多加司 1999, p. 22-30.
  5. ^ 栩葺(とちぶき)模型によるご紹介 - 箱根関所・箱根関所資料館(更新日不明/2017年7月1日閲覧)
  6. ^ a b 原田多加司 1999, p. 95-99.
  7. ^ 原田多加司 2005, p. 19-21.
  8. ^ 原田多加司 1999, p. 157-162.

参考文献

  • 原田多加司『檜皮葺と杮葺』学芸出版社、1999年。ISBN 4-7615-2222-4 
  • 原田多加司『古建築修復に生きる-屋根職人の世界-』 186巻、吉川弘文館〈歴史文化ライブラリー〉、2005年。ISBN 4-642-05586-X 

関連項目