弦 (数学)

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赤い線分 BX はこの円のである。(線分 AB は円の直径)

初等幾何学における(げん、: chord[注釈 1])は、その円上に両端点を持つ線分を言う。弦を無限に延長して得られる直線を、割線と呼ぶ。より一般に、任意の曲線(例えば楕円)において、その曲線上の二点を結ぶ線分を、その曲線上の弦と総称する。円の中心を通る弦はその円の直径である。任意の直径は弦であるが、任意の弦が直径となるわけでない。

直径 (diameter); 半径 (radius); 弦 (chord); 割線 (secant); 接線 (tangent)

円の弦

円の弦に関する性質には、例えば以下のようなものがある:

  1. 二つの弦が、円の中心から等距離にあるための必要十分条件は、それら弦の長さが等しいことである。
  2. 長さの等しい弦を、円の中心から見込む角(中心角)は等しい。
  3. 円の中心を通る弦は直径と呼ばれ、その円の最長の弦である。
  4. AB および CD を延長して得られる割線が点 P で交わるならば、それらの長さは AP·PB = CP·PD を満足する(方冪の定理)。

楕円の弦

楕円における互いに平行な弦の族が与えられたとき、それら弦の中点はすべて同一直線上にある[1]

弦をもとにした三角法

三角法の初期の段階では弦が手広く用いられていた。知られた最古の三角函数表はヒッパルコスの編纂した弦の数表英語版で、それには7.5°刻みで弦函数の値が書き並べられていた。AD 2世紀に、アレクサンドリアのプトレマイオスは、天文学に関する著書『アルマゲスト』において、より詳細な弦の数表を編纂している(0.5°から180°まで0.5°刻みで値が与えられ、これは円の直径を120として小数点以下60進ふた桁まで正確であった)[2]

中心角 θ に対する弦; 弦の半分が正弦

弦函数 crd は幾何学的には(図のように)中心角 θ の見込む弦の長さが r⋅crd(θ)r は半径)となるように定義される。すなわち、弦函数の値 crd(θ) は、中心角 θ によって隔てられた単位円上の二点間を結ぶ弦の長さである。ここでは角度 θ は正の向きに測るものとし、弧度法で区間 0 < θπ の範囲に入るものと考えている。この元函数 crd をより現代的な正弦函数 sin と関連付けることができる。それには、一点 (1, 0) ともう一つの点 (cos(θ), sin(θ)) を結ぶ弦の長さを三平方の定理を用いて計算すればよい。すると

を得る[2]。最後の等号は半角公式による。

現代的な三角法が正弦函数に基づいて構築されているのと同様に、古来の三角法はこの弦函数をもとに構築されていた。ヒッパルコスは(いまではもうすべて失われたけれども)12巻にも及ぶ弦についての文献を書き上げたというから、三角法についてはかなりのことが知られていたと考えられる。現代的な三角函数に関するよく知られた恒等式の弦函数版がある:

恒等式 正弦版 弦版
三平方の定理
半角公式
辺心距離 a
中心角 θ
ただし、半径 r(直径 D)の円の中心角 θ が見込む弦の長さを c とする。

弦函数 crd の逆函数 acrd もまた存在して、逆正弦函数とは

の関係にある[3]

注釈

  1. ^ 弓弦を意味するラテン語: chorda に由来

出典

  1. ^ Chakerian, G. D. (1979). “7”. In Honsberger, R.. A Distorted View of Geometry. Washington, DC, USA: Mathematical Association of America. p. 147 
  2. ^ a b Maor, Eli (1998), Trigonometric Delights, Princeton University Press, pp. 25-27, ISBN 978-0-691-15820-4 
  3. ^ Simpson, David G. (2001年11月8日). “AUXTRIG”. Greenbelt, Maryland, USA: NASA Goddard Space Flight Center. 2015年10月26日閲覧。

参考文献

関連文献

関連項目

割円八線

外部リンク