別荘

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別荘(べっそう、英語cottagevillaラテン語vīlla)とは、普段生活しているとは別に、比較的短期的な避暑・避寒・保養・休養などの目的で気候風景のよい土地温泉地などに作られた一戸建ての家。本質は日常生活を送る住居ではなく、余暇のためのレジャー施設である。

現代日本語の場合、集合住宅の形をとる別荘をリゾートマンションと呼ぶ。

ヨーロッパにおける別荘

別荘を所有することは、古くはヨーロッパにおいても貴族など一部権力者の特権であった。しかし18世紀後半のフランス革命を発端として、19世紀後半にかけて各国で近代ブルジョア社会の機運が高まっていくと、ヨーロッパ諸国では一般市民が財を成すことも可能になっていった。これら有産階級の人々は、かつて貴族が行なっていた風習を模倣し始め、その一つである別荘も所有するようになった。

また当時の音楽家も、音楽によって得た財産から別荘を所有し、作曲など思索の場として使用することもあった。ヨハネス・ブラームスグスタフ・マーラーヨハン・シュトラウス2世リヒャルト・シュトラウスセルゲイ・ラフマニノフピョートル・チャイコフスキーなどである。

リヒャルト・シュトラウスが使用したバイエルン州ガルミッシュ=パルテンキルヒェンにある別荘
グスタフ・マーラーは、ヴェルター湖畔のマイアーニックに別荘を構え、その裏山に作曲小屋を建設。この小屋で交響曲第4番~第8番を作曲している。

またヨーロッパでは長期休暇や引退後の生活を別荘で送ることが多い。

イタリア

イタリア語には避暑のために郊外の別荘で過ごすvilleggiaturaという言葉がある[1]。もともとバカンスはごく限られた人の特権であったが、1930年代に有給休暇が導入されたため一般に広まった[1]

バカンスの過ごし方は多様で、自由に移動しながら旅行を楽しむ人もいれば、バカンス用賃貸マンションなどに滞在する人もおり、移動を好まない人は山や海沿いなどに邸宅を購入することもある[1]

日本における別荘

神鍋高原大机山麓の別荘エリア

日本では古くは別業(べつぎょう)とも呼ばれ、天皇貴族の邸宅をの郊外の風光明媚な地に別業(天皇の場合は離宮)を置く例があった。平安京京都)では、嵯峨白河鳥羽宇治山崎周辺などが有名であった。そのほとんどは現在失われてしまったが、平等院大覚寺のように別業・離宮の一部に由来する寺院が存在している。

明治時代以降、政治家財閥華族等のエスタブリッシュメントが来日外国人を真似て西洋風の別荘レジャーを楽しむようになった。関東地方では湘南鎌倉江の島葉山大磯など、近畿地方では北摂宝塚箕面、また須磨芦屋など、海や山を近くに臨めるような地や、郊外の里山・丘陵地・農村などを選んで大構えの別荘・別邸を設け、個人の余暇のほか、接待、また隠居所などとして使用した。これらは大半が東京・大阪の都市近郊交通網の発達に伴い両大都市圏の膨張・都市化の波に飲み込まれ、戦後までに大半が通勤住宅地化し別荘地ではなくなっている。その後学者文化人など西洋文化の洗礼を受けた層も別荘を求めるようになった。

大正時代には大手資本が箱根軽井沢などに広大な山林・原野を取得し別荘地開発を行い、レジャー用の贅沢品の一種として別荘が一般に販売されるようになった。当初は山荘・別邸というより手狭で簡易な山小屋程度の物が多かったが、都市部の富裕層を中心に人気を呼んだ。戦後もこの流れが続き、軽井沢・箱根をはじめ、蓼科山中湖那須清里房総伊豆高原伊豆半島伊豆諸島など、大都市圏から離れた山間部や海岸の別荘地が開発された。

バブル景気の際にはリゾートマンションが相次いで建てられたり、大洋村など別荘地ではなかったところにまで開発の手が伸びた。本来の利用目的ではなく、投資・投機目的をうたって各地で開発・分譲が行われた例も数多い。このためバブル期に開発された別荘地は元々の条件が悪く利用価値の低い場所や、道路すら造成されず整備自体がろくに行われていないような土地もあり、バブル崩壊とともに売却されたり、放置されて荒地廃屋となったりしている物件も見られる。原野商法やそれに近い詐欺的手法で辺鄙な場所の土地や建物を売り付けた例も少なくない。

バブル期以降、一部の別荘地はなお活況を維持しているものの、ニーズの変化や長期間に及ぶ個人消費の落ち込みなどから日本全体においては旧来型の浮世離れした避暑や別荘レジャーは終息に向かいつつある。バブル期にみだりに開発を行った新興別荘地は廃れた。大方の別荘は値崩れしている上に売れず、衰退する別荘地も増えている。またレジャーの多様化により別荘を取り巻く環境も変化しており、所有する別荘同士を交換し海外の高級別荘へのロングステイを楽しむ、といったホームエクスチェンジの様な新たな別荘活用法を模索する所有者も増えてきている。新幹線の開業や自家用車の普及、商業施設の充実などにより、一部の別荘地では観光地化して別荘利用者以外の層を誘客している場所もある。

別荘地に定住・移住する層も現れ、レジャーではなく田舎暮らし向けの林間住宅地と化し始めている事例や、大都市に比較的近い地域では単なる郊外住宅地・ベッドタウンとなっている場所も見られる。一部の別荘地所在自治体では別荘地に定住・移住する層の転入により人口が増加しているほか、自治体全体では人口が減少しているにもかかわらずその自治体内の別荘地やリゾートマンションの住民は増えているという例もある。ただ別荘利用者などの定住・長期滞在はリタイア組が多くを占めており、他地域からの転入者によって予測以上の高齢化が進んでいる。レジャー施設であるという別荘の本質から言えば別荘地ではあり得ないはずの医療介護などの問題が起きている。低収入且つ生活力に乏しく、日常の移動も容易ではない高齢者が、公共サービスの提供やライフラインの維持管理において一般住宅地と同一ではない別荘地に集住することによるスラム化の懸念など、これまでには想定されていなかった課題が生じている。スラム化防止や健全な風俗の維持、良好な環境の保全のため自治体の休養地、学校宗教団体など公益法人の厚生施設、企業保養所として先に分譲し、残った小型の区画を個人に割り当てる販売方法をとる業者や、民泊利用や貸別荘の営業に規制を掛ける方針を明示した別荘地所在自治体も現れている。

管理上次のような問題もある。

  • 長期間不在とするため、建物の管理上の問題が発生しやすい(例:風水害による窓ガラスや屋根の破損、凍結による水道管の破裂等)。
  • 一般の住宅同様、租税公課が課されるほか、住民票を置いていない所であっても、別荘を所在する市区町村から住民税の均等割も課税される。
  • 別荘利用者と自治体や地元一般住民と公共料金の負担を巡って対立するケースがある。別荘の使用が盛んなシーズンとそうでないシーズンの間には、水道などの社会資本の需要に大きな格差が生じるが、地元の自治体は必要な需要を賄うべく前者にあわせた規模の整備を行わなければならない。だが、それは地元の自治体に居住している人口規模に対して過剰にならざるを得ず、普段はそこまでの需要を必要としない地元一般住民の間には負担過重を訴えて過剰分を別荘利用者に転嫁すべきだと言う声もある。例えば、清里のある高根町(現・北杜市)では別荘利用者に対してのみ水道料金を1998年に3倍以上に引き上げている。
  • 1960年1970年代の高度経済成長期の別荘ブームやバブル期の大掛かりな開発により、大規模販売がされたものの、分譲会社や管理会社が倒産・破産してしまい、住民が管理組合や自治会を設立して運営をしなくてはいけないケースも多い。また、水道も私営で尚且つ、無認可水道の場合もある。(例・株式会社大都破産による伊豆エメラルドタウン管理組合)。

また各別荘地では所轄の郵便局が配達の便宜上別荘や別荘地内を区分し、個々の別荘に「ハウス番号」等と呼ばれる数字やアルファベットなどを付けており、宅配業者などもこれを利用している。別荘にも住居表示のように掲げられているが、これらは住居表示に関する法律とは無関係の記号であり、住民基本台帳法上の住所地番とも異なる。

別荘の本質は日常生活を送る住居ではなく、余暇のためのレジャー施設である。税制上も「生活に通常必要でない資産」、即ちゴルフ会員権競走馬宝石貴金属骨董品等と同様の贅沢品としてとして取り扱われ、「主として趣味、娯楽、保養又は鑑賞の目的で所有する不動産」として定義されている。しかしの間だけ過ごしたり、長期休暇中のみ使用するといった一時滞在のための施設ではなく、週末に郊外で生活するためのものや、遠距離通勤者が職場の近くに身を置くための仮住まいといった、日常生活上長期間継続して反復される滞在に使用される物件については「セカンドハウス」として生活必需品の取り扱いが受けられる場合がある。これは家族が離れ離れになって暮らす単身赴任の解消、二拠点居住・二拠点生活(デュアルライフ)のようなライフスタイルの多様化、1992年(平成4年)の農林水産省による「グリーンツーリズム」提唱などの諸政策を反映したものである。

週末に生活するための住居の中には、単なる郊外ではなく、風光明媚な地や農山漁村、温泉地などで山歩き散策湯治園芸魚釣りマリンスポーツなど田舎暮らしを楽しむため、つまり本質においてはレジャー施設と大差ないものとしてとして使われている例もあるが、ひと月に一度1泊2日以上過ごす物件についてはこれを「セカンドハウス」と認定している。地方自治体に「セカンドハウス」であると認められた住居は、不動産取得税固定資産税都市計画税の軽減など税制上優遇される場合がある。これは別荘地に建っているか否かといった立地を問うものではなく、日常の用途に充てられていれば「セカンドハウス」として扱われるが、その要件は自治体の定めるところによる。

有名な別荘及び別荘地

アジア

アラブ首長国連邦の旗 アラブ首長国連邦

アルメニアの旗 アルメニア

インドの旗 インド

大韓民国の旗 韓国

  • 青南台 - 韓国大統領専用の別荘地として使用されていた保養施設であったが、23年間の大統領別荘地としての青南台の歴史は終わり、市民公園に

キプロスの旗 キプロス

  • キプロス - 別荘地としても有名で、それに伴って不動産投資も盛ん

中華民国の旗 台湾

  • 澄清湖湖畔 - 高雄市の北郊にある人工湖で、かつて蔣介石らが住んだ別荘地
  • 陽明山 - 中腹は台湾別荘地として開発され、また週末には夜景を楽しむ観光客でにぎわう

中華人民共和国の旗 中国

  • 太陽島 - 初めはロシア人の別荘地、幾度かの造営の後、現在の姿になった
  • 廬山 - 中国でも最大規模の避暑地・別荘地がここに形成された
  • 松北区 - 区内に松花江中州がかつてロシア人の別荘地
  • 青島市八大関 - 1930年代に外国官僚、資本家用の別荘地として開発、現在でも当時の洋館が残っている
  • 北戴河区別荘地街 - 細かな砂からなる浜辺が戴河河口から東へ伸びる

日本の旗 日本

北海道
東北地方
岩手県
  • 雫石町・コテージむら - ダムの移転地として予定されていたが、ダム移転の話が変更され、農地保有合理化事業を活用して「農業施設用地付き農地」の分譲地へと計画変更
  • 臨安別荘地 - 東日本レクリエーションセンター、春子谷地湿原、臨安別荘地など自然に恵まれており、国立岩手山青年の家も近い
宮城県
福島県
関東地方
茨城県
  • 大洋村 - 1970年代後半からバブル期にかけて村内各地にて開発が行われ、農地付きのセカンドハウス・別荘が売り出された。当初は交通不便な地であったが、1985年鹿島臨海鉄道大洗鹿島線が開業し東京方面からのアクセスが改善。「菜園別荘」と銘打ってテレビCMを放映、有名タレントを起用しての新聞広告など大掛かりな宣伝も行われ、一時は相当の売れ行きとなった。しかし別荘地としての整備は不十分なまま、バブル崩壊後は寂れており、荒廃した物件が点在している。乱開発の象徴としてマスメディア研究者などが言及することも多いが、別荘利用者や定住者はその後もおり、販売もされている。2005年(平成17年)に鉾田市の一部となった。
栃木県
群馬県
千葉県
東京都
神奈川県
中部地方
山梨県
長野県
新潟県
  • 苗場分譲地(白樺平別荘地)西武苗場ビラと共に開発された
静岡県
愛知県
  • 八事 - 明治のころからは名古屋の保養地的地域となり、別荘地や遊園地が作られる
  • 新舞子旭町 - 現・名古屋鉄道)などによって観光地、別荘地として開発された。戦前には別荘地のほか、舞子園(遊園地)、新舞子楽園なども
  • 長浦駅 (愛知県)周辺 - 別荘地のほか海水浴場
岐阜県
近畿地方
三重県
滋賀県
  • 比叡平 - もとは高原別荘地として売り出されたが、立地条件などから次第に住宅地へ
京都府
大阪府
兵庫県
中国地方
広島県
山口県
四国地方
香川県
  • 挿頭丘駅 - 旧琴平電鉄が住宅・別荘地として開発した挿頭丘別荘地への最寄駅
九州地方
福岡県
  • 中間市 - 黒田藩の御茶屋跡は、小学校の裏手にある御座の瀬山にあった黒田藩の別荘地跡
長崎県
大分県
  • 湯布院 - 九州最大の別荘地。ことぶき別荘村、東急由布高原など。先発のことぶき別荘村が1967年より分譲を開始。以後福岡の富裕層が定着し、湯布院のブランド化に寄与している。
  • 用作公園 - 元岡藩の家老の別荘地の庭園を公園としたもの
鹿児島県
分類不明

フィリピンの旗 フィリピン

香港の旗 香港

  • ヴィクトリア・ピーク - 当初は富裕な西洋人と外国政府関係者だけの別荘地に、後には観光地となり現在に至っている

マレーシアの旗 マレーシア

ヨーロッパ

イタリアの旗 イタリア

スペインの旗 スペイン

ドイツの旗 ドイツ

  • ニーデルンベルク - 2005年に一般開放された水浴場「ホーニッシュビーチ」と別荘地がある

 フィンランド

  • イー - フィンランドの中では夏期の別荘地として知られている

フランスの旗 フランス

 ブルガリア

ポーランドの旗 ポーランド

  • オルシュティン - 夏場の一大観光地および別荘地として人気があり、ヨーロッパ各地から避暑客が訪れる

 リトアニア

ロシアの旗 ロシア

米州

アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国

カナダの旗 カナダ

ハイチの旗 ハイチ

脚注

  1. ^ a b c 朝比奈佳尉、アンドレア・フィオレッティ『日本人が知りたいイタリア人の当たり前』2017年、33頁。 

関連項目