出身成分
出身成分 | |
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各種表記 | |
ハングル: | 출신성분 |
漢字: | 出身成分 |
発音: | チュルシンソンブン |
日本語読み: | しゅっしんせいぶん |
MR式: 2000年式: |
Ch'ulsin-sŏngpun Chulsin-seongbun |
出身成分(しゅっしんせいぶん)とは、現代の朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)における階層制度およびその階級を指す語である。
「住民成分(じゅうみんせいぶん)」もしくは単に「成分」と呼ぶこともある。
沿革
1957年、金日成は朝鮮戦争休戦後の国家運営をめぐり延安派やソ連派などの対立勢力を大規模な粛清で消し去ったが、この粛清は党幹部や政府高官のみならず、一般市民にまで及んだ。
そして、1958年から1960年にかけての「中央党集中事業」で、金日成に対する忠誠度に基づき、全国民の「核心階層(トマト階層)」「動揺階層(リンゴ階層)」「敵対階層(ブドウ階層)」の3種類への分類が開始された。この内、状況次第で党に抵抗する可能性がある動揺階層は監視対象、党に否定的な態度をとる敵対階層は特別監視対象になった他、約7万人(約1万5000世帯)が山間地や僻地への強制移住を命じられ、約6000人以上が「反革命」の名目で処刑された。
1966年から翌1967年には、住民再登録事業が行われた。これによって全国民の両親とその六親等が調査され、さらに3年の調査を経て51の出身成分に細分された[1]。
実態
出身成分は家系を三代前まで遡って調査し、金日成や金正日への忠誠度の順に「3大階層51個分類」(1980年代に13分類を追加したとする資料もある[2])に分類されている。3大階層とは「核心階層」「動揺階層」「敵対階層」の3つであり、51個分類とは、各階層内における分類である[3][1]。なお、現在の最高指導者である金正恩の母親である高英姫は、本来「動揺階層」か「敵対階層」に該当する在日朝鮮人であることは北朝鮮ではタブーになっているとされる[4][5]。
核心階層 (かくしんかいそう) (13個分類) |
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動揺階層 (どうようかいそう) (27個分類) |
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敵対階層 (てきたいかいそう) (11個分類) |
待遇
- 「核心階層」
- 外も中も赤い(≒主体思想に染まっている)ことから『トマト階層』とも呼ばれる。
- 国に忠誠を尽くすものと見なされ、特権階級として数多くの恩恵を受けている。平壌を始めとする主要都市の居住者はほぼ全てが核心階層である。
- ただ、その生活は生涯安泰というわけでは決してなく、朝鮮労働党を除名された者は動揺階層に降格されるほか、かつて朝鮮人民軍の将校の息子が北朝鮮で禁止されているポルノ映画を撮影し、出演した女優とともに絞首刑に処せられたこともあるという。
- 「動揺階層」
- 外が赤いが中は赤くない(≒上辺だけの主体思想を持つ)ことから『リンゴ階層』とも呼ばれる。朝鮮労働党を除名された者も含まれる。
- 将来国への忠誠を覆す可能性があるとされ、監視の対象になる上に職場での昇進に上限線が科せられるが、国への忠誠度が高い場合は優遇措置を得られる。
- 「敵対階層」
- 外も中も赤くない(≒主体思想に染まっていない)ことから『ブドウ階層』とも呼ばれる。
- 本人の能力・素行と関係なく国に反抗する可能性が高いと見なされ、特別監視と差別的待遇の対象とされ、平壌など主要都市への居住や高等教育機関への進学が出来ないのはもちろん、炭坑地区などへの強制居住や強制収容所への送致などが課される。
- 身分の移動について
- 該当者から2代(=孫の世代)を超え、かつ優秀な人材であれば登用される例もあるとされている[6]。また、北朝鮮への帰国事業で北に渡った在日朝鮮人らは最下層に分類されているが、在日本朝鮮人総聯合会(総聯)が結成される以前に日本共産党に在籍、または総聯結成後も出国するまで日本共産党員だったなどの理由で、核心階層に入った者も確認されている[7]。
- またよど号ハイジャック事件を起こし北朝鮮に亡命したよど号グループのうち、吉田金太郎は祖父が資本家だったために、グループから早期に離れたのではないかとの推測もある[8]。
真偽
建前では身分制度が存在しないとされる社会主義体制を採っているとしているため、北朝鮮当局は「このような国民差別は存在していない」と否定しており[1]、「韓国当局によるでっち上げ」と主張している。しかし、脱北者の多くが「存在している」との証言をしており、最も深刻な人権侵害(北朝鮮の人権問題)の一つだと指摘されている[9]。
内藤陽介(郵便史コレクション研究家)によれば、北朝鮮郵政当局が1997年に発行した「万景台革命学院50周年」記念切手セットのうち、切手帳(記念切手に表紙をつけて販売したもの)の表紙の説明文に、同学院の設立目的を朝鮮語および英語で「(同学院は)朝鮮革命の核心メンバーを教育するための基地と孤児のための学校(英語では “It is a school for bereaved children and a dependable base of training the core members of the Korean revolution.” )」との解説があり、少なくとも「核心階層」が存在している事を北朝鮮郵政当局が告白した証左としている[1]。
米国の北朝鮮人権委員会 (U.S. Committee for Human Rights in North Korea) も、身分制度の存在について報告している[10]。
もっとも、北朝鮮以外の共産主義国においても、中華人民共和国(中国)の「黒五類」のように、資本家や貴族出身者などは財産を没収された上強制労働に従事させられ、子孫までも差別される一方で、権力者たちは出自を問われることもなく(左翼や革命家の類はもともと裕福な者や上級階層の者が多く、毛沢東は地主階級、さらにはソビエト連邦のウラジーミル・レーニンにいたっては父の代に叙された貴族出身だった)、「共産貴族」と化するなど、同様の例があった。
出身成分を扱った作品
- 松岡圭祐 『出身成分』 2019年、KADOKAWA、ISBN 978-4-04-108329-1。
脚注
- ^ a b c d 内藤陽介 『北朝鮮事典-切手で読み解く朝鮮民主主義人民共和国』 竹内書店新社、2001年、161-163頁、ISBN 4-8035-0316-8。
- ^ 鄭箕海 『帰国船-楽園の夢破れて三十四年』 鄭益友訳、文藝春秋、1995年、342-345頁、ISBN 4-16-350010-3、ISBN 978-4-16-350010-2。
- ^ 「北朝鮮:「出身成分」調査、60年代に日本政府把握--明治大助教授が分析」 2006年8月4日付『毎日新聞』
- ^ NEWSポストセブン (2012年2月17日). “北朝鮮が必死に隠す「りんご問題」 金正恩実母は在日朝鮮人”. 小学館. 2019年12月19日閲覧。
- ^ アジア調査機構2012年5月14日報告
- ^ 重村智計 『最新北朝鮮データブック』 講談社現代新書、2002年、129-130頁、ISBN 4-06-149636-0、ISBN 978-4-06-149636-1。
- ^ 「帰国事業で北に渡った在日朝鮮人、最下層に分類」 Archived 2008年12月5日, at the Wayback Machine. 2006年8月5日付『朝鮮日報』
- ^ 高沢皓司『宿命 「よど号」亡命者たちの秘密工作 』(新潮社、1998年)
- ^ 脱北者の悲痛な訴え、弁護士協会が人権白書 Archived 2008年10月13日, at the Wayback Machine. 2008年10月13日付『朝鮮日報』
- ^ “The Hidden GULAG - Exposing North Korea's Prison Camps - Prisoners' Testimonies and Satellite Photographs” (PDF). U.S. Committee for Human Rights in North Korea. p. 27 (2003年). 2011年12月21日時点のオリジナルよりアーカイブ。2012年4月17日閲覧。