ヴァイシェーシカ学派

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ヴァイシェーシカ学派(ヴァイシェーシカがくは)はダルシャナ(インド哲学, darśana)の学派である。現代では六派哲学(ṣad darśana)の1つに数えられる[1]カナーダが書いたとされる『ヴァイシェーシカ・スートラ』を根本経典とする。一種の自然哲学と見なされることもある。

『ヴァイシェーシカ・スートラ』では、全存在を6種のカテゴリーから説明する。言葉は実在に対応しており、カテゴリーは思惟の形式ではなく客観的なものであるとする。 カテゴリーは実体・属性・運動・特殊・普遍・内属の6種である。

6種のカテゴリー

実体

実体(dravya)は以下のように分けられる。

  • 地 (pṛthivī)
  • 水 (āpas)
  • 火 (tejas)
  • 風 (vāyu)
  • 虚空 (ākāśa)
  • 時間 (kāla)
  • 方向 (dik)
  • アートマン (ātman)
  • 意(マナス) (manas)

属性

属性(guṇa)は以下のように分けられる。

  • 色 (rūpa)
  • 味 (rasa)
  • 香 (gandha)
    • 芳香
    • 悪臭
  • 触 (sparśa)
    • 非冷非熱
  • 数 (saṅkhyā)
  • 量 (parimāṇa)
  • 別異性 (pṛthaktva)
  • 結合 (saṃyoga)
  • 分離 (vibhāga)
  • 彼方性 (paratva)
  • 此方性 (aparatva)
  • 知識作用 (buddhi)
  • 楽 (sukha)
  • 苦 (duḥkha)
  • 欲求 (icchā)
  • 嫌悪 (dveṣa)
  • 意志的努力 (prayatna)

運動

運動(karma)は以下のように分けられる。

  • 上昇 (utkṣepaṇa)
  • 下降 (avakṣepaṇa)
  • 収縮 (ākuñcana)
  • 伸張 (prasāraṇa)
  • 進行 (gamana)

普遍・特殊・内属

普遍 (sāmānya)
同類の観念を生む原因である。黒い牛も白い牛も同じ牛であると分かるのは普遍としての「牛性」を牛が持っているからである。
特殊 (viśeṣa)
あるものを別のものから区別する観念の原因である。牛が牛であって馬でないと分かるのは特殊としての「牛性」を牛が持っているからである。
内属 (samavāya)
不可分でありながら別個の実在となっているもの同士の関係である。糸と布は内属の関係にある。

勝宗十句義論

ヴァイシェーシカ学派の綱要書の漢訳として、6-7世紀の慧月著・玄奘訳とされる『勝宗十句義論』が伝わる[2]。ただし、サンスクリット原典が伝わらず、チベット訳も無い[2]。また内容が特殊で、6種ではなく10種のカテゴリーが扱われる[2]。同書は仏教の論書ではないが大蔵経に収められた[3]。日本では江戸時代に盛んに研究され、複数の注釈書が著された[3]

関連項目

脚注

  1. ^ 六派哲学”. ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典. 2020年8月23日閲覧。
  2. ^ a b c 立川武蔵井上円了の『外道哲学』」『井上円了選集』第22巻、2003年、701頁。 
  3. ^ a b 宮元啓一・小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)『勝宗十句義論』 - コトバンク