ネコ科

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ネコ科
ヨーロッパヤマネコ
ヨーロッパヤマネコ Felis silvestris
保全状況評価[1]
ワシントン条約附属書II
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 哺乳綱 Mammalia
: 食肉目 Carnivora
亜目 : ネコ型亜目 Feliformia
: ネコ科 Felidae
学名
Felidae Fischer von Waldheim, 1817[2][3]
和名
ネコ科[4][5][6][7]
亜科(現生)

ネコ科(ネコか、Felidae)は、哺乳綱食肉目に分類される科。

最初のネコ科の動物が現れたのは漸新世のことであり、4000万年ほど昔のことである。人間にとってもっとも身近な種であるイエネコが人間に飼われ始めたのは約1万年前からとされている[8]ネコ科の種は幅広い環境に適応しており、アフリカからアジア、南北アメリカにわたって野生の個体が生息している。生育地の多くは保護されており、猟などは禁止されている。[要出典]

分布

オーストラリア大陸、南極大陸、マダガスカルを除く主要な大陸や島[6]

形態

ネコ科の全ての種は捕食動物(プレデター)であるため、狩りに適した身体的特徴をもつ。

身体はしなやかな筋肉質で、瞬発力を活かした動きで狩りを行う一方、持久力に乏しく、イヌ科動物のように長距離を追い回すような狩りは行わない。多くの種は木に登ることが得意で、背中に迷彩模様をもつ。非常に強力な後ろ足を持ち陸上動物の中で最速の110 km/hで走るチーターや、6 m以上の距離をジャンプするユキヒョウ、木からジャンプして飛ぶ鳥を捕食するマーゲイ、水中で狩りをするスナドリネコなどもいる。

耳介は大型で漏斗状をしており、集音効果に優れている[6]。耳介は頭の上に立つ形のものがほとんどで、目と同じように、両耳介を揃えて前方に向けると高い指向性を発揮し、獲物の距離や方向を音からも鋭敏に知覚できる。可聴帯域は広く、種[疑問点]によっては100 kHzまでの帯域をカバーする。眼は大型で、立体視ができ色覚もある[6]は頭蓋の前方を向き、立体的に獲物までの距離を知ることができる。瞳孔は調節する筋肉が作用し、明るさの変化への順応が早い[6]網膜の感覚細胞の後部に反射層(タペタム)があり、これにより光が感覚細胞を透過せず反射することで2回刺激され暗所でも適応できる[6]縮瞳時と散瞳時とで瞳孔径の差が大きい。これらは、多くが元々夜行性で、森で活動していたためと考えられている。なお、暗い場所にいるネコ科の動物に正面から光を当てると目が光って見えるのは、網膜の反射層によるものである。

歯列は門歯が上下6本、犬歯が上下2本、小臼歯が上6本・下顎4本、大臼歯が上下2本と計30本の種が多い(オオヤマネコ類・マヌルネコ・亜種イリオモテヤマネコなどは上顎の小臼歯が4本のため計28本)[6]。犬歯は大型で(ウンピョウで顕著)、獲物に噛みつき仕留めるのに適している[6][7]。陸棲食肉目の中で最大の犬歯と鋭い裂肉歯を持ち、短く大きいにより咬む力は相当強い。第二・第三大臼歯は完全に退化していて、裂肉歯の奥にある上顎第一大臼歯は痕跡器官となっている。食物を咀嚼する大臼歯が退化している代わりに、に鑢状の突起があり食物を固定・引き裂き・肉を削ぎ落とすことができる[6]。ヒョウ属では舌骨の基部を動かすことができ、これによって吠えることができる[6][7]

多くの種でをさやに引っ込めることができ、木登りや獲物を捕らえる時にだけ爪を出す[7]獲物の捕獲や木登りに用いる鉤爪は常に鋭く研がれており、チーターを除く全ての種が、収納できる。また、他の食肉目と同様に足の裏に肉球をもつ。これらの特徴は獲物に近づく際に足音を抑えて、獲物に気づかれにくい利点がある[要出典]

分類

1 

Neofelis

Panthera

2 

Leptailurus

Caracal

3 

Leopardus

4 

Lynx

5 

Pardofelis

Catopuma

6 

Acinonyx

Puma

Herpailurus

7 

Otocolobus

Prionailurus

8 

Felis

現生14属の系統関係[9]。数字は8つの系統を示す。

分子系統解析から現生種は中新世後期に以下の8つの系統に分かれたと考えられる[10]

  1. Panthera lineage
  2. Caracal lineage
  3. Ocelot lineage
  4. Lynx lineage
  5. Bay cat lineage
  6. Puma lineage
  7. Leopard cat lineage
  8. Domestic cat lineage

以下の分類はこうした分子系統解析の結果を反映させたIUCN SSC Cat Specialist Group (2017)[2]に基づいている。和名は断りのない限り川田ら (2018)[5]に、英名はWozencraft (2005)[3]・IUCN SSC Cat Specialist Group (2017)[2]に従う。

化石種まで含めれば、絶滅したマカイロドゥス亜科 Machairodontinae(≒剣歯虎)と、いくつかの原始的な亜科未定の属がある[14][15]。プロアイルルス亜科 Proailurinae を認める説もある[16]

分類史

リンネの『自然の体系』でネコ属(Felis)とされたものが7種(ライオン・トラ・ヒョウ・ジャガー・オセロット・イエネコ・オオヤマネコ)あり、これは現在の現生ネコ科の範囲におおよそ対応している。19世紀にジョン・エドワード・グレイニコライ・セヴェルツォフらによって属が多数分割されたあと、1917年にレジナルド・インズ・ポコックネコ亜科ヒョウ亜科・チーター亜科の3亜科に分類したものが現在に続く現生ネコ科の下位分類の基本となっている[17]。亜科に関しては、分子系統解析などからチーター亜科の独立性が否定されているほか、化石種の分類体系との均衡から現生種を全てネコ亜科に含めヒョウ亜科を認めない場合もある[15][18]。属については20世紀中葉にジョージ・ゲイロード・シンプソンの影響で現生種が3属のみにまとめられたこともある[19]が、その後は一部が復活する形でおおよそ11属から14属が認識されるに至っている[2]

生態

約4分の3以上の種が森林に生息する[6]夜行性で森や茂みの中で生活する種が多い。主に単独で生活するが[6]、ライオンやチーターは血縁関係のある個体で群れを形成することもある[7]。野生のネコ科動物は群れ(家族集団)で狩りをするライオンを除き、すべて単独で狩りを行う[20][要検証]

主に脊椎動物を食べるが、魚類、昆虫、果実を食べることもある[7]。肉のみを食料とする種も多く、ほとんどの地域で食物連鎖の頂点にいる。

主に2 - 3匹の幼獣を産む[7]。出産間隔は小型種では年に1 - 2回、大型種は2 - 3年に1回[7]

人間との関係

毛皮目的の狩猟、家畜や人間を襲う害獣としての駆除などにより生息数が減少している種もいる[7]

地域での自然破壊野生動物の減少に従い、多くの野生種は野生絶滅の危機に瀕し、保護地域で生存するのみとなっている。さらに、毛皮を求める人間の乱獲により個体数の減少に拍車をかけている。イエネコを除くほとんどすべての種はIUCNレッドリストに掲載されており、特に絶滅の危機の高い絶滅危惧IA類(CR)、絶滅危惧IB類(EN)、絶滅危惧Ⅱ類(VU)のいずれかにランクされる種が10数種に上っている。飼育によって繁殖できる種もあるが、生態がよく研究されていない種も多い。

出典

  1. ^ Appendices I, II and III, valid from 28 August 2020 <https://cites.org/eng> (Accessed 01 November 2020)
  2. ^ a b c d IUCN SSC Cat Specialist Group, "Species accounts," Cat News, Spacial Issue 11, 2017, Pages 11-75.
  3. ^ a b W. Christopher Wozencraft, "Order Carnivora," Mammal Species of the World, (3rd ed.), Don E. Wilson & DeeAnn M. Reeder (ed.), Volume 1, Johns Hopkins University Press, 2005, Pages 532-628.
  4. ^ 伊澤雅子編著 「食肉目(ネコ目)の分類表3」『動物たちの地球 哺乳類II 1 トラ・ライオン・ヤマネコほか』第9巻 49号、朝日新聞社、1992年、32頁。
  5. ^ a b 川田伸一郎・岩佐真宏・福井大・新宅勇太・天野雅男・下稲葉さやか・樽創・姉崎智子・横畑泰志世界哺乳類標準和名目録」『哺乳類科学』第58巻 別冊、日本哺乳類学会、2018年、1-53頁。
  6. ^ a b c d e f g h i j k l Gillian Kerby 「ネコ科」今泉忠明訳『動物大百科 1 食肉類』今泉吉典監修 D.W.マクドナルド編、平凡社、1986年、35-36頁。
  7. ^ a b c d e f g h i j k 成島悦雄 「ネコ科の分類」『世界の動物 分類と飼育2 (食肉目)』今泉吉典監修、東京動物園協会、1991年、150-171頁。
  8. ^ ネコは自ら人間と暮らし始めた? DNA分析で判明|ナショジオ|NIKKEI STYLE”. 日経ナショナル ジオグラフィック社. 2017年7月3日閲覧。
  9. ^ Li et al. (2016). “Phylogenomic evidence for ancient hybridization in the genomes of living cats (Felidae)”. Genome Res. 26 (1): 1-11. doi:10.1101/gr.186668.114. PMC 4691742. PMID 26518481. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4691742/. 
  10. ^ a b c Johnson, W.E. et al. (2006). “The Late Miocene Radiation of Modern Felidae: A Genetic Assessment”. Science 311 (5757): 73-77. doi:10.1126/science.1122277. 
  11. ^ a b 今泉吉典「イリオモテヤマネコの外部形態」『自然科學と博物館』第34巻 第5-6号、国立科学博物館、1967年、73-83頁。
  12. ^ Valerie A. Buckley-Beason, Warren E. Johnson, Willliam G. Nash, Roscoe Stanyon, Joan C. Menninger, Carlos A. Driscoll, JoGayle Howard, Mitch Bush, John E. Page, Melody E. Roelke, Gary Stone, Paolo P. Martelli, Ci Wen, Lin Ling, Ratna K. Duraisingam, Phan V. Lam, Stephen J. O’Brien, "Molecular Evidence for Species-Level Distinctions in Clouded Leopards," Current Biology, Volume 16, Issue 23, 2006, Pages 2371-2376.
  13. ^ Andrew C. Kitchener, Mark A. Beaumont, Douglas Richardson, "10.1016/j.cub.2006.10.066 Geographical Variation in the Clouded Leopard, Neofelis nebulosa, Reveals Two Species," Current Biology, Volume 16, Issue 23, 2006, Pages 2377-2383.
  14. ^ Werdelin, L; O'Brien, S.J.; Johnson, W.E.; Yamaguchi, N. (2010). “Phylogeny and evolution of cats (Felidae)”. In Macdonald, D.W., Loveridge, A.J.. Biology and Conservation of Wild Felids. Oxford: Oxford University Press. https://www.researchgate.net/profile/Nobuyuki_Yamaguchi3/publication/266755142_Phylogeny_and_evolution_of_cats_Felidae/links/543ba0710cf2d6698be30c5e.pdf 
  15. ^ a b Sakamoto, Manabu; Ruta, Marcello (2012), “Convergence and Divergence in the Evolution of Cat Skulls: Temporal and Spatial Patterns of Morphological Diversity”, PLoS ONE 7 (7), doi:10.1371/journal.pone.0039752, http://www.plosone.org/article/info%3Adoi%2F10.1371%2Fjournal.pone.0039752 
  16. ^ McKenna, Malcolm C.; Susan K. Bell (2000). Classification of Mammals. Columbia University Press. pp. 631. ISBN 978-0-231-11013-6 
  17. ^ Pocock, R. I. (1917). “The Classification of existing Felidae”. Ann. Mag. N. Hist. Ser. 8 20: 329-350. https://archive.org/stream/annalsmagazineof8201917lond#page/n359/mode/2up. 
  18. ^ Lars Werdelin (2013). “Family Felidae”. In Kingdon et al.. Mammals of Africa. 5. Bloomsbury. pp. 144-147 
  19. ^ Simpson, G.G. (1945). “Felidae”. The principles of classification and a classification of mammals. Bulletin of the American Musium of Natural History. 85. pp. 230-232. https://hdl.handle.net/2246/1104 
  20. ^ Clutton-Brock 1992, p.22

参考文献

  • Juliet Clutton-Brock 著、㈱リリーフ・システムズ 訳『ネコ科の動物』株式会社 同朋舎出版〈ビジュアル博物館〉、1992年。ISBN 978-4810410884 

関連項目