シンナー

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シンナー (paint thinner) はラッカーペイントワニスなどの塗料を薄めて粘度を下げるために用いられる有機溶剤である。「うすめ液」とも呼ばれる。英語 thin は「薄める」を意味する動詞である。独特の臭いを持つ。

塗料に含まれる樹脂セルロース誘導体添加物析出しない、平滑な塗面を与える、などの特性を持つことが要求され、トルエン酢酸エステル類、アルコール類などが利用される。

毒性・作用

特にトルエンを主として、シンナーに含まれる有機溶剤には中枢神経麻痺作用があり、蒸気吸引により酔っ払い状態になる。

例えばトルエンの場合は100 ppm程度から急性中毒を起こし、軽度であれば悪心頭痛嘔吐倦怠感などが起こり、重症になると運動機能異常・意識消失・知覚異常などが起こり、最悪の場合呼吸困難をおこしてに至ることもある。また生きていたとしても中枢神経の変化を起こす可能性がある。

長期にわたって吸い続けると依存症になり、吸引常習者は感情不安意識障害幻覚妄想、一時的意識喪失などの症状が現れ、脳神経が冒されて中毒精神病になりやすい。MRI画像を見ると脳が萎縮していることが多い[1]

中枢神経麻痺作用がある理由は、アルコール)と同様に有機溶剤が脂溶性であり、大脳の構成物質も脂肪の一種であるリン脂質であることから、血液脳関門を容易に突破するためである。

労働者保護

シンナーは現代の各種産業に不可欠なものであるが、有害で労働者健康を損ねる確率が高い。有機溶剤中毒予防規則(昭和47年 労働省令第36号、通称有規則)が施行され、使用している有機溶剤の種別を掲示したり、作業環境における換気装置の設置や濃度の測定、従事者の防毒マスク等保護器具の装着、特殊健康診断などが義務付けられるようになった。これに伴い、事故を起こさぬよう有機溶剤作業主任者を配置し管理の徹底と従事者に対する事故防止方法の伝達、事故発生時の対策を行わせるようになった。

シンナー遊び

日本では、シンナー蒸気吸引が1967年(昭和42年)頃から青少年の間に「シンナー遊び」として流行して社会問題化したことをきっかけに毒物及び劇物取締法を一部改定し、1972年(昭和47年)8月1日より使用、販売等が規制されている[2]。このことにより日本の法律ではシンナーに含まれる成分であるトルエンキシレンメタノール酢酸エチルメチルエチルケトン劇物として指定され、これらを含む製剤の吸引や吸引目的の所持等を禁止するとともに、違反を行った者の取締りが行われるようになった。

また、シンナー遊びにおいてシンナーを詰めたのこと、もしくはシンナー遊びそのものを俗に「アンパン」、関西地方では「チャンソリ」という。袋からシンナーを吸う様子があんぱんを食べるさまに似ていることからである。法規や各自治体の条例が厳しくなり、塗料販売店から簡単にシンナーを購入できなくなったため、管理のゆるい小規模な化学製品工場の資材置場からトルエンやアセトンの缶を盗んで吸引するといった非行例が見られた。

シンナー遊びは10代成長期(思春期)においても多く行われる。その多くは、友達や先輩などからの誘いや売人からの売買で手に入れる場合が多い。シンナーを吸引すると最初は強い多幸感をもたらし、日常生活のさりげない行動が楽しく感じられるといわれる。その後は急激に副作用が強まり、全身の筋肉の劣化、成長期における(軟化し脆くなる)や生殖器への障害などが見え始め、ついには「自分が殺されそうだ」という妄想や「電波があいつを殺せといったんだ」というような幻聴、そして「だれか自分を見張っている」などの幻覚症状などが発生する。それでも、副作用から逃れるためや一時の快感を求めて再びシンナーを吸引し、最終的には意識不明の重体や死亡に至る場合もある[3]。また、揮発性と引火性の高い液体であるため、酩酊した状態でタバコを吸おうとして引火し焼死する事故も起きている。

脚注

  1. ^ トルエンのMSDS
  2. ^ 「きょうから罰金だぞ シンナー遊び一斉取締まり」『朝日新聞』昭和47年(1972年)8月1日夕刊、3版、9面
  3. ^ 意識もうろう、凍死 シンナーの四少年『朝日新聞』1976年(昭和51年)4月2日夕刊、3版、11面

関連項目

外部リンク