シロナガスクジラ

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シロナガスクジラ
シロナガスクジラ
シロナガスクジラ
シロナガスクジラ Balaenoptera musculus
保全状況評価[1][2][3]
ENDANGERED
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 哺乳綱 Mammalia
: 偶蹄目/鯨偶蹄目
Artiodactyla/Cetartiodactyla
: ナガスクジラ科 Balaenopteridae
: ナガスクジラ属 Balaenoptera
: シロナガスクジラ
B. musculus
学名
Balaenoptera musculus
(Linnaeus, 1758)[3][4][5]
和名
シロナガスクジラ[5][6]
英名
Blue whale[3][4][5][6]

シロナガスクジラ(白長須鯨、Balaenoptera musculus)は、哺乳綱偶蹄目(鯨偶蹄目とする説もあり)ナガスクジラ科ナガスクジラ属に分類される鯨類。

現存する最大の動物種である。個体では最大。群体の全長も動物の全長として認め、体長に限って言えばマヨイアイオイクラゲ、さらにカツオノエボシの方が長いとも言える。かつて地球上に存在した確認されている限りの恐竜や動物を含めても、あらゆる既知の動物の中で最大の種であり、記録では体長34メートルのものまで確認されている。長身であることを指して、江戸時代にはナガスクジラとともに「長須鯨」と呼ばれた。「白」を冠した現在の和名は、浮かび上がる際に水上からは白く見えることに由来する。 英語では一般にblue whaleと呼ぶが、腹側に付着した珪藻によって黄色味を帯びて見えることからsulphur bottom(「硫黄色の腹」)の異称もある[要出典]

分布

熱帯から寒帯にかけての外洋域[5]

模式標本の産地(基準産地・タイプ産地・模式産地)はフォース湾(イギリススコットランド)[4]。オホーツク海や地中海・日本海・東シナ海・ベーリング海などには分布しない[3][5][6]

形態

全長26メートル[6]。最大全長33.6メートル[6]。体重190トン(全長27.6メートル)と哺乳綱最大種[6]。体長20-34m、体重80-190t。成体ではオスよりメスのほうが若干大きい。体型は紡錘型[5]。下顎から臍にかけて55 - 88本の溝(畝)が入る[5][6]。体色は青灰色で[6]、淡色の斑紋が点在する[5]。和名は水中では他種と比較して白く見えることに由来する[5]。胸鰭の腹面は白い[5][6]

上顎は扁平で、アルファベットの「U」字状[5]。髭は髭板も剛毛も黒い[5][6]。背鰭は小型で、三角形[5]

上あごと下あごが軟骨のみで繋がっているため、直径10メートル近く口をあけることができる。流線型の体型をしており、尖った頭部をもつ。細く長い胸びれ、横に広がった薄い尾ひれをもつ。また、背中の後方には小さな背びれをもつ。この背びれの形や、付近の模様から個体識別を行うことができる。体表は淡灰色と白のまだら模様で、のどから胸にかけては白い模様になっている。のどの表面には60本程度の畝(うね)がある。主食であるオキアミを捕食するときは、この畝が広がって大きなのど袋をつくる。頭頂部には2つの噴気孔がある。歯に代わる部分として食事に使われるいわゆる鯨髭と呼ばれる髭板の長さは一枚70cm以上にも及ぶ。ただし、髭板の長さではセミクジラ科のホッキョククジラの方がはるかに長く、最大3m近くに達するのに比べれば小さく、鰭の大きさでも同じ仲間のザトウクジラには及ばない。しかし、シロナガスクジラ最大の特徴は、やはり何と言ってもその体長である。世界最大の動物であるが、その大きさは、人間を仮に平均170センチメートルだとすると、シロナガスクジラは、およそ12倍から最大で20倍に相当する。ちなみに34メートルというのは、およそ11階建てのビルと同じである[要出典]

大きさや側面の模様は、2番目に大きいナガスクジラと類似するため、アイスランドでは捕獲したクジラが捕鯨禁止のシロナガスクジラか否かが問題となったことがある。その際には、稀に見られるシロナガスクジラとナガスクジラの交雑種の存在も指摘された[7]

分類

以下の亜種の分類は、Mead & Brownell(2005)に従う[4]。和名・形態は、粕谷(2001)に従う[6]

Balaenoptera musculus musculus (Linnaeus, 1758) キタシロナガス
北半球[6]。南限は北緯20度周辺で、北緯80度周辺のスピッツベルゲン島周辺まで回遊を行う[6]
全長24 - 25メートル。
Balaenoptera musculus brevicauda Ichihara, 1966 ピグミーシロナガス
南半球の低緯度地方[6]。赤道周辺から南緯55度周辺まで回遊を行う[6]
全長20メートル。尾がやや短い。
Balaenoptera musculus indica Blyth, 1859
インド洋北部[3]
亜種ピグミーシロナガスとの明確な差異は不明とされる[3]
Balaenoptera musculus intermedia Burmeister, 1871 ミナミシロナガス
南半球の高緯度地方[6]。南緯70度以南まで回遊を行う[6]
最大亜種。

30m級の個体はまれで、特に北太平洋ではほとんどが26m未満と小型のため別の亜種に分類される。南半球に生息する亜種のピグミーシロナガスクジラはさらに小型である。学名 Balaenoptera musculusは1758年にカール・フォン・リンネによって命名されたものであるが、その他、Balaena maximusRoaqualis borealisSibbaldus musculusSibbaldus sulpureusといった複数の学名が永きにわたり並存し、混乱をきたした。1903年、E・G・ラコビツァにより、これらの学名が整理され、初めて最終的な学名が確定した。亜種としては、南半球に生息する小型の亜種としてピグミーシロナガスクジラB.m.brevicaudaが分類されている。さらに、通常型のシロナガスクジラについても、北太平洋などに生息するキタシロナガスクジラ B. m. musculusと、南半球のミナミシロナガスクジラ B. m. intermediaの2亜種に分類する仮説が有力である[要出典]

生態

外洋に生息するが、カリフォルニア湾では沿岸部に生息する個体群もいる[5]

全海域に生息し、回遊を行う。多くの個体が夏は、オキアミが豊富な北極海・南極海の積氷まぎわまで回遊し、冬には熱帯または亜熱帯で繁殖を行う。オホーツク海など付属海にはあまり入らない。繁殖期や子育ての期間を除き、基本的に単独で行動する[要出典]

主にオキアミ・カイアシ類などのプランクトンを食べる[6]。カリフォルニア湾では浮遊性のカニ類も食べる[5]主にプランクトン、いわし等の小魚を食べるが、時にはアジなどの中型魚も食べる。食性はオキアミにほぼ特化しており、上あごにある「ひげ板」でこしとって採食する。成体では一日に4t程度のオキアミを捕食する。また、オキアミの食べ方にもいろいろあり、一例としては、海面近くに生息するオキアミを食べるのに一端水中に潜り威嚇するように泳いで、オキアミが身を守るために集団で寄り添ったところを一気に食べる。また、最近の研究で、まれなケースとしてイワシを捕食した例が確認されている。イワシはオキアミに比べ泳ぐのが速く縦横に移動するため、それを追いかけ上下逆向きで泳ぐなどの複雑な挙動を繰り返す[要出典]

繁殖様式は胎生。冬季に交尾を行う(南半球では7 - 8月)[6]。妊娠期間は10 - 11か月[6]。冬季に低緯度地方で出産を行う[5][6]。1回に1頭の幼獣を産む[5]。体長約7mの子どもを通常1頭出産する。まれに双子が生まれることもある。出産間隔は2 - 3年[6]。授乳期間は6 - 8か月[6]。授乳期間は7 - 8ヶ月。生後8 - 10年で性成熟する[6]。若い個体は、急角度で水面から飛び出し着水する「ブリーチング」をしばしば行う[要出典]。最長寿命は120年と推定されている[5]

シロナガスクジラは最も大きな鳴き声をあげる動物種でもある。低周波の大きなうなり声を発し、音量は180ホンを超えることもある。この鳴き声により個体間のコミュニケーションを行っており、150km以上先の相手とも連絡をとる事が出来る。

天敵はヒトシャチ以外には殆どいない。

人間との関係

カリフォルニア州ではホエール・ウォッチングの対象とされることもある[6]

古くは遊泳速度が速く死骸が沈むことから捕鯨の対象とはされていなかった[5][6]。1860年代に近代式の捕鯨方法が開発されたことで、捕鯨の対象とされるようになった[5]。南極海では1904年から捕鯨が開始された[5][6]。2018年の時点では本種に対する大きな脅威はなく、生息数は増加傾向にあると考えられている[3]。一方で地域によっては船舶との衝突や、南極では以下のような影響が懸念されている[3]。1975年のワシントン条約発効時から、ワシントン条約附属書Iに掲載されている[2]

B. m. intermedia ミナミシロナガス
南極では21世紀に主な獲物であるオキアミ類が温暖化や海洋酸性化により激減することが予想されており、影響が懸念されている[3]
CRITICALLY ENDANGERED (IUCN Red List Ver. 3.1 (2001))[3]

近年、個体数は年々増加し続けているものの、総計で1万頭前後と非常に少なく、絶滅危惧種に指定されている。巨大で高速なことから捕獲が困難で、古くは捕鯨の対象とはならず、元々は個体数は30万頭いたと推定されている。しかし、19世紀以降、爆発銛、大型・高速の捕鯨船が導入された近代捕鯨が始まると捕獲対象となった。もっとも早く減少した北大西洋のシロナガスクジラは、第二次世界大戦前には関係国の協定により捕獲が停止されており、1954年には国際捕鯨委員会で正式に捕獲停止が決定された。手付かずであった南極海でも20世紀初頭には捕鯨が始まり、ノルウェー、イギリス、日本を中心とした10カ国が捕鯨船団を派遣するなどして捕獲が行われた。最盛期である1930/1931年の1漁期だけで約3万頭が捕獲された。第二次世界大戦による捕鯨中断のため若干の回復があったものの減少が続いた。1937年に一部の国の協定で操業期間制限が始まり、1946年の国際捕鯨取締り条約で捕獲量に制限が設けられたものの、規制に用いられた「シロナガス換算方式」の欠点から、個体あたりの鯨油生産効率の高いシロナガスクジラに捕獲が集中し、十分な歯止めとならなかった。1962/1963年の漁期を最後に通常型の捕獲は停止された。捕獲停止時の南極海の通常型の個体数は約700頭と推定されている。なお、亜種のピグミーシロナガスクジラも1966年には捕獲が停止され、南極海での捕鯨は完全停止した。北太平洋でも東部海域は1954年、西部海域も1966年には捕獲が停止された。その後はごく少数の例外を除き捕獲はされておらず、捕獲は全世界で停止状態にある。捕獲禁止後も長らく個体数回復の調子が見られなかったが、近年では回復に転じている。南極海の個体数について、1997/1998年の推定では通常型(ピグミーを除く)2300頭とされ[8]、このほかピグミーシロナガスクジラが5700頭以上とされる。増加率は、南極海の通常型について1978/1979年期-2003/2004年期の間で年平均8.2%と推定されている[要出典]

日本
漂着したシロナガスクジラ 2018年8月6日撮影

日本では古くは「長須鯨」と呼称されていた[5]。明治時代末期には冬季に紀州・土佐沖で捕獲されたこともあるが、近年ではほぼみられない[6]。1870年に現在の臼杵市大泊に打ちあがった記録のある「大鯨」は肩甲骨の形状から、本種とする説もある[9]。1913年には請島に打ちあがったという記録がある[10]

2018年8月5日、神奈川県鎌倉市由比ヶ浜にシロナガスクジラが漂着した。体長10メートルほどの当歳時でオスであった。シロナガスクジラの漂着が事実確認できる事例としては日本国内初。[11]

ギャラリー

鳴き声

出典

  1. ^ Appendices I, II and III (valid from 28 August 2020)<https://cites.org/eng> (downroad 09/18/2020)
  2. ^ a b UNEP (2020). Balaenoptera musculus. The Species+ Website. Nairobi, Kenya. Compiled by UNEP-WCMC, Cambridge, UK. Available at: www.speciesplus.net. (downroad 09/18/2020)
  3. ^ a b c d e f g h i j Cooke, J.G. 2018. Balaenoptera musculus (errata version published in 2019). The IUCN Red List of Threatened Species 2018: e.T2477A156923585. https://doi.org/10.2305/IUCN.UK.2018-2.RLTS.T2477A156923585.en. Downloaded on 19 September 2020..
    Cooke, J.G. 2018. Balaenoptera musculus intermedia. The IUCN Red List of Threatened Species 2018: e.T41713A50226962. https://doi.org/10.2305/IUCN.UK.2018-2.RLTS.T41713A50226962.en. Downloaded on 19 September 2020.
  4. ^ a b c d Games G. Mead & Robert L. Brownell Jr., "Order Cetacea". Mammal Species of the World, (3rd ed.), Volume 1, Don E. Wilson & DeeAnn M. Reeder (ed.), Johns Hopkins University Press, 2005, Page 723-744.
  5. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v 大隅清治 「シロナガスクジラ」『日本の希少な野生水生生物に関する基礎資料i』、水産庁、1994年、592-600頁。
  6. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa ab 粕谷俊雄 「シロナガスクジラ」『動物世界遺産 レッド・データ・アニマルズ8 太平洋、インド洋』小原秀雄・浦本昌紀・太田英利・松井正文編著、講談社、2001年、166-167頁。
  7. ^ 捕獲・解体したクジラはシロナガス? それともナガス? アイスランドで大論争”. AFP (2018年7月15日). 2018年7月15日閲覧。
  8. ^ IWC Whale Population Estimates[リンク切れ]
  9. ^ Hideo Omura, "Possible migration route of The Gray Whale on The coast of Japan," The Scientific Reports of the Whales Research institute, Number 26, Whales Research institute, 1976, Pages 1-14.
  10. ^ Nobuyuki Miyazaki, Kiyomi Nakayama, "Records of Cetaceans in the Waters of the Amami Islands," Memoirs of the National Museum of Nature and Science, Volume 22, 1989, Pages 235-249.
  11. ^ ホーム ≫ 研究と標本資料 ≫ 標本資料データベース ≫ 海棲哺乳類情報データベース ≫ 2018年8月5日 鎌倉市由比ガ浜海岸にストランディングしたシロナガスクジラ 調査概要”. 国立科学博物館. 2018年8月23日閲覧。[リンク切れ]

関連項目