エリーゼのために
バガテル『エリーゼのために』(独:Für Elise)は、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンが1810年4月27日に作曲したピアノ曲。「WoO 59」の番号が与えられているほか、通し番号をつけて『バガテル第25番』と称される場合もある。
楽曲の概要
イ短調の属音であるe音と、半音下のdis音が揺れ動き、両手のアルペッジョへと続く主題が特徴的。ヘ長調に開始される愛らしいものと、主音の保続低音が鳴る激しいものと2つのエピソードを持ち、それらと主部との対比が明確で、形式的にも簡素で分かりやすい。
トリル・分散和音・オクターブ・トレモロ・連打音・三度の和音・六度の和音・三連符・半音階と様々な演奏テクニックが盛り込まれている。
エリーゼの正体
「エリーゼのために」は、本来「テレーゼ(Therese)のために」という曲名だったが、悪筆で解読不可能など何らかの原因で「エリーゼ(Elise)」となったという説が有力視されている。本曲の原稿はテレーゼ・マルファッティの書類から発見されたものであり、テレーゼはかつてベートーヴェンが愛した女性であった。この説ではテレーゼ・マルファッティがエリーゼの正体ということになる。
2010年、ドイツの音楽学者クラウス·マルティン・コーピッツは、ベートーヴェンがソプラノ歌手エリーザベト・レッケルのために作曲しているという仮説を自著で発表した。この女性は1813年に作曲家ヨハン・ネポムク・フンメルと結婚した。
「エリーゼのために」を原曲とした楽曲
- 「情熱の花」(1959年、カテリーナ・ヴァレンテ。日本ではザ・ピーナッツのカヴァーもヒット)
- 「キッスは目にして!」(1981年、ザ・ヴィーナス)
- 「メタルハート」(1985年、アクセプト)
- 「イヴの誘惑」(1991年、井上晴美)
- 「アソコに毛がはえた(エリーゼのために)」(1995年、嘉門達夫。アルバム『娯楽の殿堂』収録)
- 「Blues For Elise」 (1997年、アクセプトのギタリスト、ウルフ・ホフマンのソロアルバム『クラシカル』に収録。
- 「Show me × Show me」(1998年、MISSION)
- 「幸せになろう」(2002年、宇多田ヒカル。アルバム『DEEP RIVER』収録)
- 「I Can」(2002年、Nas。アルバム『God's Son 』収録)
- 「SPEED OVER BEETHOVEN」(2002年、ROSE。アルバム『Dancemania SPEED9』他、音楽ゲーム『Dance Dance Revolution EXTREME』収録)
- 「仮契約のシンデレラ」(2012年、私立恵比寿中学)
その他
- プロ野球の千葉ロッテマリーンズが、試合で得点をいれた時や勝利したときは、そのたびにスタンドのサポーターが「エリーゼのために」のトランペット演奏に合わせて「千葉!!ロッテ!!マリーンズ!!」とリズミカルにコールをあげる(演奏の出だしは「キッスは目にして!」の歌い出しと同様)。
- ジェフユナイテッド千葉の巻誠一郎選手の応援歌でもある。
- 日産・スカイライン(7代目、クーペ)のCMでも流れていた。テクノ調にアレンジされている。
- 他にも、日本や台湾などの一部の地域や国の清掃車の、「ごみ回収に来た」という合図のために使われている。なお、台湾では過去にSEIKOEPSON社のSVM7910CFの内蔵されたアンプをゴミ収集車に搭載し、「エリーゼのために」や「乙女の祈り」を鳴動させゴミ回収を知らせていた。またSVM7910CFの音源をカセットテープなどに録音し鳴動させていた。現在はICの生産中止などにより、ノボル電機制作所のYR52や台湾現地の会社が製造したFar Sonic FS-889などが使用されている
- チョロQの一部作品では、清掃車のクラクションとして使用されており、プレイヤーが購入することも出来、使用することも出来るようになっている。
- JR西日本北陸本線の一部の駅では、この曲を列車接近(到着・通過)メロディとして使用している。
- 東武鉄道太田駅で5番線(桐生線・小泉線)の信号開通メロディとして使用している。
- テレビアニメ『学校の怪談』第4話「死者からの鎮魂歌(レクイエム)エリーゼ」で使用されている。
- 『地獄先生ぬ〜べ〜』アニメオリジナルエピソード第36話「真夜中の㊙レッスン!音楽室の危険な誘惑!!」で使用されている。
- 『オバケのQ太郎』アニメ第3作「ハクション音楽会」の巻で、よっちゃんがリサイタルを行ったシーンで使用されている。
- セイコーエプソンのSVM7910CFやシャープのLR34633などのメロディICにエリーゼのためにが収録されている。(現在は両社製造中止)
- パトライトの電子音報知器や電子音警報付き回転灯に内蔵されている。例としてKEJECー110Fなどがある。
- NECのPBXなどにもSVM7910CFが使用されている
- クラシカロイドではベートーヴェンがムジークとして使用しており、アレンジも加えられている(豊穣の夢~エリーゼのためにより~)
- イギリスのドラマシリーズ『刑事フォイル』2015年放送の最終回"Elise"でモチーフとして使われ、作中数回旋律が聞かれる。
- 初版=ノール編の書簡集で用いられた原本は所在不明。ベートーヴェン研究所のコレクションとなっている1810年のスケッチ帳BH116では、「エグモント (劇音楽)」などの断片とともに本作の原型がみられる。7小節目・最初のリピート第1括弧直前右手で初版は「ミド'シ(ラ)」としているが、スケッチではコーダ部分と似た「レド'シ(ラ)」になっている音程の違いだけでなく、楽想指示も異なる。
- 千葉県立東葛飾高等学校では、この曲がチャイムとして使用されている。
著作
- Ludwig Nohl, Neue Briefe Beethovens', Stuttgart 1867
- Klaus Martin Kopitz, Beethoven, Elisabeth Röckel und das Albumblatt „Für Elise“, Köln 2010, ISBN 978-3-936655-87-2
- Klaus Martin Kopitz, Beethoven’s ‘Elise’ Elisabeth Röckel: a forgotten love story and a famous piano piece, in: The Musical Times, vol. 161, no. 1953 (Winter 2020), pp. 9–26