負温度

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負温度(ふおんど)とは、統計力学において熱平衡状態絶対温度が負[要出典]となっていること、またその際の温度を指す。

直観とは逆にこれは極めて冷たいことを示すのではなく、いかなる正の絶対温度よりも熱いことを示している。何故なら反転分布のエネルギー係数は −1/Temperature となるからである。この文脈では -0度は他のどの負温度よりも最も高い温度である[1]

正の温度との関係

カノニカル分布で考えると、このような系はエネルギーの低い状態よりもエネルギーの高い状態の方により高い確率でなるので、通常の正の温度の系(エネルギーの高い状態よりもエネルギーの低い状態の方をより高い確率でなる)と触れていると、負の温度の系から正の温度の系に熱が流れていく。

また、絶対温度Tが±∞においては、どのようなエネルギーの状態も等確率で出現するが、Tが負の側から0に近づいていけばいくほど、系はほぼ確実に最もエネルギーの高い状態を取るようになっていくので、負の温度領域においては温度の絶対値を下げるために外部から熱を流入させる必要がある。

つまり負の温度というのはいかなる正の温度よりも高い温度であり、その絶対値が小さくなればなるほど系はより高温となっていく。

実現できる物理系

負の温度の平衡分布が実現するとすれば、「最もエネルギーの高い状態」が最も高確率で実現されなければならない。

しかし、いくらでも分子運動が激しい状態を考えうる気体・液体や、いくらでも多くの数の光子フォノンなどが存在する状態を考えうる電磁場格子振動などの系ではそもそも「最もエネルギーの高い状態」を考えることができない(無理にカノニカル分布の式に負の温度を代入しても、分配関数が発散してしまうのは目に見えている)。したがって、負の温度というのはこれらの系で実現することはできない。

一方で、有限の大きさをもつスピン系など、系が取りうる状態の数そのものが限られている場合においては、このような平衡分布を考えても特に問題はない。しかしこのような系には熱力学極限を取ることが出来ないので、実際の実験で実現できるのは「緩和の遅い準安定な系(=非平衡状態にある系)」だけである。ちなみにスピン系のモデルで記述されるような実際の磁性体は、多量のエネルギーを注入しても負温度にはならないが、これはエネルギーが高くなると(スピン系のモデルでは無視しているような)別の励起スペクトルが現れるためである。

レーザー発振において用いられる「反転分布」は、準安定でない負温度状態を系を励起し続けることによって実現しているだけなので、本項目で述べた負の温度とは異なるものと考えられる[要出典]

関連項目

脚注

  1. ^ Kittel, Charles and Herbert Kroemer (1980). Thermal Physics (2nd ed.). W. H. Freeman Company. p. 462. ISBN 0-7167-1088-9