自費出版

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自費出版(じひしゅっぱん)とは、書籍をはじめとする何らかのメディアで、著者が自分で費用を出して出版することである。具体例としては、企業や自治体が独自に作成する出版物、趣味で作った絵本や詩吟会の作品集、自分史などが挙げられる。

概要

自費出版は「出版のための経費を著者側が自ら負担する場合を言う言葉」を意味し、多数読者に頒布する行為ではない点、内容が極めて多岐にわたる点が特徴である[1]。基本的に、書店での販売は行わず、製作費用は全額著者が負担する[2]。出版物自体に自費出版の本と商業出版の本が区別できる違いがあるわけではない。

書籍を中心とする多くの自費出版物は、出版取次と呼ばれる流通仲介業者を通して書店で販売される通常の商業出版物とは異なり、市場での販売による収益が期待できない。このため、既成の出版社では出版を引き受けてくれないことなどから、印刷会社などが直接その製造を個人から請け負う形が一般的だった。主として1990年以降、自費出版を行う個人の増加や出版不況などを背景として、自費出版を専門に行う出版社や商業出版と同時に自費出版も請け負う出版社が増加した[3]。2000年以降には、書店と直接契約するなどで「書店販売を行う」ことをセールスポイントとして大手新聞などで著者を募集する「共同出版型」の手法や、同じく大手新聞などで出版賞募集をPRし入賞作品を自費出版に誘導する「出版賞型」の手法が登場してきた。

商業出版は出版に際しての赤字になる可能性も含めたすべてのリスクを出版社側が負い営業的努力により売り上げから収益を上げるのに対して、自費出版は注文を受けた著者から料金を受け取り本を刊行することで収益を上げるという、根本から異なるビジネスモデルによって成立している。したがって、自費出版の書籍が大きな部数を売り上げることは極めてまれである。

近年、インターネット上での「電子出版」という新しい書籍の形態が誕生した事で、既存の紙媒体での出版とは一線を画した自費出版が可能となった。従来の自費出版は「出版費用が高い」「出版社との交渉が必要」等ハードルが高かったが、電子書籍は「初期手数料が安いもしくは無料」「出版社を通さずに済む」など、インターネットが使える程度の知識があれば誰でも出版可能になった。電子出版は比較的自分一人でも可能だが、出版代行業者も既に数多く存在する。

トラブル

自費出版をめぐって様々なトラブルが発生している[4][5][6]

新風舎はウェブや月刊誌に広告を掲載し、小説や詩の公募文学賞を年間30回程度開催し、これらのコンテストに応募してきた人に対して、「可能性を感じる」「(実際には存在さえしない)選定委員会から推薦があった」などと特別に選ばれたかのような印象を与えては、トータルで63万円から100万円かかる同社の自費出版サービスを利用するよう勧誘していたが、コンテスト受賞者の6割が捏造であった。自費出版の説明会で言われた詐欺レベルのセールストークに作家からも「そんな事はあり得ない」の声があり、2007年以降、書店流通系自費出版をめぐるトラブルが社会問題化したため、NPO法人日本自費出版ネットワークはガイドラインを策定した[7]

内容の信頼性

内容のレベルは千差万別であり、個人が出版する自費出版物は、古本屋では「葬式饅頭の代わりに配る本」の意味で「まんじゅう本」と揶揄される[1]。放送作家の渡辺龍太は「自費出版の会社しか相手にしてくれない著者に価値は無い。つまり、自費で出版しても売れるのは宝くじと同じ」と述べている[8]

自費出版物は、編集者の編集や研究者による査読を経ないため、専門家からは認められない傾向がある。江口聡は「従来の考え方をまるっきりひっくりかえそうとするような主張を簡単に行なっているような本、難問を簡単に解きあかしてしまったりする本は要注意」「専門家は頭が堅いからわからん」とか「従来の学問には隠された権力性がどうのこうの」とかやってるやつはたいていだめ」「従来の研究をしっかりとおさえていないまともな研究なんかありません」と指摘している[9]

脚注

  1. ^ a b 田中薫「自費出版の現在」『宮崎公立大学人文学部紀要』第1巻第11号、宮崎公立大学、2004年3月、85-107頁。 
  2. ^ 出版Q&A相談室 | 自費出版、共同出版、企画出版は大阪のせせらぎ出版”. www.seseragi-s.com. 2020年3月27日閲覧。
  3. ^ 昔と今の自費出版の違い | 自費出版コラム | 自費出版の青山ライフ出版”. aoyamalife.co.jp. 2020年3月27日閲覧。
  4. ^ nakusukai. “文芸社とのトラブル事例”. 共同出版・自費出版の被害をなくす会. 2020年3月27日閲覧。
  5. ^ 協力出版は詐欺商法か? 文芸社刑事告発回想記 その3”. 鬼蜘蛛おばさんの疑問箱. 2020年3月27日閲覧。
  6. ^ 著者とのトラブルが報告される大手自費出版業者の新風舎が倒産手続”. GIGAZINE. 2020年3月27日閲覧。
  7. ^ NPO法人日本自費出版ネットワーク”. www.jsjapan.net. 2020年3月27日閲覧。
  8. ^ 文芸社の評判の悪さを分析!やはり自費出版はダメだと思う | インプロ(即興トーク)の専門家 渡辺龍太のブログ”. kaiwaup.com (2017年5月22日). 2020年3月27日閲覧。
  9. ^ 「本」にだまされるな – 江口某の不如意研究室”. 2020年3月27日閲覧。

関連項目

外部リンク