JR北海道731系電車

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
731系電車から転送)
JR北海道731系電車
JR北海道731系電車(2009年8月 小樽駅
基本情報
運用者 北海道旅客鉄道
製造所 川崎重工業車両カンパニー
日立製作所笠戸事業所
製造年 1996年 - 2006年
製造数 21編成63両
運用開始 1996年12月24日[新聞 1]
主要諸元
編成 3両編成 (1M2T
軌間 1,067 mm
電気方式 交流単相20,000V 50Hz
最高運転速度 120 km/h
設計最高速度 130 km/h
起動加速度 2.2 km/h/s
減速度(常用) 4.4 km/h/s
編成重量 100.0 t
全長 20,800 mm
全幅 2,800 mm
全高 3,620 mm
床面高さ 1,150 mm
車体 ステンレス
台車 軸梁式ボルスタレス台車(N-DT731・N-TR731形)
主電動機 かご形三相誘導電動機 N-MT731形
主電動機出力 230 kW
駆動方式 中空軸平行カルダン駆動方式[要出典]
歯車比 1:4.89
編成出力 920 kW
制御方式 IGBT素子VVVFインバータ制御
制動装置 回生ブレーキ併用電気指令式空気ブレーキ
保安装置 ATS-SN
ATS-DN
第37回(1997年
ローレル賞受賞車両
テンプレートを表示

731系電車(731けいでんしゃ)は、北海道旅客鉄道(JR北海道)が1996年平成8年)から運用している通勤形交流電車である[新聞 1][注 1]

概要[編集]

札幌圏のラッシュ時における混雑緩和と711系の置き換えを目的として開発された、JR北海道初の本格的な通勤形車両である。また、同時期に非電化区間から札幌都市圏へ直通する列車へ対応する車両として開発されたキハ201系気動車とは共同プロジェクトで開発され、仕様を徹底して共通化している[2]

1996年12月24日に営業運転を開始し[新聞 1]1999年(平成11年)までに3両編成19本(57両)が川崎重工業日立製作所により製造され、711系初期車を置き換えた後、2006年(平成18年)に3両編成2本(6両)が一部仕様を変更して増備された。

形式の「731」は日本国有鉄道→JR北海道において、711系、721系に続く通勤・近郊型電車であることから、1桁目を先代の2系列を踏襲した「7」、2桁目に「3番目」を意味する「3」、3桁目も先代の2系列を踏襲した「1」を付番したとされている[3]

1997年鉄道友の会ローレル賞を受賞[4]。国鉄→JRの通勤形車両の受賞は本形式が史上初となった。

導入の経緯[編集]

導入当時、札幌駅を発着する函館本線千歳線札沼線(学園都市線)は、札幌都市圏における人口の一極集中により、年4%の輸送量増加が続いていた。特に電化区間[注 2]では、列車によっては朝ラッシュ時の乗車率が250%を超える状況にあった[3]

当時電化区間の通勤・近郊輸送に用いられる電車としては、国鉄から継承した711系とJR北海道発足直後に投入した721系が用いられていたが、うち711系は1996年(平成8年)時点で試作車投入から30年を迎え、老朽化が進んでいた。加えて、711系は加速度が1.1 km/h/sと721系の半分[注 3]であり、最高速度も110 km/hと721系(120 km/h、後年130 km/h運転も実施)より遅いことから、列車設定上の障害となっていた。また、711系は片側2扉[注 4]であり、ステップの段差も高いことから、721系の1.7倍の乗降時間を要し、朝ラッシュ時に常時4~5分の列車遅延が常態化する状態となっていた[3][注 5]

このため、711系の置換を目的とした本系列は721系並みの性能の確保に加え、本格的通勤車両として、オールロングシート、客室仕切り廃止、さらに気動車との協調運転対応など、従来のJR北海道の車両にはない仕様が盛り込まれた。

車両概説[編集]

なお、本系列およびキハ201系気動車の開発時のコンセプトは、以下の通りであった[3][2]

特に下記4.を実現するためにキハ201系気動車とは車体・機器・性能・取り扱いなど徹底した共通化が図られ、双方の動力を同調させての協調運転を可能としている。なお、本系列はキハ201系気動車のほか、721系電車との併結運転が可能であり[3]、後年登場した733系735系電車とも併結可能である。

  1. 快適で乗り降りしやすい車両
    • 乗り降りしやすい車両
    • 快適な室内
    • 移動制約者の方も利用しやすい車両
  2. 環境にやさしい車両
    • ブレーキ力を電力に回生する省エネ電車
  3. 雪国に強い車両
    • 冬季も安定した走りをする車両
  4. 数多くの列車本数を可能にする車両
    • 気動車を電車並みの性能にする
    • 電化区間で電車と気動車を併結する

デザインは内外装ともに、苗穂工場で行われた[3]

本項では特記ない限り、1次車登場時の仕様を述べる。

車体[編集]

ビード付きの軽量ステンレス製(前頭部のみ普通鋼)で、車体傾斜装置を持つキハ201系気動車と共通の構体を用いているため、車体断面は上方窄まりの台形断面となっている。客用扉は721系同様の片開き式のものを片側3箇所に設けているが、有効幅1,150mmとして2人が並んで乗り降りできる幅を確保しているほか、後述の低床化により低床ホームに対応するステップは高さ18 cm(721系と同等、711系比 -15 cm)、ステップ面高さ970 mmを実現している [3]

扉間は大型の固定窓を2枚配置し、車端部は機器などを設置するため窓は設けていない。

先頭部は721系などと同様貫通式としたが、踏切事故の際に乗務員を保護する観点から高運転台構造(運転士目線位置:レール面3m[3])とし、加えて衝撃吸収構造とした[3]。また、冬季対策として、前照灯は全6灯(腰部の2灯はHID)としたほか、スノープラウ兼用の大型スカート、高速ワイパーを装備している。正面貫通扉には、増解結時間短縮のため自動幌装置が採用された。

車体側面には、コーポレートカラーの萌黄色(ライトグリーン)と赤の帯(前面は赤のみ)を配する。

前面上部の種別表示器・側面の行先表示器はともに幕式である。

内装[編集]

艶消しのグレーを基調としており、乗降口付近は視認性向上のため黄色とした[2]。乗降時間短縮のため、車内は全てロングシート(有効幅455mm/人)とし、3・5・3人(先頭車前位寄りのみ3・4・3人)にスタンションポールで区分される[3]。新製時点では、座席モケットは紫色(優先席は灰色)であった。

また、従来の北海道向け車両の出入り台に存在したデッキは廃止された。代わって暖気・寒気進入抑制の観点から、客用扉上部と左右にはエアカーテン、ボタン開閉式の半自動ドアを装備し、加えて遠赤外線暖房、温風暖房や固定遠赤外線暖房も装備している[3]。また、一部の出入り台付近は跳ね上げ式の座席を装備している[3]

このほか、ドアチャイム自動放送装置・3色LED車内案内表示装置(各乗降扉上部。左右で千鳥配置)を落成時から装備する。

便所はTc1車に和式のものを設置する[3]。2006年製の G-120・G-121編成は一部仕様が変更され、バリアフリー対応として従来の和式トイレに代わって車椅子対応の洋式トイレ(センサー式)を設置したため、クハ731形の後位客用扉が中央寄りに移された。 運転台は721系や785系などと同様の左手操作式ワンハンドルマスコンを搭載し、モニタ装置タッチパネル式のカラー液晶ディスプレイとなった。

機器類[編集]

付随車用のN-TR731形台車
付随車用のN-TR731形台車

シミュレーションから、走行機器は「721系並の性能確保[3]」が開発目標とされ、最高速度130 km/h、曲線通過速度=本則+10 km/h、起動加速度(0~60km/h)2.2 km/sを達成し、加速度については130 km/hにおいても0.8 km/sの加速余力を持つ[3]

主回路の制御方式は制御素子IGBT(2000V/500A 1C2M) を採用したVVVFインバータ制御を採用し、主電動機は新開発のかご形三相誘導電動機 N-MT731形[注 6] (定格出力230kW) をM車に搭載する。

台車は721系のものをベースに、ステップ面を低床ホーム高さ(970 mm)と同一面とする必要性から、車輪を振子車両で実績のある新製時直径810 mmのものとした、軸梁式ボルスタレス台車ヨーダンパ付き)で、動台車がN-DT731形、付随台車がN-TR731形と呼称される[3]

ブレーキシステム鉄道総合技術研究所と開発した、電気指令式回生ブレーキ併用空気ブレーキを採用する。基礎ブレーキ装置は苗穂工場製の高粘着合成鋳鉄制輪子を採用した両抱き式踏面ブレーキで、これとマルチモード滑走・再粘着制御により、どのような条件においても130 km/h から十分な余裕をもって600 m 以内での停止が可能であり、試験でも自然降雪・レール面凍結の状況下で、130 km/hから470 mで停止している[3]

冷房装置は各車屋根上に集中式のもの(30000kcal/h)を搭載している[3]

パンタグラフは当初、721系と同一の下枠交差型を搭載したが、後に着雪防止対策として、全車がシングルアーム型(N-PS785形)に交換された。G-120・G-121編成はパンタグラフは当初からシングルアーム式を搭載し、主変換装置の仕様も変更されている。

編成[編集]

編成は中間電動車(モハ731形:M車)を制御付随車(クハ731形:Tc1、Tc2車)で挟んだ3両(Tc1-M-Tc2)を固定ユニットとして構成される[3]

以下、方面を示す場合、札幌駅在姿を基準とする。

編成番号は中間電動車モハ731形の車両番号に識別記号「G」を付し、「G-101」と表記される。

クハ731形100番台(Tc1)
編成の岩見沢・滝川方制御付随車(定員:141名、うち着席50)。先頭部に自動幌装置を持つ。また、客室内後位に便所を装備する。
モハ731形100番台 (M)
中間電動車(定員:151名、うち着席52)屋根上に集電装置、床下に主変圧器主変換装置を装備する。
クハ731形200番台 (Tc2)
編成の小樽方制御付随車(定員:143名、うち着席50)。床下に電動空気圧縮機・静止型インバータによる補助電源装置を装備する。また、バリアフリー対応として、客室後位を車いすスペースとしている。
← 小樽・北海道医療大学
滝川・新千歳空港・苫小牧 →
クハ731-200
(Tc2)
モハ731-100
(M)
クハ731-100
(Tc1)

改造[編集]

重要機器取替工事を施行された731系。 自動幌が撤去され、733系と同等の幌枠に交換されている。
重要機器取替工事を施行された731系。 自動幌が撤去され、733系と同等の幌枠に交換されている。

重要機器取替工事[編集]

G-120・G-121編成を除く57両については、製造後20年が経過して主変換装置の劣化が顕著になったことから、これらの換装を中心とした、電子機器・台車重要部品の取替工事が2017年(平成29年)から2020年(令和2年)度にかけて実施された[5][6]

その他[編集]

上記重要機器取替工事に合わせて自動幌装置の撤去及び優先席の更新(灰色から橙色)、転落防止幌の設置が行われた。以下の表も参照。

運用[編集]

731系同士の6両併結編成 (2008年7月28日 / 苗穂 - 白石)
731系同士の6両併結編成
(2008年7月28日 / 苗穂 - 白石)
キハ201系との協調運転(2008年8月)
キハ201系との協調運転(2008年8月)
協調運転を行うキハ201系(前3両)と731系。(2009年1月26日、函館本線白石駅 - 苗穂駅)
協調運転を行うキハ201系(前3両)と731系。(2009年1月26日、函館本線白石駅 - 苗穂駅)

本系列は全車両が札幌運転所に配置され、札幌都市圏およびその周辺地区を中心とした以下の区間で、普通列車として運用されている。かつては区間快速(「いしかりライナー」)列車としての運用もあったが、2020年(令和2年)3月14日ダイヤ改正で廃止された。

基本的に相互に連結可能な721系(3両編成)・733系(0番台)・735系と共通で運用され[JR 1]、一部の運用では2編成を併結した6両編成となる。ただしキハ201系との連結は本系列のみ対応しているため、当該列車とその前後の運用には本系列が限定運用される。

キハ201系との併結は、2018年現在日本で唯一の電車と気動車による協調運転[注 7]である。

車歴表[編集]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 文献によっては近郊形電車と分類しているものもある[1]
  2. ^ 当時札沼線は全線非電化。
  3. ^ 711系の起動加速度(1.1km/h/s)は近郊型電車としては低いものであるが、駅間距離が比較的長く、それほどの高加速度を要求されなかった導入当時としては十分な性能であった。
  4. ^ 一部編成の先頭車は片側3扉に改造されていた。
  5. ^ もっとも721系も新千歳空港へのアクセスを意図して開発された経緯から3扉ながらデッキつきクロスシートという構造であり、ラッシュ時への対応には難があった。後年快速「エアポート」の混雑が深刻化した際に731系の設計思想を受け継いだオールロングシート車である733系へ置き換えられている。
  6. ^ 721系1000番台で試験の後、本系列から採用された。後年の721系5000番台785系500番台789系でも採用された。
  7. ^ 過去には九州旅客鉄道(JR九州)において、485系電車キハ183系1000番台との協調運転による特急列車が存在した。

出典[編集]

  1. ^ ネコ・パブリッシング『レイル・マガジン』No.162 p.103
  2. ^ a b c 『鉄道ファン』通巻433号 pp.74-77
  3. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s 『鉄道ファン』通巻431号 pp.55-59
  4. ^ 「JR年表」『JR気動車客車編成表 '98年版』ジェー・アール・アール、1998年7月1日、181頁。ISBN 4-88283-119-8 
  5. ^ 岩本(2017)
  6. ^ 岩本(2018)
  7. ^ a b c d e f g h i 『鉄道ファン』通巻507号 p.84
  8. ^ a b c d e f g h i j k l 『鉄道ファン』通巻543号 別冊付録 p.34
  9. ^ a b c d e 『鉄道ファン』通巻687号 別冊付録 p.33
  10. ^ a b c d ジェー・アール・アール編『JR電車編成表』 2022夏、交通新聞社、2022年5月19日、7頁。ISBN 978-4-330-02822-4 
  11. ^ a b c d e f 『鉄道ファン』通巻699号 別冊付録 p.33
  12. ^ a b c d e f 『鉄道ファン』通巻711号 別冊付録 p.33
  13. ^ a b c d 『鉄道ファン』通巻435号 p.75
  14. ^ a b c d e 『鉄道ファン』通巻447号 p.71
  15. ^ a b c d 『鉄道ファン』通巻459号 p.70
  16. ^ a b c 『鉄道ファン』通巻471号 p.70

JR北海道[編集]

  1. ^ 平成24年10月ダイヤ改正について』(PDF)(プレスリリース)北海道旅客鉄道、2012年8月3日http://www.jrhokkaido.co.jp/press/2012/120803-1.pdf2012年8月17日閲覧 
  2. ^ 学園都市線電化開業に伴う電車の投入(第一次)について』(PDF)(プレスリリース)北海道旅客鉄道、2012年3月14日http://www.jrhokkaido.co.jp/press/2012/120314-1.pdf2014年7月21日閲覧 

新聞記事[編集]

  1. ^ a b c “新型731系電車営業開始 JR北海道 数多くの新機軸導入”. 交通新聞 (交通新聞社): p. 1. (1997年1月6日) 

参考文献[編集]

  • 後藤明祐「JR北海道731系通勤形交流電車」『鉄道ファン』第37巻第3号(通巻431号)、交友社、1997年3月1日、pp.55-59。 
  • 後藤明祐「JR北海道キハ201系通勤形気動車」『鉄道ファン』第37巻第5号(通巻433号)、交友社、1997年5月1日、pp.74-77。 
  • 編集部「JRグループ 車両のデータ・バンク96/97」『鉄道ファン』第37巻第7号(通巻435号)、交友社、1997年7月1日、pp.75-90。 
  • 編集部「JRグループ 車両のデータ・バンク97/98」『鉄道ファン』第38巻第7号(通巻447号)、交友社、1998年7月1日、pp.71-89。 
  • 編集部「JRグループ 車両のデータ・バンク98/99」『鉄道ファン』第39巻第7号(通巻459号)、交友社、1999年7月1日、pp.70-89。 
  • 編集部「JRグループ 車両のデータ・バンク1999/2000」『鉄道ファン』第40巻第7号(通巻471号)、交友社、2000年7月1日、pp.70-93。 
  • 編集部「JRグループ 車両のデータ・バンク2002/2003」『鉄道ファン』第43巻第8号(通巻507号)、交友社、2003年8月1日、pp.84-98。 
  • 編集部「別冊付録『JR旅客会社の車両配置表2006/JR車両のデータバンク2005-2006』」『鉄道ファン』第46巻第7号(通巻543号)、交友社、2006年7月1日、pp.34-48。 
  • 岩本隆市 (2017-05-10). “北海道旅客鉄道株式会社 新型車両等の整備計画について”. 鉄道界 (鉄道界図書出版株式会社) 58 (5): pp.56-59. 
  • 岩本隆市 (2018-05-10). “北海道旅客鉄道株式会社 新型車両等の整備計画について”. 鉄道界 (鉄道界図書出版株式会社) 59 (5): pp.50-53. 
  • 編集部「別冊付録『JR旅客会社の車両配置表2018/JR車両のデータバンク2017-2018』」『鉄道ファン』第58巻第7号(通巻687号)、交友社、2018年7月1日、pp.33-40。 
  • 編集部「別冊付録『JR旅客会社の車両配置表2019/JR車両のデータバンク2018-2019』」『鉄道ファン』第59巻第7号(通巻699号)、交友社、2019年7月1日、pp.33-40。 
  • 編集部「別冊付録『JR旅客会社の車両配置表2020/JR車両のデータバンク2019-2020』」『鉄道ファン』第60巻第7号(通巻711号)、交友社、2020年7月1日、pp.32-39。 

関連項目[編集]