3I/ATLAS
| ATLAS彗星 3I/ATLAS | |
|---|---|
| 仮符号・別名 | A11pl3Z[1] C/2025 N1 (ATLAS)[2][3] 3I/2025 N1[4] |
| 見かけの等級 (mv) | ≈ 18(発見時)[3] |
| 分類 | 非周期彗星[2] (恒星間天体) |
| 発見 | |
| 初観測日 | 2025年5月7日[5] |
| 発見日 | 2025年7月1日[3] |
| 発見者 | ATLAS-CHL[3] |
| 発見場所 | Río Hurtado ( |
| 軌道要素と性質 元期:TDB 2,460,890.5(2025年8月3.0日)[2] | |
| 軌道の種類 | 双曲線軌道 |
| 軌道長半径 (a) | -0.264 au[2][注 1] |
| 近日点距離 (q) | 1.356 au[2] |
| 遠日点距離 (Q) | 定義不可[2] |
| 離心率 (e) | 6.139[2] |
| 公転周期 (P) | 定義不可[2] |
| 最大軌道速度 | 68.3 km/s[6][7][注 2] (近日点通過時) |
| 最小軌道速度 | ≈ 58 km/s[6][7][8][9][注 3] (双曲線過剰速度) |
| 軌道傾斜角 (i) | 175.113°[2] |
| 近日点引数 (ω) | 128.010°[2] |
| 昇交点黄経 (Ω) | 322.157°[2] |
| 平均近点角 (M) | -635.924°[2] |
| 前回近日点通過 | TDB 2,460,977.982[2] (2025年10月29日) |
| 次回近日点通過 | 無し |
| 最小交差距離 | 0.363 au(地球軌道に対して)[2] |
| 物理的性質 | |
| 直径 | |
| 彗星核の直径 | 0.520 - 0.748 km[10] (非重力加速に基づく推定) 0.32 - 5.6 km[11] (ハッブル宇宙望遠鏡の画像に基づく推定) |
| コマの直径 | ≈ 700,000 km[12] |
| 質量 | 4.4×1010 kg[10] |
| 自転周期 | 15.48 ± 0.70 時間[13] (観測に基づく推定) 16.16 ± 0.01 時間[14] (光度曲線に基づく推定) |
| 絶対等級 (H) | >15.4[11] |
| 全光度 (M1) | 12.3 ± 0.8[2] |
| 色指数 (B-V) | 0.98 ± 0.23[15] |
| 色指数 (V-R) | 0.71 ± 0.09[15] |
| 色指数 (R-I) | 0.14 ± 0.10[15] |
| 年齢 | 70億年?[9] |
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3I/ATLAS または C/2025 N1 (ATLAS) は、2025年7月1日にチリのコキンボ州・Río Hurtadoで観測を行っていた小惑星地球衝突最終警報システム (ATLAS) によって発見された、恒星間天体に分類される非周期彗星である[16][17][18]。発見直後は A11pl3Z と呼称されていた[1][19]。発見時は木星軌道のやや内側である太陽から約 4.5 au(約6億7000万 km)離れたところを内太陽系に向かって進んでいた。この彗星は、太陽に対して 58 km/s という非常に速い双曲線過剰速度で太陽系を通過する双曲線軌道を描いている[7][注 3]。高速で太陽系内を縦断していくが、地球から約 1.8 au(約2億7000万 km)以内に近づくことはないため、脅威となるような天体ではない[16]。オウムアムア (1I/ʻOumuamua) とボリソフ彗星 (2I/Borisov) に続いて太陽系外からの飛来が確認された観測史上3例目の恒星間天体であり[16][20][21][22]、名称には「3I」という接頭辞が付けられている。2025年11月頃に見かけの明るさが最も明るくなると計算されているが、それでも12等級程度であると予測されており[4][23]、近日点の通過前後でも肉眼で観測することはできないとされている[24]。
3I/ATLAS は活動的な彗星で、主に固体の氷で出来た彗星核と、そこから噴き出すガスと氷の塵から成るコマで構成されている。3I/ATLAS の彗星核の大きさは、彗星核からの光とコマ全体の光とを分離できないため、正確には求められていない[25]。太陽への接近がこの彗星活動の原因となっており、太陽は彗星核を加熱して表面の氷をガスに昇華させ、このガスが放出されて彗星の表面から塵を巻き上げ、コマを形成する[26]。ハッブル宇宙望遠鏡や様々な宇宙探査機によって撮影された画像からは、その彗星核の直径は 1 km 未満であると考えられている[10][11]。ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡 (JWST) による観測では、3I/ATLAS の組成は二酸化炭素に異常に富んでおり、少量の水の氷、水蒸気、一酸化炭素、硫化カルボニルを含んでいることが示されている[27]。また、超大型望遠鏡VLTによる観測では、3I/ATLAS が太陽系内の彗星で見られる濃度と同程度のシアン化物ガスと原子状ニッケルの蒸気を放出していることも示されている[28]。
2025年10月29日に太陽に最も接近する近日点に達し、地球軌道と火星軌道の間である太陽から約 1.36 au(約2億300万 km)の距離にまで接近した[2]。3I/ATLAS は銀河系の薄い円盤か厚い円盤と呼ばれる領域のいずれかに起源を持つと考えられている[29]。仮に厚い円盤に起源を持つ場合、3I/ATLAS は形成されてから少なくとも70億年が経過しているとみられ、つまり太陽系の天体よりも古い天体である可能性がある[9][30][31]。
歴史
[編集]発見
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3I/ATLAS は、チリのコキンボ州・Río Hurtadoにて観測が行われている小惑星地球衝突最終警報システム (ATLAS) の望遠鏡によって2025年7月1日に発見された[3][20][32]。発見当初の見かけの明るさは約18等級、太陽に対する相対速度は約 61 km/s(約 220,000 km/h)[16]、太陽からの距離は木星軌道のやや内側である約 4.51 au であり[33]、天の川付近のいて座とへび座の境界付近をゆっくりと移動していた[22]。この新たに発見された天体は、直後に暫定的な仮称として A11pl3Z と呼称され[1]、発見時の観測データは国際天文学連合 (IAU) が運用している小惑星センター (MPC) に提出された[32][34]。これらの観測結果から、当初この天体は地球軌道に接近する可能性のある非常に軌道離心率の高い軌道を描く天体である可能性が示され、小惑星センターは確認待ちの地球近傍天体候補の天体が掲載される地球近傍天体確認ページ (Near Earth Object Confirmation Page, NEOCP) に A11pl3Z を掲載した[32]。
天文学者やアマチュア天文家などによって行われた他の観測施設による追跡観測により、この天体は地球に接近するような軌道ではなく、星間空間から飛来してきて二度と太陽へ接近しない双曲線軌道となっている可能性があることが明らかになり始めた[21][32][35]。そして正式な発見の前に行われていた観測データも用いてこの天体が実際に星間空間から飛来してきた恒星間天体であることが確認されるようになった。これらの観測記録には、同年6月14日から6月21日にかけて行われた Zwicky Transient Facility による観測や[3][36]、6月25日から6月29日にかけて行われた ATLAS による観測の結果が含まれている[22][21][32]。アマチュア天文家の Sam Deen は、同年6月5日から25日までの ATLAS による正式な発見前に行われた観測の結果にも注目し、A11pl3Z が早期に発見されなかったのは、銀河系中心部の恒星が高密度で分布している領域の前を通過していたためと推測している[23]。
初期観測では、A11pl3Z が小惑星なのか彗星なのかは分かっていなかった[22][35][36]。2025年7月2日にチリの Deep Random Survey やアメリカ・アリゾナ州のローウェル・ディスカバリー望遠鏡、ハワイ島・マウナケア山のカナダ・フランス・ハワイ望遠鏡による観測では、A11pl3Z の周囲にコマと見かけの長さが約3秒角の短い尾が観測され、A11pl3Z で彗星活動がみられることが示唆された[3][23]。一方で、アラン・ヘールを含む多くの天文学者は、A11pl3Z に彗星のような特徴は見られないとも報告されていた[23]。2025年7月2日21時31分(協定世界時、日本標準時では翌3日6時31分)、小惑星センターは小惑星電子回報 (Minor Planet Electronic Circular) にて A11pl3Z の発見を正式に発表し、最初に発見を報告した「ATLAS」とこれまでに確認された3番目の恒星間天体であることを示す符号「3I」を付した 3I/ATLAS という名称を正式に命名した[3][23]。また、同時に非周期彗星としての符号である C/2025 N1 (ATLAS) という名称も付与された[3]。3I/ATLAS の発見・命名が正式に発表されるまで、小惑星センターには31ヵ所の異なる観測施設で記録された122の観測データが収集された[3]。
更なる観測
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2025年7月2日、天文学者のデビッド・C・ジューイットとジェーン・ルーがノルディック光学望遠鏡を用いた観測を行ったところ、3I/ATLAS は「明らかに活動的」であり、拡散した尾を伸ばしていることが明らかになった[37]。同日に Miguel R. Alarcón とカナリア天体物理学研究所の研究者らによる研究チームも、スペインのテイデ天文台にある口径 2 m の望遠鏡2台による観測から、3I/ATLAS には少なくとも約 25,000 km の長さの尾が伸びていることが確認された[38]。複数の異なる望遠鏡による観測から、3I/ATLAS のコマは塵の存在を示唆する赤みがかった色をしており、2019年に発見された観測史上初の恒星間彗星であるボリソフ彗星に似ていることが分かった[14][15][39]。2025年8月に Toni Santana-Ros らが発表した研究では、3I/ATLAS のコマが2025年7月を通して赤みを増してきており、3I/ATLAS の彗星活動が活発になった結果として表面またはコマの組成が変化していることを示していると報告されている[14]。
さらに同年7月6日には、Zwicky Transient Facility による5月22日から6月21日までの期間に行われた10回分の観測データ内からも 3I/ATLAS が検出されたことが小惑星電子回報にて公表されている[40]。7月18日にはそれよりもさらに早い5月21日以降にイスラエルのワイツマン天文観測所 (Weizmann Astrophysical Observatory) によって観測されていた記録が公表された[41]。
2025年7月から8月にかけて超大型望遠鏡VLT、北欧光学望遠鏡、ロジェン天文台による偏光観測により、3I/ATLAS のコマは小さな位相角で異常に高い負の偏光度を示していることが明らかとなった。つまり、3I/ATLAS のコマから反射された光の大部分が、太陽-彗星-観測者間の平面に沿って振動しているということになる[42]。3I/ATLAS の負の偏光は、太陽系外縁天体で見られるものと似ており、コマが氷と暗い物質の混合物でできていることを示唆している[42]。
2025年6月にファーストライトが公開されたばかりであるヴェラ・C・ルービン天文台も、同年6月21日から7月3日までの科学的検証の観測中において 3I/ATLAS を偶然観測することに成功していた[43]。これらの観測により、中心部のコマがわずかに大きくなっていることが示され、想定される核の直径に制約を課すことが出来た。ヴェラ・C・ルービン天文台による検証観測がさらに2週間早く始まっていれば、ATLAS よりも先に 3I/ATLAS を発見できていた可能性がある[43]。アメリカ航空宇宙局 (NASA) が打ち上げたトランジット系外惑星探索衛星 (TESS) でも、正式に発見される前である2025年5月7日から6月3日にかけて 3I/ATLAS が観測されていたことが分かっている[5]。これらの観測により、2025年5月に太陽から約 6.4 au(約9億5700万 km)離れた時点でも、3I/ATLAS は既に明るく活動していたことが示されており、この彗星活動は水以外の揮発性物質の氷が昇華によって引き起こされた可能性が高いことが示唆されている[5]。
7月20日には、3I/ATLAS のコマから初めて水の氷が検出されたと報告された。これは、ジェミニ南望遠鏡とNASA赤外線望遠鏡施設による同年7月5日と7月14日の近赤外線による分光観測に基づいている[44]。スウィフト望遠鏡による紫外線観測からは、 同年7月30日と8月1日に 3I/ATLAS のコマに水蒸気と水酸化物イオンが存在していることが示唆された[45]。8月21日には、NASAのSPHERExミッションとカリフォルニア工科大学の天文学者らは、8月中旬からのSPHERExによる観測で水の氷と明るい二酸化炭素ガスの放射を検出したと報告した[12][46]。8月22日にはローウェル天文台の天文学者らは、3I/ATLAS でシアン化物の放射の兆候が暫定的に検出されたと初めて報告した[47]。その前日の8月21日に超大型望遠鏡VLTによって行われた分光観測で実際にシアン化物の存在が確認され、さらに 3I/ATLAS のコマからはニッケルも検出された[28]。
7月21日には初めてハッブル宇宙望遠鏡による 3I/ATLAS の観測が行われ、そのコマの様子がとても詳細に分かるようになり、その彗星核の直径は 5.6 km 以下であると制限された[11][48]。ハッブル宇宙望遠鏡によって撮影された画像は同年8月7日にNASAと欧州宇宙機関 (ESA) によって公開された[17][18]。同年8月6日には、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡 (JWST) に搭載されている近赤外線観測機器 NIRSpec を用いた初めての 3I/ATLAS の観測が行われ[26][49][50]、その結果は8月25日にNASAによって発表された[51]。また、同年11月にはハッブル宇宙望遠鏡は 3I/ATLAS の紫外線分光観測を行って核から放出されているガスの組成とそれに含まれている硫黄と酸素の比率を調査する予定となっており[26][52]、それ以降も太陽から離れていく 3I/ATLAS の様子を観測する見通しである[53]。ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は近日点通過後の12月にも 3I/ATLAS を観測する予定となっている[26][54]。
3I/ATLAS が太陽から約 2.33 au(約3億4900万 km)の位置にあった同年9月7日にはジェームズ・クラーク・マクスウェル望遠鏡によって 3I/ATLAS の観測が行われ、この時のシアン化水素の分子の生成率が (1.5 ± 0.5)×1025 個/秒と測定された。しかし1週間後の9月14日には、生成率は (4.5 ± 1.9)×1025 個/秒(約 2 kg/秒)にまで増加したことが天文電報中央局が発行する Central Bureau Electronic Telegram (CBET) にて報告された[55]。9月15日時点のシアン化水素のコマは直径が約 180,000 km に及ぶ非対称の形状をしており、太陽がある方向とは反対方向に伸びていた。同日には、見かけの直径が50秒角(実際の距離にして約 100,000 km に相当する)の塵の尾も観測された[56]。9月14日時点の 3I/ATLAS の見かけの等級は14.2等級であった[55]。
エクソマーズ計画で打ち上げられた火星探査機であるトレース・ガス・オービターに搭載されている Color and Stereo Surface Imaging System (CaSSIS) を使用して、3I/ATLAS が火星に最接近した際にそのコマの撮影を行った[57]。この探査機で観測を行うのに適している対象よりも 3I/ATLAS は約50,000倍暗かったため、5秒間の露出時間で画像が撮影された[57]。
軌道
[編集]- 太陽系を通過する 3I/ATLAS の軌道(青)を真上から見た図。各惑星の軌道と位置も表示されている(クリックでアニメーション再生)。
- 太陽系を通過する 3I/ATLAS の軌道(青)を斜めから見た図。各惑星の軌道と位置も表示されている(クリックでアニメーション再生)。
| 天体名 | 速度 |
|---|---|
| オウムアムア (1I/ʻOumuamua) | 26.33 km/s[58] 5.55 au/年 |
| ボリソフ彗星 (2I/Borisov) | 32.2 km/s[59] 6.79 au/年 |
| CNEOS 2014-01-08(恒星間天体候補) | 44.8 km/s[60] 9.24 au/年 |
| 3I/ATLAS | ≈ 58 km/s[6][7] ≈ 12.23 au/年 |
3I/ATLAS は太陽からの重力で束縛できないほど速く移動しているため、太陽を通過する際に極端な双曲線軌道を描いて移動していく[16]。太陽系内の天体からの重力の影響を受けない星間空間での双曲線過剰速度()は約 58 km/s 程度とされている[6][7][8][9][注 3]。これは 3I/ATLAS よりも前に発見されていた恒星間天体であるオウムアムア(約 26 km/s)とボリソフ彗星 (2I/Borisov)(約 32 km/s)と比較してもかなり速い[8]。3I/ATLAS が太陽に接近し、太陽からの重力に引き寄せられるようになるとその移動速度は上がり[16][61]、逆に近日点を通過して太陽から離れ始めると太陽の重力に引き寄せられ続けて移動速度は低下するようになるも、それでも 3I/ATLAS は太陽の重力を振り切って太陽系を離脱していく[21]。
3I/ATLAS の軌道の形状は、軌道離心率と呼ばれるパラメータによって記述される[36]。特定の天体を楕円の焦点として公転する楕円軌道の際は軌道離心率の値は1未満となるが、軌道が開いた双曲線軌道場合は1より大きい値を示す[62]。3I/ATLAS の軌道離心率の値は 6.13942 ± 0.00003 に及んでいる[2][注 5]。この極めて高い軌道離心率により、3I/ATLAS の軌道は曲線ではなく直線的に見える[63]。3I/ATLAS は現在までに知られている3つの恒星間天体の中で最も高い軌道離心率を持ち[35]、オウムアムア(約 1.201[64])やボリソフ彗星(約 3.356[65])よりもかなり大きい[36]。発見直後の予備的な計算結果では軌道離心率は10を超えるとも予測されていたが[66]、観測データが増えてきたことで軌道が精査され、軌道離心率は6前後へ収束することとなった[19][67]。
2025年10月29日11時47分頃(協定世界時)に太陽に最も接近する近日点に到達した[68][注 6]。近日点では太陽から約 1.357 au(約2億300万 km)の距離まで近づき、これは地球軌道と火星軌道の間に相当する[2][16]。その約4週間前の同年10月3日には火星から約 0.194 au(約2900万 km)にまで接近するとみられている[69]。近日点通過時の太陽に対する相対速度は 68 km/s に達したと計算されている[7][21][注 2]。
3I/ATLAS の軌道は、偶然にも太陽系の惑星の軌道面すなわち黄道とほぼ一致している[70][71]。具体的には、3I/ATLAS の軌道は黄道面に対して約175度傾いており、つまり他の惑星の公転方向とは逆方向に約5度傾斜した軌道を持つということになる[2][39]。3I/ATLAS は金星、火星、そして木星に接近するが、地球には接近しない位置関係となる[70]。3I/ATLAS は地球に近づくことはないため、地球へ脅威を及ぼすような天体にはならない[16][63][70]。近日点通過の約4週間前の同年10月3日には火星から約 0.194 au(約2895万 km)にまで接近した[69]。この火星への接近時に火星から見た見かけの明るさは11等級に達し、マーズ・リコネッサンス・オービターなどの火星の周回軌道上にある火星探査機から観測できる可能性が示されていた[22]。近日点通過後の同年11月3日頃には金星から約 0.649 au(約9710万 km)にまで[72]、同年12月19日頃に地球から約 1.797 au(約2億6882万 km)にまで接近するとみられ[73]、12月上旬頃から再び地上からでも観測できるようになる[16]。さらにその後の2026年3月16日頃には木星から約 0.359 au(約5377万 km)にまで接近すると予測されている[2][74][75]。
可観測性
[編集]3I/ATLAS は地球や太陽に大きく接近することはないので、地球から見た見かけの明るさが11.5等級よりも明るくなることは予想されていない暗い彗星である[4][76]。最大光度に達する時期でも、地上からでは肉眼または口径 70 mm 以下の双眼鏡では観測できない[77][78]。そのため、3I/ATLAS の観測には少なくとも口径が 76 mm から 114 mm のプレートソルビングスマート望遠鏡によって撮影されている[77]。2025年10月3日時点で、3I/ATLAS の彗星核とコマの明るさを足した全光度 (M1) は12.3等級で、3I/ATLAS と同時期に観測された彗星であるレモン彗星 (C/2025 A6) の約120倍、SWAN彗星 (C/2025 R2) の約190倍暗い[76]。
2025年7月から9月下旬にかけて、3I/ATLAS は日没後に地球上から観測可能であった[79]。2025年7月の前半は、3I/ATLAS はいて座の領域内に位置し、見かけの明るさは17.5等級であった[79]。2025年7月の後半までに 3I/ATLAS はへびつかい座へ移動し、見かけの明るさは16等級にまで明るくなった[79]。その間、3I/ATLAS は天の川付近の恒星が密集した領域に位置していたため、背景の無関係の恒星と重なる可能性があり、観測が困難であった[79]。太陽に近づくにつれて 3I/ATLAS は明るさを増し続け、2025年8月を通してへびつかい座、さそり座、てんびん座の領域を横断した[79]。9月の間は 3I/ATLAS はてんびん座の領域内に留まり、見かけの明るさが12等級から13等級程度まで明るくなった[76][77]。観測条件が良い暗い夜空の下でも、14等級の点状の天体を肉眼で観測するには、少なくとも口径が 200 mm 以上の望遠鏡が必要となるが[80]、点状ではなくぼやけて拡散状に見える彗星であることを考慮すると、口径 300 mm の望遠鏡が必要になるかもしれない[注 7]。
同年10月29日の近日点通過が近づくにつれ、地球上から見た際の 3I/ATLAS の太陽からの離角は小さくなり続け、日没直後に地球上の赤道地域のみでしか観測できなくなった[77]。同年10月1日から11月9日にかけては太陽からの離角は30度未満となる[81]。3I/ATLAS の近日点通過前後に太陽からの離角が小さくなる理由は、近日点通過の8日前の10月21日に合(地球から見て天体が太陽を挟んで反対側に位置する関係)となるためである[22][77]。彗星の近日点通過時は 3I/ATLAS が地球から見て太陽のほぼ真後ろに位置するため[注 8]、この期間中は地球からの観測ができなくなる[22][77]。しかし、12等級までの天体を観測できる気象観測衛星である GOES-19 からは 3I/ATLAS が10月18日から10月24日までの期間に渡って観測することが可能となった[82]。また、同じ期間には太陽観測衛星の SOHO と PUNCH の観測視野内にも 3I/ATLAS が映るようになった[83]。
3I/ATLAS は近日点を通過した後、2025年11月になると日の出直前に再び観測できるようになった[77]。そして太陽から遠ざかるにつれて暗くなり、太陽からの離角も大きくなっていく[77]。12月になると 3I/ATLAS はおとめ座としし座の領域を通過し、その明るさは12等級よりも暗くなると予想されている[77]。同年12月12日には太陽からの離角が90度以上となり、真夜中にも観測できるようになるが、一晩に渡って天球上に昇り続ける衝の状態となるのは、さらに見かけの明るさが暗くなる2026年1月22日となる[84]。

起源と年齢
[編集]3I/ATLAS は、その極めて双曲線的な軌道と太陽系に対する非常に速い相対速度のため、太陽系外から飛来した恒星間天体であることが分かっている[16]。3I/ATLAS は、太陽系の惑星に大きく接近したことで相対速度を上げた訳ではないため、少なくとも太陽系内に起源を持つ天体ではない[85]。3I/ATLAS の天球上における軌跡を追跡すると、3I/ATLAS は銀河系の中心があるいて座の方向の星間空間から飛来してきたことがわかる[39][85]。
これまでに発見されていた2つの恒星間天体とは異なり、3I/ATLAS は天球上において南半球側から飛来しており、これは北半球側にある太陽向点とは反対方向である[85]。太陽向点は、太陽が銀河系内において近くの恒星に対して相対的に移動する方向を指す[9]。3I/ATLAS が南半球側から発生したことは予想外であった。なぜなら、天文学者らは当初、太陽系が進んでいく方向である太陽向点からより多くの恒星間天体が出現するはずであり、望遠鏡では南半球起源の恒星間天体の発見は北半球よりも困難になるだろうと予測していたからである[9]。3I/ATLAS が稀な発見である可能性もあれば、南半球起源の恒星間天体が当初考えられていたよりも一般的であることを示す可能性もあるとされている[9]。
3I/ATLAS の起源は、その双曲的過剰速度を銀河座標における動径方向 (U) 、横方向 (V) 、鉛直方向 (W) の速度成分に分解することで推測できる[9][注 9]。3I/ATLAS が太陽系に到達したとき、太陽に対する銀河座標における相対速度成分は、動径方向成分 (U) は −51.0 km/s で銀河中心から遠ざかっており、 鉛直方向成分 (W) は +18.5 km/s で銀河面に対して上向きに移動していた[9]。3I/ATLAS の横方向の速度成分 (V) は、近くの恒星や他の星間物体と比較しても非常に大きく、これは 3I/ATLAS が銀河系内を銀河面から傾いた軌道を描いて公転しており、したがって銀河系の銀河円盤における薄い円盤か厚い円盤と呼ばれる領域のいずれかに起源を持つと考えられている[29]。厚い円盤は主に、太陽よりも重元素の含有量が少ない年老いた恒星で構成されている[9][30][31]。
2025年7月に Matthew Hopkins らが主導した研究では、厚い円盤内の恒星の典型的な年齢に基づき、3I/ATLAS の年齢は 68% の信頼度で76億年から140億年の間であると推定された[9][30]。これは、3I/ATLAS が太陽系の年齢(約46億年)よりも古い天体である可能性があり、これまでに観測された中で最も古い彗星である可能性があることを意味している[9][30]。同月に Aster Taylor と Darryl Seligman が行った独立した分析では 3I/ATLAS の年齢は30億年から110億年と推定され、Hopkins らの推定と概ね一致している[8][26]。
主星と形成
[編集]3I/ATLAS は数十億年にも渡って銀河系内を公転しており、無関係な恒星の中に混ざるようになるのには十分な時間が経過しているため、起源となった主星がどれかまでは遡ることはできない[9][26]。3I/ATLAS の速度は、恒星や星雲への接近による重力の影響を受け、恒星間空間を彷徨う過程で変化した可能性が高いと考えられている[17]。2025年9月に Yiyang Guo らが行った研究では、3I/ATLAS は過去1000万年の間に25個の既知の恒星から1パーセク(3.26光年)以内の範囲を通過した可能性があることが明らかとなっている[29]。
3I/ATLAS の主星は不明であるが、その組成と銀河円盤における力学的構成から、主星が持っていた特性とその周囲の環境を推測することはできる[26]。仮に 3I/ATLAS が厚い円盤内に起源を持つ天体であるならば、3I/ATLAS の主星は、少なくとも太陽の約 40% の重元素を含む低金属量の恒星である可能性がある[8]。3I/ATLAS は、主星が若い頃にその周囲を覆っていたガスと塵から成る原始惑星系円盤内で形成されたと推定されている[8][9]。ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡と SPHEREx による観測では、3I/ATLAS は二酸化炭素(CO2)に富んでいることが示されており[12]、これは 3I/ATLAS が主星から遠く離れた、二酸化炭素が固体に凝縮するのに十分な温度である、二酸化炭素の雪線(スノーライン)よりも外側の領域で形成されたことを示唆している[27]。形成後のある時点で、3I/ATLAS は巨大惑星または主星系への他の恒星の接近によって、重力の影響で主星系から追い出されてしまったと考えられる[8][9][26]。
物理的特徴
[編集]彗星活動
[編集]コマ
[編集]
右画像: 3I/ATLASのぼやけた外観は、半径に対する表面輝度の関係を示す放射輝度プロファイルで確認できる(右)。3I/ATLASの表面輝度は同じピーク輝度を持つ背景の恒星に比べて輝度中心からの放射半径が大きいため、中心部にコマが存在していることを示している。
3I/ATLAS は望遠鏡で撮影した画像では恒星よりも明らかにぼやけて見えるが、これは 3I/ATLAS が彗星核の表面から放出されたガスと氷の塵[77][26]から成るコマに覆われていることを意味する[39][15][43]。太陽からの放射がこの彗星活動の原因であり、彗星核が太陽への接近で加熱されることで揮発性の氷が昇華し、それが彗星の表面から塵を放出して宇宙空間へ散逸されるためである[77][26]。3I/ATLAS のコマにある塵の粒子は最終的に核から離れ(より小さな粒子は太陽からの放射圧によって吹き飛ばされながら)、彗星の後方に塵の尾を形成する[43]。
3I/ATLAS が太陽へ近づくにつれて、表面の不安定な氷がさらに加熱されて昇華が速くなり、より彗星活動は活発になった[39]。これにより、彗星が突然大量の塵を放出して明るくなる爆発(アウトバースト)や[26][87]、以前にボリソフ彗星 (2I/Borisov) で起こったような、彗星核が粉々に砕ける崩壊が発生する可能性も示されていた[26][70]。しかし2025年8月時点の観測では 3I/ATLAS でそのような爆発による増光は検出されておらず、明るさと彗星活動は安定している[88]。NASAのトランジット系外惑星探索衛星 (TESS) による観測では、3I/ATLAS は正式な発見の約2ヶ月前である2025年5月7日に、太陽から約 6.4 au(約9億5700万 km)離れていたにも関わらず彗星活動を示していた可能性があることが報告されている[5]。
2025年7月2日にカナリア大望遠鏡から撮影された高解像度画像によると、3I/ATLASのコマはわずかに楕円形の形状となっており、その直径は最大で26,400× 24,700 km(地球直径の約2倍[注 10])と測定された[85]。NASAのSPHEREx計画によって2025年8月中旬に行われた観測では、3I/ATLASには半径が少なくとも 348,000 kmに及んでいるさらに広範な二酸化炭素のガスから成るコマがあることが示されたが、このコマは近赤外線でのみ観測された[12]。この頃は 3I/ATLAS は地球から遠く離れているため、天球上ではコマは小さく見える程度であった。2025年7月からの観測では、コマの最も良く見える部分(コマの半値全幅)の角直径は約2秒角[39][89][15]、コマの全範囲では約10秒角と測定された[85]。3I/ATLASが太陽へ接近して彗星活動が活発になるにつれて、コマのサイズと密度は増大し続けた。正式な発見以前である同年6月21日にヴェラ・C・ルービン天文台によって観測されていた際は3I/ATLASのコマの直径は 13,040 km で、そこから7月2日には18,760 km まで広がったことが示された[43]。
分光観測と画像観測によると、3I/ATLAS のコマは赤みがかった色をしており[39]、半径が数 μm の粒径が比較的大きな塵の粒子で主に構成されていると考えられている[44][15]。3I/ATLASの赤みがかった色はD型小惑星や太陽系内の彗星、ボリソフ彗星 (2I/Borisov) と似通っており、これは彗星のコマにあるソリンなどの照射された有機化合物によって引き起こされている可能性が高い[90]。3I/ATLASのコマ内では、半径が 1 μm 程度の小さな塵の粒子は彗星核から約 22 m/s という高速で宇宙空間へ放出されている一方、半径が 100 μm の大きな塵の粒子は約 2 m/s と低速で放出されている[11]。2025年7月にハッブル宇宙望遠鏡が撮影した画像における 3I/ATLAS のコマの形状と明るさに基づくと、7月の間において小さな塵の粒子は毎秒 6 kg、大きな塵の粒子は毎秒 60 kg のペースで放出されていたと推定されている[11]。3I/ATLAS の塵の放出速度はボリソフ彗星 (2I/Borisov) が太陽系に接近した際のものと似ているが[15]、 太陽から遠方に位置する木星族彗星の典型的な放出速度と比較すると遅いことが知られている[14]。
太陽方向へ伸びるプルーム
[編集]2025年7月から8月にかけて、3I/ATLAS のコマは地球上から観測した際に西方向へ伸びているように観測された。これは太陽がある方向、つまり彗星の進行方向ではなく太陽へ近づいていく方向にコマが伸びているということになる[27][43][89]。この太陽に向かって伸びている構造は尾ではなく、太陽光に晒されて加熱された 3I/ATLAS の彗星核の表面の氷の昇華が速く起こり、より多くの塵が放出されることで発生するプルーム(柱状構造)である[11][14]。この構造による 3I/ATLAS のコマの太陽方向への伸びは、ベルナーディネッリ・バーンスティーン彗星のような他の遠方にある彗星のコマの伸び方に似ており、こうした彗星は彗星核の中でも太陽光に照らされている側の表面から優先的に塵を放出することが知られている[43]。
2025年8月下旬までには 3I/ATLAS のコマは太陽に向かって伸びているような形状にはならなくなり、通常の彗星と同様に太陽とは反対の方向へ伸びる尾が発達するようになった[91][92]。しかし、太陽方向に面したプルームはこの時でもまだ存在しており、同年8月26日に撮影された画像では 3I/ATLAS のコマの中でも内側の部分(核から5秒角以内の範囲)が扇形のように見えており、太陽に面した方向が周囲よりもわずかに明るくなっている様子が観測されている[92]。
尾
[編集]2025年7月にハッブル宇宙望遠鏡によって撮影された画像からは、3I/ATLAS から非常に微かで幅広い尾が太陽がある方向とは反対の東方向へ伸びていることが初めて示された[11]。太陽とは反対方向に伸びる尾は、粒径が小さな塵の粒子が太陽からの放射圧によって吹き飛ばされたときに形成されたもので、彗星では一般的によく見られる特徴である[11]。この尾の幅広さは、小さな塵の粒子が3I/ATLAS の表面から高速で噴出したことを示唆している[11]。この時点では尾は地球から見て 3I/ATLAS の奥へまっすく伸びていると考えられたため、地球から見た際の見かけ上の長さが短縮され、尾の大部分はコマの後方に隠れていたとみられている[89][93]。同年8月末までに、口径 8.2m のジェミニ南望遠鏡による観測から、3I/ATLAS の尾がより目立つようになり、その長さが地球上から観測した際の角直径で約30秒角、実際の距離にして約 56,000 km にまで伸びたことが示された[91][94]。3I/ATLASの尾は近日点に近づくにつれて見かけ上の幾何学的形状の変化と彗星活動の活発化により、より顕著になると予想された[89]。同年9月15日の時点で、3I/ATLAS は角直径にして50秒角(実際の長さで約 100,000 km)に達する塵の尾を持っていると報告されている[56]。近日点を通過した後も、同年11月8日にオーストリアのアマチュア天文家である Michael Jäger によって、4本から5本に分かれた尾が伸びている様子が観測されている[95]。
大きさと質量
[編集]2025年7月にハッブル宇宙望遠鏡によって撮影された高解像度画像によると、3I/ATLAS の彗星核の直径は 0.32 - 5.6 km の範囲であることが示された[11][17][18]。核が光を散乱させる塵のコマに囲まれていることで実際よりも明るく、かつ大きく見えるため、3I/ATLASの核の推定直径には大きな不確実性があった[11]。例えば、発見直後の初期の研究では、絶対等級 (H) が14.8等級ともされ[96]、物理学者の Marshall Eubanks はコミュニティ内のメーリングリストにおいて、初期の観測結果に基づいた暫定的な推定では 3I/ATLAS の彗星核の直径が最大で約 20 km 程度にもなる可能性があると述べており、それまでに知られていた2つの恒星間天体よりもかなり大きな直径を持っている可能性も示されていた[6][24][67]。同様にミシガン州立大学の助教授である Darryl Seligman らによる研究チームも 3I/ATLAS が正式に発見された2日後である2025年7月3日に論文掲載ウェブサイト arXiv に3I/ATLAS の特性を調査した初期観測結果の論文を寄稿し、ここでは絶対等級 (H) を12等級、3I/ATLAS の核が表面の暗い小惑星と同様の特性を持つと仮定して、核の直径は最大で約 24 km になる可能性も示唆したが[39]、実際の 3I/ATLAS の彗星核の大きさはそれよりもはるかに小さいだろうと認識されていた[39][43][37]。コマの正確な明るさは不明だが、ハッブル宇宙望遠鏡による画像からはコマの明るさが彗星核の見かけ上の明るさの大部分を占めていることが示されているため、3I/ATLAS の彗星核の実際の直径はこの推定範囲の下限値に近いだろうと予測された。宇宙空間へ放出される塵の推定損失率から、3I/ATLAS の彗星核の直径はボリソフ彗星 (2I/Borisov) [注 11]と同様に 1 km 未満である可能性が高いとされた[11]。
様々な宇宙探査機による観測により、3I/ATLAS は近日点通過の約1か月前に (89.3±4.6)×10−9 au/d2 に達する、重力由来ではない顕著な非重力加速度を受けたことが確認された。この非重力由来の加速が純粋な彗星核からのガス放出によって引き起こされるものとした場合、彗星核の質量はおよそ 4.4×1010 kg であると考えられる[10]。3I/ATLAS が典型的な彗星核と同等の 200 - 600 kg/m3 の密度を持っているとすると、想定される彗星核の直径は 0.520 - 0.748 km の範囲となり、これは先述のハッブル宇宙望遠鏡によって撮影された画像から算出された推定値と一致している[10]。
自転
[編集]様々な望遠鏡による即時観測では、3I/ATLAS の核の自転周期を求めることはできなかったが、約29時間に渡って行われた観測では、3I/ATLAS の明るさの変化量は0.2等級以下とほとんど変化していないことが判明している。これは、コマに存在している塵が自転している核を覆い隠していることに起因している可能性があるとされた[39]。しかし、口径 10.4 m のカナリア大望遠鏡によって同年7月2日から7月5日にかけて行われたさらに精度の高い観測により、3I/ATLAS には0.2等級の振幅の変光がみられると報告され、その周期から核の自転周期は17時間弱であると求められた[85]。
探査
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2025年7月に公表された研究では、地球から宇宙探査機を打ち上げて 3I/ATLAS をフライバイ探査を行うことは実現不可能であることが判明した。正式な発見後(2025年7月1日以降)の打ち上げには、少なくとも 24 km/s という極めて高いデルタV (Δv) が必要となり、これは現時点で利用可能な如何なる推進システムの出力を超えているためである。仮に 3I/ATLAS が2025年7月1日より前に発見されていた場合、その日に地球から打ち上げられた宇宙探査機は 3I/ATLAS への到達に 7 km/s 程度のデルタVが必要となり、地球よりも火星から出発する宇宙探査機を用いて 3I/ATLAS をフライバイする方が実現可能であっただろう。火星から出発する宇宙探査機は、デルタVを大幅に小さくする必要がある。例えば、2025年7月から9月の間に火星から宇宙探査機を 3I/ATLAS へ向かわせて同年10月初旬に 3I/ATLAS へのフライバイを可能とするには 5 km/s 程度のデルタVが必要となる[99]。
3I/ATLAS が火星に接近した2025年10月1日から10月7日の間に、ESAの2機の火星探査機であるトレース・ガス・オービター (TGO) とマーズ・エクスプレスが、3I/ATLAS の観測を行った。トレース・ガス・オービターは搭載されているカメラで 3I/ATLAS を撮影することに成功したが、マーズ・エクスプレスは露出時間が短かったためか、3I/ATLAS の撮影は確認できなかった[100]。NASAのマーズ・リコネッサンス・オービターや探査車のパーサヴィアランスも観測を行っているが、同年10月1日から行われている、NASAを含むアメリカ合衆国政府機関の閉鎖により、これらのデータは公式には公開されていなかった[101]。しかし、日本時間の11月20日に観測データをNASAが公表した。NASAによると、マーズ・リコネッサンス・オービターは、観測可能な探査機の中で最も物理的に近い位置におり[102][103]、その距離は0. 194 au (2900万キロ)だった[104]。木星探査機のジュノーは、2026年3月に 3I/ATLAS が木星に接近する際に観測を行える可能性があるが[74]、ジュノーは打ち上げから10年以上が経過していることから燃料が少なく、エンジンにも問題が生じてきているため、3I/ATLAS へのフライバイ探査を行える可能性は低い[105]。天体物理学者の Marshall Eubanks の計算によると、小惑星 (16) プシケへの探査を行う予定の宇宙探査機サイキが2025年9月4日に 3I/ATLAS から約 0.302 au(約4520万 km)のところを通過し、木星への探査を予定している木星氷衛星探査計画の JUICE が同年11月4日に 3I/ATLAS から約 0.441 au(約6600万 km)のところを通過した[70][106][107]。しかし、これらの探査機に 3I/ATLAS を観測させるのは困難であり、メインの探査ミッションに影響を及ぼす可能性がある[70]。それでも、サイキは9月8日と9日の8時間にわたり、0.354 au (5300万キロ) の距離から、 3I/ATLAS を観測した[108]。JUICE も搭載されているカメラ、分光計、粒子センサーを用いて11月2日から25日(11月4日の最接近時を含む)に[109] 3I/ATLAS の観測を試みた。11月2日(3l/ATLASとの最接近の2日前)ナビゲーションカメラ(NavCam)が3l/ATLASを撮影した。遠方ではあるが、3l/ATLAS が近日点に最接近し、最も活発な活動を見せる 3l/ATLAS を観測出来た事になる[107]。ただ、JUICE にとっては太陽に近い内太陽系という熱的環境が厳しい領域を巡航している時期であるため、これらの観測データ取得には、2026年2月18日と20日まで待たねばならなかった[106][110][111][107]。取得データは予定どおり送られ、観測チームが分析を行っている[112][113]。
2025年10月30日から11月6日までの期間、JUICE と同様に木星へ巡航中のエウロパ・クリッパーは 3I/ATLAS から伸びるイオンの尾の内部を通過した。この機会を狙い、11月6日に1.096 au(約1億6400万 km)の距離まで接近し、尾の紫外線観測を行った[108][114][115]。恒星間彗星のイオンの尾の組成検出や、太陽風による尾の特徴的な変化を観測出来ることが期待される。さらに、小惑星(65083) ディディモスへの探査を予定している探査機 Hera も同年10月25日から11月1日までの期間に 3I/ATLAS のイオンの尾の内部を通過する可能性があると予測されている[116]。
NASAの太陽観測衛星 STEREO-A とPUNCH、NASAとESAの太陽観測衛星 SOHOも観測を行い、太陽の裏側に隠れ、地球から追尾できなかった時期の 3l/ATLAS を観測した。STEREO(太陽地球関係観測衛星)は、3I/ATLAS の観測を開始した最初の太陽観測衛星であり、2025年9月11日から10月2日まで観測を行った。PUNCHは、同年9月28日から10月10日にかけて観測した。SOHOは、同年10月15日から26日の間に 3I/ATLAS を観測した。SOHO に搭載されている広角分光コロナグラフ (LASCO) 計器群は、2.393 au(約3億5800万 km)離れたところから 3I/ATLAS が視野内を横切るのを観測した。太陽最接近時の 3l/ATLAS は暗く、観測が出来るかは未知数だったが、3つの太陽観測衛星は画像処理や複数の画像を重ね合わせるスタッキングと呼ばれる技術で画像化に成功した[117][118]。
宇宙船仮説論争
[編集]2025年7月16日、ハーバード大学のアヴィ・ローブとイギリスの非営利団体である Initiative for Interstellar Studies (i4is) の研究者らは、3I/ATLAS が「異常な」特徴を持っていると考えられたことから、地球外生命体によって作られた人工的な宇宙船である可能性があると推測する論文を arXiv に発表し話題となった[119][120][121]。研究チームがそう考える根拠として、想定される 3I/ATLAS の大きさが明らかに大きいこと[122]、識別可能な化学物質が含まれていないこと、そして軌道が黄道面にほぼ一致していることを挙げている[119][123]。ローブらは 3I/ATLAS が黄道面とほぼ一致するような軌道を描きながら金星、火星、木星にここまで接近する確率は 0.005% 未満であると分析し、また、惑星の公転方向に対して逆行することで特定の惑星に容易に到達できる上に、人類が 3I/ATLAS への接近および迎撃したりすることを極めて困難にさせているという仮説を提唱した[119][120]。また、3I/ATLAS が近日点を通過する前後は地球は太陽を挟んで反対側に位置しており、地球から観測した際の離角が30度未満になるように 3I/ATLAS と太陽と地球がほぼ一直線に位置関係が揃う確率は約 7% であると計算している[119]。この仮説が公表されると、他の天文学者からは即座にローブらの仮説を非難する声が上がった。科学ニュースサイトの Live Science は、3I/ATLAS が自然由来の彗星であるという意見が圧倒的であると報じ、多くの研究者がこの新しい論文に失望し、他の科学者の研究の邪魔になると指摘していると付け加えた[123]。3I/ATLAS に関する最初の研究論文を公表した研究チームを率いた Darryl Seligman は「3I/ATLAS には数多くの望遠鏡による観測が行われており、典型的な彗星活動の兆候が示されている」と述べている[123]。Seligman はさらに、3I/ATLAS はまだ太陽から遠く離れているため、その中に含まれている化学物質はまだ詳細に検出できない可能性があると説明している[123]。それ以来、観測により 3I/ATLAS には彗星ではごく一般的な水の氷が含まれているという証拠が報告されている[9][44]。
ローブは以前にも、初めて観測された恒星間天体であるオウムアムアについても、地球外生命体による人工物である可能性があると主張し、多くの研究者から批判を受けている[123][124]。ローブ自身もブログで「最も可能性の高い結論は 3I/ATLAS が完全に自然な恒星間天体、おそらく彗星であるということだ」と述べている一方で、自身の仮説について「仮説自体は興味深い試みであり、その妥当性に関わらず、探求するのは楽しい」と擁護している[120][123]。レジャイナ大学の天文学者である Samantha Lawler は「いかなる『検証可能な予測』に対しても偏見を持たないことが重要ではあるが、ローブらによる新しい論文はこの考え方を押し広げすぎている」と強調しており、さらに、カール・セーガンの言葉を引用して「研究者の大多数は途方もないことを主張するにはそれ相応の途方もない証拠が必要という考えに賛同しており、ローブらが提示した証拠は決して並外れたようなものではない」と述べている[123]。
ギャラリー
[編集]- 3I/ATLAS を含む既知の恒星間天体の木星軌道以内における軌道を示した図[39]
- 2025年7月1日に小惑星地球衝突最終警報システム (ATLAS) によって撮影された 3I/ATLAS の発見画像
- チリで行われている Deep Random Survey で用いられている口径 43 cm 望遠鏡が2025年7月2日に撮影した 3I/ATLAS(中央左から右へ動く点)
- チリで行われている iTelescope Deep Sky Chile で用いられている口径 51 cm 望遠鏡が2025年7月2日に撮影した 3I/ATLAS
- カナダ・フランス・ハワイ望遠鏡が2025年7月2日に撮影した 3I/ATLAS の画像。やや細長くぼやけた外観をしており、3I/ATLAS が彗星であることが分かる[39]。
- 2025年7月3日にジェミニ北望遠鏡によって撮影された 3I/ATLAS の画像
- 2025年7月21日にハッブル宇宙望遠鏡によって撮影された背景の恒星の間を移動していく 3I/ATLAS のコマ撮り映像
脚注
[編集]注釈
[編集]- ↑ 軌道が双曲線軌道となっている場合、計算される軌道長半径は負の値となる。
- 1 2 3I/ATLAS が近日点上にあるときの太陽に対する移動速度は で表される。ここでの は万有引力定数、 は太陽の質量、 は 3I/ATLAS の近日点距離、 は 3I/ATLAS の軌道長半径を指す。にて計算。
- 1 2 3 双曲線軌道上にある 3I/ATLAS が太陽から無限遠点にあるときの太陽に対する移動速度は で表される。ここでの は万有引力定数、 は太陽の質量、 は 3I/ATLAS の軌道長半径を指す。にて計算。
- ↑ 太陽の重力に完全に束縛されている天体の場合、太陽から無限遠点に近づく際の太陽との相対速度は非常に遅くなり、例えばハレー彗星の太陽から最も離れる遠日点における太陽との相対速度は約 1 km/s 程度である。
- ↑ JPL Small-Body Database では、軌道要素の不確実性は 1σで記されており、これは正規分布において平均値の前後の標準偏差の範囲内に約 68% の割合で真の値が当てはまることを意味しており、この不確実性の値を3倍にした 3σ では、平均値の前後の標準偏差3倍分の範囲内に約 99.7% の割合で当てはまることになる。
- ↑ JPL Horizons On-Line Ephemeris System で計算された 3I/ATLAS の太陽に対する距離の変化において、「rdot」の欄の値が負の値から正の値になった瞬間が近日点通過のタイミングを指す。多体問題により、3I/ATLAS は JPL Small-Body Database にて扱われている2025 年7月28日を元期とした軌道解よりも約11分遅れて近日点に到達することになるので、JPL Small-Body Database に記載されている近日点通過時刻である11時36分を11分遅らせて11時47分となる。
- ↑ 例えば、見かけの明るさが13.9等級のNEAT彗星 (240P) を観測するには口径 12 in(約 30.5 cm)の望遠鏡が必要となっている。
- ↑ 地球からの離角が最も小さくなるのは合を起こす2025年10月21日であり、太陽からの離角はわずか2.591度しかない。
- ↑ 銀河座標系では、U は銀河中心の方向を正の値、V は銀河の自転方向を正の値、W は銀河北極方向を正の値と定義する[9][86]。
- ↑ 地球の平均直径 (極直径と赤道直径の平均) は約 12,756 km で、これに2を掛けると25,512 km となる
- ↑ 2019年に公表された研究では、ボリソフ彗星 (2I/Borisov) の彗星核の直径は 0.4 -0.5 km と推定されている[97][98]。
出典
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関連項目
[編集]外部リンク
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