3Dプリンター銃製造事件

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3Dプリンター銃製造事件(スリーディープリンターじゅうせいぞうじけん)とは、2014年日本3Dプリンターを用いて拳銃が製作された事件。

本記事では3Dプリンター銃そのものについても記述する。

事件[編集]

2014年5月8日、3Dプリンターで拳銃を製作し所持していた大学職員の男が銃刀法違反で逮捕された。2014年4月12日神奈川県警が男の自宅を家宅捜索した際、3Dプリンターを使用して製作した拳銃が5丁押収され、このうち2丁は殺傷能力があるものと鑑定された。3Dプリンターで製作した銃に銃刀法違反が適用されたのはこの事件が初めてである[1]

この事件を受けて2014年5月9日、茂木敏充経済産業大臣は「銃砲の製造は、既に武器等製造法の規制の対象となっており、現時点において、追加的な規制をすることは考えていないが、不当な用途へ転用されることを防止するため、実態なども見極めつつ、関係省庁とも連携の上、検討してまいりたい」と既に規制対象であることを明言した[2]国家公安委員会委員長古屋圭司はこの事件に対して、現行法上では対応できていない問題であり、今後は法制上の問題も含めて対応していく方針としている。警察庁によれば3Dプリンターは法律では購入を規制されておらず、転売も行われていることから、利用者登録などにより所持者を特定するということは困難であるという[3]

この事件において犯人は3Dプリンタだけで銃を製造したのではなく、7年半もの町工場での勤務経験を生かし、小型フライス盤や旋盤、バンドソーなど加工機械も駆使して銃を製作していた可能性が高いと見られる[4]

この事件で、規制の議論が銃だけでなく3Dプリンターにまで及んだことから、業界各社が集まって「3Dプリンター振興協議会」が設立された[5]

3Dプリンター銃[編集]

元々3Dプリンター自体は自動車業界などで試作品をつくるために使われてきていたが、2010年代に入ると低価格化が進み量販店で売られるようになったため、広く一般に出回るようになった。これまでの法規制は、「物」は有体物、3Dデータの様な「情報」は有体物ではないものの典型として明確に分けて規定し、有体物としての銃火器の製造・所持・流通を取り締まるものであったが、技術の進化で両者の境目が曖昧になってきたため、このような事件が発生するようになった。

それまでにも、部品の一部を3Dプリンタで製造した銃火器は作られていたが[6]、2013年にUSAのDefense Distributedという団体により、Liberatorという世界初の全部品が3Dプリンタによって製造可能な拳銃のデータが公表された。これを受け、国務省は同団体に、銃火器の輸出規制を規定したInternational Traffic in Arms Regulationsに違反するおそれがあるとして設計図の公開を行わないように通達を行っている[7]。USAのフィラデルフィアでは、2013年末に、3Dプリンタを用いた銃の製造に対する規制が始まったが、2014年の段階ではまだ3Dプリンタによる銃火器製造を受けた法改正はほとんどの国で行われていない[8]

そもそも、樹脂で造った銃そのものが使用者にとって危険であり、その観点からも規制が望まれている[9]が、Liberator公開直後から他にも同様の設計ファイル公開が相次ぎ、当初は単発しか発射できなかった3Dプリンタ製銃火器も、すぐに複数発発射が可能な改良版が登場するなど、どんどん進化を遂げている[10]

議論[編集]

3Dプリンタ製銃火器の危険性に対しては、「簡単かつ安価に銃火器が出まわるから規制せよ」との声が大きい一方、様々な反論がある。

弾薬を3Dプリンタで製造できないという事実は多く指摘されており、3Dデータを活用する会「3D-GAN」の相馬達也は「一貫して言っていることですが、3Dプリンタで銃を作ることはできます。ですが、他の製造法に比べて著しく有利だということはないので、社会的脅威にはなり得ません。弾薬が手に入るのなら、もっと有利な銃の製造法は他にたくさんありますから、3Dプリンタの所持を規制する必要も意味もありません。」と、3Dプリンタで銃火器をつくること自体の優位性を否定している[4]

また、Defense Distributedの開発責任者コーディー・ウィルソン(Cody Wilson)[12]は、「権利(武装権)を乱用して人に危害を加える可能性は、誰にでもあるという事実と向き合いたくないだけだ。危害を及ぼす可能性の有無にかかわらず、与えられている権利は守られるべきだというのが、我々の立場だ。さらに言えば、危害を受ける可能性があるからこそ、権利は保障されるべきだと思う」と武装権を根拠に反論している[13]

脚注[編集]

  1. ^ “3Dプリンターで拳銃製造、銃刀法違反容疑で男逮捕 全国初、神奈川県警”. 産経新聞. オリジナル2014年5月8日時点によるアーカイブ。. http://web.archive.org/web/20140508085831/http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/140508/crm14050809450004-n1.htm 
  2. ^ “3Dプリンタ銃逮捕事件:3Dプリンタ業界はPC業界の過ちを繰り返してはいけない”. MONOist. http://monoist.atmarkit.co.jp/mn/articles/1405/15/news017.html 
  3. ^ “3Dプリンター「法制上の問題含め対応」”. 読売新聞. オリジナル2014年5月9日時点によるアーカイブ。. http://web.archive.org/web/20140510021555/http://www.yomiuri.co.jp/national/20140509-OYT1T50068.html 
  4. ^ a b “「3Dプリンタの銃規制」は本当に必要なのか?”. AKIBA PC Hotline!. http://akiba-pc.watch.impress.co.jp/docs/column/3dpnews/20140516_648827.html 
  5. ^ “3Dプリンター振興協議会、きょう設立-11社参加、不正使用防ぐ”. 日刊工業新聞. (2014年6月25日). http://www.nikkan.co.jp/news/nkx0120140625aaat.html 
  6. ^ “3Dプリンターで武器を作ったらどうなる?+(1/2ページ)”. 産経新聞. http://sankei.jp.msn.com/wired/news/121026/wir12102614330003-n1.htm 
  7. ^ “State Department Demands Takedown Of 3D-Printable Gun Files For Possible Export Control Violations”. Forbes. http://www.forbes.com/sites/andygreenberg/2013/05/09/state-department-demands-takedown-of-3d-printable-gun-for-possible-export-control-violation/ 
  8. ^ 杉光一成 「論点」 読売新聞 2014年5月21日
  9. ^ “「3Dプリンター銃製造事件」がどうして「規制論議」になるのか?”. ニューズウィーク. http://www.newsweekjapan.jp/reizei/2014/05/post-645.php 
  10. ^ “The terrifying reality of 3D-printed guns: Devices that ANYONE can make are quickly evolving into deadly weapons”. Daily Mail. http://www.dailymail.co.uk/sciencetech/article-2630473/The-terrifying-reality-3D-printed-guns-Devices-ANYONE-make-quickly-evolving-deadly-weapons.html 
  11. ^ “The 15 Most Dangerous People in the World”. WIRED. http://www.wired.com/2012/12/most-dangerous-people/ 
  12. ^ 2012年、USAのWIRED誌が「世界で最も危険な15人」の1人に選出[11]
  13. ^ “米で波紋、「3Dプリンター銃」開発者に聞く”. 日本経済新聞. (2013年5月6日7時0分). http://www.nikkei.com/article/DGXBZO54574920R00C13A5000000/ 

参考文献[編集]

  • 杉光一成 「論点」 読売新聞 2014年5月21日 15頁左上

関連項目[編集]