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24時間戦えますか

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

24時間戦えますか(にじゅうよじかんたたかえますか)は、三共栄養ドリンクリゲイン』がかつて使用していたキャッチコピーである[1]。当初は「24時間、戦エマスカ。」と表記された[1][2]。同製品のCMソング『勇気のしるし』(歌:時任三郎・牛若丸三郎太名義)の作中でも歌詞として使用された。

この言葉は1989年の自由国民社・第6回新語・流行語大賞で流行語部門・銅賞を受賞している[3]

概要

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『リゲイン』が発売された1988年当時、栄養ドリンク市場が右肩上がりに伸びており、競合製品も多かった。そのため、ドリンク剤としての独自性に加え、認知度を高めるための大仕掛けが必要とされた。そこで、グローバル化の中で世界への進出しつつあったビジネスパーソンをペルソナとして、オフィスワーカー向けの「かなり尖ったコンセプト」での商品開発が進められた。「24時間、戦エマスカ。」のキャッチコピーは、この一環として発案されたものである。1989年からは時任三郎がジャパニーズビジネスマンを演じたCMの放送が始まり、売れ行きは急伸した[4]

三共によれば、「24時間戦えますか」とは24時間働くという意味ではなく、「オンとオフを使い分けて戦おう」というメッセージを込めたものであった[5][4]。『週刊プレイボーイ』1989年11月7日号にて、批判があることについて問われた三共の担当者は、「あくまで『戦えますか』です。つまり『仕事も遊びも含めて24時間、いかに充実した生活ができますか』ってことですから。20代くらいの若い方にはその趣旨は伝わっていると思います。『元気が出る』って反応がとても多いですから」と答えた[6]

バブル崩壊が始まった1991年には「24時間、戦うあなたに」というキャッチコピーに変更された。同年湾岸戦争が勃発したことも変更の理由であるという[7]

2007年の『リゲイン24』発売時には再びキャッチコピーとして使われた[4]

2010年、アーケード用麻雀ゲーム『麻雀格闘倶楽部 我龍転生』のイベントとして「第16回 特別大会 Regain杯」が開催された。キャッチコピーとして「『麻雀格闘倶楽部』で24時間格闘(たたか)えますか?」が使われたほか、景品名などにもこれをもじったものが含まれた[8]

2014年、三共とライセンス契約を結んだサントリー食品インターナショナルから、炭酸飲料『リゲイン エナジードリンク』が発売された。この際には「24時間戦えますか」をもじった「24時間戦うのはしんどい」、「3、4時間戦えますか?」というキャッチコピーが使われた[9]

2018年の錠剤タイプ『リゲイン トリプルフォース』の発売に際した記事において、三共の広報担当者はバブル崩壊後の時代の変化を踏まえ、「今では働き方改革が叫ばれ、ブラック企業という言葉も生まれた。『24時間戦えますか』は、死語になった」と述べた[10]

評価

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1989年5月末から『勇気のしるし』を使ったCMの放送が始まると、このフレーズは爆発的に流行した。11月にはシングルCDがリリースされ、企業の運動会などでも流された[6]

消費者心理や商品のブランドに詳しい流通科学大学の羽藤雅彦は、「当時は、働けば働くほど収入も上がり、豊かな生活につながるとみんなが信じていた時代。わかりやすくキャッチーなフレーズがまさにその時代の象徴となったのだと思う」と分析する[7]

一方で、軍歌風の曲や長時間労働を奨励するかのような言葉への批判は流行当時から存在した。三共は労働省からも、このキャッチコピーについて非公式な問い合わせを受けたという[6]

荒木敏夫らの『日本史のエッセンス』(1997年)では、このキャッチコピーを次のように評する:この言葉は1980年代以降の日本を象徴する言葉であった。欧米に追いつけ負い越せを合言葉にして発展して行き、そして国際統計では頂点に立つことができて、こうなろうともこの志向は変わらずに頂点に立ち付けていた時期の日本で広まった言葉であった。だがそれと同時に当時の日本では多くの過労死が発生し、1988年には弁護士たちが過労死110番を立ち上げると同時に過労死という言葉が広まっていく。そして当時の弁護士たちが推計した年間の過労死というのは約1万人であり、これは交通事故で死亡する人数に匹敵する数字であった。24時間戦えますかという言葉はこのような過労死という異常な出来事が多く発生していた時期の日本で広まった言葉であり、その過労死の元凶である日本の企業の異常さを示す言葉であった[11]

このキャッチコピーおよびCMは必ずしも当時の「ジャパニーズビジネスマン」の実態を表す描写ではないとする評価もある。深川英雄は1991年の著書『キャッチフレーズの戦後史』において、『リゲイン』のCMを「日本のビジネスマンの明らかなカリカチュアライズ」と指摘し、「見るものは、このCMの発散する異様なエネルギーに圧倒されながらも、苦笑を持ってこれに接したものだ」、「このCMのかなたに、先進国中もっとも長い労働時間に耐え、過労死と隣合わせに生きる日本のビジネスマンの姿を見るのは、うがち過ぎだろうか」と評している[12]

CMを演出した黒田秀樹は、「働きすぎのビジネスマンをちゃかしてやろうと、シニカルにつくったつもりです。時にはロボットのように働く彼らの姿をデフォルメして描きたくて、時任さんの表情も、あえて冷たく無表情にしました。でも、スポンサーさんも、こちらの皮肉がいま一つ見えていないようです」と述べている[6]

広告批評』1989年12月号では、『リゲイン』のCMが89年広告ベストテンの2位に選ばれた。この中では「軍歌まがいの行進曲、サイバーパンクを盛り込んだあざとい画面が、いやがうえにも、マシン化したジャパニーズビジネスマンを強調する。おしゃれな若者や疲れたオトーサンのウロウロするCMが多い中で、このときならぬ異様なパワーは異様に目立って、海外進出ビジネスマンの戦いぶりを、改めて思いおこさせた」と評された[13]。また、川本三郎は『リゲイン』のCMを『リポビタンD』などの「マトモな」CMのパロディであると評している[14]

1990年の時点で、外国からの批判に加えて過労死やストレスによる心身症の人々の増加を背景に、1980年代までは見られなかった「ゆとり」の大切さを強調する風潮が生まれていた。関沢英彦は『24時間戦えますか』というキャッチコピーの流行について、「そこに込められた開き直った明るさにサラリーマンとして自嘲の念にかられつつ、共感を覚えたからだといえる」と述べた[15]

脚注

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  1. ^ a b 時代の変化に合わせて進化した「令和のRegain」、日経ビジネス電子版 Special- 2025年2月18日閲覧。
  2. ^ 人生100年時代のマーケティング戦略 元気に頑張る人を応援し続けるリゲイン エイジングケアの新商品発売、『宣伝会議』2019年12月号。
  3. ^ 「現代用語の基礎知識」選 ユーキャン 新語・流行語大賞 第6回 1989年 授賞語、自由国民社 - 2025年2月18日閲覧。
  4. ^ a b c ビジネスパーソンの元気をサポートして37年、栄養ドリンク「リゲイン」に刻まれた24時間戦士へのメッセージ”. @DIME. 2026年2月21日閲覧。
  5. ^ 「言葉は生き物だ! 歴史を作った流行語大辞典 週刊朝日創刊95周年」『週刊朝日』2017年3月3日号。
  6. ^ a b c d 新型コロナで不安な今こそ必要? リゲイン「24時間戦えますか」の歌声をもう一度”. アーバンライフ東京. 2026年2月21日閲覧。
  7. ^ a b 24時間戦えますか? 栄養ドリンクの30年”. NHK NEWS WEB (2018年1月26日). 2018年12月27日時点のオリジナルよりアーカイブ。2026年2月22日閲覧。
  8. ^ 「我龍転生」リゲイン飲んで24時間対局しよう。プロ参戦の大会が”. 4gamer. 2026年2月21日閲覧。
  9. ^ 「24時間戦うのはしんどい」ので 「3、4時間戦えますか?」”. 電通報. 2026年2月21日閲覧。
  10. ^ 日経クロストレンド. “「24時間戦う」は死語? 人生100年時代の「リゲイン」誕生”. 日経クロストレンド. 2024年12月30日閲覧。
  11. ^ 『日本史のエッセンス』有斐閣、1997年11月20日、371頁。 
  12. ^ 深川英雄『キャッチフレーズの戦後史』岩波書店、1991年、197-198頁。ISBN 4-00-430195-5https://dl.ndl.go.jp/pid/13144316 
  13. ^ 広告批評』マドラ出版、1989年12月、16頁https://dl.ndl.go.jp/pid/1853088/ 
  14. ^ 広告批評』マドラ出版、1989年12月、28頁https://dl.ndl.go.jp/pid/1853088/ 
  15. ^ 労働経済局月報』東京都労働経済局総務部企画調査課、1991年1月、21頁https://dl.ndl.go.jp/pid/2841562 

関連項目

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