2026年のコンゴ民主共和国イトゥリ州におけるエボラ出血熱流行
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2026年6月17日時点の流行状況 | |
| 日付 | 2026年5月 - 現在進行中 |
|---|---|
| 場所 | コンゴ民主共和国、ウガンダ |
| 死傷者 | |
報告された 感染者数 / 死者数 (2026年6月05日現在) 合計: 900人超/ 220人 | |
2026年のコンゴ民主共和国イトゥリ州におけるエボラ出血熱流行(2026ねんのコンゴみんしゅきょうわこくイトゥリしゅうにおけるエボラしゅっけつねつりゅうこう、英: 2026 Ituri Province Ebola epidemic)は、2026年5月初旬、コンゴ民主共和国イトゥリ州で発生した、オオコウモリを自然宿主とするブンディブギョウイルス(BDBV) のヒトへの大規模感染により引き起こされたエボラ出血熱アウトブレイクの事例である。
過去に何度もアウトブレイクを引き起こしてきたザイール型(EBOV) と異なり、ブンディブギョ型は人間に感染するエボラウイルスの中でも最も希少な種の一つであるため、ブンディブギョ型に対する承認済みワクチンや特異的な治療法は現時点で存在しない[1]。
6月5日時点で疑いのある例も含めて関連する死者は220人以上、疑いのある症例は900例を超え[2]、感染者はイトゥリ州都ブニアだけでなく首都キンシャサや、イトゥリ州に隣接するウガンダの首都カンパラや北キヴ州都ゴマといった大都市でも確認されている。イトゥリ州では現在紛争による治安悪化に伴う大規模な人口移動、医療機関への攻撃を含む戦闘、栄養失調等が発生しており、これがさらなる広域感染拡大を誘発させることが懸念されている[3][4]。
概要
[編集]2026年5月15日、CDC(アメリカ疾病予防管理センター)及びコンゴ民主共和国保健省及びウガンダ保健省によりコンゴ民主共和国北東部イトゥリ州でのエボラ出血熱アウトブレイクが発表された。
翌々日の17日にはWHOにより本事例がPHEIC(国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態)に指定された[5]。その理由としてWHOは、ブンディブギョ型に特化した承認済みワクチンや治療薬が存在しないこと、イトゥリ州を含むコンゴ東部での紛争の継続、流行規模が公式の感染者数を大幅に上回る可能性等を挙げている[1]。この際にテドロス事務局長は通常行われる専門家緊急委員会との協議を経ず、自らの判断で宣言を行ったが、これは感染症対応に関する国際ルールである国際保健規則(IHR)の歴史上、初めてのケースとなった[6]。
コンゴ民主共和国でのエボラ出血熱アウトブレイクは今回で17例目となる[4]。しかし、その大半はザイール型によるものであり、ブンディブギョ型による流行は2012年の発生以来、同国では史上2例目となる。そのため当初のザイール型を前提として構築されていた現地保健当局による検査は偽陰性を示し、このことがインデックス・ケース発生から約4週間も遅れた公式確認・公表につながった要因の一つと指摘されている。さらに紛争地域であるイトゥリ州から、適切な低温管理下で検体を安全に施設の揃った首都キンシャサへ搬送することが困難であった点も、診断確定の遅延を助長したと考えられている[6][4]。
ブンディブギョ型によるアウトブレイク自体も世界的には2007〜2008年のウガンダ、2012年のコンゴ民主共和国に続き、今回が史上3例目である。過去2回の流行での致死率は25-50%程度であるとされる[7][5]。
現地の医療体制は貧弱であり、医療慈善団体である国境なき医師団が隔離用テントを設置するなど、最低限の医療体制を構築するべく尽力したが、死体を取り戻そうとする関係者らが医療施設を襲撃する事件も発生。陽性と判断された患者が逃げ出すなどの混乱も生じた[8]。
発生
[編集]2026年4月24日、イトゥリ州都ブニアの福音派医療センター(Evangelical Medical Centre in Bunia)で、1名の看護師が発熱、出血、嘔吐、重度の衰弱の後死亡した。この看護師が本事例のインデックス・ケースと推定される[9][10][11]。その遺体はブニア保健地域に隣接するモングワル保健区域へ搬送された[12]。コンゴ保健省は、その葬儀への参列者が死因を「霊的な病(mystical illness)」と考え、遺体を触り、様々な儀式を行ったことがモングワルでのスーパー・スプレッディングイベントの直接的な原因だとしている[6][13]。同時に、モングワルは金鉱の存在する人口密度の高い都市であり、労働者が遠隔地の採掘場と地域の交易拠点を行き来する交通量の多い都市であることも感染の拡大を助長させた[1]。
5月5日、モングワル保健区域において、医療従事者を含んだ約50人に及ぶ高致死率の原因不明疾患が発生したことがWHOに報告された。5月14日、モングワルおよびルワンパラ保健区域でWHOの対応チームによる詳細調査が行われ、翌5月15日にそのうち8検体からブンディブギョ型が確認された。同15日にウガンダ保健省も国内でブンディブギョ型感染患者を確認した。患者はコンゴ民主共和国で曝露した後5月11日に重篤な症状でウガンダの民間病院へ入院し、5月14日に死亡したコンゴ人の高齢男性であった[5][14]。
感染経路について現時点では、交通量の多い鉱山地域であるモングワル保健地域で始まり、その後患者が医療を求めてルワンパラおよびブニアへ移動し、さらに首都キンシャサや隣接する北キヴ州やウガンダにも拡大したと考えられている。現在、詳細な疫学調査および感染経路追跡が進められている[5]。
症状と治療
[編集]ブンディブギョウイルスによるエボラ出血熱(BVD)は、フィロウイルス科オルソエボラウイルス属の一種であるブンディブギョエボラウイルス(Bundibugyo ebolavirus, BDBV)によって引き起こされる、重篤かつ高い致死率を伴うエボラ病の一形態である[15]。致死率は25-50%程度であり、一般的なザイールウイルスによるエボラ出血熱より致死率は低い。
人獣共通感染症に分類され、自然宿主としてはオオコウモリ類が最も有力視されている。感染したコウモリや非ヒト霊長類などの野生動物の血液・分泌物との接触によってヒトへ感染し、その後は感染者の血液、臓器、嘔吐物、下痢便、尿、唾液、汗、母乳、精液またはそれらに汚染された衣類、寝具、医療器具、注射針等を介し、他人の傷ついた皮膚や、眼・鼻・口などの粘膜に接触することでヒトとヒト間の感染が成立する。空気感染、あるいは感染性体液への直接曝露を伴わない日常的接触によっては感染しない[16][14]。
特に感染リスクが特に高いのは、感染動物や感染者と密接に接触する人々であり、医療従事者、研究室職員、同居家族、介護者、そして遺体に接触する葬儀参加者などが高リスク群とされる。2026年の流行では患者の多くが20〜39歳であり、女性が60%以上を占めていることから、家庭内介護や看護に伴う曝露が重要な感染経路となっている可能性が指摘されている。感染予防・管理(IPC)が不十分な医療環境や、遺体への直接接触による伝統的葬儀・埋葬慣習は、感染拡大を著しく助長する要因である[5][16]。
BVDの潜伏期間は2〜21日であり、通常は症状出現前に感染性を持たない。初期症状は非特異的で発熱、倦怠感、筋肉痛、頭痛、咽頭炎を呈するため、マラリアなど他の熱帯性発熱疾患との鑑別が難しく、臨床診断や早期発見を困難にする。その後嘔吐、下痢、腹痛などの消化器症状、多臓器障害、さらには一部症例では出血症状へ進行し、増悪すれば死亡する。過去の流行では、発熱、激しい倦怠感、鼻出血、吐血など典型的なエボラ病症状も報告されている。BVDの確定診断にはPCR検査や抗原・抗体検査などの検査室での診断が必要となる[5][14]。
現在のところ、BVDに対する承認済みワクチンや特異的な治療法は存在していない。そのため治療は予防が中心となり、感染制御は迅速な症例発見、隔離、コンタクト・トレーシング、火葬等の安全な埋葬、そして地域社会との協力体制に大きく依存している[15][5]。
各国政府の対応
[編集]WHOはこの流行を国内および地域レベルでは高い一方で世界レベルでは低いと評価しているが、各国は予防策を強化している[13]。
アフリカ
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ウガンダ
5月15日にエボラ出血熱アウトブレイクを発表した。5月19日には国内における握手やハグといった不必要な身体的接触を禁止した[17]。27日、エボラ出血熱の感染が拡大する隣国コンゴ民主共和国との国境を即時閉鎖すると発表[18]。 6月3日までにウガンダでは、死者2人を含む19人の感染例が報告された[19]。
コンゴ民主共和国
5月15日にエボラ出血熱アウトブレイクを発表した。
ソマリア
5月27日に保健・社会福祉省が全国的な公衆衛生警報を発令し、首都モガディシュの病院をエボラ対策に指定した[20]。
ルワンダ
5月17日、ルワンダはコンゴのゴマと、ルワンダの ルバブ 、ギセニの国境を連結する道路を一時的に閉鎖するとし、国境封鎖を開始した。期限は無期限であるとしている[21]。
アジア
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インド
5月24日、インド政府は次の通知があるまでコンゴ民主共和国、ウガンダ、および南スーダンへの不要不急の渡航禁止勧告を発令した[22]。
タイ
5月26日、タイ政府はコンゴ民主共和国またはウガンダを出発または経由して入国する旅行者に対し、21日間の隔離を義務付けた[23]。
中華人民共和国
6月1日、コンゴ民主共和国支援のため感染症対策医療専門家チームを派遣した。チームは3カ月間の医療支援活動を行う[24]。
日本
5月17日、外務省がコンゴ民主共和国及びウガンダを対象に感染症危険情報(レベル1:十分注意してください)を発令した[25]。5月18日にはエボラ出血熱に関する関係省庁対策会議が開かれ、対策が話し合われた[26]。
ネパール
コンゴ民主共和国内で活動している970人を超えるPKO要員の陸軍内で、流行地域に駐留する隊を隔離した[27]。
香港
5月19日、当局はランタオ島の竹篙湾にある元コロナ隔離・検疫施設を、エボラ出血熱患者隔離施設として準備することを発表した[28]。
北アメリカ
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アメリカ合衆国
5月18日に公衆衛生法を発動し、過去21日間にコンゴ民主共和国、ウガンダ、南スーダンに滞在した外国人旅行者に対して米国の入国禁止措置措置を取った。措置は30日間継続される[29]。28日、アメリカ政府はエボラ出血熱の感染が疑われるアメリカ人の保護を目的に、ケニアに隔離施設を設置、運用する計画を発表した。しかし翌日、ケニアの裁判所は、人権団体からの訴えを受けて計画の一時停止を命じている[30]。
カナダ
カナダは26日、エボラ出血熱が流行しているアフリカ中部のコンゴ民主共和国、ウガンダと南スーダンからの入国を一時的に禁止すると発表した。実施期間は90日[31]
メキシコ
5月29日までに、メキシコの航空会社3社(アエロメヒコ、ビバアエロブス、ボラリス)は、同国が2026 FIFAワールドカップの開催地となる背景から、過去21日以内にウガンダ、コンゴ民主共和国、または南スーダンに滞在した渡航者の、空路によるメキシコへの入国を制限することを発表した[32]。
脚注
[編集]出典
[編集]- 1 2 3 “コンゴのエボラ熱でWHOが緊急事態宣言、治療薬ない希少株の感染拡大” (jp). Yahoo! ファイナンス (2026年5月17日). 2026年5月20日閲覧。
- ↑ “コンゴでエボラ大流行、死者220人、感染者900人...問われる「流行後」の医療体制”. Newsweek日本版 (2026年6月3日). 2026年6月5日閲覧。
- ↑ “エボラ感染拡大にWHO事務局長が「重大な懸念」 今回の流行を憂慮すべき理由” (jp). CNN 公式サイト (2026年5月20日). 2026年5月20日閲覧。
- 1 2 3 “アフリカのエボラ流行、死者100人超す 米国人1人も感染 戦闘激化で対応出遅れ” (jp). CNN 公式サイト (2026年5月19日). 2026年5月20日閲覧。
- 1 2 3 4 5 6 7 “Ebola disease caused by Bundibugyo virus, Democratic Republic of the Congo & Uganda” (英語). WHO 公式サイト (2026年5月16日). 2026年5月20日閲覧。
- 1 2 3 “Flawed tests and funerals allowed Ebola to spread undetected, sources say” (英語). ロイター通信 公式サイト (2026年5月18日). 2026年5月20日閲覧。
- ↑ “WHOが「緊急事態」宣言、今回のエボラ出血熱流行について分かっていること” (jp). CNN 公式サイト (2026年5月18日). 2026年5月20日閲覧。
- ↑ “アングル:コンゴ医療施設、相次ぐ襲撃でエボラ患者逃走”. ロイー (2026年5月26日). 2026年5月30日閲覧。
- ↑ “Ebola outbreak 2026: What is MSF doing and how can I help?” (英語). 国境なき医師団 公式サイト (2026年5月20日). 2026年5月20日閲覧。
- ↑ “New Ebola outbreak in remote DR Congo province kills 80” (英語). CNN 公式サイト (2026年5月18日). 2026年5月20日閲覧。
- ↑ “DRC faces deadly Ebola resurgence amid worsening humanitarian crisis” (英語). Al Jazeera 公式サイト (2026年5月17日). 2026年5月20日閲覧。
- ↑ “An American doctor is among the newest cases in rare Ebola outbreak in Congo” (英語). PBS 公式サイト (2026年5月18日). 2026年5月20日閲覧。
- 1 2 “Ebola cases up to 600 in Africa and WHO forecasts numbers will rise” (英語). The National 公式サイト (2026年5月20日). 2026年5月21日閲覧。
- 1 2 3 “Ebola Disease Outbreak in the Democratic Republic of the Congo and Uganda” (英語). CDC 公式サイト (2026年5月19日). 2026年5月20日閲覧。
- 1 2 “コンゴ民主共和国およびウガンダにおけるエボラ出血熱の流行について” (jp). 国立健康危機管理研究機構(JIHS) 公式サイト (2026年5月18日). 2026年5月20日閲覧。
- 1 2 “Bundibugyo virus disease updates” (英語). The National Institute for Communicable Diseases(NICD)公式サイト (2026年5月15日). 2026年5月20日閲覧。
- ↑ “Uganda bans hugs and handshakes as two cases of Ebola are confirmed” (jp). Yahoo!ニュース (2026年5月18日). 2026年5月20日閲覧。
- ↑ “コンゴで流行のエボラ出血熱、致死率は25%未満 WHO”. AFP (2026年5月28日). 2026年5月30日閲覧。
- ↑ “エボラ出血熱の確定症例数は471件に、感染者数急増に懸念”. AFP (2026年6月7日). 2026年6月7日閲覧。
- ↑ “Somalia Launches Emergency Ebola Preparedness Measures Amid Regional Health Threat Fears”. WardheerNews (2026年5月27日). 2026年6月5日閲覧。
- ↑ “エボラ拡散懸念でルワンダが国境閉鎖…欧州ではハンタウイルス広がる” (英語). The Telegraph 公式サイト (2026年5月19日). 2026年5月20日閲覧。
- ↑ “WHO Declares Ebola Outbreak a Public Health Emergency of International Concern; Africa CDC Declares Public Health Emergency of Continental Security” (英語). Press Information Bureau (PIB India) (2026年5月24日). 2026年6月5日閲覧。
- ↑ “タイ、コンゴとウガンダからの旅行者にエボラ隔離義務付け「世界的な人の移動によるリスク」” (jp). AFPBB News (2026年5月26日). 2026年6月5日閲覧。
- ↑ “中国の医療チーム、コンゴ民主共和国に到着 エボラ対策を支援” (jp). 新華社通信(新華網日本語版) (2026年6月3日). 2026年6月5日閲覧。
- ↑ “エボラ出血熱に関する注意喚起 (「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」の宣言)” (jp). 外務省海外安全ホームページ (2026年5月18日). 2026年5月20日閲覧。
- ↑ “エボラ出血熱に関する関係省庁対策会議” (jp). 内閣官房ホームページ (2026年5月18日). 2026年5月20日閲覧。
- ↑ “Nepal steps up Ebola surveillance as WHO declares public health emergency” (英語). The Kathmandu Post (2026年5月17日). 2026年6月5日閲覧。
- ↑ “エボラ対策、検疫施設を準備 政府、元コロナ向けを活用へ” (jp). NNA ASIA (2026年5月21日). 2026年6月5日閲覧。
- ↑ “CDC Statement on the Use of Public Health Travel Restrictions to Prevent the Introduction of Ebola Disease into the United States” (英語). CDC 公式サイト (2026年5月18日). 2026年5月20日閲覧。
- ↑ “エボラ感染疑い米国人の隔離施設をケニアで設置計画、ケニアの裁判所が一時停止命令…人権団体反発受け”. 読売新聞 (2026年5月30日). 2026年5月30日閲覧。
- ↑ “コンゴからの入国禁止 エボラ流行で 加バハマ(時事通信)”. Yahoo!ニュース. 2026年5月28日閲覧。
- ↑ “メキシコ、エボラ懸念で中部アフリカからの渡航者制限 サッカーW杯控え”. AFP (2026年5月30日). 2026年5月30日閲覧。