2020年東京オリンピックのレガシー

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ナビゲーションに移動 検索に移動
国立競技場(右)はオリンピックが開催国日本に残した有形のスポーツレガシーの一つ

東京2020大会オリンピック・レガシーとは、大会開催により開催都市である東京や開催国である日本が、長期にわたり享受できる社会資本・経済的恩恵・文化的財のことである。オリンピック閉幕後に残る遺産(レガシー)をどのように活用するかも問われる。この場合の遺産とは単に建造物のみならず、再開発に伴う都市景観環境持続可能性、さらにオリンピックで醸成されたスポーツ文化やホスピタリティ精神といった「無形の遺産」を根付かせ発展・継承させることも求められ、検討や提案が行われている。

オリンピック・レガシー[編集]

オリンピック・レガシーとは、オリンピック開催後に残る有形無形のレガシー、すなわち「社会的遺産」(ソーシャル・キャピタル)・文化的財環境財のこと。国際オリンピック委員会(IOC)が2002年オリンピック憲章に「To promote a positive legacy from the Olympic Games to the host cities and countries(オリンピックの開催都市ならびに開催国に遺産を残すことを推進する)」と書き加えたことによる。その意図するところは、オリンピック開催に伴い整備したインフラストラクチャーを無駄にすることなく(物理的意義)、オリンピックを体感した若い世代の豊かな人間性の醸成を促す(精神的意義)ことにある。

具体的には、IOCが2013年に5つの分野をあげている[1]

  1. スポーツ・レガシー:Sporting venues(競技施設)、A boost to sport(スポーツの振興)
  2. 社会レガシー:A place in the world(世界の地域)、Excellence, friendship and respect(友好と尊崇)、Inclusion and Cooperation(包括と協力)
  3. 環境レガシー:Urban revitalisation(都市の再活性化)、New energy sources(新エネルギー
  4. 都市レガシー:A new look(新たな景観)、On the move(交通基盤)
  5. 経済レガシー:Increased Economic Activity(経済成長

2012年ロンドンオリンピック大会関係者の談として、「有形無形の社会変化(レガシー)は大会時に突然生まれるものではない。事前にどれだけ人々の関心や機運を高め、機会を最大限生かすかで、その成果は大きく変わってくる」としている[2]

東京2020大会における具現化[編集]

東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(TOCOG)は、レガシーを残す取り組みを進めるため、「スポーツ・健康」、「街づくり持続可能性」、「文化教育」、「経済・テクノロジー」、「復興・オールジャパン・世界への発信」の五本の柱を掲げている[3]東京都のオリンピック・パラリンピック準備局が策定した「大会後のレガシーを見据えて」では、

  1. 競技施設や選手村のレガシーを都民の貴重な財産として未来に引き継ぐ
  2. 大会を機にスポーツが日常生活にとけ込み、誰もが生き生きと豊かに暮らせる東京を実現
  3. 都民とともに大会を創りあげ、かけがえのない感動と記憶を残す
  4. 大会を文化の祭典としても成功させ、「世界一の文化都市東京」を実現する
  5. オリンピック・パラリンピック教育を通じた人材育成と、多様性を尊重する共生社会づくりを進める
  6. 環境に配慮した持続可能な大会を通じて豊かな都市環境を次世代に引き継ぐ
  7. 大会による経済効果を最大限に生かし、東京そして日本の経済を活性化させる
  8. 被災地との絆を次代に引き継ぎ、大会を通じて世界の人々に感謝を伝える

とする[4]。こうしたレガシー構想が実現することにより、約27兆円の経済効果が得られると都は試算する[5]

競技施設[編集]

東京ベイゾーンに新設された東京アクアティクスセンター(2020年1月、竣工前)

大会の競技施設は有形のレガシーとなりうる。

実現しなかったレガシー[編集]

ザハ・ハディド案による国立競技場建設が白紙撤回され、予定していた併設するレガシー機能が失われることになった[6]

  1. 可動式観客席
  2. 8万人収容の観客席
  3. 開閉式屋根
  4. フィットネスコンベンション施設
  5. スポーツに関する博物館図書館

街づくり[編集]

2020年3月、田町品川間に開業した高輪ゲートウェイ駅

オリンピックでの交通渋滞を緩和すべく鉄道網の整備が進められている。

東京都は水上交通の見直しも進めており、羽田空港都心を結ぶ航路を計画している[9]

都市景観向上の観点から電線類地中化小池都知事が推進しており、無電柱化推進法の可決も後押しとなる[10][11]

東京都国土交通省などとともに2019年度までに東京の都市としての歴史自動運転車水素タウンといった近未来社会を先取る先端技術を東京の魅力として発信するPR展示施設を開設する[12]

日本政府と企業は世界に五輪を通じて日本の技術力を更に認知させるとして、2016年には国土交通省がマラソン・競歩・自転車のコースを新たな特殊技術で舗装することで、路面温度を4.8°C下げるなどの技術開発に成功している。

芸術文化[編集]

オリンピック憲章と「オリンピック・アジェンダ2020[13] では、スポーツのみならず文化プログラムとしての文化オリンピアード英語版の実施も呼び掛けている[14]東京2020パラリンピック開催に伴い障害者文化英語版の社会浸透を目指し、障害者芸術英語版普及目的でアールブリュットエイブル・アート)を支援すべく超党派による議員連盟障害者文化芸術活動推進法の成立を目指している[15]

多様性と調和[編集]

東京2020大会ビジョンのコンセプトの一つである「多様性と調和」をテーマに、LGBTへの偏見差別解消、パラリンピックによってバリアフリーの浸透やノーマライゼーションが広まることも期待されている[16][補 1]

大学連携[編集]

2014年6月23日に組織委員会と全国の大学短期大学が連携協定を締結し、2020年(令和2年)の大会に向けて、オリンピック・パラリンピック教育の推進やグローバル人材の育成、各大学の特色を活かした取り組みを進めていくこととなった[17]

課外活動の促進や特別講義の他、正課の授業としてオリンピック・パラリンピックに関する講座を開設している例[18][19]もある。

おもてなし[編集]

誘致の際に話題となった「おもてなし」の精神を具現化する構想が練られている。オリンピックボランティアは、「オリンピックは競技者だけのものではない」との国際オリンピック委員会の考え方を反映したものである[20]。東京都ではオリンピック運営を直接支援するボランティアとは別に、増加が見込まれる外国人観光客に対応する観光ボランティアの体制整備も進めている[21]

観光立国[編集]

その他のアクション[編集]

負のレガシー[編集]

オリンピック需要を見越してホテルの新築・建て替えが都内随所で進行しているが、それに伴い日本の伝統美をちりばめたホテルオークラのロビーが解体されることを都市環境破壊の典型例として、オリンピックがもたらす負の効果であるとされる[31]

訪日外国人旅行者の増加に伴う観光公害が懸念される。

オリンピックにおけるテロを警戒する日本国政府犯罪を未然に防ぐ名目で国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約批准のため共謀罪(テロ等準備罪)の成立を目指すが、監視社会に繋がることが危惧される[32]

過去のレガシー[編集]

オリンピックレガシーの実例としては、2012年ロンドンオリンピックが詳細な成果を報告している。
 →英語版ウィキペディアLegacy of the 2012 Summer Olympics(2012年夏季オリンピックの遺産)参照

1963年供用開始の江戸橋JCT

1964年東京オリンピックでは、東海道新幹線首都高速道路の整備、ホテルの開業に合わせた工期短縮目的で開発されたユニットバス、選手村での食事提供に用いられた冷凍食品衛星放送の実現とカラーテレビピクトグラムの普及などがレガシーとして現在に受け継がれている。

また、国立代々木競技場東京体育館日本武道館馬事公苑など前東京オリンピックで用いられた競技施設を2020年のオリンピックで再利用することになり、これらがある山の手側を「ヘリテッジ(遺産)ゾーン」と呼ぶ。加えて国立代々木競技場を世界遺産に登録しようという建築家らによる運動も始まった[33]

1940年に開催予定で中止となった東京オリンピックでは、新幹線(山陽新幹線路線含む)の前身となる弾丸列車計画とそれに伴う対馬海峡朝鮮海峡下を掘削する日韓トンネル計画が練られ、そこで蓄積された研究成果は戦後の高速鉄道水底トンネル技術に活かされた。

1998年長野オリンピックでも長野新幹線の開通がある一方で、負のレガシーとして滑降競技場設営問題のような環境破壊につながる事象もみられた。

過去のレガシー回顧展[編集]

羽田空港(第2旅客ターミナル・ディスカバリーミュージアム)において、「1964年から2020年東京オリンピック・パラリンピックへ―未来をつなぐレガシー展」を四期にわたり開催。2016年7月20日~9月25日まで「Tokyo 1964の変革」、10月8日~12月4日まで「2016年リオの感動」、12月17日~2017年3月5日まで「アスリートたちの挑戦…伝える、つなぐ」、3月18日~6月25日まで「もっと知りたいパラリンピック」。さらに2018年も4月20日~6月24日に前東京オリンピックの資料を展示公開する。

脚注[編集]

出典[編集]

  1. ^ Olympic legacy booklet (PDF) - IOC
  2. ^ 読売新聞 2016年11月1日
  3. ^ “「2020年に向けて、どのようなレガシーを新たに作りますか」”. 日本経済新聞. (2015年4月6日). https://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ31HBI_S5A400C1TBU000/ 
  4. ^ 『広報 東京都』平成28年2月号
  5. ^ 五輪経済効果は32兆円=大会後のレガシー効果も―都試算 時事通信Yahoo!ニュース)2017年3月6日
  6. ^ 読売新聞 2015年9月11日
  7. ^ 山手線、40年ぶりの新駅を検討 - ウィキニュース2012年1月4日
  8. ^ 虎ノ門ヒルズ西側に日比谷線の新駅 東京都が構想示す - 朝日新聞2014年9月16日
  9. ^ 読売新聞 平成27年2月26日夕刊
  10. ^ 東京の「無電柱化」、推進へ素案急ぐ 小池氏公約 朝日新聞デジタル朝日新聞)2016年12月1日
  11. ^ “都市景観”というオリンピック・レガシーの創造-東京五輪2020の都市像 土堤内昭雄 - ニッセイ基礎研究所
  12. ^ 五輪に向け東京のPR施設…19年度までに開館 YOMIURI ONLINE(読売新聞)2015年12月26日
  13. ^ Olympic Agenda 2020(英語) (PDF) - IOC
  14. ^ カルチュラル・オリンピアード - スポーツ振興くじ助成金事業 (PDF)
  15. ^ 読売新聞 2016年11月30日
  16. ^ "パラリンピック"は何を残すか-人口減少・超高齢社会に向けた"レガシー"の創造を! ニッセイ基礎研究所 2015年4月22日(ハフィントン・ポスト
  17. ^ 東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会における大学との連携協定について アーカイブ 2016年5月28日 - ウェイバックマシン 東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会
  18. ^ オリンピック文化論 アーカイブ 2016年12月20日 - ウェイバックマシン 首都大学東京
  19. ^ 「オリンピック文化論」の授業が始まりました アーカイブ 2017年8月3日 - ウェイバックマシン 武蔵野大学
  20. ^ 16年からボランティア募集 東京五輪みんなの力で - 東京新聞2013年9月21日
  21. ^ 東京都観光ボランティア - 東京観光財団
  22. ^ 読売新聞 2016年6月11日夕刊
  23. ^ 国立公園 訪日客カモン 環境省、20年に倍増1000万人へ 日本経済新聞2016年3月19日
  24. ^ 羽田空港 2020年に向け大規模な改修へ NHKWEB NEWS 2017年1月7日
  25. ^ オリンピック・パラリンピックおもてなしグループ - 総務省
  26. ^ 公衆無線LANの整備の促進 - 総務省
  27. ^ 読売新聞 2016年10月29日夕刊
  28. ^ 読売新聞 2017年1月25日夕刊
  29. ^ 読売新聞 2016年10月22日 社説
  30. ^ 食の安全に「国際標準」導入を義務化へ…厚労省 YOMIURI ONLINE(読売新聞)2016年1月13日
  31. ^ Capital CrimesThe Economist
  32. ^ 安倍政権 「共謀罪」大義に東京五輪を“政治利用”の姑息 日刊ゲンダイ2017年1月6日
  33. ^ 代々木競技場を世界遺産に 推進団体結成「永久に残したい近代建築」 産経新聞 2016年10月6日

補項[編集]

  1. ^ パラリンピックに向け企業障害者選手雇用が増えており、五輪終了後も継続されることがのぞまれる-読売新聞 2016年2月10日夕刊
  2. ^ 観光庁内にスポーツ観光推進室が設置され、観光立国推進基本計画にもスポーツ文化ツーリズムの推進が盛り込まれた

関連項目[編集]

関連書籍[編集]

  • 間野義之『オリンピック・レガシー: 2020年東京をこう変える!』ポプラ社、2013年、285ページ。ISBN 978-4591137758

外部リンク[編集]