12-O-テトラデカノイルホルボール 13-アセタート

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TPA, PMA
識別情報
CAS登録番号 16561-29-8
PubChem 10475874
ChemSpider 17215855
J-GLOBAL ID 200907090157645195
KEGG C05151
特性
化学式 C36H56O8
モル質量 616.83 g mol−1
外観 白色固体
融点

50-70 °C

危険性
安全データシート(外部リンク) LC Laboratories
Cell Signaling
主な危険性 発がんプロモーション活性
への危険性 刺激性
皮膚への危険性 刺激性、紅斑
Rフレーズ R38
Sフレーズ S36/37
半数致死量 LD50 0.309 mg/kg (マウス、静注
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。

12-O-テトラデカノイルホルボール 13-アセタート(12-O-Tetradecanoylphorbol 13-acetate: TPA)はトウダイグサ科植物由来のジテルペンで、ホルボールのジエステルにあたる。ホルボール 12-ミリスタート 13-アセタート(Phorbol 12-myristate 13-acetate, PMA)とも呼ばれる。TPAは強力な発がんプロモーターであり、プロテインキナーゼC (PKC) の下流のシグナル伝達経路を活性化させるための試薬としてよく用いられている。

強力な発がんプロモーション活性を持つハズ油(クロトン油)の主要活性成分として、1967年にHeckerによって[1]、1969年にVan Duurenによって[2]それぞれ独立に分離された。この成分をHeckerは12-O-tetradecanoylphorbol-13-acetate (TPA) と命名し、Van Duurenはphorbol-myristate-acetate (PMA) と呼んだため、両者の名称が現在まで共に使用されている。

TPAは、生理的条件下でPKCを活性化するジアシルグリセロールと、共通のファーマコフォアを有している。ジアシルグリセロールは細胞内では、すぐにジアシルグリセロールキナーゼによるリン酸化などの代謝を受け不活性化するが、TPAは代謝を受けにくく細胞内に長く留まりPKCを活性化する。

ROS生物学において、マウスマクロファージにおいてTPAによって誘導されるがイオノマイシンには誘導されない主要な活性酸素種としてスーパーオキシドが同定されている[3]。したがって、TPAは内因性スーパーオキシド産生の誘導剤として一般的に用いられてきた[4]

TPAはまた、イオノマイシンと共に、T細胞の活性化、増殖、サイトカイン産生を刺激するために一般的に使用されており、これらのサイトカインの細胞内染色のためのプロトコルにおいて用いられている[5]

TPAは細胞遺伝学的検査においてB細胞特異的分裂促進因子としてがん診断において使用されている。TPAは慢性骨髄性白血病といったB細胞がんの細胞遺伝学的診断でB細胞の分裂を刺激するために使用される[6]

TPAはまた、血液がんの治療薬として研究されており、2015年12月、Rich Pharmaceuticals社がアメリカ食品医薬品局(FDA)から急性骨髄性白血病(AML)/骨髄異形成症候群(MDS)に対する第1相ならびに第2相臨床試験について認可された[7]

脚注[編集]

  1. ^ Hecker, E. (1967). “Phorbol esters from croton oil chemical nature and biological activities”. Naturwissenschaften 54: 282-284. doi:10.1007/BF00620887. http://www.springerlink.com/content/w201302361mv9576/. 
  2. ^ Van Duuren, B. L. (1969). “Tumor-promoting agents in two-stage carcinogenesis”. Prog. Exp. Tumor Res. 11: 31-68. PMID 4305962. 
  3. ^ Swindle (2002). “A Comparison of Reactive Oxygen Species Generation by Rat Peritoneal Macrophages and Mast Cells Using the Highly Sensitive Real-Time Chemiluminescent Probe Pholasin: Inhibition of Antigen-Induced Mast Cell Degranulation by Macrophage-Derived Hydrogen Peroxide”. The Journal of Immunology 169 (10): 5866–5873. doi:10.4049/jimmunol.169.10.5866. http://www.jimmunol.org/content/169/10/5866.full.pdf. 
  4. ^ Huang (2014). “Megakaryocytic Differentiation of K562 Cells Induced by PMA Reduced the Activity of Respiratory Chain Complex IV”. Plos One 9 (5): e96246. doi:10.1371/journal.pone.0096246. 
  5. ^ Flow Cytometry Intracellular Staining Guide”. eBioscience, Inc. 2011年9月25日閲覧。
  6. ^ The AGT cytogenetics laboratory manual. 3rd ed. Barch, Margaret J., Knutsen, Turid., Spurbeck, Jack L., eds. 1997. Lippincott-Raven.
  7. ^ Rich Pharmaceuticals obtains FDA approval to begin Phase 1/2 study in AML and MDS patients”. News-Medical.net (2015年12月28日). 2016年9月8日閲覧。

関連項目[編集]