頓絶法

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頓絶法(とんぜつほう、または黙説法Aposiopesis)とは、語り手または作者が、何かの考えにとらわれて途中まで進めていた発言に間を置くか、発言をやめてしまう修辞技法のこと。語り手または作者が話を続ける気がなくなったか、できなくなった印象を読者に与える。語源はギリシャ語 ἀποσιώπησις(黙ってしまう)。

概略[編集]

最もよく見かけるものでは、「出て行け、さもないと—!」という脅迫の台詞である。語り手が恐怖・怒り・興奮といった感情に圧倒されたか、あるいは謙遜していることを描く場合が多い。頓絶法であることを示すのには「—」(emダッシュ)か「‥」「…」(リーダー)が使われる。

古典作品でいえば、ウェルギリウスの『アエネイス』の中では、頓絶法が2100カ所使われている。

hinc mihi prima malis labes, hinc semper Vlixes
criminibus terrere nouis, hinc spargere uoces
in uulgum ambiguas et quaerere conscius arma.
nec requieuit enim, donec Calchante ministro—
『アエネイス』2.97-100。大意「私にとって破滅への最初の猛攻が始まった時であった。オデュッセウスは新たなる言いがかりで私を脅し、人々の間にあやふやな噂を広め、諍いの原因を探し続けた。やめるどころか、ついにはカルカースの助けを借り—」。

統語論では、「もし(If)」ではじまるIf節つまり条件節(Protasis)が、「その場合には(then)」のthen節つまり帰結節(Apodosis)なしに述べられる時に、頓絶法が発生する。

どうか檳榔毛の車を一輛、私の見てゐる前で、火をかけて頂きたうございまする。さうしてもし出來まするならば—
-- 芥川龍之介地獄変

参考文献[編集]

  •  この記事にはアメリカ合衆国内で著作権が消滅した次の百科事典本文を含む: Chisholm, Hugh, ed. (1911). "Aposiopesis". Encyclopædia Britannica (英語). Vol. 2 (11th ed.). Cambridge University Press. p. 196.
  • Smyth, Herbert Weir (1920). Greek Grammar. Cambridge MA: Harvard University Press, p. 674. ISBN 0-674-36250-0.
  • Lanham, Richard A. (1991). A Handlist of Rhetorical Terms. Berkeley / Los Angeles / London: University of California Press, p. 20. ISBN 0-520-07669-9