コンテンツにスキップ

黄金のロバ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
17世紀刊本標題紙
ポンペイの壁画『アモルとプシュケ』[7](『黄金のロバ』より前の作)
アンソニー・ヴァン・ダイクキューピッドとプシュケケンジントン宮殿
アントニオ・カノーヴァアモルの接吻で蘇るプシュケ英語版ルーヴル美術館[8]

通称『黄金のロバ』(おうごんのロバ、: Asinus aureus)、正題『変身物語』(へんしんものがたり、: Metamorphoses)は、古代ローマ2世紀後半[4])のアプレイウスの著作[1]魔術ロバ変身した青年の遍歴を描いたラテン語小説挿話の『クピドとプシュケ英語版』でも知られる[1]

内容

[編集]

全11巻[4]プロローグの後、物語が始まる[9]。主人公の青年ルキウスは、魔術師の妻がフクロウに変身するのを見て真似するが、薬の処方を間違えてロバに変身してしまう[3]。人間に戻れないまま、盗賊団やキュベレ信徒団に使役され、様々な経験をする[3]。最終的に、ローマイシスの秘儀に参加し、人間に戻る[9]

第4-6巻で『クピドとプシュケ英語版[10](『アモルとプシュケ』とも呼ばれる[11]擬人化されたの物語)が、老婆の昔話として語られる。

『黄金のロバ』は教養小説[12]、あるいは後世の『ペルシア人の手紙』『吾輩は猫である』と同様の社会観察小説とも言われる[13]。当時の退廃した社会の風刺[4]不倫獣姦虐殺などの描写も含まれる[6]

成立

[編集]

本作はアプレイウスの独創でなく、ギリシア語圏の複数の民間伝承・物語をラテン語で翻案したものである[1][9]

人間がロバになる物語は、同時代のルキアノスのギリシア語著作『ルキオスまたはロバ』(ルキオスはルキウスのギリシア語読み)にも見られる[2]。また、後世のフォティオスビブリオテーケー』によれば、「パトライのルキオス」本人の著作に『変身物語』があったとされる[2]。このルキオスの著作が、アプレイウスとルキアノスそれぞれに影響を与えたと考えられる[14][2]。ルキオスの著作は民間伝承に由来するとも考えられる[2]

クピドとプシュケ英語版』の物語は、前1世紀メレアグロスの詩(『ギリシア詞華集』5.57等)や、ヘレニズム期の絵画・彫刻にも見られる[15]

アプレイウスは、プラトンプシュケ論や当時の魔術英語版に通じた知識人でもあった[16]。具体的な成立時期は諸説あるが、自伝的要素があることから晩年に完成したと考えられる[17]

伝来・影響

[編集]

本作は、唯一完全に現存する古代ラテン語小説である[14]。不完全に現存するものにペトロニウスサテュリコン』がある[14]古代ギリシア語小説の場合は『ダフニスとクロエ』などが現存する[14]

中世ではチョーサールネサンス期ではボッカッチョシェイクスピアが、本作の影響を受けている[17]。『クピドとプシュケ英語版』は、ヴァン・ダイクカノーヴァなど多くの芸術作品の題材になった[11]

日本語訳

[編集]
  • 呉茂一国原吉之助
    • アプレイウス『愛とこゝろ : クピードとプシケエの物語』呉茂一訳、岩波文庫、1940年
    • アプレイウス「黄金の驢馬」呉茂一訳 - 『世界文学全集』第2期第2巻、河出書房、1951年、NDLJP:1335658
    • アプレイウス『黄金のろば』上・下、呉茂一・国原吉之助訳、岩波文庫、1956-1957年
    • アプレイウス「黄金の驢馬」呉茂一訳 - 『世界文学大系』67巻、筑摩書房、1966年、NDLJP:1335671
    • アプレイウス『黄金のロバ』呉茂一・国原吉之助訳、グーテンベルク21(電子書籍)、2012年
    • アープレーイユス『黄金の驢馬』呉茂一・国原吉之助訳、岩波文庫、2013年、ISBN 978-4003570012
  • アピュレイアス「キューピッドとサイキ」柳田泉訳 -『世界短篇小説大系 古代篇』近代社、1925年、NDLJP:979032/39
  • アプレイウス『アモルとプシュケ』谷口勇訳、而立書房〈アモルとプシュケ叢書〉、1993年、ISBN 978-4880591667
    • アプレウス「愛と心」戸沢姑射訳、勉強堂書店、1901年(谷口訳に併録)

参考文献

[編集]

脚注

[編集]
  1. ^ a b c d ラルース世界文学事典 1983, p. 59.
  2. ^ a b c d e 戸高 2013, p. 317-323.
  3. ^ a b c ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典『黄金のロバ』 - コトバンク
  4. ^ a b c d 引地正俊、平凡社、改訂新版 世界大百科事典『黄金のろば』 - コトバンク
  5. ^ 呉・国原 2013.
  6. ^ a b 松原 2010, p. 104.
  7. ^ Taylor, Laurel. “Portrait of Young Woman and Couple (Terentius neo and Wife) from Pompeii” (英語). Smarthistory. 2025年11月14日閲覧。
  8. ^ アートギャラリー15|ルーヴル美術館 パートナーシップ スペシャルサイト|UNIQLO|ユニクロ”. ユニクロ(UNIQLO)オンラインストア. 2025年9月12日閲覧。
  9. ^ a b c 本間俊行 (2016年). “「私」はだれ?”. researchmap.jp. 2025年9月12日閲覧。
  10. ^ ジェイムズ・ホール 著、高階秀爾 監修『西洋美術解読事典 絵画・彫刻における主題と象徴 新装版』河出書房新社、2004年。ISBN 9784309267500。112頁。
  11. ^ a b 谷口勇「解説」『アモルとプシュケ』、而立書房〈アモルとプシュケ叢書〉、1993年、ISBN 978-4880591667。94-96頁。
  12. ^ 引地正俊、平凡社、改訂新版 世界大百科事典『アプレイウス』 - コトバンク
  13. ^ 呉・国原 2013, p. 502.
  14. ^ a b c d 呉・国原 2013, p. 500.
  15. ^ 呉 1969, p. 129.
  16. ^ 呉・国原 2013, p. 508-512.
  17. ^ a b 呉・国原 2013, p. 513.