魔界都市ブルース

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魔界都市ブルース』(まかいとしブルース)は、菊地秀行小説祥伝社刊)。マン・サーチャー・シリーズとも。短編と長編が出版されており、短編はタイトルの初めに魔界都市ブルースと付く。

当初あまり知られていなかったが、同人作家時代の高河ゆんがこの作品のパロディ本「魔王伝」を出したことをきっかけにブームになり、続いて同人誌が書かれることでファン層が拡大していった[1]

概要[編集]

魔界都市〈新宿〉を舞台に、美貌の人捜し屋、秋せつらが活躍する物語。

あらすじ[編集]

繁栄を誇った新都心・新宿は謎の大地震・魔震に遭ったことが原因で、妖獣が棲み、異能の犯罪者集団や暴力団の巣食う〈魔界都市〉へと変貌した。そこで、老舗煎餅屋『秋せんべい店』を営む美青年・秋せつらは、本業の傍ら、人捜し屋も経営していた。せつらの指先から妖糸が繰り出される時、彼は悪を断つ"非情の魔人"に変身する。

設定[編集]

以下では作品独自の設定を解説する。

魔震(デビル・クェイク)
198X年、東京都新宿区を襲った直下型地震。新宿区だけを壊滅させ、区の境界に深い亀裂を作る。
魔界都市〈新宿〉
魔震によって壊滅した東京都新宿区が復興した後の呼び名。数々の怪奇現象と魔術、最新の科学技術が混在する。深い亀裂によって他の地域とは隔離されており、ゲートと呼ばれる橋が往来の手段となる。外部から訪れる観光客は、帰りのゲートで禁制品(武器や薬品、呪いの品など)を持ち出していないか厳重にチェックされ、発見されると直ちに没収される。

人物[編集]

秋せつら
本作の主人公。「影さえも美しい」「再現不可能」とされる絶世の美貌を持つ青年。季節と天候に関わらず常に黒いコートを着用しており(ただし初期作品は例外)、「黒い美影身」と表現される。西新宿の老舗煎餅屋「秋せんべい店」の三代目。副業に人捜し業「秋ディスカバー・マン(DSM)センター」を営んでいる。せんべいの評価は人によってさまざま(メフィストいわく「近頃焼きが甘くなっている」)だが、「美青年店主」を売りにしている事もあり、年商は約3,000万円。人捜しの腕前に関しては新宿一と誰もが認める。ただし本人は(少なくとも「僕」の方は)せんべい屋の経営に専念して人捜しを廃業したいと思う事もあるらしい。
武器は細さ1ナノメートル(ある強敵への対策で更に細く削った事もある)のチタン合金製の糸。通称:妖糸。妖糸は人や物をやすやすと切断し、拘束し、(単に動作だけでなく身体機能をも)操る事が可能で、周囲の状況を感知するなど、その使用法は多岐に渡る。絶大な戦闘力を有し、メフィストと並んで「新宿で最も敵に回してはいけない人物」として知られる。
穏和(あるいは茫洋)、冷酷の二つの人格を持ち、それぞれ一人称は「僕」と「私」。また、第三の人格は最強最悪とされ、メフィストすら敵対することを拒んだ。
「僕」はぼんやりとした印象の掴み所のない性格であるが、冗談を言う茶目っ気も併せ持つ。口癖は「はぁ」。一方、「私」は非道な敵を前に現れる事が多く、その戦闘力は「僕」をも上回る。また、その圧倒的な戦闘力ゆえ、純粋に強大な敵(「僕」では撃破が難しい相手)を前に現れる例もある。基本的に外道相手には極限の苦痛を与えた上で惨殺する(「僕」ならば見逃したであろう相手でも殺す)が、罪無き者への慈悲は全く失っておらず、無言の気遣いなどを見せるシーンはむしろ「僕」より多い。
メフィストとの関係は微妙なものであり、メフィスト病院では常にVIP待遇されている(基本的のせつらへの応対は院長のメフィスト自らが行う)。時には(直接ではないが)敵対する事もある。また、彼の「趣味」には辟易している様子。「私」によれば「私を気に入っているところ」が気に入らない、との事。
彼の出生と一族の秘密の一端は「魔王伝」で明かされている。魔界都市ノワールシリーズの秋ふゆはるはいとこ(従兄)。
メフィスト
通称「魔界医師」。こちらもまた絶世の美貌の持ち主であり、「白い医師」と描写される。
魔界都市〈新宿〉』『魔宮バビロン』に登場する時とは違い、常に白いケープを着用。死者をも蘇らせると“言われる”高度な医療技術の持ち主(実際は「黄泉返しの術」を習得していない為、死者の蘇生は不可能であり、本人もそれは認めている。「魔王伝」では死体をつなぎ合わせて人造人間を製作しているが、これは全く別の事であるらしい)。医学だけでなく自然科学、歴史、宗教、魔術や呪術などあらゆる知識に精通しているが、これらはあくまで医療手段のひとつとしての扱い。師はドクトル・ファウスト。戦闘力では新宿最強のうちの一人。よく知られる技は、細い針金を指で加工して用いる「ドクター・メフィストの針金細工」。刃物として用いる・針金細工の獣を使役するなどバリエーションは多彩である。せつらから修得した妖糸の技を使うこともある。が、これらの技を決定打とすることはまれであり、最終的には敵を打ち滅ぼす物品や薬品を「作り出す」タイプの、本質的に技術者である。
数え切れないほどの“奇跡”を起こしてきた実績の為、新宿における最大のVIPであり、彼の命を狙う事や、彼の医療行為を妨害する事、彼の患者に害を為す事は新宿最大のタブーとされる(その為も命を狙われている者が安全確保の為に入院しようとするが、治療の必要性がない場合は認めない。せつらの口添えがある場合は健診などとして受けることもある)。断固たるプロフェッショナリズムの持ち主で、自分の身や知識、所有物や病院、退院した「一般人」、果ては魔界都市〈新宿〉そのものにいかなる害があろうとも、自身が認めた患者とその治療を優先する主義を持つ。
男色家。せつらに懸想しており(ただしそれは「私」の人格に対してであり、「魔王伝」などで「僕」には興味がないと言い切っている)、しばしば彼に迫るシーンがあるが、いつも袖にされている。また、せつら以外の者が全身黒づくめの衣装を着ると「新宿で黒の着用を許されるのはただ一人」と嫌悪を露にする。作品によってはせつら以外の男性にもアプローチを掛ける事もある。一方で女性嫌いを標榜しており、「神の最大の失敗は女を作った事」「女がいるせいで人間は神の座に王手を掛けられない」とまで言い切っている。しかし過去には吸血鬼の女性を愛した経験もあり、病院には看護婦(女性の看護師)も多数いるので、せつらなどには時折その本心を(若干冗談めいた調子で)疑われている。
メフィストが主役の「魔界医師シリーズ」が、角川書店講談社祥伝社などから出版されている。
外谷良子
〈新宿〉一のネットワークを持つ「ぶうぶうパラダイス」を経営する情報屋、知らないことはないと言われる。50貫(200キロ)とかなりのデブで、せつらの隠れ家のトイレ(ごく普通のサイズ)に詰まって出られなくなった程である。比較的シリアスな本作品にあって、コミカルな場面を多く見せる存在。ぶうぶうパラダイスの他に副業として「んぺと」を初めとする飲食業等の店を経営している。「デートは一年先までスケジュールで一杯」と豪語するが、それは冗談ではなく事実。かつての作者の担当編集者がモデル。
ガレーン・ヌーレンブルグ
高田馬場の魔法街に住むチェコ随一(世界随一)の魔法使い。高田馬場魔法街の指導者的存在で、戸山吸血鬼住宅の「長老」と同様、〈新宿〉に溶け込む事に重きを置いていた。初期の主要キャラクターとして度々登場するが、長編「夜叉姫伝」でせつらを庇って殺害される。
トンブ・ヌーレンブルグ
姉であるガレーンを頼って新宿へと訪れる魔法使い。自称「チェコ随二(世界随二)の魔法使い」。姉が亡くなった後は魔法街にそのまま住み着く。
強欲で金に意地汚いが、根本では姉よりも人間らしく、せつらやメフィストを「人として」助けたこともある。人形娘には日頃からその素行を口やかましく言われているが、人形娘が壊れた際にはぼやきながらも修理をする一面も(本人曰く「あんたがいなくなったほうが面倒が多いから」)。外谷に匹敵するデブで、外谷との初邂逅ではお互いなにやら譲れぬ一線があった。
人形娘
ガレーン・ヌーレンブルグが作り上げたオートマトン(自動人形)。製作者に似てやや潔癖のきらいがある。主人であるガレーンが斃れた後は、トンブを補佐する。せつらを慕っており、彼の第三の人格を止める契機になった。「ラビリンス・ドール―魔界都市迷宮録」(祥伝社)では主役を務める。
大鴉
ガレーン・ヌーレンブルグによって作り上げられたエーテル体のカラス。人語を解し、常に人形娘と行動を共にする。曽祖父は有名でとある作家の下を訪れた事があるらしい。
屍刑四郎
凍らせ屋(スパイン・チラー)の異名を持つ新宿署の刑事。ドレッドヘア、刀の鍔の眼帯、花柄のコートという風体をしている。スターム・ルガー製スーパーレッドホークを二周り巨大化させた様な拳銃「ドラム」と古武術「ジルガ」を操る。犯罪者に対しては微塵も容赦せず、自分の仕事を「逮捕」ではなく「退治」と言い切っており、新宿中の犯罪者から恐れられている。犯罪者射殺人数は新宿署トップで、ヤクザと取引をした上司を射殺した事例が複数ある。新宿において、せつらとメフィストに次ぐ実力の持ち主。
人形娘に対しては優しくなるらしい。彼が主役の「凍らせ屋」シリーズがある。
夜香
戸山吸血鬼住宅の「長老」の孫。年少時から倫敦に留学していたが、中国系の吸血鬼である。背中に蝙蝠の翼を持ち空を飛ぶ事ができ、人のそれとは違う「気」(鬼気)を打ち込んでダメージを与える「魔気功」の技を操る。「夜叉姫伝」において祖父でもある長老が斃れた後は、吸血鬼街の首領「長老」の役目を継いだ。
「凍らせ屋」シリーズでは屍とペアを組むことが多い。新宿署の署長曰く、「新宿で二番目の最凶コンビ」。
梶原区長
魔界都市〈新宿〉の区長。普段はデリヘルで女の子にでれでれしていたりする、いわゆる「おやじ」だが、新宿の危機となると一転強かな「区長」になる。
新宿を維持する執念には強いものがあり、裏で汚い取引をする汚れ役も厭わない。

シリーズ[編集]

()内は文庫版。挿絵イラストは末弥純

短編 マンサーチャー・シリーズ

※「10 幻舞の章(新書)」の挿絵イラストは小畑健


長編

影響を与えた作品など[編集]

秋せつらの妖糸は、山田風太郎の忍法帖シリーズに登場する技『風閂』(なお同シリーズには、風閂と類似したアイディアがたびたび使われている。『バジリスク 〜甲賀忍法帖〜』の夜叉丸が使う糸、忍者月影抄の「忍法〈髪飛脚〉」など。また風閂自体も「伊賀忍法帖」と「風来忍法帖」の二作に登場するが、両作品内でやや描写が異なっている。秋せつらの妖糸に近いのは「風来忍法帖」版)をパワーアップさせたものだが、本作以後各種漫画やライトノベルなどで、この作品の影響を受けたとおぼしい鋼糸つかいなどが登場した。

  • 小説『ラグナロク』では1巻に鋼糸つかいが登場。著者の安井健太郎は、菊地秀行の代表作の一つである『魔界行』を読んで、アクションものを書くことを志したという逸話がある。
  • ザ・サード』では、常に黒尽くめの異性嫌いの美形キャラが登場する。著者の星野亮菊地秀行のファンを公言しており、『月刊ドラゴンマガジン』のインタビューで影響を受けた作品に『魔界都市ブルース』を挙げている。ただし、このキャラの性別はせつらやメフィストと違って女性。
  • スレイヤーズ!』あとがきの名物キャラ「L様」は、原型となった未発表の作品では「某魔界医師みたいに」人間のふりをして作中に登場していた、という。
  • HELLSING』に登場するウォルター・C(クム)・ドルネーズ 。極細の鋼線を使った切断技だけでなく、操り人形のように操作する技、糸を張り巡らして相手の接近や銃弾を防ぐ技等、せつらに酷似している。著者の平野耕太は、インタビューで度々菊地秀行に触れており、OVA版のオーディオコメンタリーでウォルターの元ネタを尋ねられた際には、「せつらですよ」と答えている。
  • 同作者の別シリーズ作品である「妖魔シリーズ」の内の一作『妖魔陣』には、妖糸使いの青年・秋剛馬が登場し、主人公に敗北している。このキャラクターには姓や使用している糸の性能などに秋せつらとの共通点も見られるが、両シリーズ同士に世界観の繋がりは見られない。なお、『妖魔陣』の発表は1985年と、魔界都市ブルース第一作発表と同時期)。

脚注[編集]

  1. ^ 「キャプテン翼」以降の女性アニパロ史

関連項目[編集]