高級住宅街

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ナビゲーションに移動 検索に移動

高級住宅街こうきゅうじゅうたくがいとは、高額な住宅の大部分が存在することを特徴とする特定の都市の地域のことである。その定義は主観的なものであり、その要件は国や地域によって異なる。日本においては国土交通省発出の「不動産鑑定評価基準運用上の留意事項」で「敷地が広く、街区及び画地が整然とし、植生と眺望、景観等が優れ、建築施工の質の高い建物が連たんし、良好な近隣環境を形成する等居住環境の極めて良好な従来から名声の高い地域」と定義されるような住宅街(詳細は概要節参照)。

概要[編集]

定義は多分に曖昧かつ主観的であり、下記の要件についても国や地域・時代によっても認識は多様である。

日本においては、国土交通省の「不動産鑑定評価基準運用上の留意事項」では、「住宅地域」を①~④の4つに細分化し、①を「敷地が広く、街区及び画地が整然とし、植生と眺望、景観等が優れ、建築施工の質の高い建物が連たんし、良好な近隣環境を形成する等居住環境の極めて良好な従来から名声の高い地域」と定義する[1]。これを「高級住宅地域」とする理解が見られる[2]

固定資産評価においては、「敷地が広大で、かつ、平均的にみて、一般住宅よりも多額の建築費を要する住宅の宅地が連続集中している地区」が「高級住宅地区」と定義されている[3][4]

ヨーロッパの高級住宅街[編集]

イギリス[編集]

ロンドン中心部のメイフェア地区(シティ・オブ・ウェストミンスター)、ベルグレイヴィア地区(シティ・オブ・ウェストミンスター及びケンジントン&チェルシー区)などが最高級住宅地とされているが、チェルシー地区(ケンジントン&チェルシー区)、リンカーンズ・イン・フィールズ界隈(カムデン区)なども知られている。なお、ロンドン市内の高級住宅街の殆どが高級アパートメントである。

ドイツ[編集]

ベルリン南西部のツェーレンドルフ地区 (en) 等が位置するシュテーグリッツ=ツェーレンドルフ区内が高級住宅地とされているが、隣接するグリューネバルド地区 (en, シャルロッテンブルク=ヴィルマースドルフ区) も知られている。

また、デュッセルドルフ近郊メアブッシュ (en) には裕福な住人が多く、1人当たりの納税額が例年ドイツ国内で1位である。緑が多く落ち着いた街並みとなっている。メアブッシュ市内のビューダリッヒ地区 (de) には高級住宅街が2ヶ所あり、そこにはプールが付いた大きな庭のある豪邸が多く立ち並んでいる。デュッセルドルフから西に約10kmの位置にある。

フランス[編集]

エッフェル塔からパッシーパリ16区)を望む。下を流れるのはセーヌ川

パリ中心部のサン=ルイ島4区)が最高級住宅地とされているが、元々スペースが狭いパリ市街の中でも、更に狭い島でしかない。それは“貴族街”とも呼ばれるアンヴァリッド地区やフォーブール・サンジェルマン界隈(7区)でも事情は変わらず、旧貴族富豪らが暮らすスペースとしてパッシー界隈(16区)が発展したように、高級化の波はパリ市街西部に拡がっていった歴史を持つ。これらの他に、サンジェルマン・デ・プレ地区(6区)、シャンゼリゼ通り周辺やフォーブール・サントノレ界隈(8区)等が知られている。

フランスの場合、英米圏などと異なり、大都市の都心部やかつての城壁に囲まれた地域が一般的に高級住宅街とされているが、例外として挙げれば、パリ近郊だとヌイイ=シュル=セーヌが隣接する16区等と並ぶグレードの高さで知られている。

なお、高級住宅地ないし高級リゾート地としては、モナコも包含するコート・ダジュールが世界的に著名である。

北米の高級住宅街[編集]

アメリカ[編集]

広大な国土を持つアメリカにおいては大半の場合、高級住宅街は都心部から十数キロメートル以上離れた郊外に存在する。ニューヨーク都市圏では、ウエストチェスターニュージャージー州のアルパイン、コネチカット州などが知られている。

西海岸をみると、サンフランシスコを中心とするサンフランシスコ・ベイエリア都市圏では、サンフランシスコ市の緑豊かなプレシディオ地区、スタイリッシュな店が軒を並べるパシフィックハイツ地区、ゴールデンゲートブリッジ対岸のサウサリート、またサンフランシスコ・オークランド・ベイブリッジ対岸の大学都市であるバークレーの背後に広がる丘陵地帯バークレー・ヒルズ、その尾根づたいのケンジントン市やオークランドのクレアモント地区などがサンフランシスコ湾を見渡す好立地条件にあり一般的に高級住宅街として知られている。ロサンゼルス都市圏では、ビバリーヒルズ、ベルエア、パサデナサンタモニカ等が知られている。マリブの他[5]、カラバサス[注 1]は"ハリウッドセレブ"の住む高級住宅街として映画にも登場する[6]。その他、ハワイ州オアフ島のカハラなども中心部から離れた場所にある。

ニューヨーク市の中心部であるマンハッタンには一戸建てがほとんど無く、数少ない例外であるがアッパー・イースト・サイドにはタウンハウスが存在し数十億円で取引されている。高級アパートメントが立ち並び治安や環境の良い地域はアッパー・イースト・サイドやグリニッジ・ヴィレッジが代表的である。同じ東海岸に位置するマサチューセッツ州ボストンビーコンヒルも数少ない例外の1つであり、一戸建てが非常に少ない。

概して経済力による住み分けの激しいアメリカは「豪邸が立ち並んでいるから高級住宅街」というわけではなく「どのような人(人種職業など)が住んでいるか」が重要となる。事実、その国土の広さがもたらす地価の安さ及び人口密度の低さ故、立地次第では中流階級でも巨大な土地にプール付きの邸宅を構えることも可能である(日本の住宅と比べれば大半の一戸建てが「豪邸」と呼ぶに相応しいサイズである)。

日本都市はごく一部の地域を除いてオフィス街と住宅街(マンション等)が隣接していることも多いが、アメリカにおいてはその区別は非常に明確で、マンハッタンなどの一部の例外を除き、殆どの都市において一定以上の経済力を持つ富裕層で家族をもつ世帯は、概して郊外への移住を好む。主な理由として緑が多く閑静で好環境であること、貧困層が少ないため治安が良いこと、サイズの大きな家に住めること、などがある。デメリットとしては都心部への通勤時間が長くなることがあるが、アメリカの労働環境やアメリカ人富裕層の住宅事情を鑑みた場合、メリットがデメリットを遥かに凌いでいる。またこれらの郊外高級住宅街のいくつかは「ゲーテッド・コミュニティ」と呼ばれ、周辺を監視カメラなどを装備した塀で覆い、出入り口には警備員を常駐させたゲートを構えるなどして内部の治安を保つようにされている。

このように、「レジデンシャル・セグレゲーション」と呼ばれるアメリカの経済格差による住み分けは激しく、ニューヨーク都市圏などの一部の例外(なおニューヨーク都市圏にも、上述の郊外のウエストチェスターにスカースデールやハーツデールなどの高級住宅街がある)を除けば「郊外=富裕層 都心=貧困層」と考えても概ね差し支えない。例えば郊外で生活する為には車の購入は必須であり、賃貸住宅も少ない(アパートメントはほぼ皆無)ため必然的にローンを組める信頼度が必要なことなど「郊外族」にはそれ相当の収入が必要となる一方、都心部の場合公共交通機関が安価で利用でき、尚且つ賃貸住宅(主にアパートメント)に入居するので審査が軽い。もちろん多くの[[大都市]]の都心部にも富裕層は在住しているが全体的な比率や人口動性を見た場合、郊外の住宅街へと移り住むことがはるかに多い。

カナダ[編集]

カナダ西部太平洋岸のブリティッシュコロンビア州バンクーバー市を中心とするバンクーバー都市圏では、ダウンタウンの郊外北西に位置するウェストバンクーバー市南部が、大富豪の巨大邸宅が連なるエリアとして知られている。

東アジアの高級住宅街[編集]

日本[編集]

関東地方[編集]

埼玉県
所沢市松が丘地区[7]は鉄道会社が開拓したニュータウンの高級住宅街であるが、高齢化や空き家増加の影響で地価が低下している[8]
千葉県
千葉市緑区には、バブル期に一戸数億円から数十億円で販売されたゲーテッドコミュニティ形式を採用した住宅街「ワンハンドレッドヒルズ」が知られるが[9]、バブル崩壊や高齢化の影響で地価が低下している。
東京都
明治時代以降、江戸市街のうち武家屋敷などが建ち並んでいた山の手を中心とするエリアに富裕層が居を構えるようになり、初期の高級住宅街が形成された。しかし1923年大正12年)に東京中心部の富裕層を襲ったのが関東大震災であり、この震災を契機に武家屋敷跡をルーツにしない高級住宅街が誕生する。中でも全国によく知られているのが大田区田園調布である。渋沢栄一などを中心として1918年(大正7年)に設立された田園都市株式会社現在東急株式会社の源流の一つ)によって、当時交通不便だったエリアに鉄道を敷設し、住宅地として開発を進めるという阪急の手法を東京で最初に用いた事も注目すべき点である。1922年(大正11年)洗足地区(洗足田園都市)、翌年多摩川台地区(後の田園調布)が分譲され、1980年昭和55年)には星セント・ルイスのギャグ「田園調布に家が建つ」の流行を経て、現在は全国に知られた高級住宅地として認知されている[10]
神奈川県
鎌倉市鎌倉山は、昭和初期から別荘地として分譲された歴史を持ち、その運営会社が経営不振に陥った後は頒布資料による高級イメージ戦略など住民らの努力により高級住宅地に変容していった[11]

中部地方[編集]

愛知県
名古屋市では東区の名古屋市の定める「白壁・主税・橦木町並み保存地区」が質の高い住宅が多いとされる[12]

近畿地方[編集]

近畿圏の高級住宅街は、北摂山系とそれに連なる六甲山系の南斜面、一般に北摂阪神と呼ばれる地区に多くみられる。その中でも現在の神戸市東部( 中央区灘区東灘区)・芦屋市西宮市宝塚市に相当する地域の山麓ラインに高級住宅街は集中しており、明治後期・大正昭和初期(阪神大水害発生まで)には「日本一の長者村」と呼ばれた旧・武庫郡住吉村(現・神戸市東灘区の住吉地区各町)も、その線上にある。なお、これらの邸宅街の多くは阪急神戸線宝塚線甲陽線今津線沿線に重なっているが、これは小林一三が主導した私鉄(=現在の阪急電鉄)路線網の拡充と宅地開発が連動していることによる。

京都府
京都市内では京都盆地を取り囲む山々に高級住宅街が点在し、中でも下鴨[13]に代表される左京区に多い。
大阪府
大阪府においては都心から電車で数十分の位置にある北摂の衛星都市、地理的には北摂山系の南側に高級住宅街が数多く展開している。そのうち特筆すべきものとして、1910年明治43年)に日本で初めて私鉄系不動産が分譲した邸宅街である池田市室町[14]、日本初の田園都市型郊外住宅地とされる吹田市千里山住宅地[15]、総合商社による宅地開発として日本最初の事例である高槻市南平台[16]がある。
大阪府東部・南部の高級住宅街としては、堺市西区の浜寺昭和町周辺は明治時代末期から別荘地として開発された地区で、昭和に入り高級住宅の建設が進んだ[17]
兵庫県
芦屋市には敷地面積の最低限度等を条例で定める日本で唯一の景観保護条例、所謂「豪邸条例」が存在する。その対象地区は六甲山麓の六麓荘町と六甲山中腹は国立公園内の奥池南町で、前者は電線地中化の日本における先駆、後者は市街地へ行くには有料道路利用が必須などで知られる[18][19][20]。このほかにも芦屋市には山手を中心に数多くの邸宅街があり、浜手では日本初のプライベートバース付きの邸宅街を擁するベルポート芦屋レジデンシャルコーヴ(涼風町)が特筆される[21][22]
神戸市においては、東灘区御影住吉山手に大邸宅群が形成されている。これは明治後期から昭和初期まで、このエリア(旧・住吉村)に居住する富豪数が日本最多であった事に由る[23]
奈良県
奈良市学園前駅から登美ヶ丘駅にかけて近鉄により造成された百楽園町、登美ヶ丘一丁目、二丁目の一部の住宅地は「高級イメージ」を持っているとされる[24]

香港[編集]

香港島では、香港ピーク地区が高級住宅街とされる[25]

台湾[編集]

古くから外国人が居住した台北市士林区天母が高級な住宅街の雰囲気をかもし出しているとして有名[26]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 下記ソフィア・コッポラ作品映画『ブリングリング』の出典リンク先ページでは"カサバラス"となっているが、サンタモニカ北西にあるカラバサス英語版との間違い。

出典[編集]

  1. ^ 国土交通省 不動産鑑定評価基準運用上の留意事項
  2. ^ 津村孝『詳解・不動産鑑定評価の教科書』(プログレス,2010)38頁
  3. ^ 日本不動産研究所 固定資産評価用語辞典
  4. ^ 大和不動産鑑定 固定資産システム評価 用語集
  5. ^ 原因は放火?カリフォルニアの高級住宅地マリブで、またも山火事 映画.com 2007年11月28日
  6. ^ INTERVIEW|ハリウッドのクローゼットを荒らしまくったティーン窃盗団 『ブリングリング』 ソフィア・コッポラ来日記念インタビュー(1) OPENERS 2013年12月2日
  7. ^ 所沢市HP「松が丘の住宅地」
  8. ^ かつては“高嶺の花”ニュータウン いまは地価8分の1 一挙に高齢化 (1-2) 〈AERA〉|AERA dot_ (アエラドット)
  9. ^ 千葉市あすみが丘ワンハンドレッドヒルズ建築協定の概要 - 千葉市公式サイト
  10. ^ 多摩川誌 第8編 流域の経済と都市化 第4章 集落・都市 第3節 下流地域 3.2 住宅地域の開発 3.2.1 郊外電鉄と田園都市
  11. ^ 「昭和初期の別荘地開発と住宅地形成に関する研究」住総研
  12. ^ 名古屋市白壁・主税・橦木町並み保存地区保存計画|名古屋市
  13. ^ 魅力度ランキング2位「京都」に住んでわかる理想と現実 | 知ったら住みたくなるケンミン性 | ダイヤモンド・オンライン
  14. ^ 室町住宅 | 池田市立図書館
  15. ^ 「イギリスの田園都市レッチワースと ニューガーデンシティー舞多聞の実験」神戸芸術工科大学学長 齊木崇人
  16. ^ 商工ニュースたかつき2016年7月号2018年平成30年)6月10日閲覧)
  17. ^ 大阪府/浜寺昭和町のまちなみ(堺市)
  18. ^ 新築は400平方m以上に制限 芦屋市が条例改正案 「asahi.com」 - 2006年(平成18年)12月4日
  19. ^ 芦屋“金満”条例成立、400平方m以上に一戸建て YOMIURI - ONLINE 2006年(平成18年)12月22日
  20. ^ 芦屋市/奥山地区(奥池町・奥池南町等)の規制内容
  21. ^ 2006~2007年度 調査研究関係委員会活動報告会 海洋建築委員会 報告-「海洋建築」のさらなる伸展に向けて-2008.3.19
  22. ^ Residential Cove | Marina Japan
  23. ^ 山本ゆかり・萬谷治子・加藤拓郎. “住宅総合研究財団研究論文集No.31, 2004年(平成16年)版『旧住吉村の住宅地開発とその特徴-日本の近代萌芽期における郊外住宅地-』”. 住宅総合研究財団. 2019年4月16日閲覧。
  24. ^ 熊野貴文「大阪大都市圏郊外における戸建て住宅地の変容―近鉄学園前駅周辺の住宅地の事例―」『人文地理』第66巻第4号、人文地理学会、2014年、 352-368頁、 doi:10.4200/jjhg.66.4_352ISSN 0018-7216NAID 130006321325
  25. ^ アジアで最も高級な住宅地は香港ピーク地区-観光地としても有名
  26. ^ 「交流 2013.3 No.864」公益財団法人日本台湾交流協会

参考文献[編集]

関連項目[編集]