高密度焦点式超音波治療法

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高密度焦点式超音波療法(こうみつどしょうてんしきちょうおんぱりょうほう、High Intensity Focused Ultrasound)とは、超音波を利用し、深部にある組織を破壊することにより治療効果を得ることを試みようとする治療法である[1]HIFU(ハイフ)とも呼ばれる。ハイパーサミアを目的とした物理療法の一種であり、日本国内では薬事承認を得たものとして前立腺肥大症、症候性子宮筋腫の治療に使用されている。米国FDAの承認はない。

仕組み[編集]

お椀の形状をしたトランスデューサーと呼ばれる機器から超音波を照射することで、エネルギーを一点に集め(焦点領域と呼ばれる)、その焦点領域に高いエネルギーを収束させる[2]。焦点領域は約100度の高温になるため、熱凝固作用が得られる。さらに、物理的作用であるキャビテーションも加わることで、周囲組織に影響を少なく、標的組織を破壊する[3]。焦点部より5mm離れると温度は50度まで下がるため、病巣のみをピンポイントで破壊でき、また超音波を用いるので被曝などのリスクもない、外科手術と違い組織侵襲がないというメリットがある[1]

ただ、骨、強膜では反射拡散され腸管、肺などの含気臓器を加熱することはできない、また脂肪組織は凹レンズの働きをし超音波は拡散され合焦しない[4]。そもそも超音波では波長が長すぎて水、海水、アクリル樹脂など非圧縮性の物質でないとエネルギーは伝達されないという物理原則と異なるため[4]、治療対象に応じて、エネルギー伝達について工夫が行われている[5][6]

適応[編集]

帝京大学医学部泌尿器科によれば前立腺癌が治療効果が最も高く、腎癌膵癌への適用も言及されている[1]。現在薬事承認されている適応は、前立腺肥大症および症候性子宮筋腫である。

前立腺癌治療に対するHIFU[編集]

国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」において、前立腺癌は2017年の男性癌罹患者数(1年間に診断される癌患者数)で第1位になったことが報告された[7]。そのうち約90%が転移のない、いわゆる“限局性前立腺癌”とされる。限局性前立腺癌の標準治療は、前立腺全体を治療範囲とする外科的手術と放射線治療である。しかし、前立腺全体を治療範囲とすると治療後の尿失禁や性機能障害が生じやすい。

前立腺癌に対するHIFUは、尿失禁や性機能障害を抑えた治療法として期待され、当初は前立腺全体に対して施行されたが、最近では、癌の場所と、その限られた周囲組織を局所的に治療する“がん標的局所療法 (focal therapy)”として応用されている[8][9]

国内におけるHIFUをもちいた“前立腺がん標的局所療法 (focal therapy)”の治療成績

国内で実施されたHIFUをもちいた“前立腺がん標的局所療法 (focal therapy)”は、血清PSA値が20ng/mL以下で、MRI-TRUS融合画像ガイド下生検[10]により癌局在診断が行われた症例のうち、両葉にGS7以上のsignificant cancerを有する症例を除いた症例を対象に実施された。最低12ヶ月間以上経過観察した90例の臨床成績では、年齢中央値70歳、血清PSA中央値7.26ng/mL、前立腺体積中央値24cc、リスク群別患者数 低リスク群31例、中リスク群44例、高リスク群15例に対して治療を実施し、手術時間は40分間で、全例の尿道カテーテルは術後24時間以内に抜去された。治療後1カ月目に血清PSA値は中央値1.59ng/mLまで低下し、術後6-12ヶ月に実施された生検陰性率は91%、経過観察期間中央値21カ月間(12-42カ月間)で生化学的非再発生存率は92%であった。IPSS、IPSS QOL、OABSS、EPIC urinary domain、最大尿流率、IIEF-5は、治療3カ月以降は治療前と同等であった。合併症として、尿路感染症が4.4%、尿道狭窄症が3.3%の症例に認められたが、尿失禁は認められず、治療前に勃起が認められた症例における、勃起温存率86%、射精温存率70%であった。このような限局性前立腺癌に対するHIFUをもちいたFocal therapyの短期成績は、長期成績を期待させるものと考えられた[11]。現在、同治療は特定臨床研究として実施されており、多症例の長期成績が集積されている。

美容[編集]

顔のたるみに対し、切除手術ほどの劇的な効果はないが、中等度までのたるみに効果があり、使用法が順守されれば火傷、瘢痕のリスクは最小限になる[12]。メスを使わずに即効性の効果が期待でき、ダウンタイムがほとんどない[13]ことから、美容目的での利用に期待がされている。美容医療用HIFUで特に知名度が高い機種はウルセラで、2009年9月にFDA(食品医薬品局 )の承認を受けている[14]。その他の国ではオーストラリア(AFDA)の承認を受けている[12]

歴史[編集]

1950年代に超音波エネルギーを集束して生体局所の組織を焼灼する方法は脳腫瘍の超音波温熱治療として臨床応用されていた{要出典}

脚注[編集]

  1. ^ a b c 帝京大学泌尿器科
  2. ^ Fry WJ, Barnard JW, Fry EJ, et al (1955). “Ultrasonic lesions in the mammalian central nervous system”. Science 122: 517-8. 
  3. ^ Madersbacher S, Pedevilla M, Vingers L, et al (1995). “Effect of high-intensity focused ultrasound on human prostate cancer in vivo”. Cancer Res 55: 3346-3351. 
  4. ^ a b ハイパーサーミアの開発
  5. ^ Gelet, A.; Chapelon, J. Y.; Margonari, J.; Theillere, Y.; Gorry, F.; Cathignol, D.; Blanc, E., (1993). “Prostatic tissue destruction by high-intensity focused ultrasound: experimentation on canine prostate.”. J Endourol 7 (3): 249-53. 
  6. ^ Foster, R. S.; Bihrle, R.; Sanghvi, N.; Fry, F.; Kopecky, K.; Regan, J.; Eble, J.; Hennige, C.; Hennige, L. V.; Donohue, J. P. (1993). “Production of prostatic lesions in canines using transrectally administered high-intensity focused ultrasound.”. Eur Urol 23 (2): 330-6. 
  7. ^ 最新がん統計”. 国立がんセンター. 2021年2月1日閲覧。
  8. ^ 前立腺癌診療ガイドライン 2016年版”. 日本泌尿器科学会. 2021年2月1日閲覧。
  9. ^ 限局性前立腺癌に対する前立腺部分治療”. 東海大学医学部付属病院泌尿器科. 2021年2月1日閲覧。
  10. ^ 核磁気共鳴画像-経直腸的超音波画像融合画像ガイド下前立腺生検”. 東海大学医学部付属病院泌尿器科. 2021年2月1日閲覧。
  11. ^ Shoji, Sunao; Hiraiwa, Shinichiro; Uemura, Kohei; Nitta, Masahiro; Hasegawa, Masanori; Kawamura, Yoshiaki; Hashida, Kazunobu; Hasebe, Terumitsu et al. (2020-06-17). “Focal therapy with high-intensity focused ultrasound for the localized prostate cancer for Asian based on the localization with MRI-TRUS fusion image-guided transperineal biopsy and 12-cores transperineal systematic biopsy: prospective analysis of oncological and functional outcomes”. International Journal of Clinical Oncology 25 (10): 1844-1853. doi:10.1007/s10147-020-01723-9. ISSN 1341-9625. https://doi.org/10.1007/s10147-020-01723-9. 
  12. ^ a b Mazzoni, Daniel; Lin, Matthew J; Dubin, Danielle P; et al (2019). “Review of non‐invasive body contouring devices for fat reduction, skin tightening and muscle definition”. Australasian Journal of Dermatology. doi:10.1111/ajd.13090. PMID 31168833. 
  13. ^ 美容鍼とハイフどっちがおすすめ?違いをプロが解説” (日本語). 神戸三宮美容鍼灸salon〜Make a Life〜. 2021年5月9日閲覧。
  14. ^ BioSpace

文献[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]