高分子

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高分子(こうぶんし)または高分子化合物(こうぶんしかごうぶつ)(: macromolecule、giant molecule)とは、分子量が大きい分子である。国際純正・応用化学連合(IUPAC)の高分子命名法委員会では高分子macromoleculeを「分子量が大きい分子で、分子量が小さい分子から実質的または概念的に得られる単位の多数回の繰り返しで構成した構造」と定義し、ポリマー分子(: polymer molecule)と同義であるとしている[1]。また、「高分子から成る物質」としてポリマー(重合体、多量体、: polymer)を定義している[2]。すなわち、高分子は分子であり、ポリマーとは高分子の集合体としての物質を指す[3]。日本の高分子学会もこの定義に従う。

高分子の種類[編集]

高分子はその由来によって、自然界の産物である天然高分子(: natural macromolecule)と、人工的に合成された合成高分子(synthetic macromolecule)、天然高分子から化学的に誘導された半合成高分子(semisynthetic macromolecule)に分類される。さらに、高分子を構成する分子によって有機高分子(organic macromolecule)と無機高分子(inorganic macromolecule)にそれぞれ分けられる。天然の有機高分子は生物によって合成されるため、生体高分子とも呼ばれる。これらの分類方法とは別に、特に生体高分子において繰り返し構造の規則性での分類もある。ただ1種の構成単位が単一の連結法で繰返された構造を持つ化合物を規則性高分子(regular macromolecule)という。2種以上の構成単位の繰返しからなる構造をもつ、あるいは構成単位の連結法が単一でない構造をもつ高分子を不規則性高分子(irregular macromolecule)という。

天然高分子
有機かつ規則性高分子
ポリアミン、一部の脂質セルロースアミロースデンプンキチン天然ゴム
有機かつ不規則性高分子
ポリペプチドタンパク質DNARNA、一部の脂質リグニンアスファルテン
無機高分子かつ規則性高分子
二酸化ケイ素水晶石英)、雲母長石石綿、天然由来の炭素同素体(ダイヤモンド黒鉛)、閃亜鉛鉱ウルツ鉱
合成高分子
有機かつ規則性高分子
合成樹脂(プラスチック)(ポリ塩化ビニルポリエチレンフェノール樹脂など)、シリコン樹脂(シリコンゴム、シリコンオイル)、合成繊維ナイロンビニロンポリエステルポリエチレンテレフタラートなど)、合成ゴム
無機かつ規則性高分子
ポリシロキサンポリホスファゼンポリシラン窒化硫黄ポリマーガラス、合成ルビー、合成された炭素同素体(人工ダイヤモンド、人工グラファイトなど)
半合成高分子
有機かつ規則性高分子
三酢酸セルロース二酢酸セルロース硝酸セルロースセルロイド、再生高分子(再生繊維レーヨン

また、共重合体の単位構造配列による分類方法もある。

  • ランダム共重合体
  • 交互共重合体
  • ブロック共重合体
  • グラフト共重合体

高分子の分岐の程度で以下のように分ける[3]

線状高分子 (liner macromolecule)
実質的または概念的に、相対分子質量の小さい分子(単量体など)に由来する単位が線状に数多く繰返された構造をもつ高分子
星型高分子 (star macromolecule)
1個の分岐点から線状分子鎖(腕)が出ている高分子。星型高分子の腕が構成(化学構造)および重合度に関して同じである場合、その高分子のことを規則性星型高分子 (regular star macromolecule)という。異なる場合は混合鎖星型高分子 (variegated star macromolecule) という。ただし、規則性星型高分子の規則性とは骨格構造の規則性であり、規則性高分子の規則性とは若干意味が異なる。
櫛型高分子 (comb macromolecule)
線状側鎖が出ている三叉分岐点(定義 1.54 参照)を主鎖(定義 1.34 参照)に数多くもつ高分子。主鎖中の分岐点間の副分子鎖および主鎖の末端の副分子鎖が構成(化学構造)および重合度に関して同じであり、側鎖も構成(化学構造)および重合度に関して同じである場合は、その高分子を規則性櫛型高分子 (regular comb macromolecule) という。
ブラシ状高分子 (brush macromolecule)
少なくとも数個の分岐点が3よりも多く枝分かれしている高分子

構造[編集]

高分子の部分や官能基は、自己の他の部分や官能基と分子間力イオン結合水素結合双極子相互作用ファンデルワールス力)によって相互作用している。この相互作用は、高分子鎖の骨格に沿って近いもの(分子式上での隣接および近接部分)の間にも遠いものの間にも生じる。前者の相互作用を近接相互作用: next-nearest-neighbor interaction、後者を遠隔相互作用という。遠隔相互作用が生ずる理由は、高分子が折れ曲がることにより分子式上で遠く離れていても空間的に近づくためである。加えて、溶液の場合、溶媒や他の溶質とも分子間力や配位結合での相互作用が生じている。

これら相互作用は高分子の立体構造を決定的に支配する。相互作用が存在しない理想鎖の場合、高分子は無数の立体構造を取り得る。なぜなら、相互作用がなければ高分子の各結合は自由に回転できるためである。しかし、現実には相互作用により分子間回転は制限され、高分子が取り得る立体構造は制限されている。高分子の構造が決定されている例としてはタンパク質や核酸の四次構造である。

溶液中の高分子の立体構造は刻々と変化し、見掛け上、高分子は運動している。これは、熱運動する溶媒分子との衝突による。高分子のこの運動をミクロブラウン運動という。

位置規則性[編集]

単量体がアルケンであるビニル重合では、頭-尾結合(head to tail)と頭-頭結合(head to head)の2通りの結合様式が、置換基の立体障害や電子的特性に応じて生じる。これを位置規則性という。一方ラクトン環状エーテルなどのや環状化合物を単量体とする開環重合では、開裂が起こる場所によって頭-尾結合と頭-頭結合の起こる割合も変わる。

立体規則性[編集]

プロピレンなどの重合において、重合することによってできた四級炭素不斉炭素原子であり、重合法によってはこの不斉炭素の絶対配置に規則性が現れる。これを立体規則性(タクティシティー、tacticity)という。すべての不斉炭素が同じ絶対配置を持つような構造をイソタクチック(アイソタクチック)といい、絶対配置が交互に並ぶものをシンジオタクチックという。また、全くランダムになった構造をアタクチックという。立体規則性はNMRを用いることで評価ができる。

チーグラー・ナッタ触媒によって合成されたポリプロピレンはイソタクチックであるが、通常のラジカル重合で合成したポリプロピレンはアタクチック構造である。

幾何異性体[編集]

ジエン系モノマーの重合では、1,2-構造、シス 1,4-構造、トランス 1,4-構造といった異性体構造が生じる。

共重合体の構造[編集]

共重合体には、ランダム共重合体(―ABBABBBAAABA―)、交互共重合体(―ABABABABABAB―)、周期的共重合体(―AAABBAAABBAAA―)、ブロック共重合体(―AAAAAABBBBBB―)、の4種類の構造がある。 また、ブロック共重合体の一種にグラフト共重合体と呼ばれるものがあり、これは幹となる高分子鎖に、異種の枝高分子鎖が結合した枝分かれ構造をしている。

多数の枝からなる樹木状(多分岐高分子)のデンドリマー、ハイパーブランチポリマー、ロタキサン、高分子カテナン水素結合静電気力配位結合のような弱い結合力で結びつけた自己集積型高分子、などの新構造高分子の合成も近年注目されている。

大きさ[編集]

ミクロブラウン運動により形が常に変化するため、高分子の大きさ(分子量ではない)も変化する。高分子の大きさはある瞬間の特定の立体構造での大きさではなく、可能性のあるすべての立体構造の大きさを平均した値(高分子鎖の広がり: average chain dimension)で評価される。高分子鎖の広がりは平均二乗両端間距離や平均二乗回転半径などで計算される。これらに加えて、分子内や溶媒との相互作用の平均力ポテンシャル、さらには排除体積効果も考慮されることがある[4]

分子量[編集]

合成高分子の分子量多分散を示す。つまり合成高分子は、同一の組成を持つが分子量は異なる分子の混合物であり、その分子量は通常、数平均分子量あるいは重量平均分子量で表される。分子量分布は、応用上分子量そのものと同様に重要であり、物性面では通常分子量分布が狭いことが望ましいが、加工の容易さからは分子量分布が広いことが有利になる場合も多く、分子量のみならずその分布も用途に応じて設計する必要がある。平均分子量の算出方法には分子1個あたりの平均の分子量として算出される数平均分子量や、重量に重みをつけて計算した重量平均分子量等がある。重量平均分子量と数平均分子量の比を分散比と呼び、これが1に近いほど分子量分布が狭いことを示す。

生体高分子、天然高分子には、単一の分子量からなる単分散を示すものも多い。

分子量の測定法には以下のものがある。

クロマトグラフィー法(GPC法)
GPC(: gel permeation chromatography)法とはゲル状の粒子を充填したカラムに高分子の希薄な溶液を流し、分子の大きさによって流出するまでの時間が異なることを利用した分子量の測定法。分子の溶液中での大きさは分子量以外の要因(溶媒との相互作用の強さなど)によっても影響されること、また固定相と被測定高分子との各種の相互作用によっても保持時間は影響を受けることにより、絶対的な分子量の測定はできないが、分子量分布が容易に得られる利点がある。
粘度
高分子の溶液の粘度 η が以下のような平均分子量の関数であることを利用した測定法。この方法により求められる平均分子量を粘度平均分子量と言う。
η = kMαk および α は高分子に固有の定数)
末端基定量法
高分子の末端に何らかの官能基が存在する場合には末端基定量法を用いることが可能なことがある。例えば末端がカルボン酸の高分子であれば水酸化ナトリウムなどの塩基で中和滴定を行うことにより、存在する高分子の個数が分かる。これと全体の質量およびモノマーの分子量とから高分子一個あたりの質量、すなわち数平均分子量が分かる。また、近年ではNMRスペクトルの積分比から末端基の割合を測定することが可能である。
束一的性質を利用した方法(蒸気圧法・浸透圧法・沸点上昇法)
溶液の蒸気圧・浸透圧・沸点がそのモル濃度および質量モル濃度に依存することを利用した測定法。これらの方法により求められる平均分子量は数平均分子量である。
光散乱法
溶液中の分子に光が衝突すると光の散乱が起こり、散乱強度がその分子の質量に比例することを利用した分析法。この方法により求められる平均分子量は重量平均分子量である。
沈降速度法(超遠心法)
大きな重力場の中ではわずかな比重差でも重い粒子が沈むことを利用した分析法。非常に高速で回転する遠心分離機を用い、セル内部の分子の分布状態を光学的に検出することで分子量を測定する。この方法により求められる平均分子量は重量平均分子量である。

熱力学的特性[編集]

一般に高分子物質(ポリマー)において結晶性領域の融点は低分子物質よりも高く、また非結晶性の領域にガラス転移点と呼ばれる擬似相転移温度を示す。特に主鎖に芳香環などが入った分子において、分子間の相互作用が強く融点とガラス転移点が高くなる。

ポリマーは低分子物質と同様に、固体から液体へと相転移する温度、融点を有する。ポリエチレンテレフタレート(PET)の温度を室温から融点まで増加させたとき、熱流束示差走査熱量測定、DSCの測定値)とエンタルピーの測定によりガラス転移と再結晶化を観測することができる。ガラス状態での昇温過程においてエンタルピー増加の勾配はガラス状態での熱容量に比例する。ガラス転移点と呼ばれる温度になると、高分子の分子運動が増加してPETはガラス状態から過冷却液体状態に変化する。この変化をガラス転移という。ガラス転移においてPETは急激に吸熱し、熱流束は極小のピークを示す。過冷却液体状態では熱容量は液体状態でのそれとなる。これに伴い、エンタルピー増加の勾配は大きくなる。更に昇温を続けると、ある温度でポリマーは結晶化する。PETは発熱し、熱流束は極大のピークを示す。結晶化温度ではエンタルピーは急激に減少し、その後の昇温で再び直線的に増加する。エンタルピー増加の勾配は結晶状態でのものとなる。結晶化温度から融点までのエンタルピーの温度依存性関数は、結晶状態のエンタルピーの温度依存性を表す直線上にある。温度が融点に達するとPETは融解する。融点以上の温度でのエンタルピーは結晶状態での増加直線から液体状態での増加直線上へと移動する。融点ではPETは吸熱し、熱流束は極小を示す。

融解[編集]

ポリマーにおいて、融解と同時に起こる吸熱反応が生じる温度範囲、DSCにより得られる融点ピークは低分子物質と比べて広い。これは、結晶状態のポリマーは様々な大きさのラメラ構造の集合体であることが原因である。ラメラ構造の融点 Tm はその厚さ l に依存するため、ポリマー中の各ラメラ構造の融点は異なる。このため、ガラス転移点以上でのポリマー結晶はそのラメラ厚分布によって融点が異なる。Tm は次のギブス・トムソン式で表す。

ここで、Tm0 は無限大の結晶の融点(平衡融点)、ΔHf は無限大の結晶の融解熱、σe はラメラ結晶の折り畳み面の表面自由エネルギーである。

ラメラ厚は過冷却度(結晶化温度と融点の差)の減少に伴い増大するため、融点直下で結晶化させると、理論上、融点が Tm0 の理想結晶が得られる。しかし、実際は結晶の成長速度も著しく遅くなるため、少なくとも常圧下ではそのような理想結晶は得られない。

ガラス状態からの昇温速度は結晶化温度と、得られる結晶のラメラ厚を変化させる。過冷却液体状態の温度では成長速度の違いはあるが結晶化は起こる。したがって、融点以上の液体状態から、ガラス転移点以上かつ融点以下の温度に急冷し、その温度を維持し続けることにより、結晶化温度に応じたラメラ厚を有するポリマー結晶を得られる。このようなポリマー結晶の融点をラメラ厚の関数として求めると平衡融点を算出することができる。

ポリテトラフルオロエチレンなど、高分子鎖の形態が変化しにくいものの融点は、ポリエチレンなどの屈曲性ポリマーと比較して高い。ナイロンでは水素結合による同一分子鎖内と分子鎖間の架橋が存在するため、高い融点を持つ。

冷却によるガラス転移[編集]

融点以上では高分子鎖の熱運動の激化によりレプテーション運動を含め、様々な種類の運動が励起される。高分子鎖はランダムなコンフォメーションを取り、その形態を動的に変化させている。ここからガラス転移点以下に急冷すると、高分子鎖がランダムなコンフォメーションのままで分子運動が凍結することがある。この状態をガラス状態といい、ガラス状態と液体状態の間の状態変化をガラス転移という。ポリマーのガラス転移点は冷却速度によって変化する。

融点からのポリマーの冷却過程において、大きなスケールの運動から凍結される。融点以下の過冷却液体状態では結晶のほうがエネルギー的に安定であるため、多くのポリマーでは結晶化が起こる。しかし、急冷などの特定の冷却条件では、あるいはアタクチックポリマーなど結晶になれない構造のポリマーでは過冷却液体状態においても結晶化しない。結晶化はしないが、高分子の部分鎖によるセグメント運動は緩慢となる。ガラス転移点に近づくほどに、セグメント運動を特徴づける時間は異常に増大する。ガラス転移点ではマクロな時間スケールに到達する。通常の観測時間内では構造は停止しており、液体状態のランダムな構造を保ったまま、運動性がない(十分に低い)状態が現れる。

以上のように、ガラス転移とはセグメント運動の凍結あるいは励起に起因する。したがって、ガラス転移は厳密には相転移ではない。ガラス転移を二次相転移での臨界現象として理解する考えもある。根拠は、ガラス転移点では熱容量の特徴的な変化が観測され、その様子が二次相転移で見られる熱容量変化と類似するためである。

セグメント運動を特徴づける時間 τ の異常な増大は自由体積理論では以下のように理解されている。ポリマー中に、高分子間の空隙として自由体積を考え、その分率を f とする。自由体積分率 f(T) は温度の一次関数として次のように表される。

ここで、Tr をガラス転移点、α を熱膨張係数とする。粘度 ηη = η0 e1/f の式に従うので、高温側からガラス転移点に近づき自由体積が減少すると粘度は著しく大きくなる。その結果、τ も異常な増大を示す。ガラス転移温度となると f(T) = f(Tr) となり、これに対応する時間スケールは十分にマクロになり、ポリマーの分子運動は凍結される。

ポリマーのガラス転移はセグメント運動に起因するため、高分子鎖全体の長さには依存しないと考えられている。一方、高分子鎖末端はセグメント運動に影響を与える。その結果、分子量が十分に大きい場合、ガラス転移点は分子量に依存せず一定値を取る。分子量が小さい場合は、小さいほどガラス転移点も小さい。アタクチックポリスチレンの場合、重合度Nに対して

に従う。ここで、C = 1.1×103 K, Tg0 = 373 K である。

エンタルピー緩和[編集]

一般に、ポリマーのガラス状態はエネルギー的に最安定な状態ではない。より安定な結晶化状態に向かい非常に緩慢な緩和が進行する。緩和の進行度が異なるガラス状態のポリマーでは同じ温度でエンタルピーが異なる。進行度が高いほど同温度でエンタルピーは低くなり、完全な結晶でのエンタルピー値に近づく。このガラス状態でのエンタルピーの低下をエンタルピー緩和(enthalpy relaxation)といい、エンタルピー緩和による物性変化を物理エージング(physical aging)という。ガラス転移点以下のポリマーではそのエンタルピーは完全なガラス状態での値と完全な結晶での値の間に位置する。

エンタルピー緩和されたポリマーが定速で昇温されると、ガラス転移点で急激にエンタルピーは増大する。このとき、熱流束は急激な低下を伴い極小ピークを示す。このエンタルピー増加は、安定な結晶状態に近いガラス状態からより不安定なガラス状態へと移行したことにより生じる。

エンタルピー緩和は、ガラス転移点以下の温度でポリマーが長時間熱処理されると人工的に発生させられる。例えば、ポリメタクリル酸メチルを高温から 10 °C/min の速度で冷却してガラス状態にし、ガラス転移点以下の 100 °C で6時間熱処理してから室温に戻すと、115 °C を中心に熱流束の極小ピークが観察される。高温から 10 °C/min の速度で室温にしただけの試料では 110 °C あたりで緩やかな段差状の減少傾向を示し、極小ピークは観測されない。

固相転移[編集]

ポリマーは大きな内部自由度を持つため、安定な固相状態を複数持つ場合がある。殆どの場合、固相から固相への相転移は一次相転移であり、温度変化による二つの固相間のギブス自由エネルギーにおける大小関係の逆転が相転移を引き起こす。逆転の際に熱流束の減少/増加ピークは生じるため、相転移をDSCにより観測することができる。

n-アルカンはポリマーの固相転移のモデル系である。n-アルカンの分子鎖の対称性は1分子当たりの炭素数によって異なる。炭素数が奇数の場合は斜方晶型(A相)、偶数の場合は単斜晶型が室温での安定な結晶構造である。A相では高分子鎖は平面ジグザグ構造をとり、斜方晶型の格子上に配列する。B層では分子軸周りの180度のジャンプ運動が励起され、分子鎖の方位に関する長距離秩序は失われる。C層になると、分子鎖方向の並進運動が励起され、平均の結晶型が斜方晶型でなくなる。更に、炭素数が9-35の範囲では融点直下に、回転相(D相)と呼ばれる固相が存在する。D相では分子軸周りの回転運動が励起され、平面ジグザグ構造は維持されなくなる。分子軸周りの対称性のため、D相では六方晶的な構造を取る。D相は分子鎖の乱れを大いに含んでいる。このため、D相は結晶よりも液晶に近いとみなされており、D相への転移を前駆融解と解釈する考えもある。以上のように、n-アルカンは最大で四つの固相を持つ。n-アルカンを室温から昇温すると、分子鎖の様々な運動が徐々に励起されることに応じて、A→B→C→Dの順に固相転移が生じる。

ポリエチレンでは、n-アルカンのD相に相当する状態は常圧下で観測されない。しかし、高温高圧の融点直下で、常圧相の斜方晶(A相)から高圧相の六方晶(D相)へ相転移する。分子鎖構造の乱れが熱により励起されることが相転移に関わっていると考えられている。ポリエチレンの高圧相は非常に乱れており、n-アルカンの回転相と同様に結晶相よりも液晶相に近い。このように、低温相からの昇温過程において、六方晶のような対称性の高い高温相へ転移することはポリマー結晶では一般的である。

ナイロン66の結晶において、ブリル転移という特徴的な固相転移が起こる。ブリル転移とは、三斜晶または単斜晶の低温相からの、三斜晶の構造を持つ高温相(疑六方晶)への転移である。結晶の秩序度が高い場合ではブリル転移は一次相転移であるが、乱れを多く含む場合には連続的な構造変化として観測される。また、乱れを多く含みほぼ大気圧下で 192 °C に臨界点を持つナイロン66結晶ではブリル転移は二次相転移である。ナイロン以外に二次相転移を起こす可能性があるポリマーとして、ビニリデン/三フッ化エチレン共重合体結晶がある。

力学的特性[編集]

ポリマーの最大の特徴は、典型的な粘弾性体であることである。高分子濃厚溶液とポリマー溶融体(高分子濃厚系)はチキソトロピー流体であり、粘度は一定ではない[5]。剪断ひずみ速度が大きくなると粘度は小さくなり流動性は大きくなる。これは、低分子濃厚系はニュートン流体であって粘度は一定であることと対照的である。チキソトロピー性はポリマーの成型加工および、塗料や食品などの工業用品の性能に大きな影響を与える。

ポリマーの力学的特性に影響を与える、高分子の構造に起因する因子として次が挙げられる[6]

  • 分子量および分子量分布
  • 分子鎖の架橋と分岐
  • 結晶性と、結晶状態での分子鎖骨格の形態(結晶形態)
  • 共重合かどうか。共重合ならばその組み合わせと様式
  • 配向性
  • 充填剤

また、外的な環境因子として次が挙げられる。

  • 温度
  • 時間、速度、周波数、振動数
  • 圧力
  • 応力とひずみの振幅
  • 応力の種類(引張、圧縮、剪断、静水圧)
  • 熱履歴

高分子の物性的な差によって屈曲性高分子、剛直性(棒状)高分子、半屈曲性高分子、塊(球)状高分子という分類ができる。

  • 屈曲性高分子 - よく曲がる高分子鎖があり、溶液中では糸まり状
  • 剛直性(棒状)高分子 - 高分子鎖が直線状であり持続長が長く硬い
  • 半屈曲性高分子 - 屈曲性高分子と剛直性高分子の中間
  • 塊(球)状高分子 - 球状の橋架け高分子

温度増加による粘弾性緩和[編集]

非晶性ポリマー固体の引張緩和弾性率の温度依存性

一般に、引張弾性率 E はポリマーの温度に依存し、σ は温度 T とともに減少する。この減少を粘弾性緩和(: viscoelastic relaxation、あるいは単に緩和)という。温度増加に伴うEの変化過程にはガラス状領域glassy state)、転移領域leathery state)、ゴム状平坦領域rubbery plateau)、流動領域の4つの段階がある。転移領域では E は1~数GPaと大きく変化しない。転移領域になると E は数MPaまで急激に減少する。ガラス状領域から転移領域への変化をガラス転移 (glass transition) といい、これが起こる温度をガラス転移点 (Tg) という。転移領域ではポリマーは皮革状 (leathery) である。ゴム状平坦領域では E は数MPaで一定となり温度に依存せず、ポリマーはゴム状となる。分子量が大きいポリマー、結晶性ポリマー、架橋ポリマーではこの領域が長くなり、より高い温度まで続く。流動領域では温度増加に伴い E は急激に減少し、ポリマーは高粘度の流動性を示す。

粘弾性緩和の原因は各温度で高分子鎖の分子運動 (molecular motion) が異なるためである。ガラス状領域では高分子のミクロブラウン運動は凍結している。ガラス転移時には、凍結されていた分子運動は局所的に開放され、セグメントのミクロブラウン運動が始まる。流動領域では高分子の絡み合いがほぐれ始め、分子鎖の運動が激しく起こる。分子鎖間の相対位置を変化させるマクロブラウン運動が起こり始め、ポリマーは流動性となる。

ガラス領域と転移領域における粘弾性の挙動は、分子量がある臨界値より大きければ分子量と分子量分布に依存しない。転移領域における速い緩和は、分子全体ではなく分子の一部分の運動に関連しているためである。一方、ゴム状平坦領域と流動領域における挙動は分子量と分子量分布の影響を受ける。分子量が低い非晶性ポリマーでは、転移領域から流動領域への遷移が急激である。架橋ポリマーではゴム弾性により弾性率は温度の増加で僅かに増加するが、架橋の熱分解が起こるまで架橋ポリマーは流動しない。熱分解まで弾性率の低下は観測されない。この分子量・分子量分布依存性は、転移領域から流動領域への遅い緩和が分子全体の運動に依存していることによる。

時間経過による粘弾性緩和[編集]

単分散線状ポリマー溶融体の線形剪断緩和弾性率 G(t) の時間 t 依存性

ポリマーの粘弾性は時間にも依存する。温度をガラス転移点(結晶性高分子の場合には融点)以上で一定にして段階的な剪断ひずみγを加えると、剪断応力 σ が時間 t とともに減少する。この減少もまた粘弾性緩和の典型例である。剪断ひずみが小さければ、ひずみに依存しない剪断緩和弾性率 (shear relaxation modulus, G(t))で粘弾性緩和を図示することができる。

高分子か低分子かに関わらず、ガラス転移点以上の温度で剪断緩和弾性率 G(t) は時間経過に伴って急激に減少する速い緩和が起こる。分子量が大きいとき、速い緩和の後に遷移領域の緩和、ゴム状平坦領域への移行、そして遅い緩和が現れる。ゴム状平坦領域では G は分子量に依存しない。しかし、遅い緩和と流動化までの時間は分子量によって異なる[7]。一方、低分子の場合、ガラス転移点通過後すぐの速い緩和過程で G(t) は完全に減衰し、流動化する。このような低分子量の分子を非絡み合い鎖(nonentangled chain)と呼ぶ。

動的弾性率[編集]

静的粘弾性測定では、力を加えられた瞬間のポリマーの粘弾性変化を評価する。これとは別に、ひずみが一定周波数で与えられたときの粘弾性が求められることもある。動的粘弾性測定法英語版の一つ、強制振動法では振幅 γ0角周波数 ω でひずみを周期的に(ひずみ-時間関数が正弦波となるように)長時間にわたって物質に加える。このとき、ひずみは γ = γ0 sinωt と表わされる。応力 σ の測定値は、試料が完全弾性体ならばひずみと同位相であり、完全粘性体ならばひずみと π/2 の位相差を持つ。ポリマーのような粘弾性体ならば位相差 δ0 から π/2 の範囲に存在する。

  • 完全弾性体:
  • 粘弾性体 :
  • 完全粘性体:

粘弾性体の剪断応力の式は以下のように変形できる。

右辺第一項は弾性、第二項は粘性に対応する。それぞれの係数は G′, G″ と表す。

弾性的な成分の係数 G′(ω)剪断貯蔵弾性率 (shear storage modulus)、粘性的な成分の係数 G″(ω)剪断損失弾性率 (shear loss modulus) と呼ばれる。それぞれ、力を加えられたときに仕事としてポリマーに蓄えられるエネルギー、としてポリマーから失われるエネルギーに対応する[8]。剪断貯蔵弾性率も剪断損失弾性率も G(t) と等価な量である[9]

動的粘弾性の分散[編集]

動的粘弾性は温度と周波数に依存する。動的粘弾性が温度により変化する挙動を温度分散(: temperature dispersion)、周波数により変化する挙動を周波数分散(: frequency dispersion)という。ポリマーにおいて、同一温度ではより大きい周波数で、同一周波数ではより低い温度でより高い弾性率を示す。動的粘弾性の温度または周波数依存性は、動的粘弾性のパラメーターである剪断貯蔵弾性率G′や損失正接tan δ、剪断損失弾性率G″の観測により解析することができる。

周波数が一定でポリマーの温度が連続して増加していくとき、剪断貯蔵弾性率の自然対数log G′は幾つかの特定温度で急激に減少する。同様に、温度が一定で周波数が連続して小さくなっていくとき、log G′は幾つかの特定周波数で急激に減少する。特定温度と次の特定温度、あるいは特定周波数と次の特定周波数の間では変化しない。この特定温度と特定周波数の近傍でtan δG″は極大値を示す。一般に、G″の極大はtan δの極大よりも低温で観測される。

この特定温度と特定周波数ではポリマーの局所的あるいは全体的な分子運動が活性化される。G″の極大はエネルギーの吸収に対応するので、力学的吸収と呼ばれる。下表に、log G′の減少、tan δG″の極大が生じる温度での緩和機構を高温側から順に示す。

ポリマーの動的粘弾性測定により観測される緩和機構[10]
緩和機構 説明 温度域 活性化エネルギー(kJ/mol)
結晶緩和(αc、α2 結晶相内の分子鎖の熱振動により結晶が粘弾的になる。 融点の0.8-0.9倍 170-340
結晶粒界(αgb、αc、α1 モザイク晶界面、転移網あるいはラメラ表面における結晶粒界の滑り Tαc近傍 80-170
主分散(α、αa 非晶領域の分子鎖のミクロブラウン運動 ガラス転移点近傍 170-850
副分散(β、γa、γc 結晶および非晶領域における主鎖の局所的ねじれ運動 ガラス転移点以下 40-80
副分散(β、γsc 側鎖全体の熱運動 ガラス転移点以下 40-120
立体異性体緩和 シクロヘキサンの異性体転移 ガラス転移点以下 40-80
メチル基緩和(ε、δ) メチル基の回転緩和 ガラス転移点よりも低い温度 20以下

これらの緩和機構は動的粘弾性測定だけではなく、誘電緩和核磁気共鳴でも観測することができる。このため、動的粘弾性はポリマーの緩和機構を解析することができる。以上のように動的粘弾性測定はポリマーの分子運動の挙動を明らかにする。さらに、ひずみの周波数fを変え、力学的吸収の温度(G″が極大値をとる温度)の逆数とln fをプロットすると、その勾配から活性化エネルギーを算出することができる。

粘弾性緩和による相分離[編集]

温度の関数としての貯蔵弾性率 G′ あるいは損失正接 tan δ のピーク温度は、ポリマーブレンド共重合体といった多層系高分子の相分離状態の評価に有用である。ブロック共重合体やグラフト共重合体では、ある構成ポリマーのガラス転移点に温度が達したとき、その構成ポリマーは皮革状やゴム状となるのに対して、他の構成ポリマーはガラス状のままである。この状態の相違により相分離が起こる。

ブロック共重合体グラフト共重合体で熱による構成ポリマーの相分離が生じたとき、G′ は急激に減少し、tan δ は極大となる。例えば、ポリスチレン (PS) のホモポリマーは 373 K付近、ポリブタジエン (PBD) のホモポリマーは 183 K付近で G′ の著しい低下と tan δ の極大を示す。PSとPBDのジブロック共重合体あるいはグラフト共重合体ではそれぞれのホモポリマーと同じ温度領域で同じ現象が観察される。

ランダム共重合体の場合、相分離は生じない。その組成が 1:1 であれば、PSとPBDのランダム共重合体は、PSとPBDの各ガラス転移点の中間温度で G′ の著しい低下と tan δ の極大を示す。2成分の相を混合させたポリマーブレンドでも同様の現象が起こる。相混合が不均一であれば、tan δ のピークの幅が広くなる。

ゴム弾性[編集]

一部のポリマーはゴム弾性を示す。ガラス転移点以上の温度となるとゴムはガラス状態からゴム状態となり、エネルギー弾性からエントロピー弾性を示す。ガラス状態とゴム状態では張力の温度依存性が変化する。長さを固定したとき、ガラス状態(エネルギー弾性)では温度と張力は比例する。

ワイセンベルク効果[編集]

ワイセンベルク効果。ニュートン流体(左)に棒を浸して棒を回転させると、棒に近いほど液面は沈み、あたかも棒を中心に液面がへこむように見える。しかし、濃厚な高分子溶液や溶融ポリマー(右)では、棒に近いほど液面は上がり、液体が棒を這い上がる。液中の矢印は、棒の回転により生じている張力の方向である。

高分子の濃厚溶液やポリマーの溶融体をゆっくり流動させると、流体はわずかに変形するが、流れに沿った(流動方向に平行な)面だけに応力(剪断応力)が生じる。これは、流動方向の平行面と垂直面への応力がほとんど等しいためである。しかし、高速で流動させると流体は流れの方向へと伸長する。このとき、流体は元の形に戻ろうとし、張力が生じる。

高分子の濃厚溶液やポリマーの溶融体に棒の一部を浸して棒を回転させると、液面は棒の近くほど勾配的に上昇する。見掛け上、液体は棒に巻き付きながら這い上がる。この現象をワイセンベルク効果: Weissenberg effect)と呼ぶ[11]。これは、棒の回転により液体が流動している部分では張力の合力は内向き(棒に向かう方向)に働くために起こる。ニュートン流体の場合、合力は外向き(棒から離れる方向)に働き、棒の近くほど液面はへこむ。

バラス効果[編集]

バラス効果の説明

成形機の押出機のダイ(押出機出口の口金)から溶融ポリマーを押し出すと、出てきたポリマーの径はダイの径よりも大きい。この現象をバラス効果 (: Barus effect) またはダイスウェル(: Die Swell)と呼ぶ。膨張量はダイの径と長さ、押出速度によって変わる。一定の長さまでならダイが長くなるほど膨らみの程度は小さくなり、一定以上となるとポリマーの径は変わらなくなる。バラス効果は、製品寸法を規格通りにしなければならない高分子工業で重要な問題である。

バラス効果の要因は二通りある。一つは、ポリマーはダイを出たあと、ダイを通る前の形に戻ろうすることである。ポリマーはダイを通る前は液体溜めに入っており、液体溜めの径はダイのものよりも大きい。このため、ポリマーはダイよりも大きい径になろうとする。この効果を弾性流入効果という。弾性流入効果はダイが短いときに現れる。ダイが長くなり、ポリマーがダイの径に変形されている時間が長くなると元の形状の記憶が失われていくため、弾性流入効果は小さくなる。

もう一つの要因は張力効果である。ダイを通っている間、ポリマー内部では速度勾配があり、中心部で最も張力が大きく、外側に行くにつれ張力が小さくなる。このため、外側に向けて圧力が生じる。ダイを出た後、この圧力によってポリマーは膨らむ。ダイが短いとき弾性流入効果が、長いとき張力効果がバラス効果の主な要因となる。

機械的特性[編集]

温度増加、時間経過、あるいは特定周波数によりポリマーは緩和され、最終的に破壊される。このとき、粘弾性特性の変化は顕著に観察される。このため、粘弾性特性の評価により機械的性質、例えば破断強度、摩擦特性、衝撃強度、疲労特性を解析することができる[12]。温度、時間、あるいは周波数を変数としたとき、角周波数 ω と緩和時間 τ の積が 1 となると、弾性率の分散と粘弾性吸収が起こる。

破壊包絡線[編集]

ポリマーの一軸引張破壊において、破壊時応力 σB と破壊時伸長比 λB の関係曲線は反時計回りの包絡線破壊包絡線failure envelope)となる。ここで破壊とは、ゴムなど架橋ポリマーでは破断や切断である[13][14][15][16][17][18]。非架橋ポリマーでは、応力印加を止めても復元しないひずみ量が急激に増大したときの状態(破損)である[19][20][21]。ただし、非架橋ポリマーにおいて破壊包絡線が観測される条件はひずみ速度が低・中程度のとき、および結晶状態で高速であるときである[22]

破壊包絡線は温度とひずみ速度によって変化し、かつ時間-温度換算則は成り立つ[23]。温度を低下させたとき、またはひずみ速度を増加させたとき、破壊包絡線は反時計回りに移動する[13][14][15][16][17]。すなわち、σB に対して λB が大きくなる。σB - λB 曲線が包絡線となるには、破断までの変位が平衡状態に近いときに限られる。高温、または平衡状態に近いような遅い伸長速度では σB - λB 曲線は包絡線と一致する。一方、低温または高速では曲線は包絡線とならなくなる。これは、低温または高速ではネッキングが発生したり伸長が不均一となったりして破壊時応力の測定値のばらつきが大きくなるためである[9]

ポリマーの破壊包絡線の概形は分子モデルまたは力学モデルである程度予測できる。例えば、分子モデルにはBuecheとHalpinの分子論[16]や古川の擬網目理論[24]があり、力学モデルには畑の並列マックスウェル要素を用いたモデル理論[25][26]がある。破壊包絡線は、σB を破壊時応力、εB を破壊時ひずみ、G を弾性率、εC を臨界ひずみ、 α を臨界ひずみでのポリマーの分子量ないし架橋密度依存性のパラメータとして、次式で表される[23]。ただし、α ≠ 1 である。この式ではひずみが αεC になったときに材料は全面的に粘性破壊されるものとする。

低ひずみ速度域での粘性破壊様式
中ひずみ速度域での粘性破壊様式
高ひずみ速度域での粘性破壊様式
高ひずみ速度域での弾性破壊様式

ここで、a は界面の切り離れが生じて材料が弾性破壊されたときのひずみ、β は粘度の係数である。ポリマー中の非架橋の低分子量体の粘度を η とすると、高分子量の粘度を βη と表す。

衝撃強度[編集]

ポリマーにおいて、衝撃破壊に至るひずみが小さい場合、衝撃強度は線型粘弾性と相関し、衝撃強度は高分子の緩和と密接に関連する。例えば、ポリプロピレンの衝撃強度は、低温からガラス転移点(主分散が生じる温度)に向かって増加する。副分散の発現温度が非常に大きい場合、ガラス転移点以下であっても副分散の発現温度に向かい衝撃強度は急上昇する。これは、高分子の緩和部位が衝撃を吸収するため、運動体積が大きくなった分子運動が外部からのエネルギーを吸収するためと考えられている。

副分散での衝撃強度の増加はビスフェノールA-ポリカーボネート(BPA-PC)において観察される。ポリカーボネートのガラス転移点は 423 K と高いが、副分散は 120–220 K で生じる。この温度域では剪断損失弾性率 G″ の急上昇があり、粘弾性吸収が生じる。衝撃強度もここで急激に増加する。対して、降伏強度は G″ の増加に伴って激しく減少する。温度が G″ の極大点よりも増加して G″ が減少していくと、衝撃強度と降伏強度は緩やかに減少する。一方、ポリスチレンは低温で大きな粘弾性吸収が存在しないため、衝撃強度は低い。

摩擦特性[編集]

ポリマーの摩擦特性は粘弾性の特性に依存する。アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)の一面をガラス面と摩擦接触させ、各温度で 1.0×10-4-1.0cm/s の範囲で滑り速度を変えて動摩擦係数 μ を測定すると、滑り速度の常用対数 log Vμ の関数は特徴的な曲線を示す。log V の増加に伴い μ は、20 °C 以上で増加し、0 °C 以下で減少する。5–10 °C では正の極大点がある。

ここで、横軸を log V で左を減少、右を増加方向とし、縦軸を μ で下を減少、上を増加方向とする。20 °C での曲線を基準として、それより高温での曲線を左へ、低温での曲線を右へ横軸に平行移動させると、1本の合成曲線が得られる。このときの横軸に沿う移動量は基準温度の関数としてWLF式に従う。同様の結果は天然ゴムスチレンブタジエンゴム、ブチルゴム、およびそれらのカーボンブラック充填ゴムでも成り立つ。また、この合成曲線でガラス転移点をほぼ確実に予測することができる。

非ゴム材料の疲労特性[編集]

ポリマーを含む固体材料はひずみを繰り返し長時間与えられるといずれ破壊される。この現象を疲労という。ポリマーはひずみを与えられると内部で発熱を生じ、動的粘弾性を変化させる。動的粘弾性の急激な変化は疲労破壊とその直前で観察される。

ポリマーにひずみ(引張と圧縮)を繰り返し与えると、引張貯蔵弾性率 E、損失正接 tan δ および表面温度上昇量 θ(表面温度と周囲温度の差)は時間との関数曲線を示す。ひずみの振幅が小さい、周囲温度が低い、または周囲への放熱が良好な場合、脆性破壊が起こる。疲労開始の初期で表面温度は定常温度まで増加し、以降、θ は脆性破壊まで一定の値を保つ。Etan δ は破壊直前までは一定で、直前で E は急上昇して極大を、tan δ は急減少して極小を示す。その後、僅かな時間で E は極大値から急減少し、tan δ は極小値から急上昇してポリマーは脆性破壊される。この過程の大部分は、クラックが巨視的に成長していない段階で進む。クラックの成長は E の極大直後から始まり、脆性破壊までの僅かな時間で急激に起こる。この E の極大化と tan δ の極小化は高分子の局所的な配向、あるいは物理的劣化に対応していると考えられている。

ひずみの振幅が大きい、周囲温度が高い、またはポリマーが断熱環境にある場合、延性破壊が起こる。延性破壊では破断面の塑性変形が顕著である。破壊まで E は減少し、tan δθ は増加する。ポリマーの延性破壊はポリマー内部の温度上昇と起因すると考えられている。

主分散温度が室温より 20–40 K ほどであるポリマーの場合、延性破壊の原因となる条件が与えられると、表面温度が主分散となったときにポリマーは著しく軟化して破壊される。この現象を熱破壊と呼ぶ。

単純引張疲労
単純引張または圧縮の場合、引張軸から45度の方向の面に最も大きな負荷が生じる。比較的強い(粘りのある)ポリマーの引張破断面は45度となるか、最大主応力と最大剪断応力の比が二倍となり破断面は直角となる。脆いポリマーでは引張破断面は引っ張り軸から垂直になる[27]。圧縮の場合、最大主応力と最大剪断応力の比が二倍となり、圧縮破断面は軸と平行に生じる。
V字の切り込みがある丸棒に引張りを加えた場合、切り込み方向、軸方向、円周方向にそれぞれ応力が生じる。それに加えて、最大剪断応力が切り込みの谷先端部から棒内部に進行する。
単純捻り疲労
単純捻りの場合、軸に直角または平行な面上で最大剪断応力が生じ、軸と45度をなす面上において直角な引張応力と圧縮応力が働く。脆いポリマーでは主応力と直角方向(軸と45度方向)に破断面が生じる。一方、粘りのある材料では最大剪断応力方向(軸と直角方向)に破断する。一般的に剪断方向への破断が多い[27]
単純曲げ疲労
単純曲げでは、軸上の引張側に最大主応力が生じ、破断面はこの主応力に直角である。ただし、軸の引張側の表面では応力は単純引張と同じ状態となり、同様の形態の破壊が起こる。

ゴム材料の疲労特性[編集]

ゴム材料では疲労による内部構造の変化は、充填剤と高分子との界面における不均一構造の変化や高分子同士の絡み合いの減少に由来する[28]。疲労特性の評価の中心は損失正接の温度依存性となる。この点で、粘弾性の変化が中心であるプラスチック材料の疲労特性評価と異なる。

カーボンブラック補強加硫ゴムの内部構造における、高分子で構成された部分は次の3つの相に分かれる[29]

A相
カーボンブラック粒子から離れており、高分子は比較的自由に動くことができる。相全体は常温で液体状態であり、ゴムに柔軟性を与える。
B層
架橋した高分子の集まり。
C層
カーボンブラックとの界面およびその周辺。高分子の運動はカーボンブラックとの相互作用により束縛されている。相全体は常温で順ガラス状態であり、A相よりも硬い。ゴムはC層の硬い構造により補強され、弾性率などの力学的性質は大きな影響を受けている[30]

カーボンブラック補強加硫ゴムが外力による変形を繰り返すとA相とC相は構造変化する[29]。A相は変形を受けると高分子が緊張し、その張力により高分子の絡み合いや弱い分子結合が部分的に失われる。すると、高分子の運動が活発になり、A相のエントロピーは増大する。一方、C相において繰り返しの変形は相を安定化させ、分子間相互作用を増大させる。そして、C相はより稠密な構造となる。

構造変化により、充填剤入りゴムは疲労を進行させ、その動的粘弾性の特性を軟化へと変化させる。疲労が進行するほど同じひずみでの動的弾性率(貯蔵弾性率と損失弾性率)の値は小さい。また、一般にポリマーの動的貯蔵弾性率はひずみの増加とともに減少するが、疲労回数が大きいほど充填剤入りゴムの動的貯蔵弾性率の下げ幅は低下する[31]。これは、充填剤入りゴムの疲労が弾性率のひずみ依存性を低下させ、ゴムを軟化させていることを表す。また、A相で網目を形成する弱い物理結合の数は、疲労回数の増加により減少する[31]

ガラス転移領域での損失正接の温度依存性はゴム分子中の緩和成分の分布を反映する[32]。また、ガラス転移での損失正接の極大値はゴム分子中の無定形領域の存在分率に比例する[33]。したがって、疲労の進行によるA相の弱い物理結合の減少は緩和成分の分布を低下させる。同時に、損失正接のピーク幅(半値幅)は狭くなり、高さ(極大値)は増加する[34]。また、損失正接が極大値を示す温度は低くなる[34][33]。以上のように、充填剤入りゴムの疲労のパラメータには動的貯蔵粘弾性、損失正接の極大値と半値幅、極大値温度がある。

電磁気学的特性[編集]

誘電緩和[編集]

ポリエチレンのような無極性ポリマーでは、分子構造上の分極以外に可動性の電荷は存在しないため、光学領域以下では誘電率周波数依存性はほとんどない。温度依存性については膨張係数のみが関与し、温度とともに誘電率は減少する。高分子中に極性基が無ければ、誘電率は主に電子分極率に影響され、屈折率の平方に近い値をとる。

高分子に大きな双極子があると、高温では双極子が電界により回転するので、温度の増加に伴い誘電率も増加する。ただし、高分子の官能基の回転運動には粘性的な摩擦力が働く。ある温度以下の低温では、誘電率の増加に寄与するほどの回転運動はこの摩擦力によって抑制されて起こらない。誘電率の増加には一定以上の高温が必要である。例えば、ポリ酢酸ビニルなら誘電率の増加はガラス転移領域の室温付近から始まる。これは、主鎖のミクロブラウン運動によりC=O双極子がある程度自由に動けるようになるためである。

非晶性の極性ポリマーでは低温において分子鎖の運動はガラス状態で凍結している。その状態から温度が増加すると、あるいは低周波数となると様々な種類の分子運動が順に解放されていく。開放が起こると双極子運動が増大するため誘電率の増加が生じる。低温側あるいは高周波数側から順に、非晶鎖の末端分子熱運動に対応する局所緩和、側鎖の双極子の回転、主鎖のミクロブラウン運動による大きな変化、主鎖方向のモーメントによるノーマルモード、不純物イオンの解離に伴うイオン電導による緩和が観測される。

上記の緩和に加えて、結晶性の極性ポリマーならより高温で結晶緩和や融解による誘電率の変化が起こる。見掛けの活性化エネルギーメチル基緩和で数kJ/mol、側鎖緩和で 80–120 kJ/mol、主鎖の局所緩和で 40–90 kJ/mol、主分散で 100–800 kJ/mol である。

低温での誘電緩和[編集]

ガラス転移点以下の低温において、無定形ポリマーは全体的にガラス状態となり、結晶性ポリマーは結晶とガラスの混合系となる[35]。この状態においても高分子鎖は局所的に熱運動しており、結晶中の欠陥を反映した誘電緩和が見られる。また、ポリマー中に含まれる残留モノマーや不純物、水分、安定剤などの低分子は誘電緩和に関与する[36]。多くの場合、高分子に結合した不純物がガラス転移点以下での緩和を引き起こす。この結合は、不純物がモノマーの重合中にモノマーに結合したり、高分子が酸化したりなどして導入される。

高分子鎖の側鎖による内部回転は緩和(側鎖緩和)の引き金の一つである。無定形ポリマーでは、側鎖全体による側鎖緩和(第一側鎖緩和)温度より低温で、側鎖の一部だけでの内部回転緩和(第二側鎖緩和)が現れることがある。側鎖緩和の例として、ポリメタクリル酸メチルポリオレフィンの多くの種類において、多数の温度領域での誘電緩和の原因であることが推定されている[37]

運動単位がプロトンであるときは、低温において熱活性化ではなくトンネル効果による運動が起こることがある。4.2 K といった極低温においてポリエチレンの誘電損失は周波数に依存しており、この現象は、Phillips によるプロトンのフォノン援助トンネル効果理論(theory of phonon-assisted tunneling)により説明することができる[38]。ポリエチレンが誘電損失を起こす周波数 fr は温度に比例し、同一温度で二つある。例えば 4.2 K のポリエチレンにおいて約 4 kHz と約 1 MHz に誘電損失がはっきりと観測される。低周波損[38][39][40]と高周波損[41]のどちらの fr も次の温度 T 依存式で導かれる。この式は、プロトンのトンネル効果によるポテンシャルの移動を仮定している。

ここで、kボルツマン定数換算プランク定数ρ密度vs音速0基底状態エネルギー準位の分割、b は二つの誘電損失でのエネルギー差(の1/2)がフォノンひずみによって変化する割合である。トンネル効果の原因であるプロトンの実体は現在のところ、酸化によって導入された水酸基カルボン酸であると考えられている[42][43][39]。これらの官能基はポリエチレンの酸化か、酸化防止剤などの添加剤に由来する。添加剤を含まない高密度ポリエチレンを酸化させたとき、酸化時間(融点直上の温度で空気中に曝す時間)が長いほど誘電損失の程度は大きくなる。酸化させなければ誘電損失は観測されない。このことは、酸化時間が長くなるほど、損失正接 δ の周波数依存曲線におけるピークの極大点が大きくなることで観測できる。酸化ポリエチレンの低周波損は結晶中の水酸基により、高周波損は非晶中の水酸基により引き起こされると推測されている[44]

フェノール系の酸化防止剤は極低温での緩和に影響を与える。高密度ポリエチレンに種々のフェノール系酸化防止剤を添加すると、誘電損失が現れる[45][46][44]。高密度ポリエチレンは酸化させずに添加剤を入れなければ誘電損失は観測されない。種々のポリオレフィンのポリマーにこのような低分子を添加したとき、 fr は上記の温度依存式に従う。

プロトンのトンネル効果はポリメタクリル酸メチルにおいて、低温(低周波)でのα-メチル基の回転による粘弾性緩和(γ緩和)にも影響を与える[47]

フェニル基ピリジン基などの剛直な官能基は低温での高分子の運動に複雑な挙動をもたらす。剛直な官能基を持つポリマーは低温で誘電損失が観測される。例えば、主鎖に剛直な官能基が直接結合しているポリスチレンやポリ(4-ビニルピリジン)、ポリ(2-ビニルピリジン)、ポリ(L-フェニルアラニン)は 80 K 以下で誘電損失を示す[48]。しかし、長い側鎖の先端に剛直な基を持つポリ(γ-ベンジル-L-グルタメート)はこの低温域に誘電損失を示さない。

圧電性[編集]

ポリマーは、非対称な電荷構造を持つとき、または光学活性な分子構造を持つとき、圧電性を示す。前者(電石)にはペルフルオロ(エチレン・プロピレン)共重合体(FEP)や、コロナ放電電子線照射により電荷を注入したポリプロピレンがある。極性ポリマーや強誘電性ポリマーに電界を印加して双極子を配向させたものも電石である。一方、後者の代表例は生体高分子(骨、タンパク質多糖類DNA)である。

通常の極性ポリマーのフィルムでは分極処理(ポーリング)によって膜面に垂直に双極子が配向されると電石となり、その方向に電荷変化は起こる。したがって、ポーリングされた極性ポリマーフィルムに力が加えられると、配向方向に分極は生じる。力がどの方向であろうと、分極の方向は配向方向に限定されている。このため、極性ポリマーの圧電率は、主に応力方向の3成分で表される。また、極性ポリマーの圧電率と焦電率は残留分極(配向できる双極子の大きさと密度)に比例する。一方、光学活性ポリマーはポーリングされずとも、延伸されると分極活性を示す。光学活性ポリマーのフィルムは剪断応力を受けると膜の垂直方向に電荷を生じさせる。このため、圧電率は主に剪断方向の1成分のみで表される。光学活性ポリマーの圧電率と焦電率は、非対称変形できる双極子の大きさと密度に比例する。

強誘電性[編集]

ポリマーの強誘電結晶は外部電界で分子双極子の分極を反転させる。双極子を主鎖に直角に持つ高分子では、鎖方向が共有結合で制限されて回転自由度がないため、鎖周りの回転による自由度が強誘電性の発現に関係する。この典型例がポリフッ化ビニリデン(PVDF)である。主鎖に直角に双極子モーメントを持ち、延伸や高温処理されると極性結晶を形成する。この結晶は電界を与えられると高分子鎖を回転させ、極性の方向を変える。フッ化ビニリデンとトリフルオロエチレンの共重合体P(VDF/TrFE)は強誘電性を示す。

以下の表に強誘電性の高分子を示す。

強誘電性高分子[9]
高分子 D-E履歴曲線 強誘電体への転移点 圧電性・焦電性 強誘電体の形態
PVDF 有り 無し 有り 結晶
P(VDF/TrFE) 有り 有り 有り 結晶
奇数ナイロン 有り 無し 有り 結晶
ポリウレタン 有り 無し 有り 結晶
ポリ尿素 有り 無し 有り 結晶
シアン化ビニリデン共重合体 有り 無し 有り 非晶

光学的特性[編集]

高分子の溶液は温度と組成に関わらず光を強く散乱させる。散乱光の強度は高分子溶液の分子量に比例する。このため、高分子溶液の散乱光強度の測定は、その高分子の分子量と広がりを測定する標準的な方法として一般的に用いられている。この方法を光散乱法といい、静的光散乱法と動的光散乱法とがある。

合成法[編集]

分子内にあらかじめ反応点を2つ以上持たせておく方法と、反応中に活性点を連鎖的に発生させる方法がある。

高分子でできた素材[編集]

高分子に関するノーベル賞[編集]

関連項目[編集]

出典[編集]

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外部リンク[編集]