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食品用ラップフィルム

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
低密度ポリエチレン (LDPE) 製ラップのロール

食品用ラップフィルム(しょくひんようラップフィルム、英語:plastic wrap、cling film、cling wrap、food wrap)は、食品の保存や調理に用いられる合成樹脂製フィルム[1]。一定の耐熱性と耐水性をもち、透明かつ軽量で、柔軟な膜状素材である[1]JIS Z 1707で定められた用語でもある。

通常、紙管に巻かれた状態で化粧箱に格納されており、ここから指で引き出し、化粧箱に設置された鋸刃(金属刃やプラスチック刃など)によりカットして使用する[2]

なお、単にラップ(wrap)と呼ばれることもあるが、ラップという用語は、食品用以外のもの(玩具シュリンクタバコの外装フィルムなど)にも適用される。また英語本来の意味では包むもの一般も意味する。

歴史

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食品用ラップフィルムは、最初はポリ塩化ビニル(PVC)から製造された。また、PVCは現在でも世界的に最も一般的な素材であり、水蒸気や酸素の透過性が十分に低く、食品の鮮度保持に役立っている[3]


PVCに代わる一般的かつ安価な素材として、低密度ポリエチレン(LDPE)がある。ただし、LDPEはPVCに比べて密着性が低いという欠点がある。

米国や日本では、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)を使用した食品用ラップフィルムも製造されている。PVDCは、1940年アメリカ合衆国のダウ・ケミカル社が「Saran」の名で工業化したもので、第二次世界大戦中には靴の中敷きや蚊帳、弾薬等の包装用途に実用化されていた[2]

日本では、1960年に呉羽化学工業(現クレハ)がクレラップを、続いてダウケミカルと旭化成の合弁会社である旭ダウ(現在は旭化成と合併)がサランラップを販売したが、当時は冷蔵庫や電子レンジの普及率が低かったため、売り上げは伸びなかった[4]。その後、高度成長期の冷蔵庫や電子レンジの普及に伴って、ラップの売り上げも伸びた[4]。現在、日本では家庭用の食品用ラップフィルムの売上の8割をPVDC製品が占めている[5][6]

利用

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食品への利用

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食品用ラップフィルムの最も重要な役割は、食品の保護と保存である。食品用ラップフィルムは食品の腐敗を防ぎ、保存期間を延ばし、品質を維持するのに役立つ。一般的に、食品用ラップフィルムは「化学的要因(ガス、湿気、光)」、「生物学的要因(微生物、昆虫、動物)」、「物理的要因(機械的な損傷)」という3つの側面から食品を保護する。食品の保護や保存に加え、食品用ラップフィルムは、食品廃棄物の削減、食品情報の表示、流通プロセスの円滑化、さらには製品の視認性向上や電子レンジ加熱への対応といった利点ももたらす[7]

食品用ラップフィルムには耐熱温度と耐冷温度がある[8][注釈 1]

ラップフィルムをオーブン電子レンジのオーブン機能で加熱すると、破けたり溶けて食品中に混入するおそれがある[1][9]。また、特にポリエチレン製のラップフィルムは耐熱温度が低いため(110℃)、油性が強い食品を電子レンジで加熱する場合には、底の深い容器を使用して食品に直接触れないようにする必要がある[1][9]

また、PVDC製のラップフィルムでも、油性の強い食品(肉、魚、天ぷらコロッケ等)を電子レンジで加熱すると食品が高温となり、ポリ塩化ビニリデンの耐熱温度(140℃)を超えることがある[1][9]。そのため、食品を直接ラップフィルムで包むことは避け、底の深い容器を使用して食品に直接触れないようにする必要がある[1][9]。油分の多い料理のほか、砂糖を多く含むもののレンジ加熱にも適さない[10]

このほか、生きたホタテ、牛レバー、レンコンキュウリパパイヤサツマイモなどをラップフィルムで直接包み、日なたで長時間放置すると、食品中の加水分解酵素がラップと作用して微量のアルコール分を生じることがある(毒性はないが異臭を伴うことがある)[1]

その他の利用

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  • 災害時には食器にラップを被せて洗わずに再利用できるようにしたり、止血に使うなど、災害時の必須物資としても注目されている[4]
  • 食品用ラップフィルムは、火傷の応急処置用被覆材としても使用されている[11]。また、創傷・褥瘡・熱傷の治療法であるラップ療法として、酸素透過性と水蒸気透過性が低いポリ塩化ビニリデンの食品用ラップを用いたドレッシング法がある[12]湿潤療法の一種)。ただし、「日本皮膚科学会ガイドライン 創傷・褥瘡・熱傷ガイドライン(2023)」では「食品用ラップなどの医療材料として承認されていない材料の使用は、使用者責任となるため、治療前に患者および家族の同意を得ておく必要がある。」としている[12]
  • 一部の研究では、未熟児を出生直後に食品用ラップフィルムで包むことで、新生児集中治療室(NICU)へ搬送されるまでの体温低下を防げる可能性が示唆されている[13][14]
  • 食品用ラップフィルムは、ガスバリア性が高く、かつ、密着性が高いので、生物(例:田んぼでつかまえたカエルの卵)の飼育には適さない。

組成

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原材料

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材料名称包装用フィルム
出荷量[15]
1995年日本、トン
主な商品
セロハン34.9
ポリエチレンテレフタレート (PET)40.5
延伸ポリプロピレン (OPP)195.6
ナイロン (NY)40.5
ポリエチレン (PE)495.5
ポリプロピレン (PP)83.5
ポリ塩化ビニリデン (PVDC)46.8
ポリビニルアルコール (PVA)15.5
ポリ塩化ビニル (PVC)212.0
ポリメチルペンテン (PMP)データなし
  • リケンファブロ「フォーラップ」
複合 (PE+PP)-
  • 日立化成「ビューラップ5」
複合 (PE+PMP)-
  • 日本紙パック「ワンラップ」
複合 (PO複合三層)-
  • 日本カーバイド「ハイエスクリアーラップ」
  • 日本カーバイド「ハイエスニュークリアーラップ」
複合 (NY+PE)-
  • 三菱樹脂「エコぴたっ!」
  • ライオン「リードラップ」

添加物

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ポリ塩化ビニリデン(PVDC)やポリ塩化ビニル(PVC)製のラップフィルムでは樹脂を柔軟にするために可塑剤が用いられている[1]

1999年(平成11年)の生鮮食品の包装の分析では、可塑剤に使用されるアジピン酸ジイソノニル(DINA)やアセチルクエン酸トリブチル(ATBC)、日本国外の製品でDEHAが検出されたが、これらの可塑剤に用いられる物質は遺伝毒性や発がん性は認められていない[9]

安全性

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市販のラップフィルムには耐熱温度や取り扱い上の注意事項が記載されており、それに従わない使い方をするとフィルムが破けたり食品に混入するおそれがある[9]

内分泌攪乱化学物質問題

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1999年(平成11年)に食品用PVC製ラップフィルムへのノニルフェノール(NP)の残存が報告され、ノニルフェノール(NP)が内分泌攪乱化学物質(いわゆる「環境ホルモン」)の一つとされたことから問題視された[1]。そのため、日本では2000年(平成12年)に事業者団体である日本ビニル工業会がノニルフェノールを含有しないPVC製ラップフィルムの製法への切り替えを発表した[1]。これにより日本国内で販売流通する国産の家庭用及び業務用ラップフィルムではノニルフェノール(NP)は残存しないとされる[9]。同様の議論はヨーロッパでも行われている[1]

安全基準

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  • 日本では食品衛生法に基づき、材質試験及び溶出試験の規格基準が定められている[9](厚生省告示370号「食品、添加物の規格基準」[16])。
  • 欧州連合(EU)では食品と接触することを意図するプラスチック素材及び製品に関する委員会規則を公表し、化学物質のリスト(ポジティブ・リスト)が法律で定められている[1]
  • 米国ではアメリカ食品医薬品局(FDA)所管の連邦食品医薬品化粧品法の適用を受け、容器包装から食品中に移行する物質は間接食品添加物(Indirect Food Additive)として規制を受ける[1]
  • 中国では国家規格「食品容器、包装材料用助剤衛生基準」(GB9685-2008)において、ラップフィルムを含むPVC製品の製造中での、DEHA及びアジピン酸ジオクチル(DOA)の最大使用量を定めている[1]

環境への悪影響

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  • ダイオキシン問題については、ごみを焼却する際に適切な対策や管理を行っている場合にはPVCなどの塩素を含むごみの影響は相対的に少なく、燃焼状態や排ガス処理の状況の方が大きな影響を及ぼすと考えられている[17]。このため野外焼却は原則禁止、家庭ごみの処理については、法の基準に適合した市町村のごみ焼却施設によって焼却することが望ましいとされている。[18]
  • 塩素系プラスチックの焼却に伴い発生する塩化水素PETボトルなどリサイクル可能な廃棄プラスチックにごく微量(PETの場合100ppm[19])でも混入するとそのリサイクル材の化学分解を引き起こし品質を低下させることが報告されている[20]
  • 環境問題に熱心な欧米の活動家は、ラップのみならず食品包装材一般についてポリ塩化ビニル系材料を排除すべきとしている[21][22][23]

合成樹脂製以外の食品用ラップフィルム

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脚注

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注釈

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  1. 日本では「ラップを通常取り扱う場合と同程度の荷重を加えた場合に、当該ラップの原形に異状を生じない」最高と最低の温度を、それぞれ「耐熱温度」と「耐冷温度」として表示している[8]

出典

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  1. 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 ファクトシート(ラップフィルム)”. 食品安全委員会. 2025年8月29日閲覧。
  2. 1 2 沼 賢二「食品包装用ラップ市場におけるパイオニア・ブランドの競争優位の源泉」『流通経済大学流通情報学部紀要』第28巻第2号、流通経済大学流通情報学部、95-118頁。
  3. Coultate, Tom (2015-08-17). Food: The Chemistry of its Components: 6th Edition. Royal Society of Chemistry. ISBN 978-1-84973-880-4. オリジナルの2016-04-28時点におけるアーカイブ。
  4. 1 2 3 斎藤健一郎「サザエさんをさがして 食品用ラップ ルーツは軍需品だった」『朝日新聞』2022年10月8日、be on saturday、3面。
  5. 日本の食卓支える家庭用ラップ、60年目の挑戦 ニュースイッチ by 日刊工業新聞社”. ニュースイッチ by 日刊工業新聞社. 2024年10月18日閲覧。
  6. 家庭用ラップ市場じわり変化 PVDC以外が伸長ー化学工業日報”. 2024年10月18日閲覧。
  7. Marsh, Kenneth; Bugusu, Betty (2007). “Food Packaging—Roles, Materials, and Environmental Issues”. Journal of Food Science 72 (3): R39–R55. doi:10.1111/j.1750-3841.2007.00301.x. ISSN 1750-3841. PMID 17995809.
  8. 1 2 ラップ(食品包装用ラップフィルム)”. 東京都生活文化局消費生活部. 2025年8月29日閲覧。
  9. 1 2 3 4 5 6 7 8 ラップフィルムから溶出する物質について”. 食品安全委員会. 2025年8月29日閲覧。
  10. 5年で157件、電子レンジで発生する事故 ~取扱説明書をよく読んで正しく使いましょう~”. 独立行政法人製品評価技術基盤機構. 2025年8月29日閲覧。
  11. Burns and scalds - Treatment”. NHS.uk (2017年10月19日). 2019年10月23日閲覧。
  12. 1 2 日本皮膚科学会ガイドライン 創傷・褥瘡・熱傷ガイドライン(2023)―2 褥瘡診療ガイドライン(第3版)”. 日本皮膚科学会. 2025年8月29日閲覧。
  13. McCall, Emma M.; Alderdice, Fiona; Halliday, Henry L.; Vohra, Sunita; Johnston, Linda (February 2018). “Interventions to Prevent Hypothermia at Birth in Preterm and/or Low Birth Weight Infants”. The Cochrane Database of Systematic Reviews 2018 (2). doi:10.1002/14651858.CD004210.pub5. ISSN 1469-493X. PMC 6491068. PMID 29431872.
  14. “Plastic wraps or bags keep pre-term infants warm immediately after birth”. NIHR Evidence. (2018-05-22). doi:10.3310/signal-00596.
  15. 新・食品包装用フィルム―フレキシブル包装・理論と応用 ISBN 4890861963
  16. 塩ビと環境問題”. 日本ビニル工業会. 2025年8月29日閲覧。
  17. 関係省庁共通パンフレット「ダイオキシン類}”. env.go.jp (2012年). 2026年9月9日閲覧。
  18. 関係省庁共通パンフレット「ダイオキシン類}”. env.go.jp (2012年). 2026年9月9日閲覧。
  19. Paci, M; La Mantia, F. P (1999-01-01). “Influence of small amounts of polyvinylchloride on the recycling of polyethyleneterephthalate”. Polymer Degradation and Stability 63 (1): 11–14. doi:10.1016/S0141-3910(98)00053-6. ISSN 0141-3910.
  20. PVC in PET Bottle Recycling”. 2024年10月20日閲覧。
  21. "Bye Bye" to PVC in food packaging- once and for all, July 2024”. 2024年10月18日閲覧。
  22. Packaging, L. K.. Countering the Looming Threats to Plastic Wrap (英語). www.prnewswire.com. 2024年10月18日閲覧。
  23. Amid looming PVC bans, a solution for the food industry emerges (英語). SmartBrief. 2024年10月18日閲覧。

関連項目

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外部リンク

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